アジアリーグはなぜ北海道ワイルズの今季新加入を認めないのか。武田チェアマンに聞いた(後編)

取材・文・画像/アイスプレスジャパン編集部(以下IPJ)

(1ー前)からつづく

なぜ『合議制』? それは21年前の”発明”だった

現実として、アジアリーグアイスホッケーは2003年の発足時から各チームのオーナー会議によって決定がなされる『合議制』だ。参加各チームの了解があってはじめて物事が決まる仕組みを堅持してきた。その理由を問われればそれはアジアリーグ発足時2003年の経緯にまでさかのぼる。

1966年から脈々と続いてきたアイスホッケー日本リーグは2002年に大きな危機を迎えていた。それまでは6チーム体制で日本リーグが続いていたが、実業団の雪印廃部を受けて立ち上がった市民チーム・札幌ポラリスが資金不足を理由に休部。さらに2003年には西武鉄道が廃部となりコクドにチームは合併統合され、日本リーグは2002-03シーズンにはコクド、王子、日光アイスバックス、日本製紙クレインズの4チーム規模にまで縮小された。この規模だと当時の規定では日本代表が世界選手権に出場できる国内リーグの参加チーム数を下回ることになる。
そこである意味ウルトラC的なイノベーションをやってのけたのがアジアリーグアイスホッケーへの転換だった。当時同様にチーム数減少に苦しんでいた韓国のチームに声をかけて参戦してもらい5チームのリーグを創設することで、その危機を回避したというのがアジアリーグ創設の有力な説だ。

2003-04シーズンは日本リーグとアジアリーグが同時並行して行われた。アジアリーグには日本の4チームに加えて韓国から今のHLアニャンの前身となるハルラ・ウィニアが参加し国際リーグとしてスタート。この年の日本リーグはコクドが圧倒的な強さを見せて優勝したが、アジアリーグは最終節まで優勝争いがもつれた。日本製紙クレインズが日光でアイスバックスに勝利すると、同時間帯に開催されていたコクドvsハルラ・ウィニアの試合でハルラがコクドを破るという大金星をあげる。これにより日本製紙クレインズは逆転優勝を果たし、アジアリーグ初代王者として記録に残ることとなった。
明らかにリーグの格としてはアジアリーグの方が下だ、という関係者の評価の中でのアジアリーグ初年度だったが、実験的な1シーズンを経て日本リーグはその幕を下ろす。2004-05シーズンから日本のトップリーグはアジアリーグに一本化された。

当時はまだアイスホッケーの競技力としては圧倒的に日本が韓国に対して上位にある時代だった。しかし日本(=アジアリーグジャパンオフィス)が運営面でもリーグの理念でも「自分たちの方が上手いんだから」という点をごり押しして韓国を主導する立場を取らず、全チームによる合議制をもって決めるという考えでアジアリーグ運営を進めたことは英断だと考えている。
当時スポーツ界で初めてとなる“海を超えたリーグ”を成功させるためには、『合議制』での運営は不可欠だった。

※2008-09シーズン、日本製紙クレインズのアジアリーグ2度目の制覇を伝える、2009年3月24日・日本製紙のプレスリリース https://www.nipponpapergroup.com/info/info09032401.html

アジアリーグ参加チームは日本のほか最大で韓国・中国・ロシアの計4カ国まで広がった年度もあった
 (2016-17ALプレーオフファイナル@アニャンアイスアリーナ/撮影:編集部)

その後、アジアリーグアイスホッケーは2018冬季オリンピック開催地に韓国のピョンチャンが選ばれたこともあり韓国のチームが増加、さらに中国も加わり一時期は日韓中露4カ国9チームで優勝を争う年度があるなど発展をとげる。中国やロシアのチームが参戦できたのもアジアリーグが『合議制』であったことが参入のハードルを下げていたことは間違いないだろう。2022-23シーズンでの現状は日本5チーム、韓国1チームにまでシュリンクしてしまったが、そういった歴史があった上で今のアジアリーグに続いているということはお伝えしておきたい。

