『平野裕志朗xMTCプロキャンプ supported by 銀座 玄海鮨』
トップ選手が6月、東京と埼玉でハードなトレーニングを敢行

チームの垣根を越え「よりレベルアップしたい」という思いで各選手が集まった(2024年6月28日・東大和スケートセンター)

取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部

 日本代表選手にとって、今年のオフは例年よりかなり短い。
 8月29~9月1日(現地時間)でデンマーク・オールボーを会場に行われる2026ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪出場権をかけた男子アイスホッケー最終予選をにらんで、男子のトッププレーヤーは早くも6月中旬から始動。東京・東大和スケートセンターおよび埼玉アイスアリーナに選手たちがオフシーズンながら自主的に集結する形で、2週間にわたるプロキャンプが敢行された。

 6月28日まで土日を除くほぼ毎日氷上練習が行われたこのプロキャンプには日本代表クラスのトップ選手がこぞって参加。7月5~12日まで北海道・苫小牧で行われた男子代表選考合宿に向けて万全の状態で参加することも見据えて、各選手がハイレベルのトレーニングを積み重ねた。

8/29から始まる五輪最終予選へ向けてトレーニング開始

東京と埼玉で密度の濃い練習が連日行われた(左から寺尾、榛澤、佐藤(航)、福藤 6/27埼玉アイスアリーナ)※敬称略
ミニゲームでは激しくパックを奪い合うシーンが随所に見られた
(左から人里、中館、平野、磯谷(奏)、福藤、大澤 6/21東大和スケートセンター)※敬称略

 このプロキャンプは北米で戦う平野裕志朗選手が昨季から構想していたもので、最終予選を踏まえて一緒にトレーニングする機会を、という平野選手の呼びかけに多くのプレーヤーが応じてリンクに駆けつけた。特に何日以上来なければダメといった縛りもまったくもうけず、各選手が参加できるときに自由に参加して良いという形だったが、連日錚々(そうそう)たるメンバーがリンクに集まり、ハイレベルの練習が繰り広げられるさまはまさに「壮観」のひとことだった。

 またこのプロキャンプにはMTC(マスタースポーツトレーニングセンター)の平田祥紘コーチが平野選手はじめ各参加メンバーの意向も受けながら、身体作りおよび氷上練習のトレーニングメニューを組むことで選手たちをサポート。さいたま市にあるMTCのトレーニングルームでは猛暑にもかかわらず選手たちが汗だくになって自分を追い込み、身体能力をベースアップするべくハードな練習にも果敢に取り組んでいた。

平田コーチ(右から2人目・紫の帽子)が練習メニューを組み、選手のコンディションUPを手助けした(6/27・埼玉アイスアリーナ)

 平田コーチにコーチングで気を付けた点、また合宿前に強化したいと思った点を聞くと「1回の練習で5個のドリルを作成。約8日間の氷上練習では選手が飽きないよう1度も同じ練習をしないメニューを作りました。また技術ある選手が多いのでスキル練習やスモールエリアでの練習を多くし、個々のイメージや感性でクリエイティブなプレーを選手自身ができるようなメニューも多く取り入れました。なかなか氷に乗れていない選手がコンディションを上げていくためにどうしたらいいのか、は考えましたね。そういった意味で、代表合宿に繋がるようなコンディション作りの為の練習ができたと思います」との答えが。「その後も何人かの選手と連絡を取りましたが、このキャンプのおかげでコンディションが良いですと言ってもらい、プロキャンプを実施して良かったと感じています」(平田コーチ)と日本代表合宿へ向けての良い橋渡しができた模様だ。

埼玉では氷上練習のすぐ後にジムでのトレーニングも
かなりキツいトレーニングをやりきった充実感からか、思わず笑顔がこぼれる

「自分たちでどうにかしてこの環境を変えていくしかない」平野の思いに各選手も呼応

 このプロキャンプを呼びかけた張本人、平野裕志朗選手にこのプロキャンプを企画した理由について聞くと「オフシーズンは例年こういう練習ができるチャンスがなかなか無かったが、MTCの平田コーチと相談し、昨年から日本代表をはじめとするプロにフォーカスしたキャンプをぜひやりましょう、と構想を温めていた。多くの選手が主旨に賛同して集まってくれ、良いキャンプができたことに心から感謝したい。代表キャンプの直前にこういった中身の濃い練習ができ、みんなで身体を追い込めたことは必ず最終予選にも良い形で繋がってくると思う」と答えてくれた。

平野裕志朗選手が呼びかけてこのキャンプは実現した

 代表クラスの選手にとって、今シーズンはいきなり五輪最終予選という大一番が待っているため夏のうちにコンディションを整えていかなければならない。平野選手は例年インラインホッケーの全日本選手権にも参加しているが、その縁で繋がったスポンサーに掛け合いリンクの貸し切り代金をはじめとする費用を捻出したそう。また数名の個人スポンサーからもサポートを受けてこのキャンプが実現できたと語っていた。これにより、海外でシーズンをプレーする代表選手も早くからこのプロキャンプでコンビネーションを合わせることが可能となった。

