【全日本選手権】決勝戦は逆転に次ぐ逆転。
歴史に残る試合を延長で制したアイスバックスが2連覇達成

延長20秒、鈴木健斗の決勝ゴールでアイスバックスが2連覇を地元・日光で達成した

取材・文/アイスプレスジャパン編集部 写真/編集部

第92回全日本選手権(A)最終日
12月8日(日) @栃木・日光霧降アイスアリーナ
決勝

H.C.栃木日光アイスバックス (2-0、2-0、2-0)0 レッドイーグルス北海道
>H.C.栃木日光アイスバックスは2年連続4回目、前身の古河電工と合わせ8回目の優勝

ゴール:【アイスバックス】寺尾x2、古橋x2、鈴木 【レッドイーグルス】高橋x2、三田村、安藤
GK:【アイスバックス】福藤 【レッドイーグルス】成澤
シュート数:【アイスバックス】29(8、11、9、1) 【レッドイーグルス】29(7、12、10、0)

激闘のすえに……鈴木健斗のオーバータイム弾で劇的決着

 まさしく記録にも記憶にも残る激闘だった。
 日光霧降アイスアリーナを舞台に行われた全日本選手権の決勝戦は、前身の王子イーグルス以来8年ぶりに決勝戦に駒を進めたレッドイーグルス北海道を、霧降をホームリンクとして戦っている昨季優勝の栃木日光アイスバックスが迎え撃つ形で行われた。

 試合は決勝の大舞台らしく、序盤からお互いに堅守で相手の攻撃を跳ね返す締まった展開で始まった。両者無得点が続くなか、最初に試合を動かしたのはアイスバックス。パワープレーのチャンスに寺尾勇利が左サイドから強烈なワンタイマーショットを決めてアイスバックスが先制。そのまま1-0とアイスバックスリードで第1ピリオドを終える。
 対するレッドイーグルス北海道はアイスバックスGK福藤豊を中心とする硬い守備網を破れずにいたが、第2ピリオド3分57秒に得たパワープレーからチャンスを作り、左サイドでパックをキープしてDFを引き寄せた小林斗威がタイミング良く右サイドでノーマークになっていた高橋聖二へパス。これを高橋がゴールにたたき込んで1-1の同点に追いついて第2ピリオドを終えた。 

第2ピリオド、レッドイーグルスは高橋のゴールで1-1の同点に追いつく
高橋(一番左)とともに笑顔でベンチへ

第3ピリオド、一気に様相を変え得点奪い合う展開へ。最後の最後にドラマが待っていた

 試合の様相が守り合いから一変し、激しい得点の奪い合いに転じたのが第3ピリオドだった。同点としたレッドイーグルスはその勢いを駆って押し気味に試合を進める。ついに8分00秒、両チームの選手が入り乱れる混戦のなか、ゴール裏からルーキー三浦稜介がパスをゴール前に流すと待ち構えていた三田村康平が押し込んでレッドイーグルスは2-1と逆転に成功する。

三田村(左から4人目)が決めてレッドイーグルスが逆転に成功

 ところが、逆転されたアイスバックスの選手たちも気落ちするどころか「ここからが本当の勝負だ」とばかりにギアをあげた。三田村の逆転弾からわずか59秒後の8分59秒、攻撃参加していた石川貴大がゴール前に平行のパスを送るとそこに古橋真来がジャストのタイミングで飛び込んでGK成澤の左サイドを撃ち抜き同点。さらにそのわずか11秒後には寺尾が単身右サイドを駆け上がるとDFのマークをものともせず角度のないところから僅かなスキマを狙って通し3-2と再逆転。アイスバックスファンで埋め尽くされたスタンドは逆転の喜びで沸きに沸いた。

寺尾が決めてアイスバックスが3-2と再逆転に成功したが、まだその先にもドラマが待っていた

 その後は8年ぶりの優勝に向けてあきらめない気持ちを前面に出して攻め込むレッドイーグルスに対してアイスバックスが堅守でしのぐ展開。時間は刻一刻と経過するなかアイスバックスがリードしたまま試合残り5分となろうか、というところでさらに壮絶なドラマの幕が上がる。

 第3ピリオド13分に得たレッドイーグルスはパワープレーのチャンスを得る。しかし、アイスバックスも身体を張って守り得点を許さない。しかし、アイスバックスがこの窮地を守り切れるか、というパワープレー残り16秒。右サイドでノーマークとなったレッドイーグルスのルーキー、安藤優作がスティックを振り抜き同点のシュートをゴールネットに突き刺す。安藤は準決勝でも殊勲のゴールを奪っているが、この決勝でも重要な局面で見事にその能力を示した。

