JAPANは世界選手権ディビジョンIA、そして五輪最終予選にスカルディ監督で臨む

左からJ・スカルディ男子代表新監督、藤木幸太日本アイスホッケー連盟会長、鈴木貴人強化本部長

取材・文/沢田聡子 写真提供/日本アイスホッケー連盟

「強化本部 新体制 発表会見」と題された記者会見を都内で開催 

4月9日。日本アイスホッケー連盟は都内で強化本部新体制記者発表会見を行い、男子日本代表新監督にジャロッド・スカルディ氏が就任することを中心に、今後の活動について説明した。

鈴木貴人強化本部長は、新監督就任の経緯について以下のように語っている。

「海外担当として、(元日本代表監督の)マーク・マホン氏にサポートしてもらうことになりました。監督を変えるかどうかという以前に、日本にフィットしそうな監督・コーチ陣を何人かリストアップしていただきました。その中で何名かのコーチと面談をさせていただいたなかで、『スカルディ氏が日本のホッケーを変えてくれるんじゃないか』という期待を持って、監督就任ということになりました」

「彼は本当にいろいろな国の文化とホッケーを学んできているコーチなので、日本の良さを引き出すことができる監督だと感じました。1年間日本でプレーをしたという経験もあり、日本の文化にもリスペクトがあって、日本のホッケーについても情熱を持ってくれていたことが、今回スカルディ氏に監督をお願いしようと思った部分であります」(鈴木強化本部長)

新監督就任の決め手は「日本のホッケーに情熱を持ってくれていた」こと

4月27日からイタリア・ボルツァーノで行われる世界選手権ディビジョンⅠグループAが、スカルディ新監督が率いる男子日本代表が臨む最初の大舞台になる。

海外遠征メンバーは、4月11日から北海道で行われる選考合宿後に決定する予定だ。そして、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪最終予選(デンマーク・オールボー)も8月29日から始まる。

男子日本代表は、2022年からペリー・パーン前監督の下で戦ってきた。パーン前監督は昨年の世界選手権でディビジョンIBからIA昇格へとチームを導き、2月の2026年五輪3次予選では最終予選進出に貢献した。

鈴木強化本部長は、パーン前監督、岩本裕司前アシスタントコーチに対し感謝の思いを述べた上で、2人には3月31日の契約満了をもって契約更新をしないことを伝えたと説明した。

会見で「オリンピックを目指すこの時期にヘッドコーチが変わるのは珍しいことか」と問われた鈴木強化本部長は「頻繁にあることではないのかもしれません」と答え、言葉を継いだ。

「ただ先程お話した通り、ジャロッド・スカルディ氏への期待というか、私自身、この監督の下で日本のホッケーがさらに成長できると信じて、共に戦っていこうと思いました」(鈴木強化本部長)

鈴木強化本部長は、山中武司アシスタントコーチが留任することで「いいものを継続して、さらなるステップアップを、次の世界選手権・オリンピック予選につなげていきたいと考えております」と説明した。

中期の計画を説明する鈴木貴人強化本部長

王子イーグルスでもプレーし、家族も日本で過ごしたことのある”日本通”

スカルディ監督は、カナダ出身の53歳。あの有名なナイヤガラの滝がある街、ナイヤガラ・フォールズの出身だ。
NHLでは9シーズンにわたりプレーし、ヨーロッパのチームでも活躍した。2006-07シーズンには、アジアリーグの王子イーグルス(現・レッドイーグルス北海道)でもプレーした経験を持つ。現役引退後、2008年から、NHL・AHL・ECHL・U18カナダ代表などのコーチ・監督を務めている。

スカルディ監督は、今回の就任について次のように語った。

「まずはこのオファーが関係者から来たとき、早い段階で鈴木強化本部長と話す機会をもらえまして、何回か話しました。そこで、目指しているホッケーややりたいことについて、お互いが同じページにいるなと感じました。その後も何度も話しましたけれども、私がやってみたいと思っていることにおいて鈴木強化本部長とは共通点があり、是非この仕事を受けたいということで、決めました」

