日本アイスホッケー復活へ。その第一歩となるかもしれない試合
魂のディフェンスと鋭い攻撃で「これから」への可能性を見せた
取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部
現地8/30(金)19:30~(日本時間8/31 2:30)
2026ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪最終予選グループF
会場:GIGANTIUM(デンマーク・オールボー)
日本 2 (1-2、1-0、0-0、0-1)3 デンマーク
ゴール:【日本】中島照、古橋 【デンマーク】RONDBJERG、WEJSE、ELLER(OT)
GK:【日本】成澤 【デンマーク】ANDERSEN
SOG:日本 18(8、8、2、0) ノルウェー 39(12、14、11、2)
大会前、誰がここまでの素晴らしい戦いを予測したであろうか?
2026ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪最終予選の大会2日目。日本は開催国であり参加4ヵ国中ランク最上位のデンマークと対戦し、試合は2-2の同点でオーバータイムに突入。その延長3分45秒に決勝ゴールを決められ力尽きたが、前回の五輪出場国を相手のホームリンクでギリギリまで追い詰める男子日本代表の戦いぶりは1998長野冬季五輪以降でもベストゲームと言って差し支えないだろう。
一方、この敗戦で2026ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪への道は絶たれた。選手たちはその悔しさとやりきった手応えをともに心に刻みつつ、最終戦となる9/1の対イギリス戦で必勝を期す。
堅い守りで相手を慌てさせ、そして先制点へ
今回の五輪最終予選参加4ヵ国の中でも世界ランキング11位と最上位国のデンマーク。デンマークは前回の2022北京冬季五輪にも出場し7位となっている。そんな強豪・デンマークのホームに乗り込んだ日本代表は堂々たる戦いぶりを披露してくれた。
試合開始直後はデンマークがアタッキングゾーンを完全に支配しシュートを何本も日本ゴールに放ったが、その時間帯を堅い守りで乗り切ると、徐々に日本は日本らしさを出せるようになる。
地元サポーターからのプレッシャーにさらされながらも日本はゲームプラン通りに堅い守備から一瞬のチャンスを生かすというスタイルを貫くと、迎えた第1ピリオド10分24秒、日本が貴重なチャンスをきっちりものにする。
ゴール裏での争いに勝った榛澤力(HLアニャン/アジアリーグ)が出したラストパスをゴール右サイドで待ち構えていた中島照人(HCメラーノ/ALPSリーグ)がすかさずゴールにたたき込み、日本は待望の先制点。前日のノルウェー戦に続いて中島照人&榛澤力の才能あふれる若きコンビが躍動、格上のチームから先に得点を奪うことに成功した。
しかし喜びもつかの間、日本が得点した直後のプレー。デンマークはRONDBJERGがゴール左側からパックをキープしつつ回り込みゴール右ポストギリギリからパックを押し込むラップアラウンドというプレー。日本はディフェンスがスティックを伸ばしてそれを防ごうとしたが0.5秒及ばず、これを決められてデンマークにすぐさま1-1の同点に追いつかれる。
さらに第1ピリオド17分31秒にはスルーパスを受けて抜け出したWEJSEの早く強烈なシュートが成澤のファイブホール(股間のスペース)を撃ち抜き1-2。バックハンドでこれほどまでに早いシュートが打てるのか、と驚かされるシュートで日本はあっという間に勝ち越しを許してしまう。
しかしここで日本は守備における集中力をさらに高めてデンマークの分厚い攻撃に対抗。GK成澤優太(レッドイーグルス北海道/アジアリーグ)は2点を許したもののそれらのプレーで相手のスピードにアジャストできたのかその後はデンマークの選手が放つ強烈なシュートに対しても的確に対応。またディフェンス陣はゴール前のスロットと呼ばれる危険なゾーンに相手選手が入り込まないために身体を張って大きな選手だらけのデンマーク選手を外へ外へと押し出した。
ディフェンスの要である佐藤大翔(栃木日光アイスバックス/アジアリーグ)は「自分たちのミスから失点しないということを1番に心掛けて。山中(武司)コーチのスカウティングで相手の攻撃パターンは理解できていて、序盤はブルーラインのところで数的優位を作られて2失点したが、第2ピリオドからはそこを気を付けて抑えきることができた」と語り、またシュートブロックを何度も見せた早田聖也(栃木日光アイスバックス/アジアリーグ)は「僕らで歴史を変えてやろう、オリンピックに行こうという気持ちで臨んだ。ゴール前、スロットのエリアで自由にシュートを打たせないこと。コーナーでも相手のスティックにこちらのスティックを合わせて、自由にプレーさせずにとにかく時間をかけさせよう、という約束事のもとプレーした」とゴール前で身体を張った。この試合にかける日本ディフェンス陣の集中力はすさまじいものだった。
