岐路に立つ21年目のアジアリーグアイスホッケー。その打開策を探る

文/アイスプレスジャパン編集長・ポタやん(関谷智紀)

<新連載にあたって>

アジアリーグアイスホッケー2023-24シーズンの開幕は9月16日。
新シーズンスタートまであと2カ月強というところだが、刻々と開幕日がせまるなかで釧路に本拠地を置く、あるいは本拠地としたいと主張する2チームの参戦をめぐりリーグは混迷を続けている。

読者の皆様の多くがすでにご存じの通り、既存のアジアリーグチームである「ひがし北海道クレインズ」の財務状況の悪化、また度重なる給与不払いとそれに対するフロント側の説明不足に端を発したコミュニケーション不全が大きく影響したのか、クレインズと昨季まで契約していた選手のほとんどがチームを飛び出し新チーム「北海道ワイルズ」を旗揚げした。
しかしその旗揚げにあたって、北海道ワイルズ側は初手からクレインズのアジアリーグからの除名を要求。その件に端を発した両チームのいさかいはその後のプロセスを経るなかで一時は法廷での争いになるまで発展。アイスホッケーファンからはいわゆる「釧路問題」と認識されるようになった事象だ。

両チームのここまで一連の動きについては、このサイトをチェックするほどアイスホッケーに興味関心のある方にとっては充分理解されており、また心を痛めている方も多いと思うので、ここで詳細を振り返ることは割愛させていただく。

※参考>「釧路問題」についてくわしい流れを知りたい方は、NHK北海道によるこのまとめ https://www.nhk.or.jp/hokkaido/articles/slug-n16cb6b6bf359 を参照いただくと全体像が把握できます 

リーグは「北海道ワイルズ」の今季参戦を否定。「クレインズ」も先が見通せず

統括団体であるアジアリーグアイスホッケーは武田芳明(たけだ よしあき)チェアマンの名においてプレスリリースでこの件に対しての発表を何度か行っており、6月28日にもリーグの見解としてプレスリリースを発表。https://asiaicehockey.com/news/13330
2023-24シーズンの加盟申請締め切りは昨年(2022年)12月31日に設定されており、その期限までに申請がなされなかったことを理由に7月5日現在、北海道ワイルズの2023-24シーズンのアジアリーグ加盟申請については受理できない、という姿勢を崩していない。

いっぽうで、ひがし北海道クレインズからの公式なリリースは6月16日を最後に止まっており、その後同チームからの情報発信はマスコミを通じたものを含め一切無い形だ。今季9月16日の開幕日までにしっかりとしたチームの形を整備して臨むことができるのか、またそのクレインズをリーグは容認するのか? アイスホッケーファンをはじめ外部のものからはまったくうかがいしれない状況になっている。

第89回全日本選手権を制し歓喜するクレインズの選手たち。前列右端が田中茂樹代表(2021年12月@長野/撮影:編集部)

そもそもひがし北海道クレインズは多くのファン・市民の署名活動を経て、廃部が発表された日本製紙クレインズからその名を引き継ぎ、釧路はじめひがし北海道一帯をホームタウンとするクラブチームとして2019年3月に発足した。それはある意味、釧路市民そしてアイスホッケーファン、またスポンサーとしてボランティアとして支援したひとたちの思いによって、なんとかクレインズというチームの歴史を引き継ぐことができたことにほかならなかった。
それからおよそ4年。初年度こそ日本製紙側の表に出ないサポートもあり大きな支障も無くシーズンを過ごしたが、2年目からはほころびが目立ち始め資金不足がうわさされるようになった。さらにはクレインズ存続運動において署名活動で街頭に立ち窮状を訴えた中心選手たちが、年を追うごとにファンには不可解にも思える形で引退・移籍。そして、その後も運営状況は改善を見せずこのたびの件へと繋がっていく。

日本製紙クレインズの廃部騒動は当時全国規模のニュースともなった。その痛みはアイスホッケー関係者誰もが強く感じていたはずなのにその後数年でこの状況だ。その間にアジアリーグアイスホッケーは何を指導してきたのか、そしてこの窮状に至る前になぜ善後策を打てなかったのかという疑問が生じるが、それは改めてこの連載の中において触れたいと思う。

6チーム? 5チーム? 正常に開幕できるの? それすらファンは知らされていない

9月16日の開幕日にアジアリーグアイスホッケーは6チームが参戦する従来の形でリーグ戦をスタートすることができるのか? あるいは日程変更やそれ以外の特例的な対応はあり得るのか? アイスホッケーファンならだれもが心から心配をし、今後リーグがどうなるのか固唾をのんでいるところだろう。いっぽうで、この件に関する情報量は非常に少なく、SNSなどで流れる情報には確度の低いものも見受けられる状況だ。本来ならば積極的に情報を出すべきところからのアクションは非常にすくない。

アイスプレスジャパンでは、今回この件に関して関係者へのインタビューや聞き取りを行い、できるだけ1次情報を得るよう努めたうえで、連載という形でお伝えすることに決めた。

アイスホッケー界最大の危機に我々はなにができるのか?

アジアリーグの発足初年度は2003年。アイスホッケー日本リーグから引き継がれる形でおよそ20年にわたり運営されてきた国際リーグだが、これまでもチームの廃部やそれに伴う混乱にさらされてきた歴史があり、そのたびごとになんとか当時の関係者の知恵で危機を乗り越えてきた部分もある。それを踏まえたうえで、アジアリーグの20年を見続けてきた我々取材者からしても今回の騒動は過去にも経験のないアイスホッケー界最大級の危機と感じている。

弊メディアではアイスホッケーファンをはじめこの競技に関心を持つ方々に現状を知ってもらうことが必要と考え、この連載をスタートすることとした。できるだけ多くの関係者に取材をおこない、できる限り中立な立場からの正確な報道を心掛け、アイスホッケーを伝える数少ないメディアとして誠実に立ち振る舞っていく所存だ。

また現在の日本アイスホッケー界が抱える問題点を明らかにしつつ、将来へ向けての展望や提言までこの連載で触れることができたらと考えている。ぜひ連載をお読みいただければ幸いだ。

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