つまり、アジアリーグの運営理念には、話し合いで落とし所を見つける、という歴史的な背景が大きく影響しているのは間違いない。
そういったある意味牧歌的な『合議制』運営で20年やってきたアジアリーグに対して、除名という選択肢を突きつけたことが「今あるところを乗っ取って、というのはフェアではなかろう」(チェアマン)という既存チームからの反発に繋がるのは必然だったとも感じる。良い意味でも悪い意味でも、アジアリーグアイスホッケーは欧米のリーグのようにビジネス的にドライになりきれていない。
チェアマンも「今回の件で釧路市民やスポンサー、ファンの間で分裂が起きているのは残念だ、という点を新チームの山田代表には伝えた」とIPJの取材に対し明らかにしている。
逆に、決定の仕組みが合議であることが、昨季シーズン中などもっと早い段階でクレインズに対する「強い指導」がなされなかった理由だった可能性も否定はできない。

リーグ側が規約を楯に少なくとも今季からの新規加盟申請は認めない方針を掲げるカゲにそのような考え方のベースがあるというのは、ある意味では理解できなくもない。過去にも規約を理由に加盟を1年待たされたチームは複数存在する。そういう意味では、新規加盟に関してアジアリーグの姿勢はこれまでも厳格だった。

いっぽうで、新チーム側はそれらを分かった上でクレインズの除名を求めるという方策を取ったのか否か。なぜその手を打ったのか? それはまた当事者に話しを聞いた上でお伝えしたいと考えている。
この件に限らず一般的な目線で見たときに、今後アジアリーグへの参入を考える新規参入チームの経営陣からすれば“既存チームの権利が強すぎてある意味談合に近いのではないのか?” という声があがることもじゅうぶん予想されるからだ。

ひがし北海道クレインズは体制を整えられるのか?

もう1点、予定されている9月16日の開幕日までに、ひがし北海道クレインズ側がトップリーグへ参戦できる状態にまでチームを持って行けるのか? という点は大きな疑問として残る。これについてもチェアマンを直撃した。

IPJ:客観的情勢として、クレインズがこの9月16日までにチームとしてのかたちが整わずアジアリーグに参加できないとなった場合、チェアマンとしてはどう考えるのか?

武田チェアマン:「そうはならないというふうに見通しております。選手の契約につきましても、今進めているところであります。(リーグ側は)クレインズから情報発信をしてくださいと依頼をしており、そんなに遅くならないうちに、その辺が交渉されるというふうに信じております。どんな内容のリリースかというと、資金の話、それからチーム編成の話。この2つで情報発信があるかと思います。9月の開幕に向けて、いろんなタイムリミットがあるわけです。非常に遅れているというのは事実ですけれども、間に合わないということではない、というふうに考えています。このあたりを心配されるのはもっともな話で、それが普通だと思いますので、クレインズ側からの早期の発信でその辺の皆様の不安を解消していきたいと考えております」。

IPJ: 一般のファンのかたも同様に感じていると思うのですが今の見解を聞いて懸念するのは、「クレインズ田中茂樹代表の言葉をチェアマンはじめアジアリーグの方々は信じすぎているんじゃないか」、という疑問です。チェアマン名でリーグが6月2日深夜に「クレインズに特段の問題はない」という内容のプレスリリースを出した直後に、クレインズ側の財務面の不備が報道された、といった経緯もありました。

武田チェアマン:「おっしゃる通りです。その辺のお感じになっていることはよくわかります。そういう意味では、タイムリミットを今回設けています。“いつまでにこれができるか、次はいつまでにこれが交渉できるか”、等々の進捗を管理するためのタイムリミットを設けてあります。開幕が迫っておりますので、『そのタイミング等をきっちり守らないと駄目だ』とクレインズ側とは田中代表も含めて確認をしております。ですから途中で、こんなことではなかったということになるとしても、それはかなり開幕手前の時期になるということになります。そういう線引きはしております」

IPJ: チェアマンとしては、クレインズがこれから財務状況を改善して選手も揃えていくということをもう信じるというか期待して、それをできるものだという判断のもと今待っているという状態だということですね。

武田チェアマン:「はい」

IPJ:タイムリミットごとに、できていない部分があったらそこで判断していく、と?

