竹谷莉央人と榛澤力、24歳の2人がHLアニャンで得たもの
新横浜“連勝劇”の裏に韓国との学び合い

取材・文・/今井豊蔵 写真/今井豊蔵、編集部
12月6、7日に新横浜で行われた横浜グリッツとHLアニャンの2連戦は、4-3、5-1でアニャンが連勝した。昨季、新横浜でのこのカードに4戦全敗したアニャンは、二度同じ轍を踏むことはなかった。この連勝に貢献したのが、異国のチームで挑戦を続ける24歳の日本人選手、DF竹谷莉央人とFW榛澤力だ。まもなく30歳になるDF大津夕聖も含め、3人もの日本人選手を抱えるのはチーム史上初めて。彼らは3連覇中のチームで、どんな役割を果たしているのか。
昨季は4戦全敗の新横浜、流れを変えた竹谷の飛び込み

6日の第1戦はもつれた。グリッツが第1ピリオド8分52秒にラウターのゴールで先制すると、アニャンはすぐにFWキム・ゴンウ、FWアン・ジンフィと立て続けにゴールを決め2-1と逆転した。第2ピリオドにグリッツはDF三浦大輝、DF松金健太のゴールで再逆転。そのまま第3ピリオドに入り、残り8分というところからもう一度試合を動かしたのが竹谷だった。
同い年のFWぺ・サンホとともに敵陣に入った竹谷はパスを受けてゴール前へ。必死に止めに来たグリッツ選手に絡まれ、身体ごとゴールに飛び込んだ。そしてキープしていたパックもスルスルとラインを超えた。ビデオゴールジャッジによる協議の後ゴールが認められ、3-3の同点に。その後18分18秒にFWシン・サンフンが決勝ゴールを決め、アニャンが接戦をものにした。
同点劇を振り返り「何か微妙な感じでしたけどね。チャンスだと思ったので体が動きました」と苦笑いの竹谷。ゴールへ向かっていく姿勢が貴重な1点をを生んだ。「今季初ゴールだったので、やっぱりホッとはしました。あとチームに流れを引き寄せるゴールになったのは良かったと思います」と笑顔を見せる。
昨季、アニャンは9人ものDFを登録していた。それが今季開幕時は6人だけ。明大を出て2年目の竹谷もシフトは多い。ただ「上のラインの選手は信頼がすごい。自分は後半になると出番が減ることもあって……」と、違いを感じさせられる日々でもあるという。11月末からは、軍服務を終えたDFソン・ヒョンチョルがチームに復帰した。平昌五輪の代表でもあった選手はお手本であり、ライバルでもある。
「いい環境でホッケーできているのは確かですし、突き詰めることもできる」。チームには様々なタイプのDFがおり、身長175センチと決して大きくない竹谷は「スマートにやらないといけないんです」という。当たりに行く角度、タイミングを突き詰めないと相手を止め、パックを奪うことはできない。ソン・ヒョンチョルもそんな学びを竹谷に与えてくれる選手だ。新横浜での前日練習では、テクニックのあるFWカン・ユンソクと1対1での練習を繰り返した。見て学び、当たって学ぶ。アジアのトップに立つ選手たちの技術を盗める環境にある。
竹谷は明大を卒業した昨春、不完全燃焼の思いから入団テストを受けてまでHLアニャンの門を叩いた。悩んだ末に持っていた就職内定を捨て、ホッケーを続ける道を選んだ。2年前の選択を、今どう感じているのか。
「もちろん良かったですよ。同世代はもう就職しています。このままずっとホッケーを続けたら……というのは不安でもありますけど、アジアリーグで一番のチームでやらせてもらえている。勝たないといけないチームでもまれる環境は望んだことですし、できればずっとこのチームで続けたいと思っています」
榛澤は初のハットトリック……韓国のテクニシャンからの教え
そして7日の第2戦。ハットトリックの大活躍を見せたのは竹谷と同じく2年目の日本人FW榛澤だった。1-1の同点で迎えた第2ピリオド15分34秒、パワープレーが終わる寸前に勝ち越しゴールを決めると、その後も第3ピリオド5分30秒にリードを広げる3点目。更に試合終了直前にはエンプティゴールまで決めてみせた。
「昨日は苦しい展開でしたけど、今日はみんなハードワークして、開始からずっと自分たちのペースでできたのは良かった」。ハットトリックはアジアリーグ入りしてから初めて。「もちろんうれしいんですけど、これまで中々決められないときもあったりしたので。今日1日で終わらないように」と気を引き締める。
昨年、新横浜で1勝もできなかったのは頭にあった。原因を考えた時に思い当たったのは、グリッツを率いる岩本裕司監督の存在だ。榛澤は日本代表として、岩本監督の下でプレーしたことがある。「代表でやっていたことを、今のグリッツにもうまく伝えているんじゃないですかね。(グリッツの)Dゾーンにいる時間が長いのに中々決まらない感じがあるのは」と理由を分析する。
3点目のゴールは、FWカン・ミンワンがゴールに向けて打ったパックを、ワンタッチで角度を変えてのもの。GKに近いところでいかに素早く、小さくパックを動かすかは日々テーマにしている部分だ。今季は絶好のお手本がチームに帰ってきた。昨季開幕直後に米国へ渡ってECHLでプレー、その後ポーランドリーグに移っていたFWシン・サンフンだ。
22-23シーズンには、ECHLのアトランタで70試合に出場し、30ゴールを決めたこともある実力者。身長が170センチで、167センチの榛澤と体格が近い。練習ではコンビを組み、シュートの打ち方を叩きこまれている。
「僕が目標としていたリーグで活躍していた選手じゃないですか。ゴール前のプレーがうまいですし、僕ら小さな選手は大きな選手とやると中々パックをキープできない。持つ時間が少ない中で決めたり、チップしたり。サンフンさんが教えてくれる技術を、引き出しの一つにできればと思っています」

