「ECHLはタフなリーグ。だからこそ自分の可能性を信じて進んでいく」
~ブルーミントン・バイソン 石田陸選手インタビュー

石田陸選手の背番号は「80」に決まった。開幕からスタートダッシュの活躍をおおいに期待したい ⒸBloomington Bison

取材・文/アイスプレスジャパン編集部 写真:編集部  取材協力/OVERBAY

 自らのプレーをより深く追求し、成長への道を駆け上がっていく……。石田陸選手の新シーズン開幕がもう間もなくスタートする。日本代表のディフェンス(DF)としてもいまや欠くことのできない存在となった石田陸選手は、今シーズンから挑戦の拠点をイタリアからアメリカに移した。

 石田陸選手が今季を戦うリーグは北米プロアイスホッケーリーグのECHL(East Coast IceHockey League)だ。アメリカ北部、イリノイ州最大の都市シカゴから南西に向かい車で約2時間半。同州の街、ブルーミントンを本拠地とする「ブルーミントン・バイソン」が新たな挑戦の舞台となった。
全72試合で広いアメリカを移動しながら戦うというECHLの過酷な環境にあえて身を投じ、より己の腕を磨き上げるための挑戦の日々が始まった。
 昨季はヨーロッパ・アルプスホッケーリーグに属するイタリア北部のチーム、HCメラーノに所属。レギュラーシーズン36試合に出場し5ゴール26アシストをあげたほか、プレーオフにチームを導いた活躍ぶりは高い評価を得た。しかしながら今シーズンを迎えるにあたって、石田選手は北米のプロリーグであるECHLへの移籍を選んだ。その選択の根底にはどんな思いがあったのか? 

 IPJでは今夏、石田陸選手へのインタビューを行い、北米挑戦への決意と意気込み、また日本代表への思いなど様々なことをうかがうことができた。ECHLの開幕を現地10/17(日本時間11/18)に控えた今、活躍を祈願しつつアイスホッケーファンの皆さんにお届けする。

「タフで厳しい道だが、自分をより成長させるために北米を選んだ」

――今シーズンは北米のECHLに挑戦することが発表されました。シカゴ近郊のブルーミントン・バイソンというチームで戦うこととなりますが、この夏、どんな準備をされ、どんなどんな気持ちでシーズンに向けて気持ちを高めているのかをぜひ教えてください。

石田陸選手(以下、石田と表記):
オフシーズンはまず最初にシーズンの疲労を取ること、そのコントロールですね。あとはやはり体重を上げていきボディチェックでも当たり負けしない身体作りをしてきました。72試合あるので、シーズンをしっかり走り切るためにも怪我をしない体づくりもしっかりと意識しながらトレーニングを積み上げてきました。気持ちとしては、もうどんな状況でもめげないというか、対応できるようにしたい。いろいろと想像もできないことが起きるだろうし、そこのマインドセットというか準備はしていこうと思っています。 

――北米プロリーグという厳しい環境に身を投じる決断をした、その根底にはどんな思いがありますか?

石田:やはりもっともっと上手くなりたい。その一心ですね。もっと選手としても上手くなりたいし、1人の人間としても「自分の価値を上げていきたい」という思いです。このオフ、いろいろな選択肢がありましたが、困ったとき迷ったときこそつらい道を選ぶ、という思いがあるので、良くなければ週単位で契約を見直されるというタフで厳しい道ですけれども北米挑戦を選びました。自分の可能性を信じてどこまでいけるか、ということを試したい、という思いです。

――ECHLというリーグについては? 挑戦に向けていまどんな思いですか?

石田:本当に楽しみな気持ちでいます。ディフェンスの強度とか相手のフィジカルの強さ、それに加えてイーストコースト(ECHL)はファイト(1対1の乱闘)もありますし。単に身体が強いだけでなくそれに加えて速く動ける選手も多くいると思います。確実にアルプスリーグよりは上のレベルのリーグなので、そこで戦うということにワクワクしながら今準備を進めています。

――日本、ヨーロッパ、そしてアメリカ。3大陸でプロリーグでプレーすることになりました

石田:そうですね。ホッケー観を磨くことと一緒にいろいろな国の文化を肌で感じられるというのは、自分のアイスホッケー人生においてもメリットしかない。今シーズンはそういう意味でも、良いシーズンになるだろうと自分自身期待しています。ECHLでは1週間ごとの契約を勝ち抜いていくタフさが自分を成長させてくれると思っています。それはフィジカルだけでなくメンタル面でのタフさもそうです。それからアメリカのアイスホッケーに触れることで、またより一層自分のホッケーの価値観が広がっていくだろうという思いもあります。

――試合数についても一気に増えますがどう考えていますか?

