連載「岐路に立つ21年目のアジアリーグ」(4)
そしてアイスホッケーチームの歴史はまた1つ途絶えた

2/24の試合後、記者陣からの質問に答える北海道ワイルズの大津晃介キャプテン

取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集長・関谷智紀(ポタやん)

2024年2月24,25(土日)の両日、釧路アイスアリーナで北海道ワイルズvs横浜グリッツの交流戦2連戦が行われた。

今季公表されている各チームの日程のなかでは、この2連戦が釧路アイスアリーナでの最後の試合となった。すでに北海道ワイルズは、1/27の記者会見で発表のとおり東京への移転の意思を示している。この2連戦は日本製紙クレインズそしてひがし北海道クレインズの流れを汲むチームが釧路で試合を行うラストゲームということとなった。

1/27の会見についての記事はコチラ

試合内容については、24(土)は試合終了5秒前にグリッツに追いつかれるも延長でワイルズ米山幸希のシュートが炸裂し4-3で劇的な勝利。25(日)はすでに引退を発表している齊藤大知、矢野竜一朗の2人がともにゴールを決めるなど7-2で快勝。リンクに集まった釧路のファンの記憶に残るような試合を展開した。

延長ウィニングゴールを決めた米山選手に矢野選手が駆け寄る(2/24 ワイルズvsグリッツ交流戦)

公表されている北海道ワイルズの試合日程はあと2試合。3月9,10(土日)に新横浜で行われる横浜グリッツとの交流戦2連戦が「北海道ワイルズ」としての最後の試合ということとなる。

試合終了後、北海道ワイルズの岡本博司代表はファンに向けてマイクを握った。以下に、その内容をまとめる。

「釧路のみなさんには寂しい思いをさせてしまい、本当に申し訳なく思っている。
われわれ北海道ワイルズは、クレインズの給料未払い問題を受けて立ち上がり、釧路にトップチームを残すことができれば、と思い動いてきた。しかし交渉が難航したのはファンのみなさまもご存じの通り。そのため志をともにする仲間とともに『新しいチャレンジ』をしたいと思うようになった。まずは東京、横浜、名古屋、さらには滋賀、京都、大阪……大都市圏でのアイスホッケーの認知度を上げ、新しいファンとスポンサーを獲得する動きをしていきたいと思っている。その動きは着実に進んでいる。釧路で新しいチームが立ち上がるという情報もあり、そちらの方はまだまだ長期的なプランだとも聞いている。我々ワイルズも受け入れてもらえるならば新チームの設立に協力したいし、将来的には(移転後のワイルズと新チームの)選手が行き来できるような環境が作れたらなお良いと思っている」(岡本代表あいさつ)。

このあいさつを聞きながら記者は思った。「釧路のみなさんには寂しい思いをさせてしまい、本当に申し訳なく思っている」と謝るべき人物は岡本代表ではない。もっと別の人物ではないのか? それも複数、と。

釧路のファンや市民に謝るべき人物……ほんとうは誰?

そもそもクレインズが迷走するきっかけとなったのは、2018年秋に日本製紙が企業チームとしての存続を断念し2019年3月をもって廃部とする、と発表されたのが発端だ。直後、日本製紙クレインズ廃部のニュースは全道的な話題となった。その後ボランティアによる存続運動が盛り上がりを見せて存続を願う署名も10万筆を超えて集まり、クラブチーム・ひがし北海道クレインズとしてチームは延命することとなった。

しかしその後、ひがし北海道クレインズは経営難に陥る。取材によると日本製紙からの“支援”は廃部後2年の約束で続いていたそうだが、収入獲得の方策に関して有効な手立てを田中茂樹代表を筆頭とする当時のクレインズ経営陣は、その支援が止まる前に打ち出すことができなかった。

