学生アイスホッケーの頂点を決める戦いは明治大がOTで劇的勝利
第95回全日本学生氷上選手権(インカレ) 決勝戦 会場:KOSÉ新横浜スケートセンター
明治大 2(0-0、0-0、1-1、OT1-0)1 東洋大
明治大は4年ぶり33回目の優勝(93回は中止のため3大会ぶり)
取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部
まさに大学アイスホッケーシーズンの最後を飾るにふさわしい激戦。
最後の瞬間までどちらが勝つか全く分からない、スリリングな決勝戦だった。これほどまでに素晴らしい試合を繰り広げてくれた両大学の選手・スタッフには大きな称賛と感謝を送りたい。
そんな激戦を最後の最後で制したのは明治大だった。
第1・2ピリオドはハイレベルの攻防も両者無得点
第1ピリオドと第2ピリオドはともに得点なく0-0で最初の40分間を終了。しかし両チームのシュート数(明治8+11本、東洋9+19本)が物語るように、ゴールまであと少し、というプレーをお互いに繰り出しては受け止めるという展開。大学アイスホッケーで頂点を争う両校にはスキルの高い選手がずらりと並んでいるが、そんなメンバーがさらにあふれる闘志を前面に押し出して戦う気迫は、観客席の我々にもダイレクトに伝わってきた。
そんな攻防において最後の砦として守り抜くのが両校のゴールキーパー(GK)だが、2人ともファインセーブを連発する。明治大GK#51中村柊志綺がノーマークのシュートを跳ね返せば、それに呼応するかのように東洋大GK#44佐藤永基も落ち着いてシュートの雨をすべてさばききる。0-0という第2ピリオドまでの結果は、まさに氷上の全員が最高のプレーをして生みだした結晶だった。
明治大・唐津のゴールで試合が動く。すぐさま東洋大も反撃に
試合が動いたのは第3ピリオドに入ってすぐの0分47秒。動かしたのは明治大#11の唐津大輔だった。ブルーライン手前でパスを受けた唐津はパックをキープしながら左サイドを持ち上がると、そこで思い切りスティックを振り抜く。強烈なシュートはゴールの右上隅をしっかりと捉え待望の先制点を明治にもたらし、新横浜のリンクは怒号のような歓声でむせかえった。前日明治の中村直樹監督は前日、「1ピリは0-0で我慢、2ピリ3ピリ勝負」という戦略で臨むという腹づもりを話してくれたが、そのゲームプラン通りの流れに明治は見事に持ち込んだ。
しかし、有数のタレントを揃える東洋もこのまま黙ってはいない。反撃はその直後だった。分厚い攻めで何度もGK中村の守る明治ゴールに迫ると4分58秒にその思いを結実させる。ゴール裏を使っての大きな横パスを左から右に通すと#17大久保雅斗がゴール正面へドンピシャのパス。これを#21宮田大輔がたたき込み、わずか4分で東洋は同点に追いつく。
第3ピリオドその後の15分間も濃密な展開。両者決定的な得点機会を何度も演出しながらも、最後の最後でGKの堅守に阻まれたり、ラストパスがあと少しでDFのスティックに止められたりと紙一重のプレーが連続する。第3ピリオドは明治7本、東洋15本のシュートを放つが決着はつかず、試合は5分間のオーバータイムに突入した。
勝つのはどっちだ?? 延長オーバータイムにもドラマが
迎えた延長。僅か5分のオーバータイム。ここでも両校の素晴らしい攻撃の応酬が続き、会場のボルテージはますます上がって行く。最初の2分は東洋のパック保持率が高く明治ゴールに迫るシーンが多い展開だった。