右サイドでフリーになった安藤(一番左)がオープンネットへパックをたたき込む
これで試合はまた3-3の同点に。笑顔でベンチに戻る安藤(左から3人目)

 この安藤の同点弾で勢い付いたレッドイーグルスはさらにアイスバックス陣へと怒濤のように襲いかかる。そして迎えた15分18秒、高橋が右サイドから持ち上がると速いモーションからシュート。GK福藤も反応し、放たれたパックになんとか福藤は左肩を当てる。しかし高橋のシュートの勢いのほうが勝りパックはゴールへ。この日2点目となる高橋のファインゴールでついにレッドイーグルスが4-3と再逆転に成功。安藤のゴールから僅か37秒後に高橋が逆転弾をものにするという分厚い攻撃は、レッドイーグルスが全日本優勝に向けて並々ならぬ意欲を持って臨んできたことを証明するものだった。

アイスバックスGK福藤、懸命のセーブも及ばず、高橋のゴールでレッドイーグルスが再逆転

 しかし、この試合はここからまた想像を超える展開に突入する。

 アイスバックス藤澤監督は試合残り2分43秒でタイムアウトを取る。同点に追いつくために6人攻撃を仕掛けようとするが、レッドイーグルスは守備網をしっかりと築いてアイスバックスを自陣に入れることすら許さない。
 6人攻撃に出たくても出られずじりじりと窮地に追い込まれていったアイスバックスだったが、試合残り40秒を切ってようやく初めてアタッキングゾーン進入に成功。まさにラストのワンチャンスに賭ける状況のなか、ブルーライン右サイドから鈴木健斗がゴール前に送り込んだパスに対してゴール前を横切るように左から飛び込んだ古橋真来がピンポイントで合わせる。そのパックはGK成澤のレガースの間をくぐり抜けてゴールへと吸い込まれた。

古橋(右)が起死回生のゴールを決める
残り34秒でアイスバックスが追いつくという劇的な展開に、リンクは興奮に包まれた

 試合残りわずか34秒での同点ゴールにアイスバックスは選手もファンも拳を突き上げて喜ぶ。土壇場の土壇場でアイスバックスは4-4の同点に追いついて試合は5分間の延長戦、オーバータイムに突入した。

延長最初のプレー。古橋のラップアラウンドが勝負を決めた

 迎えたオーバータイム。プレイヤー3人対3人で行われる延長戦のラインナップはアイスバックスが鈴木、古橋、佐藤大翔。レッドイーグルスは入倉大雅、髙木建太、佐々木一正の布陣。注目のフェイスオフは古橋がパックをキープしてアイスバックスが攻撃権を得る。
 いくつかのパス交換のあと、古橋が突進し成澤の守るレッドイーグルスゴールへ。古橋は左から右へゴール裏を回り込むラップアラウンドというプレーで右ポスト際からのシュートを狙うムーブ。そこに反応したレッドイーグルス守備陣の動きを見て古橋は「その直前にもゴールを決めていたこともあったのか、ゴールの裏側を回ったときにレッドイーグルスのDFは僕の持つパックに意識が集中したと感じ、シュートではなくパスを選択しました。パスを出そうとすると強く出てしまうので、あえてパックをその場に置いてくる感じで。そこに誰か突っ込んでくれれば良いかなと思って、それが鈴木も佐藤も狙ってましたね」とゴール前を右から左に横ぎるような柔らかいパスを選択。そのパックを払ってクリアしようとしたGK成澤のスティックが僅かに届かず、流れたパックの先には鈴木健斗が待っていた。
 鈴木はそのパックを易々とゴールにたたき込む。決勝ゴールが決まった瞬間、鈴木はグローブにスティックもヘルメットも高く放り投げてリンク中央へ突進。そこへチームメイトが一気に駆け寄って歓喜の輪が広がる。アイスバックスが地元・霧降アイスアリーナでチーム初の全日本選手権2連覇を達成した。

決勝ゴールの瞬間

 最後の最後までどちらが勝つか分からず、逆転に逆転が相次ぐ展開。お互いのチームが勝利に対する執念をむき出しにして戦った、まさにアイスホッケー界の歴史に残る試合だった。素晴らしいゲームを見せてくれた両チームの選手に心からの拍手を送りたい。
 そして両チームの戦いはこれからも続いていく。全日本、ジャパンカップ、そしてアジアリーグの3冠を奪い取る権利を得たアイスバックスに対してレッドイーグルスがどのように対抗してその阻止を計るのか? 来年4月まで続く今後の戦いにも注目したい。

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