サンエスオルクスが目指す斬新な「新しいアイスホッケーチームの形」とは?
取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部
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この春にチーム発足(※)し、大きく発展へと舵を切った愛知県連盟所属のアイスホッケーチーム・サンエスオルクス。(※正確には再編成)
2023年12月16日には名古屋・邦和みなとスポーツ&カルチャーのリンクでサンエスオルクスが北海道ワイルズを招待してのエキシビションゲームが行われた。この試合は同チームが初めてチケットを販売しての有料観戦試合となったが、観客席がほぼ満員となるほどの多くの観客を集め、初の試みとしては成功に終わったと言って良いだろう。
⇒その試合の雰囲気を伝えるレポートはコチラ 「サンエスオルクス初の有料試合、北海道ワイルズとの試合は満員に」
この後、サンエスオルクスは2024年1月23日に予定されている全日本選手権(B)の北信越・東海ブロック予選会に出場予定。そこで北信越・東海ブロックに1枠だけ与えられている出場権を取れれば、2024年2月29日から岡山県岡山市と倉敷市で予定されている全日本選手権(B)への進出がかなう。チーム発足から掲げてきた日本一への道のりは、もうまもなく8合目。北海道はじめ全国からの強豪社会人チームと手合わせできる、というところまであと一歩に迫っている。
オルクスのチーム作り、その斬新な構想に迫る
弊メディア・アイスプレスジャパンでは、そのサンエスオルクスの強化の軌跡におおいに注目しているが、日本アイスホッケー界により良い影響を与える可能性という意味で、そのチーム作りの過程にも非常に興味を持ち取材を続けている。
(上)(中)までの記事でもお伝えしてきたとおり、サンエスオルクスは愛知・名古屋をはじめとする地域との密着を掲げ、企業での勤務とアイスホッケー選手を両立させていくという『デュアルキャリア』をうたっている。
その理念に賛同して、かつてアジアリーグアイスホッケーの横浜グリッツでプレーしていた梅野宏愛(うめのひろよし)選手や土屋光翼(つちやこうすけ)選手などの元トップリーガーもチームに合流。地元企業に雇用してもらい正社員として働きながらアイスホッケーにも打ち込める、という環境を一歩一歩作りあげている最中だ。
それだけでも大きなチャレンジに思えるが、先日12/16のエキシビションゲームを取材した際に、サンエスオルクス橘川弘樹GMと話をする機会を得て、来年2024年以降のさらなるチームづくりの構想をうかがったところ、非常に驚かされた。
そのあたりの部分を今回の記事ではできるだけ深くお伝えしたい。単なる社会人チームの発足だけではあきたらない、もっと大きなスケールでオルクスがアイスホッケー界を捉えているという部分が見える内容であることは保証する。
トップチームは「名古屋オルクス」。デュアルキャリアで100人100社規模のチームを目指す
IPJ すでに2回ほど記事でサンエスオルクスのチーム作りについてご紹介をさせていただきました。ただ、記事には入れられなかったのですが、前回のインタビューの最後で橘川GMが「オルクスはトップチームだけでなくもっと色んな広がりを持って作っていきます」とおっしゃったのが気になっておりまして。今回はそのあたりを深掘りしてうかがいたいのですが?
サンエスオルクス橘川弘樹GM(以下、橘川) はい。大丈夫です。よろしくお願いします。
IPJ 今回有料観客を入れての試合でしたがとても盛り上がっていますね。橘川GMとしても手ごたえをつかんだのではないでしょうか?
橘川 はい。20時くらいからの時間帯での試合に挑戦して、お客さんもいっぱい入ってくれて。やはり名古屋でのトップチームの興行試合が少ないなかで、とにかくなにかを始めていかないとダメだと思っていました。なので我々がこの東海地区や西日本での興行にどんどんと取り組んで行くためにも、今回のエキシビションは避けて通ることができない試合でした。
愛知県にもクラブチームが約20チームあって、ジュニアチームもある。でもその中でプロチームがない。そして興行も行われない。今季オルクスは愛知県リーグのチャンピオンになることができましたので、これからここ名古屋圏のアイスホッケーを盛り上げて、そしてアイスホッケー競技自体を押し上げられる環境を作りたいな、と思っています。
IPJ 以前に、将来どんな形であれ今のプロに対する敬意も含めてきちんとしたチームでなければ舞台に立ってはいけない、ともおっしゃっていました。アイスホッケー競技自体を押し上げられる環境を、というのは?
