東京ワイルズが試合開始から圧倒。
ついに北京京獅(北京ライオンズ)の快進撃をストップ
取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部
アイスホッケーIJリーグ 2024イノーギュラルシーズン 第9戦
8月17日(土)19:00試合開始 @名古屋・邦和みなとスポーツ&カルチャー 観衆:340人
東京ワイルズ 5(2-0、2-0、1-1)1 北京京獅(北京ライオンズ) ※東京ワイルズホームゲーム
ゴール:【東京】寺尾x2、上野、木綿、越後 【北京】ジャン・ポンフェイ
GK:【東京】磯部 【北京】スウン・ザハウ
2024年6月に開幕したIJリーグはおよそ1カ月のブレイクを経て第2フェイズに突入。
第2フェイズのスタートは東京ワイルズvs北京ライオンズの2連戦が組まれた。
ここまで8試合を戦ってきたIJリーグだが、勝敗を見ると北京ライオンズ(北京京獅)が無敗をキープし頭一つ抜けている状態。東京ワイルズはライオンズに対して互角の戦いを見せるも勝ちきるまでは至らず、名古屋オルクスがさらにそれを追う形で第1フェーズを終えた。
中国の国家代表クラスの選手を多く擁する北京に対してここまでは土をつけるチームはおらず、日本勢2チームがブレイク期間にどう修正して巻き返せるか? がポイントだったが、この第2フェイズ、東京ワイルズがほぼ満点回答となる試合を繰り広げ、ファンの期待にしっかり応えた。
「北京対策」をしっかり練り上げたワイルズが秒殺先制
フェイスオフ直後に一気に相手陣内へ攻め込んだのはワイルズだった。観客席のファンも「何が起こったの?」と目を白黒させるような電光石火の先制ゴールが開始わずか43秒で生まれる。
ワイルズのディフェンディングゾーンでパックを奪った青山晃大がパスを右のサイドボードに当てて前に出すと池田一騎がそのパスに反応してDFのマークを一気に引き剥がす。そして左サイドを駆け上がった寺尾裕道も攻撃に加わりGKと2対1の状況。そこから池田が左で待つ寺尾に完璧な横パスを送るとGKはもうなすすべなし。開始1分に満たない「秒殺」での先制点はワイルズ選手の士気をおおいに引き上げた。
「(池田)一騎ならここにパスを出してくれるというのはずっと一緒にやっているので分かっていて。そのポイントへ走り込みました。ここまでなかなか点を取れていなくて、個人的にもチーム的にも苦しい時間が続いていたことで、練習時からゴールを決めきる意識を全員が共有していた。それが結果に繋がったと思います」(寺尾)
「シーズンがブレイクに入って時間があったので、しっかりと北京ライオンズの動きを見ながら組み立てた動きがしっかりハマったのではないか」と齊藤毅監督もしてやったり。およそ1カ月のブレイク期間中に選手のコンディションを整え、チーム力をしっかり積み上げてきたワイルズの努力が実を結んだ電光石火のゴールだった。
ところが失点を喫したライオンズもまだ試合序盤ということで慌てる様子はなくすぐに反撃に転ずる。体格を利したボディチェックを続けてパックを奪うとそこからスピードに乗った攻めを見せて次々とチャンスを演出。後手に回ったワイルズの選手はフッキングやスラッシングなどスティックを使ったプレーで相手を止めざるを得ず、ペナルティーがかさんでいく。
第1ピリオド3分すぎからは3人対5人のショートハンドという大ピンチが2回立て続けに訪れ、4分以上にわたって攻め続けられるという窮地にワイルズは陥った。
GK磯部が獅子奮迅。3-5のショートハンド2回も無失点で乗り切る
しかしワイルズのディフェンスはここで集中力を研ぎ澄ませてライオンズの猛攻をしのぐ。
特にGK磯部裕次郎の守りは特筆の出来だった。ブルーラインからの強烈なショットもゴール前でのショートプレーに対してもしっかりとパックが見えている様子で、ことごとくライオンズの攻撃を阻止。気づけば3人対5人の大ピンチでシュート10本を止めて失点はゼロ。この時間帯を磯部中心に守り切ったことで、流れが一気にワイルズに傾く大きな要因となった。
「3-5のショートハンドが長く続きましたが、第1ピリオドだったのでまだ自分にも元気が充分残っていましたし、そこはしっかり抑えることができました。あそこをゼロで抑えられたのが、その後も良いリズムを作れた要因。FWが序盤で点数を入れてくれて気持ちが楽になった部分がありましたけれども、その分『自分が抑えないと』という緊張感があったので、あの時間帯をしのげたのは精神的にも大きかったですね」と磯部。齊藤監督も「フォアチェックや得点シーンを分析し、どんなプレーがゴールに繋がっているのかを選手とともに見て確認を重ねたことで攻撃をしっかり防げたと思う。3-5のショートハンドは磯部を中心によく守ったし、相手にシュートを打たせる位置も限定できていたので失点を防ぐことができた」と語ったシーンだった。
