「目的は勝った先」ベテランGK、井上光明が指摘……弱点突かれたレッドイーグルスが変わる
取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵、アイスプレスジャパン編集部
第91回全日本アイスホッケー選手権(A)2回戦
12/8(金)@KOSÉ新横浜スケートセンター 観衆:820人
レッドイーグルス北海道 6(1-0、3-0、2-0)0 明治大学
ゴール:【レッドイーグルス】入倉、彦坂、久慈、高橋、柴田、小林 【明治】なし
GK:【レッドイーグルス】小野田 【明治】中村
シュート数:【レッドイーグルス】55 【明治】19
前身の王子製紙時代から、全日本選手権では最多となる37回の優勝を誇るレッドイーグルス北海道は、明大との2回戦を順当に勝利し準決勝へ駒を進めた。
直前のアジアリーグでは、韓国遠征で首位を争うHLアニャンに連敗、さらに横浜グリッツに初めて黒星を喫するなど、流れに乗れない戦いが続いていた。学生相手とはいえ、ホッケーの基本となる“当たって、走って、シュートを打つ”というプレーを続けたことには荻野順二監督も「パスありきではなく、バトルに勝つことやシュートなど、しっかり60分間プレーしてくれた」と目を細める。
明治大に完勝し準決勝へ……久慈修平が語ったチームの成長
このなかで第2ピリオド8分55秒、3点目のゴールを決めたのがベテランFW久慈修平だ。ゴール正面からのミドルショットは、狙い澄ましたかのようにゴールを射抜いた。「シュートの意識を強く持って、狙い通りのところに打てましたね」と笑顔を見せた。
全日本選手権を前に、外からの目がチームを変えた。
グリッツに敗れた後に行った選手ミーティングで口を開いたのは、チーム最年長のGK井上光明だ。
「『みんな、勝つことが目的になりすぎていないか』と言ってくれたんです。『勝った先に目的があるんだよ』と。その言葉で一つになれたと思います」と久慈は感謝の言葉を並べる。
久慈はドイツでプレーした時期こそあるが王子生え抜き。対する井上はチャイナドラゴンに始まり韓国のハイワン、日本製紙クレインズ、日光アイスバックスと強い王子を常に相手にしてきた。その中で見えたレッドイーグルスの弱点を、ズバリ口にしたのだ。外様にしか見えない、言えないことだった。
ホッケーの街苫小牧をホームにし、100年近い歴史を誇る名門チーム。今も多くの日本代表選手を抱え、常勝を義務付けられる。ただその重しが時に、選手の動きを硬くしているかのように見えるのも事実だ。
久慈は「今は周りの声も、SNSなどでどうしたって目に入ります。この大会も本命という声も聞こえますが、1試合づつ勝とう、と。そうすれば結果がついてくるんだ、と」。
2018年以来の優勝に向けて、新しい風を吹かせようとしている。
かくいう久慈も、すっかりベテランになった。井上とは一つ違いの36歳。スピードにモノを言わせてリンクを駆け回っていた若手時代とはプレーの質が変わってきている。敵陣深くでパックを奪い、前線につなげるのも仕事。その中でも、決して忘れたことがない意識がある。
「荻野監督にはシーズンの初めに『スコアを期待している』と言っていただきました。そこは去年とは違う部分ですし、ゴールに向かう意識をより強く持ってやっています。昔のようなエネルギーは正直、もうないかもしれませんけど、頭と口を動かしていい味を出していきたい」
井上の言葉、久慈の献身。
この世界で長く生き続けるベテランが名門に吹かせた風は、5年ぶりの頂点へチームを引き上げるだろうか。