コロナによる影響で経営が苦しくなった、という言葉がこの頃のクレインズにはついて回るが、関係者に話を聞いて回るとコロナの影響だけではなく、スポンサーへの不誠実な説明など稚拙な運営判断による収入の減少、不透明な会計処理、箴言をするベテラン選手への不適切な対応、また手伝ってくれているボランティアを冷遇したことで生じた不信感……、そういった複数の要因が積み重なったことが経営難を招いたのではと考えられる。そういう状況のなか2021年シーズンから断続的に選手・スタッフへの給与未払いは続いていた。

そして昨春には給与不払いが続いて選手の生活面も限界に達し、旧クレインズの全選手がチームを飛び出して北海道ワイルズという新チームを立ち上げるとともに、クレインズの除名を求めた。さらに5月には選手申し立てによる未払い給与の支払いをもとめた債権者破産の申請を裁判所に申し立てするまでに至った。

その頃からすでにひがし北海道クレインズの田中茂樹代表はだんまりをきめこむどころかアジアリーグの武田芳明チェアマンですら「連絡が取れない」と嘆く事態となり、現在に至るまで会合へはスポンサー代表者を代理に立てるなどして雲隠れを続けている。およそ、社会的な責任のある地域スポーツチームのトップとしては言語道断の行為であると厳しく指摘したい。

2021年ごろにはクレインズの経営状況を劇的に改善する可能性の高い大型スポンサーが名乗りを上げたものの当時のチーム事情を理由に最終的には合意に至らなかった、という事実も取材のうえ弊メディアはつかんでいる。その経営判断のすえの結果が今回の一連の騒動の発端となった不払いの要因ともなり、現在に至るまで選手とクレインズファン、そしていま釧路からチームが去ることとなったワイルズのファンを悲しませる事態へと繋がっている。

記者は先日、テレビの取材を受け、VTRにコメントさせていただいたが、それは約30分にわたる取材のごくごく一部だ。今回はその取材に対してお話しした内容も含めて、こちらの記事でご紹介し読者のみなさまのご判断をいただきたいと思う。


チームや選手を助けず、「リーグのメンツ」を優先したアジアリーグ

2024年2月2日、都内某所にて記者がアジアリーグアイスホッケー武田チェアマンにインタビュー取材をお願いした。その直前1/27に北海道ワイルズによる東京移転発表の記者会見がありその内容を1/28に弊メディア・アイスプレスジャパンが報じ、1/30に栃木日光アイスバックスが「一部報道について」という文章を公式ホームページで発表した、という時系列は読者のみなさまにおかれても念頭においていただきたい。なお1月のうちにアイスバックス日置最高執行責任者(COO)にもインタビュー取材を申し入れたが、応じていただけていない。

その2/2のインタビューの席上で武田チェアマンは記者にこのように話した。

「2024-25シーズンのアジアリーグには、ワイルズを交流戦で現加盟の5チームと対戦させたい。ワイルズの岡本代表にはそのオファーをすでに出しており、3月には各スケートリンクの仮押さえも済ませなければならないので、2月中には回答をほしいとお願いしている」(武田チェアマン)

この発言に対して、即座に記者は武田チェアマンに対して反論した。

「それはおかしいではないですか? 東京移転が発表されてから交流戦で手を差し伸べると知ったらファンはどう思うか? 少なくとも昨夏にその決定をできていれば、ワイルズの選手も釧路のファンももっと試合の機会が増えて、もしかしたら釧路でチームが存続できる可能性を今季中に模索できたんじゃないですか?」と。

弊メディアの取材によると、実際には昨夏のアジアリーグがスタートする前にアジアリーグは釧路市の関係機関等を通じて、北海道ワイルズに交流戦参加の打診をかけていたことが判明している。

しかしそのオファー内容は、北海道ワイルズではなく釧路選抜としての参加ならばOK、ワイルズとしての露出はいっさい認めない、とするものだった。当時交渉の場に立ったワイルズ側の関係者は「ユニフォームを裏返しに着てくれれば試合に参加できる、といわれた。監督や選手とも参加を相談したが、ワイルズの名を出せないような扱いでは参加は到底無理だという結論になった」と記者に説明した。

