全国高校選抜IH大会、最終日途中で大会中止に

3位決定戦が突然中止され、リンクに響いていた高校生たちの声は消えた

取材/文:アイスプレスジャパン編集部

3位決定戦の第2ピリオド終盤にまさかの知らせが

8月7日、朝9時から開始された3位決定戦の第2ピリオドも終盤に差し掛かるころ、急に大会関係者と思われる人たちの動きが慌ただしくなった。何かが起こったのか……、良くない予感が走る。

第2ピリオド終了のブザーが鳴り、3位決定戦を戦っていた両チームの選手がドレッシングルームに引き上げた後、整氷作業も途中で終了。

出場選手と大会関係者に向けて、という前置きののち、アナウンスが観客のいないリンク内に響きわたった。

「本日、本大会に参加されたチーム関係者から発熱者が発生したむね事務局に報告がございました。今大会の基本方針にもとづき以降の試合に関しましては中止とさせていただきます」

本当に残念だが、第17回全国高校選抜アイスホッケー大会は優勝チームを決定する事なく突然に大会の幕を閉じた。

試合途中での中止の報に、報道陣にも衝撃が走った。

この日、選手やチームスタッフとの接触は出来なかったため直接その声をきくことはできなかったが、「急な形で中止となり本当に驚いているし、悲しい。できたら最後まで戦い抜きたかった」といった選手たちの声は漏れ伝わってきた。

中止理由は、発熱と体調不良者の発生

大会本部はその後、報道陣の取材に応じた。それによると、

「本日ある参加チームから『選手・スタッフに発熱および体調不良者が発生した』との連絡が入った。参加している高校生やスタッフの健康を守るという観点、またチームがそれぞれ地元に戻ったときに感染を拡大させない事が大事だという観点からもこの時点での大会中止を判断せざるを得なかった」

と事情を説明。選手たちを最後まで大会で戦わせてあげたい気持ちは大会スタッフみな持っており、本当に残念としか言えないと言葉を繋いだ。
また、既に帰途についているチームもあるため、各チームに対しては今大会のために導入した健康観察アプリによる報告をお願いするとともに、慎重な行動と経過観察を要請。地元に戻った先でのクラスター発生を起こさないようにするようにとの連絡を行ったとのことだ。

規定については大会開催前の時点から公式サイトで「新型コロナウイルス感染症拡大防止に関する基本方針等」(https://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/kyoiku/sports/ice_hockey/senbatu17.html)というPDFを大会実行委員会の名において公開している。
そのPDFでは感染者等が発生した場合の競技運営について7パターンにわたる状況対応の指針を示しており、今回の場合は『【ケース6】準決勝終了後に体調不良者が発生した場合』に当てはまると思われる。

この【ケース6】では「結果に関わらず、当該チーム及び対戦した全チームは大会出場不可となることから決勝、3位決定戦は 実施しない。なお、陽性が判明したチームは7日間の隔離となる。」との見解が示されており、それにのっとって判断がなされた模様だ。

PDFにおける当該部分

大会参加チームは毎日の検査を実施しており、これまで陽性の結果はなかったと言うことだった。
だが、最終日にこのような事態となり、選手・チーム関係者、また大会関係者の落胆の思いはいかばかりか、どんな声を掛けても慰めることができない状況だろう。本当に残念としか申し上げられないし、(発熱者有りという報告のため新型コロナウィルス感染かどうかは今後の検査結果を待つことになるが)現在流行している新型コロナウィルス・オミクロン変異型の感染性の高さは想像の域を超えるものがあるとしかいいようがない。

今大会の順位決定については大会本部によると、
3位決定戦第2ピリオド終了時点で得点差が付いていたのは事実だが、原因がチームによるものでなく試合を最後まで完了できなかったときに優劣を決める規定がないとのこと。

そのため、試合不成立ということで最終順位を付けることができないと説明がなされた。

順位決定についてはこの後大会本部から発表があるとのことだが、恐らく4強までを決める、という形で落ち着きそうだ。
※8/11追記:その後苫小牧市による大会公式サイト
https://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/kyoiku/sports/ice_hockey/tournamentresults.html
で最終順位が発表され、決勝戦に進出した埼玉栄高と八戸工大一高が両校優勝。3位決定戦に進出した水戸啓明高と清水高が両校3位となった。

「ここまで対応してもまだ足りないのか」


今回の中止決定には、昨年大会での痛烈な経験も影響していることはうかがえる。

アイスホッケーファンや関係者以外の一般市民のかたがたからも批判にさらされた昨年の反省を踏まえ、今大会は新型コロナ対策にかなりの注意を払って運営がなされている様子は随所に見えた。健康観察アプリの導入もそうだし、排気ダクトやファンを用意し換気に気を配り、毎朝の検査も徹底して行なっていた。
大会前に全国で感染拡大の動きが見え始めたときは選手の保護者や家族から批判の声があることも分かったうえで無観客試合の決定を行ったほか、大会直前に辞退したチームも複数に及んだ。

それらはみな苦渋の判断だったとおもわれるし、参加がかなったチームも大会期間中はホテル内でお互いの部屋を訪問しないようになど各校でルールを課し、昨年以上に注意を払って合宿を行っていた。
ここまで日程が順調に消化されるなか、まさかの大会最終日で発生したこの事態。
「残念としか言いようがない。この感染力の高さには、ここまで対応を徹底してもまだ足りないのか」とはある大会関係者。

最終日に中止、という判断についての妥当性は今後関係機関での検証等も行われてからその是非が問われることとなるだろう。しかし、この大会が原因となって今後クラスターを発生させることは許されない、という大会本部の意思が今回の判断から伝わってきた事は確かだ。

今大会パンフレット

『氷上の甲子園』というキャッチフレーズが定着するほどに、高校生年代の夏王者を決める大会として回を重ねてきた高校選抜アイスホッケー大会。

今大会からは予選をリーグ戦として”均衡した試合をより多く経験させたい”という意図も伝わってきたし、苫小牧中央高や岩手県選抜チームが予選リーグを勝ち抜いてベスト8へ進出、決勝は本州勢同士の対決となるなど新しい時代へのいぶきもあった。
全国のアイスホッケー選手たちにより多くの試合を経験してもらいたいという大会のコンセプトには素晴らしいものがある。

今大会での検証も踏まえて、来季こそは予定通りすべての日程が順調に行われ、多くの高校生たちが貴重な経験を持ち帰れる大会でありつづけるよう願うばかりだ。

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