「今も挑戦できているだけで奇跡」 全日本が人生最後の大舞台……ワイルズFW矢野竜一朗が抱く次の夢

1回戦アイスフェローズ戦で奮闘する矢野竜一朗。この全日本選手権での完全燃焼を誓う

取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵

第91回全日本アイスホッケー選手権(A)1回戦
12/7(木)@KOSÉ新横浜スケートセンター 観衆:199人

北海道ワイルズ 11(1−1、4−0、6−0)1 香川アイスフェローズ
ゴール:【ワイルズ】齊藤(大)、青山2、池田2、大津夕、山崎2、矢野、松金、荒木 【アイスフェローズ】黒岩
GK:【ワイルズ】イ・ジャンミン→脇本 【アイスフェローズ】小川→高瀬
シュート数:【ワイルズ】79 【アイスフェローズ】14

給与の遅配問題など、経営が立ち行かなくなったひがし北海道クレインズから離脱した選手で構成された「北海道ワイルズ」が、日本アイスホッケー連盟の推薦という形で横浜で行われる全日本選手権に参加、1回戦は香川アイスフェローズに11-1で大勝した。
アジアリーグへの参戦が叶わなかった今季、唯一狙えるビッグタイトル。ここに、トップレベルでのアイスホッケーは最後と決めて臨んでいる選手がいる。2年目のFW矢野竜一朗(やの・りょういちろう)だ。

矢野は昨季の開幕直前、9月になってチームに加入した。チーム始動から大幅に遅れたのは、もう一つの顔があるからだ。旭川医大で学ぶ医者のタマゴは、3年生の前期が終わったところでアイスホッケーへの熱情やまず、当時のクレインズの門を叩いた。

大津(晃)主将にねぎらわれ笑顔を見せる矢野。春先の苦境でもチームを離れる気にはならなかったという(撮影日12/8)

「ホッケーが好きで好きでたまらないんです。兄もそうですけど…。ホッケーに飢えているという面があるのかもしれません。北海道で育っていれば飽きちゃうとかもあるのかもしれませんけど」と話す矢野は、アイスホッケーの存在が薄い福岡の出身。少年時代は週に一度氷に乗るのが精一杯だった。兄は今季東北フリーブレイズに移籍した矢野倫太朗。高校は共に苫小牧東高へ進んだ。父は外科医で、矢野は自身も医者になるという夢を叶えるため、医大へ進んだ。

6年制の医大で、連続しての休学は2年までしか認められない。矢野のトップレベルでのホッケー人生は、最初から最大2年の期限付きだった。もちろん、ホッケーを続けることは勉学を続ける上ではリスクにもなり得る。昨季のアジアリーグで36試合に出場し5G5Aという成績を残したものの、今季もホッケーを続けるという選択は決して容易ではなかった。

「僕はおしゃれなプレーができる選手ではない」チームのためにできること

それでもスティックを握ったのは、シーズン前からしっかり準備した「自分史上、1番いい状態」を試してみたかったからだ。ただワイルズは発足の経緯からアジアリーグへの参加を認められず、その舞台は大幅に削られることになった。

「2年目もやろうと決意した時には、もちろんこんなシーズンになるとは思っていませんでした。代償も大きいですし……。悩み、苦しむことも多かったです」

ただ、チームを離れようという発想にはどうしてもならなかったという。「僕は実績も名前もないし、ブランクまである。チームに合流しても、なかなか認めてもらえないだろうなと思っていたんです。でも温かく迎えてもらって。去年のクレインズの雰囲気が特殊だったのかもしれませんが、このチームのために戦いたいと思ったんです」と、自身の力を認めてくれたチームへの恩返しを誓う。

「僕は派手なプレー、おしゃれなプレーができる選手じゃありません。昨季1年間学んで、ハードワークやパックを守ることがいかに大切か分かった。そういうプレーに徹して、勝ちたいんです」

不毛の地で育ったからこその、ホッケーへの「飢え」はまだまだ満たされない。ワイルズを離れても、国体などでのプレーは続けるつもりだ。さらに医師としてホッケー界に貢献することも将来の夢としてある。

リンクから去るときは深く礼をする……矢野のアイスホッケーに対する思いがうかがえるシーンだ(撮影日12/8)

「高校を卒業したときに、第一線でのガチなホッケーは終わりだなと思いました。それが今も挑戦できているだけで奇跡ですよ。医者を目指す以上、2年以上は制度的に無理。そこまでやりきれば、諦めがつくのかなというのはありますね」。再び白衣を着る前に、完全燃焼するつもりだ。

※編集部より>Webサイトの仕様のため、全日本選手権(A)の記事は「男子日本代表&各カテゴリ」および「アジアリーグアイスホッケー」の区分けにカテゴライズいたします。

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