本場カナダの指導を日本で受けるべく選手が全国から集結。
『2025 Canadian Hockey Camp』が安平SCで開催

『2025 Canadian Hockey Camp』マイク・エグナーコーチが来日し、本場のコーチングで子どもたちを指導した

取材・文/アイスプレスジャパン編集部 写真/アイスプレスジャパン編集部

 このキャンプ参加者から未来の逸材が生まれるかもしれない。8月9日(土)~13日(水)まで5日間、北海道安平町スポーツセンターで『2025 Canadian Hockey Camp』(主催:OVERBAY)が開催された。
 小学3年生から中学3年生までを対象に行われたこのホッケーキャンプは昨季釧路で行われたものに引き続き2回目の開催。全国各地から約50名のジュニア選手たちがここ安平にはせ参じ、2クラスに分かれて5日間みっちりと合宿形式でのトレーニングを積み重ねた。

 編集部が取材にお邪魔したのは中日となる8/11。外は猛暑だが、スケートリンクの氷は非常に締まっており、練習が始まると参加選手たちが真剣な表情でコーチの声に聞き入り、1つ1つのメニューを全力でこなしていた。

エグナーコーチ(左)の言葉をすぐに翻訳し有波コーチ(右)が子どもたちに伝えるかたちで数多くの練習メニューが行われた

『2025 Canadian Hockey Camp』は昨季に引き続きカナダメジャージュニアリーグWHL(※)の現役コーチであるマイク・エグナー(Mike Egener)氏がヘッドコーチを務め、Hockey Canada 最上級コーチングライセンス HP1保持者の有波 典(ありなみ つかさ)氏がメインコーチとして選手たちの指導に当たった。エグナーコーチは自身もNHLエントリードラフトでタンパベイ・ライトニングから指名(2巡目全体34位)を受けAHLやヨーロッパ各国のリーグで活躍。引退後コーチに転身してからも数多くのNHL選手を育ててきた実績がある。そのエグナーコーチの指導をその場で有波コーチが翻訳し選手たちに伝えて即実践、という形式で非常に中身の濃いメニューが組まれており、日本でのキャンプでありながらもカナダに渡って現地でトレーニングを受けたのと同等のバイリンガルな環境でトップレベルのコーチから指導を受けられる貴重な機会となった。

 有波コーチはこの『2025 Canadian Hockey Camp』開催の意義について「カナダで行われている本場の練習を肌で感じてもらいたい。今は海外遠征などを試みようにもその海外に行くための航空券や費用がどうしても高くなってしまうので、逆に我々OVERBAYが日本にトップレベルのコーチを連れてきてカナダに行くよりはリーズナブルにその指導を1人でも多くの子どもたちに届けたい、という思いがあります。指導内容としては個人のテクニカルスキルの方に注目されがちな日本の現状においても、海外の選手と試合で対峙したときに必要なパックマネジメントなど実際の試合でどう戦っていくか、ゲーム(試合)で生きるスキルという点をより重点的に身につけてほしいと考え取り組んでいます」と答えてくれた。

有波典コーチ

 このキャンプではさらにゲストコーチとして石田陸選手(ECHLブルーミントン・バイソン)、磯谷奏汰選手(ALレッドイーグルス北海道/8月9~11日まで参加)、またアジアリーグで活躍した河合卓真さんも加わり指導に当たるという豪華な布陣で、ジュニア選手たちは彼らからもさまざまな内容を吸収するまたとない機会となったようだ。

成長のきっかけをつかめる5日間に

磯谷湊汰選手(左)と石田陸選手(中)もゲストコーチとして参加。子どもたちの指導にあたった

 有波コーチによると「今日は3日目ですが参加選手は日を追うごとに意識面から良い方向に変わってきていますし、スキル面でも日々成長しているのがよく分かる。この5日間のキャンプが終わった後もこれを継続していくか否かは選手それぞれの努力に依るものとは思いますが、成長のきっかけをそれぞれが掴めるキャンプだと思います」と語る。アイスホッケーの本場であるカナダの指導法や厳しい世界で勝ち抜くメンタリティといった部分を日本にいながらも体験できるという点はこのキャンプの素晴らしいところだと編集部も感じたところだ。

