“勝負の2シーズン目“。得点力を磨き上げ、ゴール量産でチームを優勝に導く
~HLアニャン・榛澤力選手インタビュー

取材・文・写真/今井豊蔵、アイスプレスジャパン編集部 取材協力/OVERBAY
アジアリーグでの2年目は「とにかくゴールを挙げ、結果を残す覚悟」
いよいよアジアリーグ3連覇中(※α)のチャンピオンチームが今季開幕を迎える。HLアニャンは9/20(土)から日光を舞台に栃木日光アイスバックスとのアウエーゲームでアジアリーグアイスホッケー2025-26のシーズンに臨む。
昨季からHLアニャンに加入した榛澤力選手にとって、チームにも慣れ、より力を発揮できる新シーズンがやってきた。スケーティングの速さに加え正確なシュートを武器とした高い得点能力は日本代表でのプレーぶりでも折り紙付き。今季はアジアリーグという舞台でチームを4連覇に導く原動力となるべく、アニャンでチームメイトと切磋琢磨の日々を送っている。新シーズンを前にして榛澤力選手にインタビューし、今季への意気込みをたっぷりと聞いた。
――HLアニャンとしての開幕が迫ってきました。今の気持ちというか、新しいアジアリーグのシーズンに向けての思いから聞かせてください
榛澤力選手(以下、榛澤と表記):僕が加入して1年目で優勝できたので、今年も優勝して連覇を続けたいという気持ちは強いです。おととしまで自分自身でもレギュラーシーズン優勝とかプレーオフ優勝といったことは経験したことがなくて……。昨季は優勝争いをHLアニャンで経験して、氷に乗っているときもものすごい緊張感があったし『なんかこういう気持ちになるんだな』とか選手として様々な感情を噛みしめることができた時間でした。そういう気持ちをもう1回経験したい。それはチームメイト全員がそう感じていると思いますが、今年も優勝をつかむ、そのために毎試合毎試合勝つということが大事になるところだと思っています。
――優勝を経験したことで選手としてまた視野が広がった?
榛澤:はい。そのためには、昨季よりも少しずつでも良いから僕の存在がチームを助けるようなプレーを見せたい。そういうプレーを1試合でも1シフトでも多くできたら、という気持ちがあります。
――プレーオフに勝った瞬間っていうのは、どんな気持ちでしたか?
榛澤:優勝したときはとにかく嬉しかったですね。素直に。レギュラーリーグの後半戦にチームとしてもうまくいかない時期があったりして……。そういうのも含めてみんなでいろんな変化を試しながら勝てるようにと試行錯誤してきたことが最後は結果になって実った、ということももの凄く嬉しかったですね。
↑榛澤選手は移籍初年度でアジアリーグ制覇を果たした
「攻撃の状況でどうプレーすべきかを掴んだ」ゴールを積極的に狙う
大津夕聖選手、竹谷莉央人選手と共にHLアニャンに助っ人として加入し1年目で優勝に貢献した榛澤力選手。その経験は彼自身に大きな自信もたらしたと我々は想像しているが、そのうえで榛澤選手はまだまだ上の世界を見ている。今季は攻撃の中心としてHLアニャンを引っ張るという決意を口にした。その理由には彼なりに1年目のアジアリーグで感じた思いがあった。
――昨季途中のIPJの記事で「アジアリーグは想像していたよりもフィジカルでのぶつかり合いもありハードなリーグだった」という榛澤選手の感想がありました
榛澤:日本代表で集合したときに、スキルとかスピードといった日本人選手の特長があることは分かっていたんですけれども、綺麗なホッケーを志向する選手もいる反面、フィジカルにプレーする選手もいて、そのあたりがミックスされたリーグなんだと感じていました。
――そんなアジアリーグで1年間戦い抜いたことで選手として成長した部分や掴んだ部分はありますか?
榛澤:とにかくチームのためにプレーすること、足を引っ張らないという表現が適切かどうかは分かりませんがそのチームを勝たせるためにプレーすることを学びました。日本代表のときはそういう気持ちになることが多いんですけれども、クラブチームでもそういう気持ちでプレーできたのは今後のために良い経験ができたと感じています。でも、良かったと思う反面、ちょっと悔しい気持ちというかそういう部分もあります。
――悔しい気持ち? それはどうして?
