全日本選手権の覇者はアイスバックス。4-2でフリーブレイズに競り勝つ

試合残り時間が0になった瞬間。GK福藤のこの姿が激戦を物語る

取材・文/アイスプレスジャパン編集部 写真/アイスプレスジャパン編集部

91回全日本アイスホッケー選手権(A)決勝
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10(日)@KOSÉ新横浜スケートセンター 観衆:1284

H.C.栃木日光アイスバックス 41−11−12−02 東北フリーブレイズ
ゴール:【アイスバックス】古橋×2、磯谷、大椋 【フリーブレイズ】所、京谷
GK
:【アイスバックス】福藤 【フリーブレイズ】伊藤
シュート数:【アイスバックス】28 【フリーブレイズ】30

試合残り10秒を切り、ファンからのカウントダウンが新横浜のリンクに響き渡るなか、歓喜を全身であらわしながら栃木日光アイスバックスの選手たちがGK福藤豊(ふくふじ ゆたか)のもとに駆け寄っていく。
今季の全日本選手権(A)は接戦の展開のなか、パワープレーで得たチャンスを着実にものにしたアイスバックスが4年ぶり3回目(前身の古河電工時代を含めると7回目)の全日本チャンピオンに輝いた。

優勝の瞬間、ベンチから飛び出した選手が次々とGK福藤のもとへ

フリーブレイズ伊藤、アイスバックス福藤。両GKが互いに譲らない展開

フリーブレイズは2年連続、そしてアイスバックスは4年ぶりとなる全日本決勝の舞台。試合前のサプライズはまずフリーブレイズから。グレッグ・プハルスキ監督はGKに準決勝で勝った畑享和(はた みちかず)ではなく、伊藤崇之(いとう たかゆき)を先発で起用したのだ。

これには報道陣から多少驚きの声もあがったが、プハルスキ監督には11/19(日)にホーム八戸で行われたアジアリーグでのアイスバックス戦。延長を含めて65分間無失点に抑えて最後はゲームウィニングショット(GWS)戦で勝ちきったという伊藤のプレーに対する鮮烈な記憶があったのだろう。
伊藤によると先発を言い渡されたのは金曜の夜、すなわち2回戦のあと。すでに大会の序盤でGKは準決勝=畑、決勝=伊藤のイメージが監督の頭にはあったと思われる。

その伊藤は監督の期待通りのプレーを披露。アイスバックスの攻撃に対しても的確なポジショニングでその芽を摘み取っていった。

この日先発起用されたフリーブレイズGK伊藤崇之

「準決勝でGWSまでいった畑さんがチームを勝たせてくれたので、その勝ちを台無しにしてはいけないなと。(橋本)三千雄さんもエールを送ってくれて、そんな先輩たちの思いに応えて勝ちたいと強く思って試合に入りました。とにかく自分の仕事をする、来たシュートはすべて止める、それだけを考えて氷上に向かいました」(伊藤)

フリーブレイズ伊藤、アイスバックス福藤の両GKは的確な守りで攻撃を跳ね返していく。試合がすすむごとに、5人対5人の状況ではお互いになかなか点数を取るのは難しいと思われる状況へと試合は展開していった。

緊迫の試合展開、勝敗のカギは“パワープレー”に

ゴール前では激しい攻防が随所に見られた

この膠着状態が破られたのは、やはり選手数がアンバランスになるパワープレーだった。
そのパワープレーでアイスバックスのエース、古橋真来(ふるはし まくる)は虎視眈々とゴールチャンスを狙っていた。アタッキングゾーン左のボード際にいた古橋はするするっとゴール右ポストの至近距離へ。そこに右サイドの清水怜(しみず りょう)からの横パスを鈴木雄大(すずき ゆうた)が柔らかく折り返したパスがドンピシャで来た。

「あのプレーの前に、健斗(鈴木 健斗/すずき けんと)から同じようなシチュエーションでのパスで惜しかったシーンがあったので、これは相手を崩せているのではないか? もう1回トライしてみよう、と考えて動いたら雄大から良いパスが来ましたね。彼のおかげです、完璧な形でした」と古橋はがら空きのゴールにパックを押し込んだ。

古橋がノッていたのには別の理由も。「今日のベンチは本部席から見て右側だったんで。グリッツ戦ではいつもこっち側のベンチなので相性が良くて。なんかいいな、と感じながらプレーしていたら流れも良くて」