榛澤は昨季、ケガで戦列を離れた期間もあり、24試合出場で6ゴール8アシストに終わった。アジアリーグ2年目を迎えるにあたり、70キロ前後だった体重を75キロまで増やしてシーズンを迎えた。スピードが売り物の選手として、新たなチャレンジだった。
「最初は重いなあとも思ったんですけど、やっぱりバトルの時とか全然違います。慣れてきた感じがありますよ」
若い日本人が最強アニャンに持ち込んだもの……イ・ドンクの声

2人がプレーするHLアニャンは、選手が大きく入れ替わる過渡期を迎えている。2018年の平昌五輪からまもなく8年。五輪に向けて強化された選手たちが続々に現役を退き、それでも勝ち続けなければならないという難しい命題を抱えている。
その中で2人の存在は、チームに何を与えているのだろうか。韓国人最多となるアジアリーグ465試合出場のベテランDFイ・ドンクは「僕たちのチームには長い歴史があるので、何かがガラッと変わるわけではないですよ」と前置きしたうえで、こう語る。
「リオトもチカラもうまく韓国に適応して、一生懸命頑張っているのを同世代の若手が意識しているようです。まだ2年目の選手です。うまく適応していることだけでも、すごくよくやっていると思うんです。韓国に来て生活するだけでも困難があるでしょうし、このチームでポジションをつかむことも簡単ではありません」
「特にDFは韓国と日本でスタイルが異なるので、韓国の選手と一緒に成長していると感じています。リオトは特にスケーティング能力が高い。軽くうまく滑れるのを韓国の選手は見るでしょうし、リオトが韓国の選手を見た時にも、間違いく良い点があるでしょう。僕たちがなぜ、アジアリーグの強豪でいられるのか、どうすればそこにずっといられるのかと考えること自体が学びになるでしょうし」
そして、戦力として計算されている大津は、もっとはっきりとチームに注入したものがあるという。「韓国では実際、ユウセイのように『ファイト!』と声で鼓舞するようなリーダータイプの選手が多くないんです」と、声で体でチームを引っ張る姿そのものが貴重なのだ。
「僕もそういうスタイルですが、チームに与えるエネルギーという部分で、本当に一生懸命やってくれる。言葉が通じなくても、行動で示そうと努力している姿を、これから韓国でリーダーになるべき選手たちにはよく見ておいてほしいと、先輩として思っています」
HLアニャンが大いなる実験を始めて2年目。3人の日本人選手は韓国の選手とお互いに学び、与えあってチーム文化の1ページをつくっている。チームが完成に至っていない現在もリーグ2位。今季もアジアの頂点を争うことになるのは間違いなさそうだ。