武田チェアマン:「ハードルはあるので。そこは越えられるだろうだろうという判断をしているんですが、本当に超えたかどうかちゃんと実際に見ていくということであります」

以上のやりとりから、アジアリーグとしてまったく手をこまねいている訳ではなく、リーグはクレインズに対してタイムリミットを提示してチーム作りと財務改善を促していることは確認できた。

                                       ※画像はイメージです

”まさかの事態”に対応する策は用意されているのか?


また、クレインズ側がそのタイムリミットに間に合わなかった場合に、日程を変更せずクレインズの不戦敗扱いで5チームでリーグを行うのか、あるいは日程を組み替え5チームながら試合数を増やして各チームの収入減を補う形にするのか、はたまた6チームでリーグを行うのか、といった部分についても尋ねたが、あくまでクレインズが状況を改善できると考えている、との見解を繰り返されたのみで、インタビュー時点でははっきりした回答はいただけなかった。そのためIPJは、書面にてチェアマン側にタイムリミット設定の詳細内容についてあらためて質問を送ったところ次の回答があった。

IPJ:クレインズ問題に関して、ひがし北海道クレインズがリーグが設定したタイムリミットを破って9月開幕までにチーム構築が進まないとリーグでの判断がなされた場合、どのような措置になりますか?

回答:今季の出場資格停止または除名となります。ここまでアジアリーグとしての指導権限が弱いことは事実で、今後、ルール作りを課題と認識しています

リーグの形に関する情報はやはり出してもらえなかったが、腹案はあるのか。
この辺りのリーグ側の判断が適正だったかどうかは今後の動きを見守るしかない。

とはいえ、チェアマンへのインタビューや質問を通じて、アジアリーグ側は決して機械的に新チームを門前払いとし無条件でひがし北海道クレインズの側に立っているかといえばそうではない、ということは確認できた。IPJとしては引き続き各所への取材を続けていき、より正確な情報をお伝えしていきたいと考えている。

また、新チーム側が6月16日に日本アイスホッケー連盟(日ア連)を訪れて水野明久会長と懇談したことがNHK北海道( https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20230616/7000058432.html )にて報道されている。それに関連して日ア連側から新規加盟について何らかの連絡や指示等があるのかを武田チェアマンに尋ねたが、それについては
「現在、アジアリーグは完全に独立した組織であり日本アイスホッケー連盟の下部団体ではありません。したがって、チームの加入脱退に関わる決定に関してはアジアリーグアイスホッケーの専権事項です」との回答だった。加えて現在のところ多少の電話等での確認はあるものの日本アイスホッケー連盟からの介入はない、との回答だった。

※この記事は6月27日午後に行われたチェアマンへのインタビュー内容またその後の書面での追加質問に基づいている。翌6/28にアジアリーグは「北海道ワイルズからの加入申請について」というタイトルにて公式サイト上でプレスリリースを発表したが、このインタビュー中には翌日にプレスリリースを出すことについての言及は無かったことを付記しておく。

<連載第1回おわり>

※次回の連載では武田チェアマンのインタビューから、リーグの財務関連について改善を図っていること、その取り組みについて触れる予定だが、今後の取材状況によって変更となることをご了承いただきたい。

<追加情報>

別ルートでの取材で、クレインズが近日中に韓国でトライアウトを行うという話が入ってきているがクレインズ関係者に接触できていないため未確認情報としてお伝えする。なお7月10日午前時点でクレインズからのプレスリリースは一切出されていないこと、クレインズ事務所に電話をかけても誰も電話に出ない状況であることもお伝えしておく。
いっぽうで7月14日がユニフォームのデザイン案提出などの部分を含めたアジアリーグへの第1次選手登録の期限であるとIPJはリーグ側に確認しており、その段階で何らかの動きがあるとも予想される。引き続き取材は続けていく。
<第1回・了>

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