橘川 今までのアイスホッケーの常識を一度はずして、チームがあるべき構造をそもそも見直す必要があるのではないかと我々は考えました。実はサンエスオルクス、というのはもっともっと大きなアイスホッケー集団の一部だと思っていただいて結構です。
将来に向けての我々の構想というのは『名古屋オルクス』というトップチーム。まさに名古屋を挙げたチームですね。そしてその下の実業団に位置するのが『サンエスオルクス』という形です。プロが「名古屋オルクス」、そしてアマチュアのノンプロ・社会人のトップが「サンエスオルクス」。この上下の2チームの間で選手を上げたり下げたり循環させていく。でもデュアルキャリアでプレーするのは変わらないので、どこの階層にいてもチャンスがいつでもある。だから長い目で選手を育てられるというメリットが生まれる、と考えています。
100人のアイスホッケー選手を雇用する!?……その仕組みとは?
IPJ 「名古屋オルクス」というのはレッドイーグルス北海道や栃木日光アイスバックスのような専業のプロチームを作るということですか?
橘川 いいえ、それは違います。あくまでデュアルキャリアがベースです。
今までのプロチームというのは入団できたらプロにはなれるけれども、そのチームとの契約が終わったら退団というかたちしかない。チームの構想から外れたら別のプロチームと契約するか、どこかに入るしかない。だから選手がキャリアを保証されないんです。我々オルクスが目指すのは、トップチーム30人ほど、実業団が60人ほどの上が30・下が60、合計90人ほどのピラミッド型のチームです。良い選手にはトップに上がるチャンスができて、成績を落とした選手は下のチームへ行く。いわゆるチーム内での競争を激しくしていく形です。これは過去にない仕組みだと思います。
IPJ 90人を選手として抱えるということですか? 実現できたらすごいと思いますが、とはいえその人数をどう雇用できるのかが分かりません。
橘川 ほぼ100人体制なので、トップチームはまさにトップリーグに参戦しますし、実業団にあたるセカンドチームは社会人チームとしてのリーグに参戦していく。またその下は国体に出たり普及活動に従事したりして地域との連携を担う……。こういう形なら故障があって契約を破棄されてしまったプロ選手などもいったんホールドできるし、アイスホッケーという競技自体に関わり続けることが可能になります。
IPJ それは分かります。でもアイスホッケーで90から100人もの選手をどうやったら雇用できるのかが分からない……?
橘川 我々オルクスが掲げている「愛知・名古屋をアイスの街にしよう」という構想は、愛知県や名古屋市や周辺地域の企業すべての実業団というイメージです。だから100人を100社で雇用してもらって構成しても良いんですね。地域をまるっと大きく囲った実業団だと思ってもらっても良いと思います。
これがオルクスの構想の一番「幹」になる部分だと思っています。今までの実業団チームという形は、自企業の福利厚生や企業マインドの熟成、また広告宣伝にもなるという考え方から、1社が1チームを支えていました。
しかしずっとオルクスが実業団であると言い張ってきた理由は、地域の実業のベースのうえにデュアルキャリアが成り立つチームだということなんです。愛知・名古屋の100社が100人以上の選手、OBも含めて、アイスホッケーを支えてもらうんです。100社100人の地域を巻き込んだ団体というのは、間違いなく大きなムーブメントを起こせると、我々はそう考えています。
<インタビューここまで>
地域を囲った「実業団」こそがムーブメントを起こす
橘川GMからこのアイデアを聞いた時は正直びっくり仰天とするほかなかった。
たしかに今年3月からのサンエスオルクスの勢い、チーム作りのスピード感は目を見はるものがあった。しかし、アイスホッケーという日本ではマイナーに甘んじている競技で90~100名規模のチームを作り、その大人数の選手に対して納得のいく給料を払い続けることができるのだろうか?
IPJはその点についてもっとしっかりと考えを聞かないと判断が付かないと思い、橘川GMにさらに質問を続けた……
<(下)後半へ続く>