全日本選手権を制した東北フリーブレイズ 大久保智仁監督が語った「一発勝負に強いわけ」

優勝の喜びを選手と分かち合う、フリーブレイズ大久保智仁監督

第90回全日本選手権 決勝
東北フリーブレイズ 4(3−1、0−1、0−1、OT0−0、PSS1−0) 3 ひがし北海道クレインズ

取材・文/今井豊蔵 写真/アイスプレスジャパン編集部

プロから学生まで、トーナメント形式で男子アイスホッケーの日本一を決める全日本選手権が、12月15日から18日まで長野市のビッグハットで行われ、東北フリーブレイズが2017年以来5度目の優勝を果たした。ひがし北海道クレインズ との決勝は延長でも決着がつかず、PS戦に持ち込まれる激闘に。45歳のGK橋本三千雄がゴールを守り抜き、2009年にチームがアジアリーグに加盟した当時を知るFW山本和輝主将が、PS戦で勝負を決める得点を挙げるという劇的な展開だった。

ベテランが率先してブロックショットに行く姿勢が若手に良い影響を与えている

アジアリーグで勝率2割のチームが頂点へ。勝利を引き寄せた「気持ちの持ち方」

フリーブレイズは今季、アジアリーグでは成績を伸ばせずに苦しんでいる。ここまで5勝19敗、勝率.208で6チーム中5位だ。ただこの大会ではこれで4年連続の決勝進出。アジアリーグで4勝32敗の最下位に沈んだ2019−20シーズンも、日光アイスバックスに優勝こそさらわれたものの、決勝までたどり着いている。短期決戦での強さが、もはやチームカラーとなっている感まである。

チームを率いるのは、2020年に2代目の指揮官となって3季目を迎える大久保智仁監督。ここぞで勝ちを引き寄せられるわけを聞くと、明快な言葉が返ってきた。

「きれいなホッケー だけをやっていても勝てません。精度を高めることは大切ですが、それだけでは勝てないんです。よく選手には言うんですが『技術は急に変わらない。でも気持ちの持ち方はすぐにでも変わる』ということです。気持ちをコントロールするレベルを上げないと」

どういうことか。アイスホッケーは恐怖と戦うスポーツでもある。硬いパックはシュートともなれば、150キロを超えるスピードで飛び交う。選手はそこに身を挺して向かっていかなければならない。相手選手へのチェックもそうだ。スピードに乗った選手を、体を張って止めないといけない。スケーターが体を投げ出してシュートを止める「ブロックショット」をできるのは、チームで勝つという気持ちが恐怖より前に出た時だ。その積み重ねが結果につながるのだ。

リーグ戦で勝つためには精度向上が不可欠。若手の伸びを実感も「もっともっと成長してほしい」

現役時代、大久保監督は視野の広いDFだった。そしてデビューした日本リーグの西武鉄道や、韓国に渡って加入したハイワンは、プレーの「熱さ」が売りのチームでもあった。

フリーブレイズも、そんな色を帯びたチームだ。今季は主将を務めるFW山本和輝は36歳。チームの良い時も悪い時も見てきた「ミスター」も、一発勝負のこの大会に臨むにあたり「一人一人が100%やり切らないと勝てない。そのために調子が悪い時でも、先頭に立ってやりたいと思っています」とハートの重要性を話していた。そして続ける。「チームを強くして引退したいので」。

ミスターフリーブレイズ、山本和輝キャプテン(写真右)。PS戦の最後は彼が決め優勝をたぐり寄せた

今後、戦いはアジアリーグの場に戻る。こちらでは安定して結果を残すため、プレーの精度を上げていかなくてはならない。昨年、ジャパンカップの後期を制したチームからFW人里茂樹がポーランドリーグに移籍し、DFシモン・デニーは北米ECHLに戻った。日本代表2人を欠いての戦いが楽なわけがない。その中でも上昇の気配はあるという。10月8日には1−10で大敗したレッドイーグルスから、11月末には白星を挙げた。パワープレーでも我慢して若手を起用してきた取り組みが、身を結びつつあるという。

大久保監督は若手の動きに「アイスタイムを得て、成長しているかなというところはありますね」と目を細め、変化は氷から下りたときにも見えるという。「若手だけでトレーニングしている姿を見るようになりました。きついところを、お互いにプッシュしながらやっている」。ただ、クギを刺すことも忘れない。「うちのベテラン勢に比べたら、全然足りませんけどね。いいベテランがうちにはいる。もっともっと成長してほしいです」。

篠原亨太選手(写真手前)

全日本選手権でMVPに輝いた橋本は、2001年に廃部となった雪印アイスホッケー部でトップリーグ選手としてのキャリアを始めた。他にもFW小原大輔が41歳、FW佐藤翔が39歳、コーチ兼任でもあるFW篠原亨太は38歳。この世界で戦い続けてきた猛者が揃う。動く教科書が健在のうちに、その壁を越えていく選手が現れるのを待っている。

写真左から佐藤翔選手、若林クリスGM、小原大輔選手。ベテランの力が全日本制覇に大きく貢献した

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