結果、デンマークはディフェンス陣形の外側から長めのシュートを打つほかなくなり、そうするとそこは成澤の出番。ゴール右上隅を狙ったシュートがゴールポストに当たるといった幸運も味方に付けてことごとくシュートを止め、デンマークサポーターのため息を何度も誘った。
無失点に抑えた第2ピリオド。古橋が空中のパックを叩いて2-2同点に追いつく
第2ピリオドも日本は集中力を切らさず、相手の攻撃を次々と跳ね返していくと、だんだんとデンマークも精神的にプレッシャーを感じてきたのかパスの精度が落ち、ディフェンスにもほころびが出始める。
そして迎えた16分08秒、コーナーでの争いに勝ちパックをキープした入倉大雅(レッドイーグルス北海道/アジアリーグ)から佐藤大翔、そしてゴール前の三浦優希(アイオワ・ハートランダーズ/ECHL)へとパックが渡り日本は大チャンスに。
「(佐藤)大翔さんがうまくタメを作ってくれて、そこで僕がうまくゴール前へ入り込めた」というプレーで三浦が合わせたパックがゴール前でふわっと浮き上がり、最後はゴール直近左側に詰めていた古橋真来(栃木日光アイスバックス/アジアリーグ)が腰の高さにあったパックをスティックでたたき込んでついに同点のゴールネットを揺らす。
その瞬間、日本ベンチの選手たちから雄叫びが上がり、相手のゴール裏サポーターは一瞬静まりかえった。
「泥臭くゴール前で粘ると決めて臨んだときに、運といえば運だがたまたま目の前にパックがあった。大会直前の練習試合でもああいったゴールを決めていたが、少ないチャンスの中で決められたのは大きかった」と古橋。あの位置にいたのは古橋の持つゴールへの嗅覚か。日本はこのプレーで2-2の同点とし、デンマークに対しても一歩も引かず食い下がった。
第3ピリオド。NHL選手を擁するデンマークを0点に抑えた日本の集中力
そして迎えた第3ピリオド、オリンピック出場のためにはどちらも負けられない意地と意地のぶつかり合い。デンマークに60分で勝たなければ2026年五輪への道が絶たれる日本は3度あったショートハンドのピンチも身体を張ったディフェンスで守り切る。
日本代表はここ数年でも最高の試合内容を展開し、世界ランク11位そして前回の北京オリンピックでは決勝トーナメントで7位に入った強豪のデンマークに対して一歩も引けを取らない戦いぶりをオールボーで見せつけた。第3ピリオドでは攻撃の圧を強めてきたデンマークに対して守備に追われる展開となったものの、日本の特長であるスケーティングスピードとパスの精度が最後まで落ちず、平野裕志朗(HCインスブルック・ICEHL)を中心に相手ゴールに向かう姿勢も見せ、押し込まれながらも最後まで勝利を求めて戦い続けた。
佐藤優のシュートは無情にもポストに。勝利と敗戦がわずかの差で交錯したオーバータイム
第3ピリオドが終了し、試合は5分間でゴールデンゴール方式のオーバータイムへ。
そのオーバータイムの2分過ぎ、左サイドから佐藤優(前所属:KHLニジニー・ノブゴロド)が抜け出してGKの右サイドを抜く強烈なシュートを放ち、勝利のゴールが決まったかに思えた。
しかしパックは右側のゴールポストに当たってこれが惜しくも外側に跳ね返ってしまう。思わず天をあおぐ佐藤優。日本が強豪からの大金星に限りなく近づいた瞬間だった。
しかしその後、デンマークはNHLピッツバーグ・ペンギンズでプレーするキャプテン、ELLERがチームを敗戦の危機から救った。ELLERがパックをキープして日本ゴールに迫るとまずは正面からシュート。これはGK成澤も反応するがそのリバウンドをELLERが自ら拾うとすぐさまもう1回鋭いショットを放つ。そのパックは無情にも成澤の左側に空いたスペースを通過してゴールネットに食い込んだ。
そしてその瞬間、日本が強豪デンマークに対して互角に渡り合い、63分45秒の長い時間におよんだ果敢な挑戦は終わりを告げた。
デンマークサポーターも思わず称えた。熱き日本の戦いぶり
デンマークの勝利が決定したその直後、コーナーに集まった日本応援のサポーターからは「ニッポン!」コールが、そしてゴール裏立ち見席に詰めかけたデンマークサポーターたちからも自然と「ジャパン、ジャパン!」というかけ声が沸き起こった。
そのコールは日本代表の戦いぶりが相手サポーターの心に響いた何よりの証拠だった。
残念ながらこのオーバータイムでの敗戦で日本が2026年五輪出場する道のりは絶たれた。しかし開催国デンマークを相手にここまで戦いきった日本の姿は我々ファンの誇りであり、ここからまた世界を目指すのに充分すぎるほど輝いて見えた。
強豪デンマークから奪った勝点1。これを日本代表の未来を拓く「はじめの一歩」にできるか?
そのためには続くイギリス戦(世界ランク17位)での勝利が絶対に必要だ。代表全選手もそのことは充分に分かっている。