「何もできなかった」15年ぶり快挙の翌日……
完封負けの東洋大、キャプテン・大久保雅斗が漏らした悔しさ

スティックを氷上に付けるかのような個性的スタイル。非常に低い体勢のフェイスオフは大学での研鑚から生みだした(撮影:編集部)

取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵、アイスプレスジャパン編集部

第92回全日本選手権(A)3日目
12月7日(土) @栃木・日光霧降アイスアリーナ
準決勝第1試合

栃木日光アイスバックス 6(2-0、2-0、2-0)0 東洋大学[関東大学リーグ1位]
ゴール:【アイスバックス】寺尾、鈴木x2、出口、大津、古橋 【東洋】なし
GK:【アイスバックス】大塚 【東洋】田村
シュート数:【アイスバックス】62(26、13、23) 【東洋】19(5、7、7)
 

グリッツを下した翌日、本気のアイスバックスと戦って感じた現在地

 第92回全日本選手権は7日、栃木県日光市の霧降アイスアリーナで準決勝2試合が行われた。
 大学チームとして15年ぶりにトップリーグチームを破って4強入りした東洋大は、0−6で日光アイスバックスに完封負けを喫した。完封負けに悔しそうな表情を浮かべるのが、主将のFW大久保雅斗(4年)だ。「何もできなかった。悔しいです」。本気のプロチームとぶつかったからこそわかる現在地だった。

 東洋大は6日、横浜グリッツに延長PSS戦の末4−3で勝利し、チーム史上初の準決勝へ進出した。大学チームがトップリーグのチームに勝ったのは、長い大会の歴史でも3回しかない。2009年の中央大以来、15年ぶりという快挙だ。その翌日、しかも3日連続の試合という条件には、心身両面で難しさもあった。それでも大久保は「個人としては全然です。何もできませんでした。楽しめた部分もありましたけど、悔しいです」。言葉を絞り出した。

東洋大、大久保雅斗キャプテン。準決勝は悔しい結果も日曜日の3位決定戦でまたトップリーグのチーム相手に全力でぶつかる

「バックスに自分のプレーがどのくらい通用するのかなと思っての試合でした。チャレンジというか」。ただ気がつけば、バックスの厳しいプレッシャーを乗り越えられないままに60分が終わっていたという。「スピードはまだまだ足りないし、体は大きい方なんですけどパックキープもできなかった」。本気でぶつかったからこそわかる、現段階でのプロ選手との差だった。

 チームとしても、大きな壁を感じさせられた。開始38秒でアイスバックス寺尾勇利に先制点を奪われた。そのまま第1ピリオドは東洋大のシュート5本に対し、アイスバックスは26本。試合通じてのシュート数も19本対62本と圧倒された。大久保も「プロの選手の方々が、本気でやってくれているのかなとは感じました。プレッシャーの圧が本当にすごくて……」。全日本4強という目標を前日に達成し、試合前には鈴木貴人監督から「次は決勝進出を目指そう」と新たな目標が提示された。ただ、プロにはプロの意地があった。

 鈴木監督も「バックスが100パーセントでやってくれたことに敬意を表したい。プロの技術や精神力、色々なことを感じられた。頭の体力も奪われていくような試合だったと思う」。伸び盛りにある学生たちは、壁を感じたからこそその先を考える。さらなる進化を生む時間がある。

スマートに見えるプレーと雰囲気の内側には激しい闘志を秘めている

 大久保の得意技は、低すぎるとも思われるくらいの体勢からのフェイスオフだ。駒大苫小牧高時代には今のようなスタイルではなかった。3年生だった昨年、チームメートと相談を重ねながら現在のスタイルにたどり着いた。「どうしたらパックを取れる? と考えながらやっていたら、あの形になりました。パックが落ちた時にすぐ動けますし、力も入るんです」。来季からは自身も、プロの世界へ進む。その時へ向けて、この日の経験も必ず活かす。

プロ選手相手にフェイスオフでパックを奪い合う

 父・智仁さんがかつてアイスバックスでプレーしたため、大久保も小学校低学年の時期を日光で過ごした。アイスバックスがここまで唯一、アジアリーグのプレーオフ・ファイナルに進出した2012年の熱狂は記憶にある。この日も、大きな声援が飛ぶリンクでのプレーは格別だった。
「土曜日で準決勝。たくさんのお客さんが来るとは予想していましたけど、子供の頃に見たリンクの雰囲気のなかで試合をするのは楽しかった。相手だけどワクワクして……」。
 その舞台で、大会最終日も3位決定戦が残る。「学生の間にプロと3試合続けてできるのは、本当に大きな経験だと思います。チームとしても質の高いホッケーを求めてインカレに臨みたい」。吸収できるものは全て経験して、大学最後の舞台に進む。

準決勝には909人の観客が詰めかけた。子どもの頃に見た光景のなかプレーする喜びがこの日あった(撮影:編集部)

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