石田:試合数に関しては、これまでシーズン70試合以上を経験したことがないので「どんな感じなのかな」というシンプルな興味があります。それだけ多く自分がしっかり成長できる場がある、というのは嬉しいです。その環境でどれだけ自分がやれるのか、ということをしっかり受け止めて前進していきたいと思っています。

開幕でいきなり三浦優希選手との日本人対決。チームメイトには佐藤航平とイ・チョンミン。石田陸選手が挑戦するECHLが熱い

ECHL加盟チームを記したMAPに加筆。青丸が石田選手、佐藤選手が所属するブルーミントン・バイソン。黄丸が三浦選手が所属するアイオワ・ハートランダース。オレンジ丸のグリーンビル・スワンプラビッツにはAHL/ECHL契約の磯谷建汰選手がプレーする。

――そのECHLデビュー戦でいきなりアイオワ・ハートランダースと対戦することになりました。ハートランダーズにはECHL5年目を迎える日本代表の三浦優希選手がいます。彼がキャプテンとして率いるチームとの対決になります。

石田:優希さん(三浦優希選手)は大学の時から存じ上げていて、これまでもすごくお世話になってるんで、対戦はものすごく楽しみですね。優希さんも苦労人で、ここまで努力をされて来たことも知っています。でも試合をするからには「ボコボコにしたいな」と思っています。

――ボコボコにしたい? 

石田:はい。ディビジョン(地区※)は一緒ですし。まずオープニングゲームから対戦できるのは楽しみでしかないですね。

――ブルーミントン・バイソンズのチームメイトには日本代表の佐藤航平選手、またアジアリーグのHLアニャンから移籍した韓国代表のイ・チョンミン選手が所属しています

石田:チームを決めるにあたって事前にいろいろと佐藤航平選手に話もうかがっていましたし、一緒にプレーできるのが楽しみです。とにかくチームメイトと良いコミュ二ケーションを取って、開幕戦から自分らしさを出したプレーを、日本のファンの方にも現地のファンの方にも見ていただきたいと思っています。

※石田選手の所属するブルーミントン・バイソンも三浦選手の所属するアイオワ・ハートランダースもウェスタンカンファレンスのセントラルディビジョン(全7チーム)に属しており、まずはディビジョン優勝を争う。

 イタリアでの日々で得たもの

石田:昨シーズンは初の海外挑戦の場にイタリアを選んだ。アルプスリーグはイタリア、オーストリア、スロべニアなど複数の国にチームがある国際リーグ。参加する選手の国籍も多岐にわたる。そんな環境で戦ったことが、石田選手にとってどんな成長の機会をあたえてくれたのだろうか?

――少し昨季のことをうかがいます。HCメラーノでの経験は今どうご自身の中に生きていますか?

石田:プレーもそうですけれども、正直オフアイスでの経験を積んだことのほうがすごく人として成長できたシーズンだったのかな、と思っています。まず、文化も違う言葉も違う、コミュニケーションの仕方も変わってくる。さらにはアジア人、日本人としてここにいるという……。全てが違うなかでどうコミュニケーションを取っていこうとか。自分の存在を、自分の価値をどういうふうに表していけばいいのか? などを結構学ばさせてもらいました。基本英語でのやり取りだったのですけれども、そのなかで、やっぱりいろいろ勉強しましたし。それから、いかに自分からコミュニケーションを取っていくか、やはりそういうところが大事なんだなとも感じましたし。怖がらないでどんどんどんどん行く。ある意味一番日本人らしくないように振舞っていくことが大事、ということを結構オフアイスでは感じた1年でした。

――日本人らしくない振る舞いも大事、とは具体的にはどんな点?

石田:英語を話すときでも、「これ間違っている英語じゃないか?」とかいろんなことを気にしちゃうところ、日本人にはあるじゃないですか。その意識を振り払ってどんどんコミュニケーションをこちらから取りに行くというメンタルですね。実際、チームにはイタリア人もドイツ人もいたので彼らにとっても英語は第2言語なんですよね。たまに間違った英語で話してくるとか英語が得意ではない選手いたりとか。そういう経験をして、「やっぱりみんなそうだよね」なんて思えて。なので自分も自信を持って、文法的に正しいか否かは気にせず、自分からコミュニケーションを取りに行っているんだという姿勢をチームメイトに見せていく。そうすれば、「こいつは何か話したいんだな」と思ってもらえるし、気にかけてもらえる。自分のことをしゃべれるようになるかどうかはもう自分次第なんで。反応するリアクションすらしないっていうのがもしかしたら日本人の悪いところなのかもしれないとも思えて、それをやっぱ払拭しないといけないな、という思いが先ほど「日本人らしくない」という表現になりました。

――なるほど。HCメラーノではシーズン当初から石田選手らしさを出してとても活躍されたなと感じていましたが、ご自身としてはどうでしたか?