榛澤:怪我もあって1ヶ月半ぐらい試合に出られないときがあり、復帰後も調子がなかなか戻らなかったことがありました。シーズン当初に考えていたポイントというか数字の部分でもあまり満足いくところもなくて、結局プレーオフでも試合を決定づけるプレーを見せることができたわけでもなかった。そこが心残りというか……その悔しさというものをやはり新シーズンにぶつけたいところはあります。
――今季こそ、と巻き返したい思いが強い?
榛澤:はい。なので先ほど「何か掴んだか」と質問された部分にはまだ答えられない部分もあって。今シーズンのパフォーマンスも含めてそのあたりが見えてくるのかもしれないと思っています。HLアニャンではパワープレーや延長での3人対3人のシチュエーションでも起用してもらえているので、オフェンスの感覚というか、そういう状況でプレーして攻め込むという感覚は少しずつ戻ってきている気がします。大学(アメリカNCAA・サクレッドハート大)でプレーした最後の2年間は下位のシフトだったので守備的なプレーが重視され、ターンオーバーされて大ピンチとなったプレーをした次のシフトでは起用されないなんてこともあった。なので自分の持ち味である攻撃で勝負していく、という感覚から少し変わっていたのかも知れません。でもこのごろ、パワープレーなど攻撃重視のシチュエーションでどうプレーすべきかをつかんだ手応えがあって。僕は本来オフェンスの選手だと思うので、今シーズンは積極的にリスクを背負ってでも相手のディフェンスやGKと勝負していきます。
――今季は「攻めの榛澤」ですね
榛澤:失敗して失点してもすぐに自分が取り返してさらに勢いをつけられたら文句は言われない、というかそういったプレーをチームに期待されている位置にいると感じています。なので、チームからの期待にしっかりと応えたいと決意しています。
アジアリーグで取り戻した得点感覚が日本代表をも覚醒させる
榛澤力選手は日本代表でも主力として活躍している。フル代表デビューとなった2022-23シーズン、エストニアでの世界選手権ディビジョンI-Bでは当時ともに大学生だった中島照人(レッドイーグルス北海道)とラインを組んで得点を量産。若手コンビの活躍が日本をI-A昇格に導いた。昨年8月に行われた五輪最終予選でもノルウェーやデンマークといった強豪相手に日本の得点をひきだす起点となった。今季HLアニャンで榛澤力選手が得点力をさらに磨きあげること、それは日本代表の強化にも直結するはずだ。

――日本代表についてもぜひ質問させてください。日本代表も来年5月にトップディビジョン昇格を懸けた世界選手権ディビジョンI-Aの戦いがあります。昨季HLアニャンに入団したことで、代表に役立つこと、代表と繋がっているような部分はありますか?
榛澤:やはり大学在学中に代表へ参加していたときと比べてオフェンスへの意識をより強く持てている、とは今年4月の世界選手権ディビジョンI-Aでも感じていました。オフェンス面では代表でもより自分らしくプレーできるようになっている。そこは良いことだと思っていますし、さらにプラスしてチームのためにフォアチェックやバックチェックといったプレーで貢献するというのは代表の場所に立ったからこそできることで、そこも磨くことができています。
――今季のアジアリーグで得点力をさらに伸ばすことで代表にも貢献できる
榛澤:得点が少し足りなくて勝てない試合が前回大会は多かったので、そこを勝利にできるようもっと爆発的な力で得点を奪えるような選手になりたい、と常に意識しています。そこが2年前とは違う点です。
――日本代表クラスの選手とアジアリーグで対戦することで掴めることもあるんですか?