アジアリーグで現在得点ランクトップの実力通りの活躍を見せた古橋

こういった些細なことも気持ち良くプレーするには重要なファクターだ。アイスバックスがパワープレーで完璧な崩しを見せ、エースの得点でまずは1点を先行する。

しかしフリーブレイズも追いすがる。16:55に飛び出したのは所正樹(ところ まさき)のゴールだ。これでフリーブレイズは1-1の同点とする。

同点ゴール直前、山田淳哉がパックをキープし味方に繋ぐ。その後ゴール裏からの展開でアシストした

フリーブレイズはアタッキングゾーンでパックを奪いターンオーバーを果たすと、ゴール裏にパックを流し、それを山田淳哉(やまだ じゅんや)が拾って自陣に向かって滑るような形でゴール右の良い位置へ。そしてゴール左サイドに位置していた所正樹を見つけてラストパス。これを所がなんなく決めて、待望の同点弾を生みだした。

同点弾を決めた所がベンチ前で仲間の祝福を受ける

得点王・古橋の、一瞬のスキを見逃さない経験値。高い技術で勝ち越し点奪う

1-1で迎えた第2ピリオド中盤。試合を動かしたのはまたもアイスバックスのエース、古橋だった。9:23、一瞬のスキを突いて古橋は左ゴールポストにわずかな隙間を見つけると、マイナスの角度からパックをGKのレガースに当てて入れる高度な技術でこの日2得点目をあげる。

2点目を決めた古橋。涼しい顔でベンチに戻る所は落ち着きを感じさせた

「ゴールキーパー(GK)がポストに戻る時にチャンスがあって。あの瞬間はGKが正しいポジションに収まっていないな、と感じ、ショートプレーで狙いました。ああいうプレーは福藤選手といつも練習していて。福藤選手は各チームのGKの特長を把握しているので上手くコミュニケーションを取りながら、攻め方なども事前にいろいろシミュレートできていたと思います」(古橋)

『今だ!』という一瞬の判断でポストとの狭い隙間を抜いたシュートはゴールハンター古橋の真骨頂。この技ありゴールでアイスバックスはリードをふたたび奪った。
「GKがちょっとでも前に出ていたらマイナスの角度からもシュートは決められるんで。チャンスがあれば常にGKの嫌がるプレーをしないといけない。あのゴールについては練習で常に狙って技術を磨いてきた成果が出たのは間違いないです」と古橋。「準決勝までは守りでは貢献出来ていましたが、思うようなポイントは挙げることができていなかった。でも、この2点でアジアリーグの得点ランクトップであるという部分はしっかり示せたのかな、と思っています」(古橋)

アイスバックスはエースの面目躍如たる活躍でふたたび2-1とリードを奪う。

しかしこの第2ピリオドもフリーブレイズがすぐに食らいつく。

京谷充洋選手

11:31にパワープレーのチャンスを得ると、フリーブレイズはきれいにパスを回して徐々に相手DFの陣形を崩す。最後はゴールを見てやや右のブルーライン付近から京谷充洋(きょうや みちひろ)が強烈なショットを放ち、福藤の守るゴールへパックを突き刺した。これで試合は2-2で最終第3ピリオドへ突入することとなった。

2-2とする京谷のロングシュートが決まった瞬間

決勝点もパワープレーから。寺尾の強烈な一撃を磯谷が押し込む

決勝とあって、両チームDFのレベルが非常に高く維持されており、5人対5人の状況ではなかなか点が入らない。そんななか均衡を破る決勝点はやはりパワープレーから生まれた。

アイスバックス寺尾勇利(てらお ゆうり)がアタッキングゾーンへと突進しDFの包囲網を1人で切り裂こうとすると、たまらずフリーブレイズの選手が寺尾を引っかけてペナルティ。その寺尾の突進で得たつづくパワープレーのチャンスで決勝点を演出したのもやはり寺尾だった。

寺尾はこの日も縦横無尽にリンクを駆け巡った

右からのパスに対してブルーライン付近から強烈なワンタイマーでのシュート。その寺尾のシュートは伊藤がいったんはレガースに当てて止めるも、目の前に陣取っていた磯谷奏汰(いそがい そうた)がそのリバウンドを見逃さなかった。磯谷が素早くそのリバウンドパックを押し込んでアイスバックスが待望の勝ち越し点を奪う。

「準決勝まで、得点を決めきることはできていなかったが、焦らずにチームのやるべき仕事を優先して取り組んできました。決勝でそれが実り、決勝点を取れたのは本当に良かったと思います。自分のスティックに目がけて打ってほしいと思っていたら、(寺尾)勇利さんがその位置にドンピシャでシュートを打ってくれた。この得点は勇利さんのおかげです」と磯谷はそのシーンを振り返る。

