着実に力をつける名古屋オルクス。ワイルズとの連戦となったIJ第2戦、3戦を振り返る

取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部

試合開始前、ジュニアたちがIJリーグ選手に熱い視線を送っていた。名古屋はじめ西日本各地でのアイスホッケー需要は確実にある


アイスホッケーIJリーグ 2024イノーギュラルシーズン
第2戦

6月30日(日)19:00試合開始 @愛知県・邦和みなとスポーツ&カルチャー 観衆:520人
名古屋オルクス 2(2-0、0-1、0-1)2 東京ワイルズ ※名古屋ホームゲーム
ゴール:【名古屋】岡峯、菅原 【東京】木綿、寺尾
GK:【名古屋】ニキータ 【東京】脇本→磯部


第3戦
7月7日(日)17:05試合開始 @愛知県・邦和みなとスポーツ&カルチャー 観衆:460人
東京ワイルズ 4(1-1、1-0、2-1)2 名古屋オルクス
 ※東京ホームゲーム
ゴール:【名古屋】土屋、菅原 【東京】荒井、池田、上野、青山
GK:【名古屋】丹治→ニキータ 【東京】磯部
シュート数:【名古屋】26(8、10、8) 【東京】41(15、13、13)

観客席の盛り上がり、熱さはIJリーグならでは

名古屋の地で産声をあげたアイスホッケーのIJリーグ。
他競技も参考に演出や運営に新しい発想で臨むことで新たなファン層を獲得する、という目標に向けてこの夏はイノーギュラルシーズンと銘打ち、10月20日までの日程が発表され各地で試合を行う。

6/15に行われたIJリーグ開幕戦では観客席がほぼ満員となった。音楽や光の演出、さらにはIJリーグ独自のチアリーディングチームが盛り上げに一役買い、観客の方々も折りたたむとハリセンにもなる紙製メガホン(入場時に配布される)を手に非常に楽しそうに応援する姿が印象的だった。第2戦以降もそのような取り組みは続けられていくだろう。

IJならではの雰囲気のなか名古屋オルクスが健闘

6/30はGKニキータの頑張りで、名古屋オルクスが勝利へあと20秒にまで迫った

そんななか6/30に行われたIJリーグイノーギュラルシーズンの第2戦は、開幕戦で健闘するも2-3で惜敗した名古屋オルクスが東京ワイルズに対して成長を披露し、クレインズ時代でトップリーグ経験を積み重ねた東京ワイルズの選手たちをギリギリまで追いつめた試合となった。

IJリーグではホームチームを場内のMCや音楽、チアで”推し”をするという試みが行われている。この第2戦ではその雰囲気も相まってか、序盤からホームの名古屋オルクスが観客からパワーをもらい運動量が上がっていた印象だ。この雰囲気はIJならではのもの。新しい試みを積極的に行うリーグとしての方向性が打ち出されている。

IJアイスクルーが出迎え、光の演出がなされるなか選手が入場する

試合は第1ピリオド序盤から開幕戦でMVPを獲得した名古屋オルクスのGK、ニキータ・ウスティノビッチがまたも躍動。ワイルズの選手が放つシュートをことごとく止めて、応援席は一気に盛り上がる。場内MCもそれを後押しするようなアナウンスを矢継ぎ早に放ち、ボルテージを上げていく演出が。

名古屋のGKニキータのゴールテンディングは非常にダイナミック、ファンを魅了する個性がある。ゴール前でパックを左右に振られても長い手足を起用に扱い難しいシュートもことごとく止めていく。また、グラブでパックをキャッチする時の反応も俊敏で、これは得点か? というシュートもグラブでしっかりとキャッチ。そんなプレーに対しては観客席からも「おおっ」というどよめきと大きな拍手が自然に湧き出していた。

ニキータの守りが徐々に名古屋オルクスへと流れを引き寄せる。すると先制点はオルクスに。
東京ワイルズのDF同士での横パスが少し流れたところを見逃さず岡峯悠がアタッキングゾーン内でパックを奪うと、走り込んで来た松永樹とパス交換。最後はGKを上手くかわして岡峯がパックをゴールに届け、見事に先制点を奪う。

岡峯(12番)のゴールでホームのオルクスが先制する

「パックを奪った瞬間はGKと1対1だったが、松永選手が走っているのが見えたのでGKを動かすために一度パスで横に振った。そのパスの戻りを受けたとき『僕が決める』という気持ちでゴールに向かった。ホームの試合に集まった観客の皆さんも得点が一番見たいシーンだったと思うので、そこでしっかり決めることができて良かった」とその瞬間を振り返る。そしてゴールの瞬間に響きわたった歓声には「ここまでああいった雰囲気のなか試合をすることがなかったですが、大歓声を肌で感じて自分もこの世界でしっかりとプレーしていかなければ、とより気持ちが引き締まった」とも。スティックをかかげて観客の声援に応える岡峯の表情は輝いていた。