子どもたちを指導するエグナーコーチ

エグナーコーチに訊く 

 この日の練習後、マイク・エグナーコーチに指導をする上で大切にしている点について、また日本のジュニア選手たちを見てどう感じているか、話しをうかがえたので一問一答形式でご紹介したい。

――――WHLの現役コーチとして多くの選手を育てていらっしゃいますが、指導で心掛けていることはどういうところですか?

エグナーコーチ:ホッケー選手としてのスキルを伸ばすという点も重要視していますが、どちらかというと人間教育、人間性をしっかりと育てるというところにかなり重点を置いてます。選手たちとは長い時間をともにするわけですから信頼関係を築くことはもちろん、WHLでの私の役職はアシスタントコーチなので、例えばヘッドコーチに言えないようなことなど相談に乗ったり、そういうコーチにアプローチしやすい環境といいますかそういう雰囲気を作る点には結構気をつけています。時にはホッケーとはあまり関係なく、家族のことでしたり人生で悩んでることなどにもケアをするといったこともします。

――――人間性を磨くという部分を重要視されているのですね

エグナーコーチ:その通りです。WHLというリーグはチームが選手の費用にサポートをしていますので「良い人間、良い選手」でないとチームには必要ないというふうに考えています。ですので日本のみなさんも「人間性が何より大切だ」ということを心に置き、ホッケー選手としてトレーニングを重ねていってほしいです。

――――今回のキャンプで日本に来て指導されていますが、日本のジュニア選手たちのレベルについてう感じているか教えてください

エグナーコーチ:もちろんカナダでも必要なスキルは一緒なのですが、スケーティングでしたりパスレシーブ、シュート……そういった基本的なスキルをもっと高めてほしいし、チームでの決め事ですとかそういったホッケーIQのセンスに関してはもう少しトレーニングが必要だという印象です。それから気持ちの部分で競争心といいますか、「絶対に負けない」という気持ち、やはりそれをもっともっと前面に出して欲しい、ということを強く感じます。

良い選手になるためには心の部分を高めることも重要だ、とエグナーコーチ

――――将来的に日本人からNHL選手が誕生する可能性について今どう考えていらっしゃいますか?

エグナーコーチ:もちろんNHL選手が出ると思います。この2シーズンWHLでプレーした磯谷建汰選手を実際に逆側のベンチから見ていましたがすごく良い選手です。スキルだけでなく競争心も素晴らしいし、とてもスマートなプレーをしている。彼が日本人では今一番NHLのチャンスがあると確信しています。もちろん磯谷建汰選手もそうですが、今回のキャンプでゲストコーチとしてサポートしてくれた石田陸選手や磯谷奏汰選手という現役の日本代表選手がこうやって間近にいる、そして共に時間を過ごせたということは本当に子供たちにとって夢を与えることだと思いますし、良い機会だと言うことは本当に感じているところです。

 日本にいながら本場カナダの指導が受けられる貴重な機会となった『2025 Canadian Hockey Camp』。実践的な練習メニューでアイスホッケーのスキルアップに取り組むのはもちろんのこと、オフアイスではドライランドトレーニングや講義形式で世界でトップを目指すための心得、海外挑戦について学ぶなど中身の濃い時間となった。主催のOVERBAYによると来年以降も継続してこのキャンプを開催したいとの意向だ。ぜひ来年のキャンプにも注目したいし、ここから世界に羽ばたく選手が数多く現れることを大いに期待したい。

※WHL= Western Hockey Leagueの略。16~20歳までの選手がプレーするメジャージュニアリーグの1つでカナダ&アメリカの23チームで構成される。才能あふれるジュニア選手が集まるリーグとして知られ、このリーグから数多くのNHL選手が輩出されている。磯谷建汰選手もこのリーグで腕を磨いた。

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