北海道ワイルズ、釧路から東京へ移転を発表。“新リーグ”設立の方向へ

北海道ワイルズの会見(ZOOM画面からのキャプチャ)

取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集長・関谷智紀(ポタやん)

来季(2024-25シーズン)のアジアリーグアイスホッケーへの加盟申請を行わない、と昨年12/29にプレスリリースで発表していた北海道ワイルズが記者会見を行った。
会見には岡本博司代表、篠原秀則ゼネラルマネージャー、齊藤毅監督の3名が登壇した。

1/27(土)19時から釧路市内で行われたその会見で、北海道ワイルズは、“釧路を出て、新たに東京に移転しチーム存続の道を目指すとともに、ワイルズの動きに協力的な各チームとの連携を進め大都市圏での「新しい形」での興業を行いたい”、との見解を発表。これにより、日本製紙時代から続く系譜を持つ釧路の名門チームは4月以降新天地で活動することとなる。

【記者会見書き起こし】①アジアリーグ申請辞退に至った経緯と理由、ワイルズの今後⇒はコチラ
【記者会見書き起こし】②質疑応答(前半)⇒はコチラ

「加盟を絶対に認めることはない」と言われ……。(岡本代表)

この会見で初めにマイクを取ったワイルズの岡本博司代表は、「釧路市および釧路アイスホッケー連盟との協議を進めてきたが、そのやりとりの中で信頼関係を損ねる発言が相手側に数多くあった」と主張。
岡本代表は「当初は、ワイルズと釧路市との間で包括連携協定を結んでほしい、といった話やリンク費用負担の軽減、またふるさと納税を利用してのチーム支援についてなどの話し合いが行われていたが、いつしかその話が消えてなくなり、『アジアリーグに加盟していないあなた方はただの実業団だ』とチーム自体を否定される発言を担当者からされることもあった。釧路にチームを残す為には釧路市、釧路アイスホッケー連盟、釧路の財界……すべてが一体となってチームを支えるという状況にならないと、この釧路の街の規模ではプロチームを支えるというのは難しい」と話し、“釧路市との折衝が半年間近くも堂々巡りで今後も釧路市からの協力を得るための交渉が進まないと判断したこと”、が移転を決断する大きな1つの理由と語った。

また、昨年12月中旬に行われた全日本選手権(A)の大会期間中にワイルズ岡本代表と篠原秀則ジェネラルマネージャー(GM)が、栃木日光アイスバックスの日置貴之チーフオペレーティングオフィサー(COO)&チーム運営関係者2名との会談を行っていたその席上で、日置COOから「あなたたちはアジアリーグを批判する勢力。そんなチームとは一緒にやれない。あなたたちの加盟を認めることは絶対にない」と言われたとの内容も吐露された。
「アジアリーグ加盟については総会での全会一致での決定が必要だが、12月の加盟申請までもう時間も無いなかでそのようなことをいわれた。そのため、アジアリーグ側は我々を受け入れない方針である、と同席していた篠原GMとも意見が一致し、アジアリーグには加盟できないと判断した」と岡本代表は、この1件も大きな理由となって加盟申請書の提出辞退に繋がった、と説明した。

アイスバックス日置COO(中央・全日本選手権決勝終了後)

東京移転後もワイルズは「アジアリーグを目指さない」

今後について岡本代表は、東京を拠点にデュアルキャリア制の採用など運営費を縮小する努力を続けながら「東京移転後もアジアリーグ加盟は目指さない。我々の動きに賛同してくれているチームとの協力を得て、東京・名古屋・大阪といった大都市圏において色々なイベント、興業を行っていきたいと考えている」との方向性を示し、「具体的な内容は、賛同いただけるチームと現在交渉中。改めてその内容についてはお知らせする」(同代表)と話した。また、デュアルキャリアによる選手の受け入れ先探しとスポンサー確保はもう始まっているとも語った。

シーズン開始前に釧路市・鳥取神社で行われた必勝祈願。結果的に釧路では最後となってしまうのか?

選手たちは現在の契約が切れる3月末までは釧路でトレーニングをおこない、オフの4、5月には東京へと拠点を移動する計画で、岡本代表によると「現時点では東京移転について『できません』と言った選手はいないが『少し考えたい』という選手は数名いる。こちらから選手を縛ることはできないので、よく考えて決めてほしいと伝えている」とのことだ。

東京、名古屋、大阪……大都市圏を舞台にした“新リーグ”設立へ

また岡本代表の「新しい形」という発言に関連しては「水面下で新リーグ設立の動きがある」とごく最近から選手間で噂が広まっている状況だった。そのため弊メディアでも取材を進めたところ、かなりの確度でそのような動きがあることが確認できた。これについてはまた日を改めて別の記事でご紹介させていただく。

1年を棒に振ったチームと選手に、釧路市とアジアリーグは手を差し伸べなかった

ワイルズの経営トップは山田謙治前代表から岡本現代表へ昨年11/15に交代がなされた。その理由については、 “アジアリーグ加盟を許される条件”と内々に提示され、それをワイルズ側が受諾し代表交代をおこなったものの、その後その“約束”はなぜかひっくり返されて加盟を認めない方向性になった、ということを弊メディアは取材を通じてつかんでいた。その件についても、今回の会見で岡本代表は言及している。