海外組が集結したのもこのキャンプならではの光景だ(左から佐藤(航)、平野、人里)※敬称略

 イギリスで活躍する佐藤航平選手もこのプロキャンプにほぼ全日参加した。佐藤(航)選手に話を聞くと、「こうやって東京で練習するのって新鮮ですよね(笑)。みんなアイスホッケーが好きなんだなと再確認できたというか、そういうポジティブな思いをもらえました」と笑顔で答えてくれた。
「例年の夏はアメリカでトレーニングしていることもあって日本には2週間くらいしか滞在できず、氷上練習を調整するのが難しかった。今回平野選手と事前に話し合って情報交換できたこともあり、日本には例年より長めに滞在しようと決めました。こうやって機会を設けてもらえたことでみんなで代表を盛り上げていけるし、選手としてもとてもありがたい試み。日本のトップ選手とこうやってリンクで練習できて良い刺激となったし『自分ももっと頑張らないと』と思えるような2週間だった。来年はもっと進化した形でやりたいですね」とも佐藤航平選手は語ってくれた。

地元・東京での練習で心身ともリラックスできたのか、佐藤航平選手はこんな表情も見せてくれた(6/28・東大和スケートセンター)

 平野選手がプロキャンプ発起人となったのは「何があってもどうにか自分たちでこの環境を変えていくしかない」という日本代表への熱い想いだ。
「この競技を多くの人が応援できるようなスポーツにしていきたいというゴールはみんな一緒だと思っている。アイスホッケーはまだまだ日本ではマイナー競技でネガティブなニュースも流れることもありますけれども、僕らが協力して多くの方々に応援してもらえるきっかけを作っていけるよう努力していきます。ファンのみなさんは『僕ら選手たちと一緒に戦う』という気持ちで応援していただけたらと思います」と平野選手は五輪最終予選は全力で勝ちに行くと宣言してくれた。

 代表各選手の気迫がその姿からも伝わってきたこのプロキャンプ。7月初旬の代表選考合宿にはそれぞれの選手たちが良いコンディションで参加できたことは間違いない。多くの参加選手や関係者からも「来年以降もより発展的な形でこのキャンプは続けたい」という意見が聞かれた。

ロシアでプレーする佐藤優選手(左)も連日参加し、コンビネーションをしっかりと合わせていた(6/27・埼玉アイスアリーナ)

「今年国内で初めて実施できたことなので、来年以降も継続したいですね。初めてプロ選手に対しての指導をしたのですが、プロ選手の練習への姿勢や練習メニューの理解度、そして与えられたメニューの中で工夫している点が多くあることに気づかされ、教える側としてもすごく刺激になりました。また選手それぞれのホッケーへの思いを聞いて、今後もさらに指導者として多くの選手の力になりたいと感じました。海外ではプロ選手がオフシーズンに当たり前のようにキャンプを行いコンディション作りをしています。そのような文化を日本でも取り入れていくことで、プロ選手のシーズンインのコンディショニングやリーグの活性化につなげていきたい。今回はスポンサー集めやスケジューリングを平野選手が主導となって行ってくれたので、少しでもバックアップできるように来年も頑張りたい」(平田コーチ)

来年以降はすべてのプロ選手を対象にして期間も長く設けられるように計画したい、との構想も平野選手などから聞いた。ぜひこのプロキャンプの取り組みが1つのきっかけとなり継続的に続くこと、そして日本代表の強化と人気アップに繋がることを願っている。

<参加選手コメント>

寺尾勇利選手(栃木日光アイスバックス)

キレのある動きを見せる寺尾勇利選手

 こういう機会はこれまでなかなか無かったので、今回のこの取り組みは自分にとっても刺激になったし、充実したキャンプとなった。集まった選手の技術レベルが高いですし、人間としてもしっかりしたメンバーばかりで僕自身もすごく楽しかったキャンプでした。
 今シーズンに向けて、自分自身トレーニングからハードにできているので身体も順調に仕上がっている。今季は圧倒的なパフォーマンスをファンのみなさんにお見せできると思うので、ぜひ期待してシーズンスタートを待っていてほしいと思います。

大津夕聖選手(HLアニャン)

ハードなトレーニングを敢行する大津夕聖選手

 代表選手と練習できる機会は意外と少ないので、こうやってオフに集まれるのは貴重な時間でしたし、自分自身も刺激になるような良い練習ができました。

 日本のアイスホッケーを盛り上げるためには結果を残すしかないと思っているので、オリンピック出場を自力で勝ち取り、「アイスホッケーがこれだけ面白いスポーツだ」ということを日本のみなさまに見てもらってそこでまた盛り上げられれば良いと思っています。こんな形で練習を毎日できれば日本のアイスホッケーも強くなると思いますし、こういう機会をもっと増やし若い選手や色んなチームの選手も集まって練習できる機会がもっと増えれば良いですね。レベルアップに繋がると思います。

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