さらには、昨夏に横浜グリッツがワイルズとの交流戦実施を発表した際には、横浜グリッツに対して「もし交流戦を実施するならアジアリーグは制裁処分をかける」、とリーグ側がプレッシャーをかけていたという関係者の証言も入手している。

昨夏にそのような形での交流戦オファーの事実があり不調に終わったことを情報として知っている記者にとっては、2/2に武田チェアマンの口から出た「2024年からは交流戦でリーグに参加してもらう」という言葉には心底驚いたし、このリーグのコンプライアンスはいったいどうなっているのか? と心から疑問に思った。

これらのやりとりを鑑みると”昨夏から(ワイルズもクレインズも)釧路のチームは結果としてどうなってもいい”とアジアリーグは判断していた、と思われても仕方がない。東京に移転することが決まったから手を差し伸べる……これは日本製紙クレインズ時代から応援している釧路のファンにとってはリーグによる裏切り行為に等しいと感じるのではないか、という思いに駆られた。

この件についてワイルズの岡本代表に、“2024-25シーズンから交流戦でワイルズをアジアリーグアイスホッケーに参加させたい”とのチェアマンからの打診があったかどうか確認したところ、岡本代表はそれを認めたうえで「現時点では参加の意思はない」と記者に話した。

2/27放送のテレビ取材に対して記者は上記の内容について説明するとともに「ちゃんとした(加盟への)ルールがはっきり決まっていないなか、どんどんその時の思惑だけで進んでしまって、それで事態が進展して時間だけが過ぎていった」「ものごとを隠れて進めている。はっきりした形でオープンにして議論していなかったのは大問題」という放送で使われた発言をさせていただいた。

多くのファンが駆けつけた釧路での最後の2連戦。選手たちの姿をまたこの地で見られる日が来てほしいと願う

「釧路を出るしかない」という状況に追い込まれた、北海道ワイルズ。
あまりに不可解なアジアリーグの対応。早急な改善しか活路はない

ほぼすべての物事について、ファンはうかがい知ることなく、ごにょごにょと水面下で決まっていくアジアリーグアイスホッケー。

たとえば昨年に弊メディアが提案した、選手登録期限である12/31付けでの登録選手を公表しては? との件についても「その必要は無いと考えている」とチェアマンは答えただけだった。

ファンの要望に耳を傾けずに物事を進めていってしまうこの“村社会”的なアジアリーグの体質は早急に改善しなければならないことは明白だ。こんな体質では、コンプライアンスを重視する企業スポンサーにとっては危なっかしくて支援できない、と判断されるのは当然のことだからだ。

2/2の武田チェアマンへのインタビューでは、「リーグによるスポンサー獲得の動きはまだめどが立っていないこと」、「アジアリーグの法人化についても当分の間は難しいだろう」という見解を得ている。つまり、アジアリーグ側の取り組みはこの1年間ほとんど実を結んでいない、と記者は理解した。スポンサーがなかなか付かない、とチェアマンは嘆くが、その理由の1つとして、“あまりにリーグの運営機構が不透明で法人化すらなされておらず、大企業が支援するにはリスクが高い”ことも大きな要因ではないのだろうか。

ワイルズがアジアリーグ参加申請をせず東京への移転を決断した背景には、アジアリーグがことに移動費と宿泊費による経費がかかるリーグであることが経営を大きく困難にさせているという要因もある。それでいて、リーグによる独自財源の確保はなかなか進んでいない。

早急にアジアリーグ側が改善策を打たなければ早晩、どのチームも経営が苦しくなるのは目に見えている。この「アジアリーグという赤字覚悟の壮大なチキンレース」から撤退という判断をするチームがいつワイルズの次に出てきてもおかしくはないのだ。

(中)につづく

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