必死の形相でパックを追う磯谷。クールに見える男の熱い魂が垣間見える瞬間だ

「スライドで勇利さんが打ったパックを、すこしだけ触ってGKの股下を通すことができました。昨年クレインズに所属していたときに決勝でフリーブレイズに負けていたので、その悔しい気持ちをしっかり勝利でお返しすることができました。我慢していれば絶対にチャンスは来ると思っていたので、ここで決めることができて良かったです」と磯谷。前日の準決勝に引き続いて、決定的な得点シーンを寺尾勇利が演出し、磯谷が見事に決めきった。

ゴール前にたつ磯谷がパックをゴールへと流し込む。これが決勝点となった
パワープレーでユニットを組んだチームメイトがゴールを決めた磯谷を迎え、称えた

「全日本だけバズっても意味は無い。ここから成長しないといけない」(寺尾)

試合はその後も両チームの激しい攻防が続いたが、この決勝点が大きくものをいいアイスバックスが逃げ切り。最後は6人攻撃に出たフリーブレイズに対して大椋舞人(おおむく まいと)が冷静にエンプティゴールを決めて4-2。試合終了のブザーとともに、アイスバックスの選手たちによる歓喜の輪が広がった。

アイスバックスはこれで全日本選手権は3回目の優勝だ。

ただ試合後、この4年ぶりの優勝をきっかけに、もっと強いチームへと変わっていかなければならないとの強い決意を語る選手がアイスバックスには相次いだ。

古橋は「今回自分はMVPではなく福藤選手でしたけれども、リーグでも来季の全日本でも常に優勝争いに絡むチームになっていれば自分がMVPをいつでも取れる選手であることを証明できると思います。それだけ強いチームであり続けなければいけないと思っている。また明日からリーグ戦に切り替えて上位を狙っていきます」と力強く語った。

チャンピオンと書かれたキャップを被るアイスバックスの選手たち

「今日勝てなければ決勝は1年後。ここに来るまで4年掛かっているのでとにかく今日は楽しもう」と試合前に若手に対して声をかけて緊張をほぐしたという佐藤大翔(さとう ひろと)キャプテンは優勝を振り返って「強烈な緊張感のなかで勝つこと、がチームにとって一番のプラスになる。それを経験させられて良かったです。自分がまだ駆け出しだったころ、ここ新横浜で全日本初優勝しましたが、その時のように若手が何かを感じてくれればいい。今日1日だけは喜んで、祝って、また来週には練習が始まるのでしっかり切り替えてリーグ戦に臨みます」と勝って兜の緒を締める。

そして、準決勝、決勝とその活躍で若手に優勝の味を伝えた寺尾勇利も意外なほどに厳しい言葉でこの大会を締めくくった。

「こうやって優勝をつかんで、嬉しいものかと思っていたのですが、いまは逆にプレッシャーの方が大きくなってしまったかな、と個人的には思っていて……。全日本だけバズっても意味がない。1つの大会としては喜ばしい結果で充実感はありますが、チーム全体で見たら、これからはリーグ戦で常に相手から『全日本優勝チームだ』という厳しい目でマークされると思う。リーグ戦に向けての戦いはもう始まっているな、というプレッシャーをひしひしと感じています。優勝すれば若手が伸びるとか周囲は言いますが、やはり日々の練習の積み重ねでしか成長する方法はない。これを1つの起爆剤に、チーム全体の士気を上げて取り組まないと、という思いの方が強いです」

彼らの言葉が若手に浸透すれば、アイスバックスはまた1つ進歩の階段を上がることができるだろう。アジアリーグでは5チーム中、現在第4位。プレーオフ2枠に入り込むために、ここからまた厳しい戦いが待っている。

ファンとともに喜びの表情で写真に収まるアイスバックスの選手たち。次へ向けて戦いはもう始まっている

<表彰選手>今大会のMVPはアイスバックスの福藤豊が、最優秀新人賞にはフリーブレイズの石田陸(いしだ りく)が選出された。ベスト6は下記の通り。

ベストGK 福藤豊(アイスバックス)
ベストDF 佐藤大翔(さとう ひろと/アイスバックス)
佐々木祐希(ささき ゆうき/アイスバックス)
ベストFW 古橋真来(アイスバックス)
     寺尾勇利(アイスバックス)
     所正樹(フリーブレイズ)

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