「僕じゃ勝てないのかと……」レッドイーグルスGK成澤優太が解いた呪縛
PSS勝ちで6年ぶり全日本選手権決勝へ
取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵、アイスプレスジャパン編集部
第92回全日本選手権(A)3日目
12月7日(土) @栃木・日光霧降アイスアリーナ
準決勝第2試合
レッドイーグルス北海道 4(2-1、0-2、1-0、0-0、1-0)0 東北フリーブレイズ
ゴール:【レッドイーグルス】中島、安藤(優)、高橋x2(3P&GWS)【フリーブレイズ】所、安藤(永)、京谷
GK:【レッドイーグルス】成澤 【フリーブレイズ】伊藤
シュート数:【レッドイーグルス】46(12、14、18、1、1) 【フリーブレイズ】22(5、14、2、1、0)
礼を欠かさぬ男が……思わず飛び出したガッツポーズ
アイスホッケーの全日本選手権は7日、栃木県日光市の霧降アイスアリーナで準決勝2試合を行い、レッドイーグルス北海道はPSS戦の末に東北フリーブレイズを4−3で下し決勝進出を決めた。8日に38度目の優勝をかけ、日光アイスバックスと対戦する。史上最多の優勝回数を誇るチームは2018年を最後に栄冠を手にしていないばかりか、5年続けて決勝進出さえできないという異変に見舞われていた。ようやく越えた大きな壁に、GK成澤優太は思わずガッツポーズ。普段見せない行動は、喜びの発露だった。
なんともぎこちない、まるでダンスのようなガッツポーズだった。PSSにもつれ込んだ大熱戦。成澤はフリーブレイズの5人目、DF京谷充洋のシュートを止めて勝利が決まると、まずいつも通りゴールに向かって一礼。その後両手をひらひらさせて片足を上げると、チームメートが同じポーズで成澤の元へ集まってきた。
いつも、相手への敬意を忘れずプレーする成澤には珍しいポーズも「自然に出てしまいました。最初に入倉選手が同じポーズをして寄ってきて……。あまり覚えていないんです。一緒になって喜んでくれたのはよかった」。思わず我を忘れてしまうほど、ここまで背負ってきた重石は大きかった。 「本当にホッとしている。そうとしか言いようがないです。率直な気持ちです」
レッドイーグルスは、1932年に苫小牧王子として初優勝して以来、前身の王子製紙時代からこの大会37回の優勝を誇る。2位はすでに廃部になったSEIBUプリンスラビッツ(コクド、国土計画時代含む)の11回だから、圧倒的な強者だ。ところが、2018年に優勝したのを最後に、決勝にすら進めなくなった。同じ期間に東北フリーブレイズが5年連続で決勝進出を果たしたのとは、まさに対照的だった。
全日本で勝てず、「僕が出せないから……」主戦GKが背負った十字架
2018年にチーム最後の優勝GKとなった成澤はこの間、外国人のドリュー・マッキンタイアに主戦を譲った年こそあったものの、ほぼメインGKとしてプレーしてきた。短期決戦に勝てないというレッテルを、誰よりも重く感じてプレーしてきた。
「一発勝負はGKの出来だと言います。優勝しているGKは、準決勝や決勝をロースコアで抑えている。5年も連続でそこを勝てていないとなると、『僕じゃ勝てないのか……』と思ったこともあります。去年の準決勝で当たった福さん(アイスバックス福藤豊)も、大津選手のPSで負けた2022年の準決勝で当たったクレインズの脇本侑也選手(現・東京ワイルズ)も、どこかで光るプレーを見せていた。それを僕が出せないから勝てないんだと思ったこともあります」
そんな呪縛を解くための試合は、3−3の同点で延長に突入。レッドイーグルスは第3ピリオドからパックを圧倒的に支配し、成澤の元にはほとんどシュートが飛んでこなくなっていた。第3ピリオド、受けたシュートはたった2本。延長戦の後半はパワープレーだった。「リンクで地に足がついてない状態」で、好きではないというPSS戦を迎えた。
トップリーグでのキャリア15年目、37歳のベテランになっても、PSS戦の必勝法はないという。「打ってくる選手は何をしてくるかわからない。準備したものと別のものが出てくるかもしれない。その中では自分なりの間合いに引っ張り込めるようにと考えていますが……」。その間合いにつながる流れを作ってくれるのは、何より味方のゴールなのだという。 「今日もそうです。僕は1人目を止めましたけど、その後(FW髙木)健太がすぐに決めてくれた。僕自身の気持ちも楽になりますし」。その後、FW高橋聖二もゴール。「2点入れてくれて、心の余裕ができました。本当に感謝です」。試合後にできた歓喜の輪の中で、2人は特に「助かった。ありがとう」を伝えたという。
日曜、アイスバックスとの決勝戦。すべてを懸けて成澤は臨む
荻野順二監督も元GKとして成澤がすごいことをやってのけたことは分かっていた。「試合終盤、彼がシュートを受けるシーンがほとんどなかった。動けずに身体も冷えて固くなる、GKとしてはとても緊張するシチュエーションであれだけのプレーを見せてくれた。本当に素晴らしい選手です」と荻野監督は成澤を手放しで称えた。
決して完璧な試合運びとはいえない。この試合も2点先制したところから追い付かれ、一度は2−3とリードを許した。それでも、第3ピリオドにはこのチームらしい分厚い攻撃が見られた。粘り強く追いつき、勝利につなげたところに何より大きな価値がある。チームがクラブ化され、レッドイーグルス北海道となって4年目。初のタイトルへの道が大きくひらけた。