榛澤:年上ばかりですし考えすぎて気を使うことになってもあれなので、氷に乗れば自分のプレーに集中するようにしていますが、ベンチから相手チームのプレーを見ているとやはり代表クラスの選手はコンスタントに活躍できているし、攻撃センスが高いというかオフェンスの上手な選手が揃っているので、そういう部分はしっかりと見て勉強になる部分が多いです。自分でも同じようにプレーできるように吸収できるところは吸収し学んでいきたいと思っています。
榛澤、大津、竹谷……日本人コンビの力でより高みを目指す

HLアニャンには大津夕聖選手と竹谷莉央人選手が所属している。榛澤選手含め3人揃ってHLアニャンでの2シーズン目を迎えるが、海外挑戦を始めて以来「これまでチームに日本人がいなかった」という榛澤力選手にとって、日本人選手とともにHLアニャンで戦うという経験は何をもたらしているのだろうか? スウェーデン、アメリカとプレーした後にアジアで戦うということで文化圏も違ってくる。そういう点も含めて榛澤力選手にとって韓国で戦うということは大きな意味を持つようだ。
――チームメイトに日本人がいることでなにか変わった部分はありますか?
榛澤:とても頼りになりますね、そのあたりは。普段から日本語をしゃべれる人がいて日本語が聞こえるというのは大きいです。僕が監督の話す英語などを翻訳して2人に伝えることもありますが、そこは助け合いですし、気持ちの上でも(大津)夕聖さんや(竹谷)莉央人がいることでホッケーをやっているときなどでも大きかったので、お互いに高め合いながらここ韓国でプレーできているのは良いなと思っています。
――韓国の選手とは英語でコミュニケーション?
榛澤:基本はそうです。僕も韓国語を勉強したいとは思っていますが、まだそのレベルまでは行けていないので。韓国のチームメイトや街の人とももっとコミュニケーションが取れるようになれたら良いな、とは思っています。
――韓国での生活はだいぶ慣れましたか?
榛澤:はい。ランチはチームが食券を用意してくれるので、リンク近くの提携している食堂やレストランで食べることが多いです。夕食は基本自炊していますが、たまにチームメイトと食事に行くこともあります。リンクの周辺は焼肉もサムギョプサルもあるしキムチチゲ、参鶏湯……韓国料理の店はいっぱいあるので。辛すぎるのは流石に苦手ですが、キムチチゲくらいの辛さならもう問題ないです。
――ちなみに榛澤選手チョイスでアニャンに来たらこれがオススメ、ってありますか?
榛澤:やっぱりサムギョプサル(※β)はぜひこちらで食べて欲しいメニューの1つですね。美味しいですよ。
――アニャンでトレーニング中だと思いますが、調子の方はいかがですか?
榛澤:結構ハードに練習して良い準備ができていると思います。氷上練習は12時からなのですが、その前には9時半に集合して、ラダーを使ったメニューとか色々と陸上でのトレーニングをしています。それにウェイトトレーニングは月火木金とありますし、氷上練習を終えたあとにもランニングする時間があるなど結構詰め込まれてる感じですね。練習にはチームメイトもしっかりとコンディションを整えて参加しているので、やはり優勝しているチームというか意識面も高いものがあります。
――HLアニャンで1年戦って良かったと感じている部分は?
榛澤:ホッケーでも人間的な部分でも、新しい選手に出会えた、という点は大きかったです。日本人なら日本代表で関わっているので人となりは分かるのですが、韓国人選手は代表でも試合をする相手としてでしかこれまで接触がなかった。でも、HLアニャンに入って、例えばベテランのキム・サンウクさんが日頃どういうトレーニングをジムで行っているのか、とかピョンチャンでオリンピックに出場した世代の人たちのトレーニングの仕方など、そういうのも見ることができたり。韓国のスター選手だったキム・ギソンコーチはじめ、そういうスタッフとも新しく出会えたこともすごい大きなことだったと思います。韓国のホッケースタイルはこれまで戦ってきたヨーロッパや北米とは少し違うような感じもあって、そういう文化がもたらす違いなどにも触れられている。最終的には成長のために自分自身がどう吸収できるかが大事だとは思うのですが、プレーする環境としてこれらのことをアニャンで経験できているのは、とても自分にとって良いことだと感じています。
韓国での経験、アジアリーグでの戦いを糧により“成長の1年”に
日本と韓国、それぞれの代表選手との邂逅を得て、榛澤力選手はホッケー選手としての才能をより高みへと伸ばしていこうとしている。そして今シーズンは、その攻撃力でチームに勝利を、自身には成長をもたらす良き1年にすることを誓ってくれた。
――HLアニャンの監督はNHL経験もあるペク・ジソン氏。名将でもあると思いますが1年間、監督のもとで戦ってみていかがでしたか?