石田:助っ人としてチームに来ているので数字として結果を残さなければならない、という気持ちはありました。なので周囲の方がそう評価していただけるのは嬉しいですが、自分としては当然の結果ととらえていましたし、もっと良い数字が欲しいという思いで戦っていました。アイスタイムとしてほぼ半分ぐらい、常に27~28分は出場させてもらっていたので。

――リーグとしてのレベル感はどう感じていた?

石田:比較するのはなかなか難しいのですが、アルプスリーグの上位5チームを見るとアジアリーグより少しだけレベルが上かもしれない。そんな感覚です。でも、ヒットの強さ、選手のサイズ、それからアイスホッケーに懸ける熱量はアルプスリーグのほうがさすがに上でした。

――中島照人選手(レッドイーグルス北海道)と2人で頑張ったシーズンでした

石田:照人(中島照人選手)がいてくれたんで心強かったです。初めて行った海外シーズンで日本人が近くにいるっていうのは、心強かった。でもやはり周囲からは言われました。「日本人と一緒だから余裕だね」とか、挑戦者としてはその言葉は言われたくはなかったしそこは乗り越えていこうとの思いで過ごしましたが、正直、照人の存在はすごく僕の心の支えになりましたね。

日本代表、そして未来を担う子どもたちへの思い

8月に安平で行われた「CANADIAN HOCKEY CAMP」ではゲストコーチとして精力的にジュニア世代を指導した

――ここまで挑戦についてうかがってきましたが日本代表についてもお聞きしたい。来年2026年の世界選手権ディビジョンI-Aは日本悲願のトップディビジョン昇格へのチャンスでもある。

石田:日本代表に関していえば、僕自身も責任をとても感じているんですけれども、最後の最後で勝てない、という結果がミラノ五輪のオリンピック最終予選でもありました。僕だけでなく代表の全選手全員で日本代表を突き詰めていかないといけないところではないかと思っています。

――HCメラーノの時にジャロッド・スカルディ監督のもとプレーして、日本代表としてもスカルディ監督の目指すスタイルと石田選手のスタイルがうまくかみ合っている印象があります。スカルディ監督の目指すホッケーについて石田選手はどういう方向性だと思っていますか?

石田:日本人らしいスケーティングの速さを生かした、選手がスピーディーに流動的に動いて良い展開を作ることを目指していると思っています。僕自身もそこにフィットしていかなければいけないと思っていますし、そういうプレーが代表でも出来たら良いと思っています。

――HCメラーノでもスカルディ監督とはいろいろ話をした?

石田:そこは特にないですね。監督の求める理論というか求めるプレーを選手としては遂行しないといけないですので、そこにいかにフィットするかに注力していました。監督が持つ戦術に対してどれだけ選手側が理解して合わせていくか、ということがプロとしてはいちばん重要なことだと僕は思っています。

――なるほど。代表としては次の最大の目標である世界選手権トップディビジョン昇格に向けて何が必要だと考えていますか?

石田:まずは自分のクラブチームで活躍することですね。それにプラスして今思っているのは、日本代表はなかなか頻繁に集まれないので、昨夏のミラノ五輪最終予選での敗戦を日本代表の選手もスタッフも全員が受け止めて、この先はどう自分たちで戦っていくべきかを見つけるのが鍵だと思っています。やはりそこだ、と思います。

――ミラノ五輪最終予選ではデンマークを追い詰めあと一歩のところまで行きました

石田:でも僕自身は全然勝てる試合だった、と思っています。それはデンマーク戦もそうだし、イギリス戦もそうだった。そういう意味では今度のディビジョンI-Aは本当に楽しみにしています。

――日本代表での活躍、ECHLでの活躍、それを日本のファンに見せるというのが選手としての本義だと思いますが、それ以外に石田選手自身としてアイスホッケー界をどう盛り上げていきたい?

石田:やはりジュニアを招いてのホッケーキャンプも大事ですし、あとは平野裕志朗さんがやっているようなイベントだったり。僕自身でできることとしてジュニアの子供たちがプロの本気の試合をもっともっと見てもらえる機会を増やせると良いのかなと思っています。やはりジュニアの子たちにはトップレベルの試合を見て欲しいですね。

――今夏にはジュニアを育てるホッケーキャンプにも積極的でした。それもそういった思いからですか?

