芳賀陽介が叶えた夢…古巣レッドイーグルスとの真剣勝負
 「もう任せていいな」7年ぶりVを確信した日

「後輩たちのこのプレーなら必ず優勝してくれる」かつてキャプテンも務めた古巣・レッドイーグルスと対戦した芳賀

取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵

 アイスホッケーの日本一を決める全日本選手権は21日、長野市のビッグハットで決勝を行った。レッドイーグルス北海道がPS戦の末日光アイスバックスを4-3で下し、前身を含め7年ぶり38回目の優勝を決めた。国内最強の戦力を揃えながら、なかなか立てなかった頂点。そして、悲願の優勝を予言していた人物がいる。チームのOBで、19日の準々決勝で釧路厚生社の一員として激突したDF芳賀陽介だ。

レッドイーグルスの元主将「この先2度とない」機会への準備

「今日、大差で負けてしまいましたけれども、後輩たちのこのプレーなら必ず優勝してくれると思いましたし、イーグルスと試合をできて本当に楽しかった。いい思い出、といっては変ですけど、もうこの後輩たちに任せていいなって思いました」

 19日の準々決勝後、芳賀はこう言って清々しい表情を見せた。釧路厚生社は18日の1回戦で中央大学を破り、レッドイーグルスとの対戦にこぎつけた。芳賀にとってはアジアリーグから退いて4年目、古巣と試合をするのは初めてだった。

 組み合わせを見た時から、一つ勝てば夢が叶うのは頭にあった。「まず中央大学に勝ってくれたチームメートには本当に感謝です。イーグルスと戦うってことはこの先2度とないと思ってましたし、そのために準備してきたので」。レッドイーグルスでは前身の王子時代の2009-10シーズンから13年にわたってプレーし、アジアリーグ通算409試合に出場。主将を務め、優勝も味わった。そして39歳で叶った後輩との激突。何を見せようと思って氷に立ったのか。

「僕の前からどう抜いてこられるかな? というところですね。まだまだ抜かせないというつもりでやってやりましたけど(イーグルスの選手は)やっぱり速いです」

 こう言って苦笑いするものの、パックを止めるためのスティックの入れ方、選手を止めるテクニックは決して現役に劣らない。レッドイーグルスの選手はパックを奪われると悔しそうな表情を浮かべる一方で、芳賀へ積極的にぶつかっていった。

「コーナーでも僕に対してすごくハードに来てました。特に高橋聖二! しつこいくらいきてましたけど、本当に楽しかったです。簡単に抜かれたら『芳賀さんも落ちたな』とか言われそうじゃないですか。そうは見られたくなかったですし、そのために練習してきたことは見せられたかな」

釧路厚生社が地道に活動を続ける意味「タラタラやるプレーは……」

氷都・釧路で後進や子供たちのために身体を張ったプレーを見せ、釧路のアイスホッケーを盛り上げる決意だ

 日光アイスバックスとの決勝で唯一PS戦でのゴールを決めるなど、今やすっかりレッドイーグルスの主力FWとなった小林斗威は、芳賀との思い出を「自分が試合に出られないときに声をかけていただいたり、オフアイスでも本当にお世話になった先輩なんです」と口にした。体でぶつかりながら成長を見せられるチャンスを、こちらも「本当にいい機会だった」と楽しんでいた。

 芳賀はチームが「王子」の冠を外してクラブ化した2021-22シーズンを最後にアジアリーグから引退。その後は故郷の釧路で王子コンテナーに勤務する一方、釧路厚生社に加わりいわゆる「B級」の社会人リーグでプレーを続けている。フルタイムの勤務を終えて、今もパックを追う原動力はどこにあるのか。

「釧路に配属されて、私に何ができるかといえばやっぱりアイスホッケーなんですよ。声をかけていただいたチームにも、勤務している会社にも本当に理解、協力していただいていますし、やっぱり釧路のアイスホッケーを盛り上げたいんです」

 日本代表を何人も輩出した釧路から、トップリーグのチームが消えて3シーズン目になる。「子どもたちに向かって、釧路厚生社の頑張っている姿を発信し続けたい。引退した選手がタラタラやるプレーは見せたくないと思っているので」。かつてクレインズの選手たちが見せる華麗なプレーは少年少女の憧れだった。その役割を少しでも担えたらとの思いは強い。

試合が終わればノーサイド。ホッケーマン同志の絆が笑顔を呼ぶ。芳賀選手の持つホッケーへの情熱は尽きることがない

 厚生社のホーム・釧路から、開催地の長野は遠い。社会人チームにとっては、選手の移動だけでも大変な出費だ。実は当初、18日の長野での宿泊を手配せずにやってきた。石原寛監督は「その予定を選手に伝えても、誰も何にも言わないんです。みんな黙々と、中央大に勝つことだけを考えて取り組んでいました」。ただその裏で、指揮官は旅行代理店に「ホテルがバラバラ、飛行機がバラバラになっても構わないから、勝った時の準備だけはしておいてくれ」と頼んでいた。

 いざ中央大に勝利してから、手配の変更をバタバタでこなし、選手たちはレッドイーグルス戦の氷に立った。「会社は逆の発想で、選手にハッパをかけたのかもしれませんね。勝ったら泊まれるんだ、と」と石原監督は愉快そうに笑う。全国各地に、ホッケーへの情熱が集まって維持されている社会人チームがある。無差別級の全日本選手権は、そんなチームの晴れ舞台でもあるのだ。

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