岡峯(右から2人目)のゴールを祝福するオルクスの選手たち

オルクスの勢いに押されながら、ワイルズは個の力で”初勝利”を許さず

このゴールでさらに勢いを得た名古屋オルクスは第2ピリオドにも菅原聡太がゴールを挙げて2-0とさらにリードを広げる。オルクスは第2ピリオド終盤にも相手のペナルティーからパワープレーのチャンスを得て3点目を奪いにいく。しかしこのピンチに東京ワイルズの選手が持つ個の力の高さが発揮された。

オルクスのシュートがブロックされこぼれたパックを越後智哉が奪い取るとそのまま相手ゴールへ突進。併走する形でコチラも快足を飛ばした木綿宏太にパックがわたると、最後は木綿がニキータを上手く横に振り、彼の牙城も切り崩してのショートハンドゴール。「セカンドアクションを早く、という監督からの指示もありあのシーンでもしっかり対応できた。負けているなか一瞬のチャンスを奪い取ることができた。第2ピリオドを2点差で終えるのと1点差でとでは大きく違うので、チームにも自分にも大きかったゴールだった」と木綿が振り返るゴールで試合は2-1とオルクスリードで第3ピリオドへ突入する。

その第3ピリオドは東京ワイルズのシュートの雨にさらされながらも、オルクスが必死に耐えていよいよ初勝利が見えてきたかに思われた試合残り20秒。ワイルズの意地が炸裂した。6人攻撃でラッシュをかけると、最後は選手でごった返すゴール前にわずかに開いたスキマを見逃さず寺尾裕道が値千金の同点ゴールを挙げる。「シュートを味方が打つのは分かっていたのでリバウンドが出ても出なくてもいいからゴール前に突っ込もうと決めていた。ゴールを獲る、という気持ちが大事だということが改めて感じたシーンでした」と寺尾。14年のキャリア、トップリーグで何度も修羅場をくぐってきたベテランの技術とマインドの高さを示した同点ゴールだった。

試合残り20秒、6人攻撃に成功しワイルズは寺尾(白53番)のゴールで引き分けに持ち込んだ

最終的にこの第2戦はIJリーグの規定により2-2の同点で引き分け。オルクスにとっては開幕戦に続き最終盤で得点を許す悔しい結末となったが、強豪であるワイルズとの戦いを続けることで少しずつ成長をしていることを証明する試合でもあった。

オルクスの健闘に観客席から大きな拍手が試合後送られていた

第3戦は14人の東京ワイルズが力を見せるも、オルクスにも成長の証が

第2戦の試合後、寺尾が「まだチームがスタートしてから3週間。コンディションの上げ方は経験豊富な選手が多いので分かっています。ここから動きもどんどん良くなってくると思う」と語っていたが、7/7に行われた第3戦ではその見立て通りに東京ワイルズが力を発揮。4-2で名古屋オルクスをくだした。

第3戦は開始いきなりパワープレーを得たワイルズが第1ピリオド30秒に左サイドから強烈なシュートを荒井詠才が決めて先制。

荒井(右から5人目)が開始30秒でゴールを決め、ワイルズが試合の主導権を握る

しかし13分41秒にオルクスもパワープレーから同点に追いつく。
オルクスは上手く形をつくってアタッキングゾーンでパックをキープすると、最後は土屋光翼が右サイドからゴール前のゾーンへパックを持ってするすると入り込み、最後はGKを上手く前に引き出してスキマを作ると、パックを流し込んで同点に追いつく。「相手GKの磯部さんとは大学時代から対戦し、彼がどう動くかはある程度分かっていたのでうまく股下にパックを流す動きでゴールを奪えた。ここまで自分に対して相手のマークが厳しく結果が出なかったが、ここで1点を奪えたことを今後に繋げたい」と土屋はそのゴールを振り返った。

オルクス土屋(白92番)のゴールシーン

しかし第2ピリオド、ワイルズが勝ち越す。17分44秒に池田一騎が東尾修一朗のアシストからゴールを奪って2-1。味方GKがパックを保持した瞬間すぐに複数の選手が動き出し、木綿から右サイドにいた東尾に繋ぐと東尾が大きく左サイドにパスを展開。それを受けた池田がゴール前中央に切り込んで強烈なシュートでGKニキータの右サイドを撃ち抜く見事なゴールだった。「そこまではGKに止められるシーンが多かったので、少し違ったリズムで打ちたいと考えていた。その中で生まれた得点だと思います」と池田。さすがの個人技を見せつけたゴールだった。