石田:そうですね、OVERBAY主催の「CANADIAN HOCKEY CAMP」ではゲストコーチとして参加して子どもたちにいろいろなことを伝えることができましたし、釧路ではずっとやりたかったディフェンスのトレーニングキャンプを横浜グリッツの松金健太選手とともに行うことができました。ディフェンスに特化したキャンプはこれまであまりなかったので、自分としてもそういうキャンプがあったら良いなと思っていましたし「自分がやれることをやろう」という思いで開催できました。

――ディフェンスキャンプではどんなことを伝えた?

石田:最近思うのですがディフェンスの面白みって”守ってしっかりパックを相手から奪い、味方の攻撃に繋げる”こと。自分でパックを取りにいき相手とパックを切り離せる選手が「守れる選手」だと考えるようになっていて、僕自身もそういう選手を目指しています。ホッケーをプレーしている子供たちに夢を与えなければいけない、というプロとしての気持ちがあるので、自分が積み上げてきたことをどんどん子どもたちに教えて、日本国内で育っている選手だけれどもこういう取り組みをすればどんどんトップに上がっていけるよ、という点を伝えていきたいと思っています。そういった機会をもっと増やしていきたいですね。

――具体的にはどんなことを子供たちに伝えていますか?

石田:技術面ももちろん教えますが、どういうふうにその練習に取り組むかというポイントがやはり一番大事で、練習を一生懸命やることだったり、「しっかり最後までパックを追いましょう」とか「笛が鳴るまでがむしゃらにやろう」だったりとか。地道ではありますが、そういうところがやはり成長のためには結局は大事なことなんです。プレイヤーとしてもそうですが「1人の人間として一生懸命に努力する」ことが成長するためには一番大事だよ、というメッセージを子どもたちには伝えています。

――石田選手は東洋大学を卒業してプロの世界に飛び込んでからも毎年着実にステップアップしている印象があります。改めて今季に向けて、自分自身に期待しているのはどんなところですか?

石田:やはりここまでアイスホッケー選手としてプレーしてきて、いろいろな憧れというものがあります。裕志朗さん(平野裕志朗選手)はじめ多くの日本人プレーヤーが挑戦してきたリーグ、そこに自分も立ってみんながどんな景色を見てきたのかを知りたいという思いが根底にあります。それにプラスして自分はディフェンスとして行くので、日本人のディフェンスプレーヤーに何が足りないのかという点を自分の身をもって経験することも重要だと思っています。日本のアイスホッケー界を良くするために、どんなことをしなければいけないか? を選手として感じて勉強できるシーズンになると思っています。そして最後には「日本人も世界で戦えるぞ」ということを証明したい。そこが今、アメリカでの挑戦に対して思っていることです。

――ECHLの上にはAHL、そしてNHLへの道がつながっている。その点については?

やはりやるからには上を目指したい。その気持ちは強く持っています。もしシーズン途中でコールアップ(昇格)をできるのであれば、もっと上のリーグにもどんどん挑戦したい。それが実現できるシーズンにしたいと思っています。

激戦を乗り越えて。挑戦のその先へ

石田選手が所属するブルーミントン・バイソンの今季開幕戦は現地10/18 午後7時(日本時間10/19 午前9時)にホームアリーナGrossinger Motors Arenaでフェイスオフされる。三浦優希選手がキャプテンを務める同地区のライバルチーム、アイオワ・ハートランダースに対して石田陸選手がどんな戦いを見せることになるのか、期待は高まる。今シーズンの激戦を乗り超えたとき、石田陸選手はどんな景色をアメリカで見ることになるのだろうか? その答えが聞ける日が来ることがいまから楽しみでならない。

(インタビュー日:8/23)

福岡での「氷刃の乱2025」で行われたホッケークリニックでの1コマ。石田選手はこの競技の普及・育成にも情熱を持って取り組んでいる

【石田陸選手プロフィール】
石田 陸(いしだ りく)  2000年4月27日生まれ。25歳。北海道釧路市出身。178㎝、90㎏。
ディフェンス。ライトハンド。
釧路・鳥取小から鳥取中、そして武修館高校と釧路で育ったプレーヤー。東洋大学に進学し最上級生の年には東洋大キャプテンとしてチームを率いた。日本代表としてはU-18 キャプテン、U-20 オルタネートキャプテンを経験、大学在学中にフルの日本代表に選出されている。大学卒業後はアジアリーグアイスホッケーの東北フリーブレイズに入団。4ゴール19アシストの成績を残した。昨季2024‐25シーズンから海外挑戦をスタートさせアルプスリーグ・HCメラーノ(イタリア)で5ゴール26アシストをマークしチームをプレーオフに導く。今季は北米ECHLのブルーミントン・バイソンに移籍しディフェンスプレイヤーとしてより一層の成長を誓う。

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