就任の経緯について説明するスカルディ男子日本代表新監督

「私自身が日本に来たのは、1998年に行われたNHL開幕戦の時です。サンノゼ・シャークス対カルガリー・フレームスのオープニングゲームがありましたけれども、私はその時サンノゼ・シャークスのプレーヤーとして来日しました。その時日本に感銘を受けまして『いずれここでプレーしたい』とずっと思っていました。その後それが実現して、王子製紙で一年間プレーさせてもらいました。その時には自分の家族、妻も一緒に来て、日本の文化や素晴らしいキャパシティに感銘を受けまして、また戻ってきたいという気持ちを強く持っていました。今回こういった形で日本に戻ってこられたことを、非常に嬉しく思っております」(スカルディ監督)

スカルディ監督は、日本の優れたディフェンス力を生かしたチーム作りを目指す。

「ハンガリー・ブダペストで行われたオリンピック(3次)予選を全部見て、いろいろ分析させてもらいました。やはり日本の強みというのは、強いディフェンスです。スケーティングができるディフェンスの選手がいて、パックも非常に速く回せる。やはりこのレベルでは、いいディフェンスから攻撃につなげるということが非常に重要になってきます」

「今持っているリストの中から、北海道でのセッション(国内選考合宿)の中で、最終的には選手を選ばなければいけないと思っております。これは自分だけではなくて、他のコーチングスタッフと決めなければいけないと考えています。やはりチームフィロソフィー(哲学)もあると思いますし、チームを作るために何がいいかをしっかり判断した上で、新しいチームを作りたいと思っています」(スカルディ監督)

強いディフェンス力を前提として、スカルディ監督がさらに求めるのはアグレッシブさだという。

「アグレッシブにプレーするということは、必ずしも体をぶつけてハードにプレーするということではありません。できるだけ早い段階でパックにつめて、プレッシャーをかけられるようなアグレッシブさというものも練習の中で見極めて、新しいチームを作りたいと思っております」(スカルディ監督)

会見ではスカルディ監督に対し、国内選考合宿のメンバーに入っていない“海外組”、平野裕志朗(AHL・Utica Comets)、人里茂樹(ポーランドリーグ・GKS Katowice)、佐藤航平(イギリスリーグ・Belfast Giants)の合流予定についての質問があった。

「今名前を挙げていただいた選手たちには、全員声をかけております。ただ、それぞれのスケジュールや健康状態もありますので……。現時点では呼ぶ・呼ばないというところは明言できない部分が、自分達の都合ではないところで出ているということはあります」(スカルディ監督)

平野については、スカルディ監督との縁もある。スカルディ監督がコーチを務めていたピッツバーグ・ペンギンズ傘下のAHLチームに、平野が選手として所属していた時期があったという。

「私がAHLのコーチをしている時に、短い期間でしたけれども、彼が選手として来てくれました。私も住んでいた苫小牧出身の選手を自分のチームに持つということに、運命も感じました。彼とは今でもよく電話でも話してコミュニケーションをとりますし、非常に嬉しい経験でした」(スカルディ監督)

鈴木強化本部長は、男子日本代表の中期的な目標を示した。

「私も現役でプレーさせていただいた時にトップディビジョンでプレーさせていただきましたけれども、当時は極東枠ということで、自分達で世界選手権トップディビジョンへの権利を獲得できていないのが、今までの現状であります。その先のオリンピックということはもちろんですが、まずはこの段階でトップディビジョンに上がるという大きな目標、そこからそこに定着をしていくという、実力をつけて、オリンピックへの階段を上っていければと思っております」(鈴木強化本部長)

8年ぶりに戦う世界選手権ディビジョンⅠグループA、そして五輪最終予選に向け、新たな強さを手に入れるべく、男子日本代表は新体制下でスタートを切る。

今回の会見では、久保英恵さんが女子の強化副委員長に就任したことも発表された

編集部より>今回、編集長が女子アイスホッケー世界選手権トップDivを取材中のため、編集部より依頼して沢田さんに記者会見の取材と原稿をお願いしました。新聞各社も集まり、比較的注目を浴びた代表監督就任会見だったようです。また、女子では久保英恵さんが強化委員副委員長に就任した旨もこの会見で発表されています。大会はもうすぐやってきます。スカルディ新監督の手腕に期待したいと思います。

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