度重なるハードなプレッシャーにも怯まず。寺尾裕道が見せた矜恃
大ピンチを守り切ればチャンスがもたらされるのはアイスホッケーの常。ワイルズはその後第1ピリオドを優勢に進めていく。すると18:23、苛立ってきた北京の選手が寺尾に対してエルボーイングの反則を犯し、メジャーペナルティで5分間の退場と言う裁定が下された。ワイルズはその直後、パワープレーとなったチャンスを見逃さず18:49にパスを受けた上野鉄平がゴールほぼ正面からシュートを撃ち抜いて貴重な追加点をあげる。
さらに第2ピリオド1:53にはまたも池田と寺尾のコンビでチャンスを演出。最後はパスを受けた寺尾が右サイドからスティックを一閃。放たれたパックは豪快にゴールネットを揺らし3-0とした。
この日ワイルズは寺尾裕道が電光石火の先制ゴールを含む2ゴールと絶好調。しかしその分第1ピリオド中盤からマークが厳しくなり、ライオンズ選手による激しいチェックの標的ともなっていた。しかし寺尾は体格を利してハードにプレーしてくる相手に対しても怯まず、倒されても平然と戦列に戻るとパスにシュートに、と相手の脅威となるプレーを連発。メジャーペナルティーも寺尾に対する北京のラフなプレーが要因だった。
それに対し「(相手から狙われるのも)それがホッケーなので。相手にそう思わせないと駄目だし、その中でも良いプレーを続けてきましたし……。そういう経験があるのでなんとも思わない。『もっと来てくれ』という感じです」という寺尾の言葉には百戦錬磨のベテランらしい矜恃があふれていた。
「もともとワイルズの選手は誰もが素晴らしいものを秘めているので。シーズンに入ってからも修正を重ねながら質の高い練習が出来ていることが、今の結果に繋がっている」(寺尾)
ライオンズはU-20代表メンバーが国際試合に参加しているため不在という部分もあった。それでも第1第2セットの主力は残っており、決して攻撃力が落ちているわけではなかった。ただ、点差を広げられてやや焦りもあったのか、攻撃が個人に依存し組織的なプレーが少なくなっていた印象もあった。第1セットに入ったワン・ジンやホウ・ユーヤンを中心に必死に反撃を試みるが、得点に繋がったのは第3ピリオドにあげた1点のみ。
ワイルズは約1カ月のブレイク期間中にコンディションを作り直し、ビデオ分析などでライオンズに対しての策をしっかり練りあげてきた成果がここで出た。いっぽうで「今日はしっかり得点を決めることができたが、まだまだスコアリングチャンスを逃している。今日は相手も点差が開いたことであきらめてくれた部分もあったが、決めるところを決めないと食い下がられてしまうので、次戦以降もしっかりと得点を決めきることを求めていきたい」と齊藤監督は翌日以降の試合に向けても手綱を緩める様子はなかった。
この試合は初めて日本勢が北京ライオンズに勝った結果で終えたが、中国代表選手も多く擁するライオンズが参戦しているおかげもあって、IJリーグは非常にタイトな試合がここまで展開されている。ライオンズにしっかりと勝てるチームになる、という目標があることで今後さらに日本チームの選手たちも強化が進んでいくだろう。
一方、このリーグで初の敗戦を喫したライオンズの選手たちが悔しがる姿も印象的だった。うなだれてドレッシングルームに戻る彼らの姿は、ライオンズが本気で勝利を追い求めているチームだということを如実にあらわしている。
この後も”ライオンズに挑む日本2チーム”という図式でIJリーグを舞台に激戦が繰り広げられることは間違いない。それは日本の両チーム、東京ワイルズと名古屋オルクスの選手たちの力が底上げされてくることも意味している。
<新加入 東尾修一朗選手 コメント>
ーーテスト生から入団となって初めての試合でした。いかがでしたか?
チームの中でも実力的には一番下だと思っているので、自分が出来ることを丁寧にやろうと意識してプレーしました。相手もあるし(ワイルズの)人数が少ない中での疲れというものもあるので、今後チームの戦力となるためにも自分ができること、通用することを見つけて1試合1試合大事にプレーしていこうと思います。今日見つかった課題はまた練習を重ねることで克服したいと思います。試合に勝てたことは嬉しいが、個人としてはミスがまだまだ多くて満足できない内容だったので。明日の試合ではチームに貢献できるよう頑張りたい。
フィンランドでプレーしていた時に中国代表と戦ったことがあり、フィジカル面など北京の実力の程は分かっていたが、IJリーグでの彼らのレベルも高いと感じたので、もっと練習を重ねて自分ができることを増やしていきたいと思います。