2つのデュアルキャリア…横浜グリッツが見せた「プロリーグでの経験」

接戦の予想を覆し横浜グリッツが圧倒した試合となった

取材・文・写真/今井豊蔵

第90回全日本選手権1回戦
横浜グリッツ11(4-0、3-1、4-3) 4 ダイナックス

大学生からアジアリーグまで、ジャンルを超えての一発勝負で日本一を争うアイスホッケーの全日本選手権が15日、長野市のビッグハットで開幕した。1998年の長野五輪が行われた舞台で、1回戦から注目の対決があった。

アジアリーグを戦う横浜グリッツと、北海道の社会人リーグで戦うダイナックスの共通点は、選手がフルタイムで仕事をこなしつつ、アイスホッケーにも取り組んでいるところ。

いわば両チームとも、グリッツの言葉を借りれば「デュアルキャリア」を実践しているのだ。近年、高い能力を持つ学生にもプロ選手となるのをためらうケースが増えている。この2チームは、働きながらも高いレベルでホッケーを続けたいという選手に場を与え、ホッケー界のこれ以上の衰退を食い止めているのだ。

仕事をしながらプレーという共通点も、結果は大差

プロ参戦3年目の新興チームと、道内社会人の雄。
試合前には接戦になるのではという予想もある中、ゲームは意外な展開となった。立ち上がりからペースを握ったのはグリッツ。パックを自在にコントロールし、ダイナックス陣内へと攻め込む。第1ピリオド4分7秒にFW氏橋祐太のゴールで先制すると、得点を重ねた。終わってみればシュート数もグリッツの53本に対してダイナックスは23本。プロリーグで培ったスピードとスキルは圧倒的だった。

グリッツの2点目となる得点をあげた杉本

グリッツの浅沼芳征監督は「得点は入ったんですけど、失点も多かった。第3ピリオドはタイゲームに持ち込まれてしまいましたし…。もう少しシュートチャンスはあったし、決められたかな」と反省点を口にしたものの、この大会での優勝という目標に前進したことにはホッとした様子を見せる。
アジアリーグでは我慢を強いられる試合も多い中、真逆の展開。「パックを持てるからといって戦い方を変えてはいけない。試合前には『目指しているプレーの精度を上げていこう』と話しました」と、次のクレインズ戦を見据えながら結果を出した。

ルーキーながら第1セットのFWで起用される杉本華唯は、第1ピリオド6分28秒に待望の全日本選手権初ゴールを奪った。杉本は早大1年時にこの大会へ出られるチャンスがあったものの、U-20世界選手権を優先したために出場できなかった。アジアリーグを戦って1年目、疲労も徐々に蓄積しているというが「一瞬の判断の速さや、視野が広がっていろんな世界が見えるようになった」という変化を感じている。より高いレベルで磨かれた結果だ。

DYNAXの次なる目標は全日本(B)制覇。この試合が進化へのきっかけとなるか

ダイナックスのDF・大場大主将は「グリッツも仕事を持ってプレーしている中で、あれだけタフなホッケーをできているのは勉強になった」。2得点し気を吐いたルーキーFWの矢島翔吾も「こんな大量失点は久々。パックに対する執着心や、ルーズパックへの反応の速さは見習わないといけない。グリッツは自分達のホッケーを貫いていた」と、違いとその背景を感じた様子。全選手が揃っての練習は「今季1回あったかどうか」という状況下で、全員を襲った衝撃が、進化への大きな力となる。

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