代表交代を発表する、2023年11月15日付けのプレスリリース

「11月に入ってからワイルズ代表交代のプレスリリースを提出し、ワイルズが世間を騒がせた旨、立ち上げ当時の行き過ぎを謝罪した旨のリリースも出しました。しかし、それと同じ時期に釧路市教育委員会のスポーツ課担当者から『山田さんをおろしてますが、岡本と齊藤毅の存在をチームから無くすればアジアリーグには簡単に入れる(※補足:岡本代表と齊藤毅監督がチームを離れなければ加盟はないぞ、の意)』と言われ私は頭が混乱した。なぜ釧路市のスポーツ課からこんなことを言われなければならないのか? 『そもそも(山田前代表と)同罪だ』と言われたが、私や齊藤監督がいったいなんの罪を犯したというのか? まったく分からなかった」(岡本代表)。 篠原GMも会見の最後に「1つお願いがあります。なぜワイルズの現状がこうなっているのか? この3人もその理由がなぜなのか分かっていないです。正直に言って。皆さん(マスコミ)のお力でそこをはっきりさせていただきたい」と集まった報道陣に訴えた。

ファンが試合を望むなかでの不可解な判断。ダブルスタンダードは許されない

全日本選手権(A)開催の時点で、Xにて弊メディアが取ったアンケートによればワイルズの全日本参戦を肯定的に捉えるファンが約70%と多数を占めた。他チームの選手たちや、アメリカでプレーする日本代表の平野裕志朗選手も「なんとか選手たちの活躍の場を作ってほしい」と訴える中で、裏側ではこのような動きがあったことになる。
12月、締め切り直前で飛び出した日置COOの「あなたたちの加盟を認めることは絶対にない」という発言は、この1年間もがき苦しむ姿を多くのファンが目の当たりにするなか、アジアリーグ加盟を唯一の光と見据えて頑張ってきた選手とチームにとってはいかばかりの言葉か。アジアリーグの、そしてアイスホッケー界全体の発展を考えるならばもっと大局的な判断をくだしてほしかったし、それができる度量があると目していた人物の発言と思われるだけに非常に残念でならない。

昨年12月の全日本選手権(A)でワイルズは準決勝で惜しくも敗れた

いっぽう、今回の会見で岡本代表から公開されたワイルズ側の主張も冷静に精査する必要があるだろう。岡本代表は武田チェアマンに対して「ある時期から、こちらから連絡しても返信がなしのつぶてでまったく対応してもらえなかった。これでは話し合いにすらならない」とも漏らしていた。チェアマンやアジアリーグ、また釧路市の関係者がなぜそのような判断をしたのかという点については、弊メディアは今後各キーパーソンへの取材を通じて明らかにしたいと考えている。(そのさいには以前から申し上げている通り極力中立な立場から報道させていただきたい)。しかしながら、岡本代表の弁の通りに、ワイルズ側が一定の譲歩をしたにもかかわらず、はっきりした理由をチーム側に示すこともなく来季からのアジアリーグ加盟が認められないのであれば、結果的にチームおよび選手の思いがむなしく弄ばれた、と言われてもおかしくない状況だ。
チーム立ち上げの段階でワイルズ側に瑕疵がまったく無かったとは言い切れないものの、その後、反省の意を示しリーグ側の指導にしたがって改善をしたというチームに対して、このような不可解な運用が行われたこと対しては強い懸念を感じざるをえない。ぜひ、関係者にははっきりとした理由の説明をいただきたいと思う。

また、実質上、経営破綻をしていたクレインズに対して「特段の問題はない」と昨夏の段階でプレスリリースで見解を発表し一時はそのまま6チームでリーグを進めようとした武田チェアマンは、その理由との整合性もぜひご説明いただきたい。そもそもそのような状況になるまでクレインズの経営状態を把握出来ず放置していたアジアリーグ側にもおおきな責任があるはずだ。
このようなダブルスタンダードは今後健全なリーグ運営を目指す上ではけっして許されない。速やかな改善を強く求めたい。

武田芳明チェアマン(右)

何度も繰り返される「アイスホッケーの危機」。ここから脱却せねば未来はない

弊メディア「アイスプレスジャパン」では、この件に関する注目度の高さを鑑み、この記事は速報の第1報とし、この後会見の模様を書き起こしでまとめた記事をできる限り早くお伝えする予定だ。またこのワイルズの会見内容を受けて、週明けには武田チェアマンをはじめ、関係各所のキーマンに可及的速やかにインタビュー取材を申し込む予定である。ぜひ、受諾いただけることを望んでいる。
永年この競技の取材を続けるなかで悲しいかな、不祥事やチームの廃部、またその他危機的状況とも思えるシーンを数多く見てきた。その過去と比較しても今回の事態は、日本のアイスホッケーが社会から求められる存在であり続けられるか否かの瀬戸際だ、と言わざるを得ない。
ぜひ、関係各位が私心にとらわれずアイスホッケー界の将来を見据えて行動していただきたいと心から願う。

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