ワイルズは池田(右から2人目)のゴールでリードを広げる。一度のチャンスをきっちり決めるところはさすがだった

一方でオルクスも第3ピリオド、ショートハンドのピンチながら菅原が2-2の同点とする殊勲のゴールを挙げる。アタッキングゾーンでパックを回すワイルズのDFにチャージをかけた菅原がパックを奪うとそのままゴールへ突進。最後はゴール右隅にパックをたたき込むファインゴール。この展開にはこの日ホームのワイルズファンも、駆けつけたオルクスのファンも大興奮の展開となり、場内のボルテージは最高潮となった。

同点ゴールを決めた菅原はファンの声援に応える

次の得点をどちらが奪うかに焦点が絞られたこの試合、大きな勝ち越し点を決めたのはワイルズの上野鉄平だった。味方が相手DFからパックを奪った瞬間を見逃さず、ブルーライン付近のセンターでパスを受けるとDF2人のマークをスピードで振り切ってのゴール。

決勝点はワイルズ上野(紺22番)。高速でゴールに迫り左スミを撃ち抜いた

「イメージ通りのゴール。良いところにパックがこぼれてきた展開から、うまくゴールまで持って行けた。相手のGKは日本の一般的なスタイルとはちょっと違うのでやりづらい部分もありましたが、とにかく打ち続けようという気持ちでゴールに向かっていきました。沢山の観客の前で感謝を伝えられて良かった」と上野。彼らしい瞬間的な加速力を見せつけた素晴らしい勝ち越し弾だった。

オルクスは第3ピリオド必死の攻撃を見せるも一歩及ばず

その後オルクスは再三のチャンスを作り出すもののゴールまでは至らず、残り15秒にワイルズは青山晃大が逆襲からゴールを決めて4-2として勝負あり。オルクスの頑張りと粘りも光ったものの、最終的にはワイルズがその力を発揮して白星をもぎ取った試合となった。いっぽうで、名古屋オルクスも随所にディフェンスでの激しい当たりからリズムを作るという動きの良さを見せ、3戦続けて拮抗した試合になったことは成長の証だろう。

これで通算成績はワイルズの2勝1分け。いよいよ次の節から北京ライオンズ(北京京獅)がIJリーグに参戦する。

第3戦のMVPにはワイルズ上野鉄平選手が選ばれた

「試合」こそが選手を成長させる最高の舞台

名古屋オルクスはこのIJリーグ第2戦、第3戦でトップリーガーを擁した東京ワイルズに対して勝利まであと少しというところまで迫った。これから10月20日まで予定されているIJリーグにおいて格上のチームとの試合経験を重ねることで、まだまだ力を上げていくことと思われる。

各チームが切磋琢磨して、ファンを魅了する好ゲームをより多く繰り広げることがアイスホッケー全体の発展に繋がるはずだ

名古屋オルクスの関係者に話を聞くと、昨季と同様に愛知県リーグから全日本選手権(B)で上位進出を果たし全日本選手権(A)出場権獲得を目指すという方針には揺るぎがないという。昨季は北海道勢の厚い壁に阻まれた挑戦だが、IJリーグで揉まれることによってその勢力図に変化が訪れるのか? IJリーグでの試合を重ねることがその可能性を高めることに貢献していることはおおいに感じられた。土屋は「3試合続けて良い試合はできているのに逆転できないのは課題。まだチーム全体として勝ち方を知らない部分はあるので練習を重ねて改善していきたい。試合をこなすうちにスピードにも慣れてきているので、ここから経験を積んで巻き返します」と試合後に語ってくれた。

一方で東京ワイルズも少ない人数で戦うというハンディキャップを背負いながらもしっかりとチーム力をアップさせるとともに、14人という少ないメンバーでの戦い方やコンディショニングをしっかりと学んでいる様子がうかがえる。ベテランが持つ知識を上手く継承しながら若手も試合ごとにそれを学び糧としている点がこの2試合で垣間見えた。とにかくワイルズは選手がさらにタフになっている。池田は「置かれている状況の中で頑張るしかないので。効率的なゲームの運び方をしながら賢く戦いたい」と語る。IJリーグの雰囲気についても池田は「コンスタントに試合ができるよう準備してもらって感謝している。この試合でもワイルズをホームとして扱ってもらい、DJのかけ声とか音楽でしっかり盛り上げてもらっていることを感じてちょっと不思議な感覚でしたけれども、これを受け入れながら、もっともっと試合の質を高められるようにトレーニングなど個人の部分でも努力していきたい」と今後を見据えている。

これからも試合を重ねるごとに両チームの選手たちが、それぞれの立場で成長を見せていくことは間違いない。「新リーグ」という試みによって試合数が増え、それが選手たちの経験値アップに直結していることは充分に感じられた。まだまだリーグとして途上の部分が見られることは否めないが、リーグ運営自体も経験を積むことで新たなファン層の獲得がまたできてくれば、それは日本の男子アイスホッケー界発展への一助となるのではないだろうか。そんなことも感じた2試合だった。

Update: