満員の観客を魅了。IJリーグ開幕戦は東京ワイルズが名古屋オルクスに勝利
取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部
アイスホッケーIJリーグ 2024イノーギュラルシーズン 開幕戦
6月15日(土)19:05試合開始 @愛知県・邦和みなとスポーツ&カルチャー 観衆:682人
名古屋オルクス 2(0-0、1-2、1-1)3 東京ワイルズ
ゴール:【名古屋】山本x2 【東京】上野、青山、池田
GK:【名古屋】ニキータ 【東京】磯部→脇本
シュート数:【名古屋】31(13、10、8) 【東京】54(16、19、19)
「アイスホッケーの未来を開拓する試合」が名古屋を舞台に6/15(土)開催された。
この試合からユニフォームの差し色をブルーからイエローベースに、そして地域名「名古屋」を冠に変更した名古屋オルクスが東京ワイルズをビジターに迎えて主催するホームゲーム。チケットは完売。会場前には早くから行列ができ、ファンが開場を待ちわびる様子があった。
試合が夏に行われるのも新鮮だ。折しもこの日、名古屋の気温(※)は正午に28.8℃を記録。会場に入るなり観客からは口々に「涼しい」という声があがっていた。
さらに試合開始10分ほど前からは暗転からの光と音楽の演出が繰り広げられ、観客のテンションを盛り上げる仕掛けが次々と。その盛り上がりは両チームのスターティングメンバーが発表されるところで最高潮に達した。
※名古屋地方気象台発表のアメダスによる
名古屋オルクスGK、ニキータの奮闘でボルテージアップ
試合は第1ピリオド開始早々から、個人技のある東京ワイルズの選手が次々と名古屋オルクスのディフェンディングゾーンで攻撃を仕掛ける。
鋭いシュートが放たれるたびに満員の観衆から「おおっ」という歓声が漏れる。自陣ゴール前に選手を集中し必死で守る名古屋オルクス、その最後の砦はGKニキータ・ウスティノビッチ。カザフスタン出身、182㎝78kgの長身GKは手足を伸ばして厳しいコースのシュートにも次々と対応し、オルクスのゴールを死守する。
そのたびに場内DJの煽りとリズム感にあふれる音楽が流れ、照明が天井に反射してきらめく。チアリーダーのかけ声に呼応して観客席のボルテージもさらに上がる。バスケットボールBリーグの演出も参考にしたという観客参加型のアイスホッケー応援スタイルは斬新だ。
名古屋オルクスファンの声援に対して、白とグリーンベースのユニフォームを身にまとい応援する東京ワイルズのファンも熱い。アウエーのワイルズ側は太鼓ベースの従来型。両者の応援スタイルがぶつかり合い、満員ということもあって観客席はおおいに盛り上がっていた。
第1ピリオド終盤には名古屋オルクスも徐々に相手のスピードに対応できるようになり、東京ワイルズのゴール前でチャンスを作り出すシーンも。これには東京ワイルズGK磯部裕次郎が堅い守りを見せてゴールラインを割らせない。両GKの奮闘が光り、第1ピリオドは両者ノースコアで終了。ニキータのダイナミックなセービングは地元・名古屋のファンの心をグッとつかんでいた様子だった。
ワイルズが先行する展開。オルクスも食らいつく
第2ピリオド、先に試合を動かしたのはやはり個人技に勝る東京ワイルズだった。6:45、ゴール裏でのパックの奪い合いを制した新井詠才からゴール正面の上野鉄平へと繋ぎ、上野がトップネットを突き刺す鮮烈なシュートを放つ。
これで東京ワイルズが1-0と先行、しかし会場につめかけたファンを前にして名古屋オルクスもすぐにやり返す。9:16、植森大貴がパックをキープしながら上がっていき最後は右サイドで待っていた山本健太郎にパスを送る。山本は小さなモーションから狙い澄ましたショットでゴールを射抜いて名古屋オルクスは同点に追いつく。
その瞬間、地元チームの得点を待ちわびていた観衆がどっと沸き上がった。
この直後、GKを予定通り磯部から脇本侑也に交代した東京ワイルズは、第2ピリオド終盤にまた名古屋オルクスを突き放す。15:26、青山晃大が自陣ゴール前からパックをキープしつつそのまま右サイドを持ち上がると、最後は個人技でゴールキーパーも交わし2-1。試合は1点差という展開で第3ピリオドに突入した。
接戦に観客も興奮。新しい場所で「魅せるアイスホッケー」定着のきっかけに
第3ピリオドは人数が少ないぶん東京ワイルズが体力的な不利を強いられたが、選手たちは奮闘し得点を許さず。しかし徐々に名古屋オルクスに押し込まれるなかペナルティを許してしまう。オルクスはそのパワープレーのチャンスを得た直後となる6:17、フェイスオフからゴール前へとパスを展開。最後は山本がこの日2点目となるゴールを押し込んで2-2の同点に再び追いつき、観客は再び興奮のるつぼに。
この試合が初めてのアイスホッケー観戦という観客も多いなか、この拮抗した展開はまさにハラハラドキドキのエンターテインメント。チーム応援のタオルを笑顔で掲げる姿は新しい場所でアイスホッケーが根を張るきっかけになっていることを実感した。
その後名古屋オルクスはゴール前で選手が再三身体を張ってシュートを止めるなど必死の粘りをみせる。しかし14:41、ワイルズは連続攻撃から最後は池田一騎がリバウンドを押し込んで2-3と勝ち越しに成功。接戦のまま試合は終盤へ。
第3ピリオド残り1:55で名古屋オルクスはパワープレーのチャンスを得る。名古屋オルクスに訪れたラストチャンス。残り1:20でオルクスはGKニキータをプルアウト。6人対4人のシチュエーションで何回もワイルズ脇本の守るゴールに迫ったもののワイルズの守りが得点を許さず。
最終的には3-2で東京ワイルズが逃げ切り、「IJリーグ」開幕戦の勝利を奪い取った。
開拓、改革、挑戦。アイスホッケーでの新しいエンタメが始まった
アイスホッケーに新しい「熱さ」を作り出す試み、その最初の試合となった名古屋でのゲーム。試合後にマイクを手にした名古屋オルクスのキャプテン・佐藤育也は「本日はIJリーグの開幕戦、名古屋オルクスと東京ワイルズの試合を見に来ていただきありがとうございます。今日ここで……」と話したあと、感極まったのか言葉が止まった。
その時に観客席から贈られた「頑張れ!」の声と会場中を包み込むような暖かい拍手は、両チーム選手の記憶に間違いなく刻まれたことだろう。
確かにトップオブトップの選手はまだこの両チームにはいないかもしれない。それでもこの夜、邦和みなとのリンクにはアイスホッケーの迫力と面白さが、さらには他の競技からもヒントを得たエンターテインメントのエッセンスが充満し、とても楽しげな時間が繰り広げられていた。それは選手と観客が一緒になって作りあげたものだと感じる。
まだまだ荒削り、各所との調整含め改善すべき部分があることも否めない。しかし魅力ある形へと今後進化していく可能性も見せた。それは試合後帰路につく観客のほとんどが笑顔だったことが証明していた。