榛澤:システム(戦術)面では「こんな戦術があるんだ」といった驚きがあるとかそういう部分ですごい長じていたりするか、というとそうではないのですが……。1人の人間として選手との関わりをもの凄く大事にしてくれるような、何か愛情を感じるというか、そういう監督で。だからこそみんな「監督のためにプレーしたい」という気持ちになるような、そんな所がありますね。だからこそ選手はみなハードワークをもの凄くしますし、氷上でもシュートブロックとか気持ちの入ったプレーに繋がる。
――なるほど。それがある意味HLアニャンの強さのポイントかもしれませんね
榛澤:監督は「ファミリー」という言葉をすごい使ってくれて、チームメイトはもちろんコーチ陣もその言葉を受けて本当にガッチリとまとまっています。そういうところはHLアニャンのとても良い所だと感じています。
――榛澤選手自身、監督の示す戦術に対する理解は進みましたか?
榛澤:監督とは英語でコミュニケーションができるので、1シーズンをプレーしてそのあたりもかなり良くなっています。どんな形でも点数を取ってチームを勝たせる、また大事な場面で頼ってもらえる選手になりたい、とは常に思っています。個人的には攻撃力を上げてゴールもアシストも増やしていきたい。そしてその結果として優勝に貢献する、というのが今かかげているNo.1の目標です。
――そんなHLアニャンで戦う2シーズン目、楽しみですね?
榛澤:はい。開幕からは2週間後に僕たちHLアニャンは初戦なんですけれども、やっぱり楽しみというかもうワクワクしています。「どういうシーズンになるかな」とか「活躍したいな」とか色々なことを考えながら、この夏は良い準備を積み重ねて過ごすことができたので。たくさんトレーニングもしてきましたし、自分のできることをたくさん考えて整理することもできました。新シーズンはその積み重ねてきたことを信じて、さらに成長できる1年にしたいと思っています。
今季こそ、と意気込む榛澤選手の目は輝きにあふれていた。最後に日本のファンに向けてのメッセージを聞いたところ「今シーズンも昨季と変わらず応援してくれたら嬉しいです。1点でも多くゴールを見らせれるように、そして昨季より活躍している姿を見せられたら、という思いでプレーしていくので、ぜひ応援よろしく御願いします」と笑顔で話してくれた榛澤力選手。
2001年生まれでまだ24歳と伸び盛り。今シーズンもそのプレーでアイスホッケーファンに新鮮な驚きと感動を届けてくれることは間違いないだろう。9/20からのアイスバックスとの3試合でどんなプレーを見せてくれるか、注目すべき存在だ。
(インタビュー日 8月24日)

【榛澤力選手プロフィール】
榛澤 力(はんざわ ちから)。2001年7月12日生。北海道清水町出身。166cm、72kg。
フォワード。ライトハンド。
北海道十勝、御影小でアイスホッケーを始め御影中、清水高に進学し同校2年生の途中で海外挑戦をスタート。スウェーデンのファールンU18から北米に渡りUSHLトリシティ・ストーム、NAHLミネソタ・ワイルダーネス、NCDCサウスショア・キングスを経てNCAAサクレッドハート大にてプレー。2024-25シーズンよりアジアリーグ・HLアニャンに移籍して6ゴール8アシストの成績をマークし優勝に貢献した。日本代表にはU-18、U-20に選ばれた後2023年にフル代表デビュー。以来3連続で世界選手権に出場している。
(※α)HLアニャンはコロナ禍でアジアリーグが中断しジャパンカップとなった2季をまたぐと4連覇中。中断直前の2019-20シーズンはコロナ禍のためプレーオフが途中終了となりHLアニャン、サハリンの同時優勝となっている。
(※β)サムギョプサル=厚切りの豚バラ肉をカリッと焼いた料理。サンチュという葉物でキムチなどとともに豚肉を巻いて食べる