アジアリーグは強化の「唯一の道」 帰ってきたHLアニャンと日韓アイスホッケー史 

HLアニャンの再参戦で国際試合が復活。日韓両国の競技力強化にアジアリーグがどんな役割を果たすか、が問われる

10月15日(土)KOSÉ新横浜スケートセンター
横浜グリッツ 0(0-1、0-1、0-0)2 HLアニャン

取材・文・写真/今井豊蔵

アジアリーグの歴史は、新横浜のリンクから始まった

新横浜に、アジアリーグが戻ってきた。

国境をまたいだ行き来のハードルが下がったことで、2022-2023シーズンは3季ぶりに韓国からHLアニャン(旧・アニャンハルラ)が参戦し、国際リーグが復活した。
10月15日からは、初めてアジアリーグを戦う横浜グリッツがホーム新横浜にHLアニャンを迎えての2連戦。HLアニャンは、第1戦をGKの負傷や緩い氷といった悪条件に苦しみながらも2-0で快勝。第2戦は7-0と大勝し、ほぼ韓国代表で構成されたチームの実力を存分に見せつけた。

このリンクは、アジアリーグにとっては原点ともいえる場所だ。
2003年11月15日、アジアリーグは日韓の計5チームで開幕した。開幕日、初の国際対決となったコクド-ハルラ戦が行われたのがここだ。
試合は荒れに荒れた。両チームの実力差は大きく、ハルラはそれを止めようとしてペナルティを連発。コクドが11-1で大勝した。このリーグはやっていけるのだろうかと、関係者からも不安の声が聞かれた。「両国のアイスホッケーの未来のためにプレーしよう」と、試合中のロッカールームで再確認したほどだった。

現在、HLアニャンのゼネラルマネジャー(GM)を務めるキム・チャンボム氏は当時ハルラDFで、主将。「それまでも日本のチームと試合をしたことはありましたから分かってはいたのですが、やっぱり差は大きいなと思いましたね……」と振り返る。試合中には「とにかく一つ一つ、目の前のプレーを大事にしよう」と話をした。そこからの成長は早かった。参戦1年目からアイスバックス、王子(元レッドイーグルス北海道)、日本製紙クレインズ(現ひがし北海道クレインズ)の順に倒していった。さらに開幕戦で大敗したコクドにもソウルで勝ち、3位となったのだ。

それから19年が経って、両国の立ち位置は逆転した。ハルラは6度リーグを制し、韓国代表は世界選手権のディビジョン1A(2部相当)でプレーする。この間、両国がアイスホッケーにかけた熱量の違いと言っていいだろう。韓国には自国での五輪という大目標があった。2018年の平昌五輪でそれは実現し、代表はチェコと1-2という接戦も繰り広げた。その前には、日本がいまだ果たせていない世界選手権トップディビジョンへの自力昇格も果たした。開幕時「五輪での活躍」を目標に掲げたアジアリーグが生んだ成果と言えた。

アニャンDFの危機感「アジアのレベルが落ちてしまう」

HLアニャンはグリッツに2連勝したことで、リーグ首位に立った。今では日本のチームがHLアニャンを追いかけるようになった理由を、キム・チャンボム氏は「それはもう、経験ですよ。世界選手権と五輪の経験です」と説明する。

ただ、平昌五輪を韓国代表として戦った選手も、ひとり、またひとりと現役を退いている。今春の世界選手権では日本より一つ上のディビジョン1Aで1勝し、残留を果たしたものの、韓国代表と、選手の大半を抱えるHLアニャンにとっても、新旧交代と強さの“継承”は大きな課題となっている。

五輪後の韓国ホッケー界には、日本の長野五輪直後と同じような逆風が吹いた。アジアリーグに参戦していたデミョンは廃部、ハイワンは規模を縮小し、国内でだけ活動している。肝心なアジアリーグも、新型コロナウイルスの感染拡大で2シーズン、完全にストップした。韓国国内では総合選手権をはじめとした国内大会が、小規模に維持されただけだった。

攻め上がるイ・ドンク選手(HLアニャン)

平昌五輪にも出場した主力DFのイ・ドンクは、久々の日本チームとの対戦で「日本のチームは力が落ちていると思います。それは我々も同じです」と感じている。過去2シーズン、ジャパンカップを維持していた日本のチームからも、外国人選手が大幅に減り、スキルの高い相手と手合わせする機会が減った。さらに「プレースタイルがみんな同じになっている気がします。DFでも梁取(元クレインズ)や芳賀(元レッドイーグルス)にはそれぞれのスタイルがあった。今はみんなが同じになってしまっている気がしましたし、これも力が落ちている原因」とも指摘する。

「このままでは、アジアのレベルが落ちてしまうという危機感があります」

競り合いが生む成長…「アジアのレベルを上げる唯一の道」とは

コロナ禍の中でも、欧州のチームは近隣国と競り合いながら、比較的実力を維持することができた。ただアジアではそうはいかない。国境の行き来が思うようにならず、アジアリーグは活動停止。日本は日本、韓国は韓国だけでの活動を強いられた。リーグに欧州の風を吹かせてくれたサハリンとの対決もかなわなくなった。そんな中で日本との対戦が再開されたのは、数少ない希望なのだ。イ・ドンクは言う

「アジアリーグを続けていくことが、アジアのレベルを上げる唯一の道だと思います」

韓国では結果的に、HLアニャンに代表選手の大半が集まっている。イ・ドンクは「同じチームになったので、経験を伝えていきやすくはなりました。これは同じDFのキム・ウォンジュンら、僕たち30代の選手の仕事だと思っています」と口にした。
HLアニャンを率いるのは、平昌五輪で韓国代表を率いたペク・ジソン氏。かつてNHLペンギンズでスタンレーカップに名を刻み、北米での指導歴も豊富だ。スケーター5人がひとつの塊となって戦おうとする戦術で、力を伸ばしてきた。イ・ドンクも「代表で監督がやったことと、今やろうとしていることは同じです」という。

日本も、遅れをとってはいられない。この日対戦したグリッツのDF蓑島圭悟は、中大時代から日本代表に選出され、韓国代表との試合経験も豊富だ。2017年に札幌で行われたアジア大会、日本代表が初めて韓国の後塵を拝した日も、リンクに立っていた。久々に韓国の選手と当たった感想を聞くと「(代表同士で)試合をしてみたいです。しばらく対戦してないですからね。勝てると思うんですよ」と食い下がっていくつもりでいる。

競い合いの先にしか未来はない。アジアの男子アイスホッケーの灯をどう守っていくのか。復活したこのリーグは大きな課題を背負っている。

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