そんな状況のなか、ビッグチャンスを先にモノにしたかに見えたのは東洋だった。オーバータイムも残り2分30秒というところで、自陣のブルーラインでパスを受けた#17大久保が一気にリンク中央を縦にパックをキープしながら持ち上がり、ディフェンスを交わしながらミドルの距離でシュート。放たれたパックはGKのグラブにあたってゴール右上のクロスバー付近へ。そのパックがほぼ真下に落ちて、大久保がスティックを高く掲げる。ゴール裏の赤ランプも点灯したため、東洋の選手たちが優勝を確信し歓喜の表情でリンクへなだれ込んだ。
しかし、このシュートの判定はビデオゴールジャッジで再度検証されることに。およそ2分ほどで検証を終えたレフェリー団の判定は「ノーゴール」。試合はまだまだ続行されることとなった。
両校の選手全員が極度の興奮状態にあり、それに引き寄せられて客席のボルテージも上がる一方。場内は沸騰するような熱気に包まれていたが、明治ベンチではキャプテンの#92中條廉を始め4年生から下級生たちに向けて大きな声が掛けられていた。
「ちょっともやもやして、異様な雰囲気になっていたので、切り替えが大事だと4年生中心に声をかけあって。『雰囲気は悪いけど、ここから気持ちを切らさないでいつも通り、今まで通りに行こう』と前向きな気持ちを鼓舞するような声を掛けていました」(中條キャプテン)。
決着は相手の隙を見逃さなかった、1つのプレーから
その2分後、ついに試合は決着する。
オーバータイム残り29秒、東洋の選手交代の間に左サイドに大きなスペースが空いたところにレッドライン上でパスを受けた#8竹谷莉央人が一気にギアを上げゴールに向かって縦に突進。ディフェンスが向かってくるのを察知すると急激に方向を右真横に変えて2人のディフェンス2枚を一気に交わし、さらにはGKも右に寄せながらパックを左に巻き込んでゴールへ届ける。
竹谷はそのプレーを「東洋のチェンジミスというか、一気にメンバーが変わったのを見てここはチャンスだ、と。自分は中に入っていったんですが、味方には開いてもらってその後は流れに任せたというか……。ゴールを狙おうというよりは身体が勝手に動いていた感じで……、意識をしていたプレーというよりは身体が勝手に動いていた、そんな感覚でした」と振り返る。
ゴールが決まるやいなや、ここまで窮地を何度も乗り越えた明治の選手がベンチから一気にリンクへなだれ込む。2022年のインカレチャンピオンが明治に決まった瞬間だった。
東洋が45本、明治が28本のシュートを放ち、お互いひるむことなく攻め合いを続けた緊張感あふれる展開。そして劇的な延長戦、試合の決着の仕方。64分31秒もの時間を両校がプライドをかけて戦い抜いた決勝戦。インカレ史のなかでも語り継がれるべき素晴らしい戦いだった。
インカレ決勝戦 試合後選手・監督コメント
明治大・FW中條廉キャプテン
―優勝しました。今の思いは?
信じられないくらい、今でも何か不思議な感覚です。まだふわふわしています
―MVPに選ばれました
自分自身、この大会もそうでしたが、今シーズン調子が良いときがあまり無くて、今日までもインカレではノーポイントだったので。今日はチームが優勝してくれたので、自分がキャプテンだったからMVPをもらえただけです。チームのみんなには本当に感謝したいと思いますし、その一言です。
―延長ではどんな思いだった?
(東洋のゴール)判定はこっちから見ていても入っていないように見えたのでそこは安心して待っていました。そこから、ちょっともやもやして異様な雰囲気になっていたので、切り替えが大事だとそこは4年生を中心に「雰囲気は悪いけど、ここから気持ちを切らさないでいつも通り、今まで通りに行こう」と前向きな声を掛け合って切り替えて臨めました。その後、竹谷のゴールが生まれたので良かったかなと思います。
―決勝ゴールが決まった瞬間は?
みんな飛び出していったんですけれども、僕自身は飛び出す元気もなくて。気づいたらスタッフと抱き合ってましたね。
明治大・GK中村柊志綺選手
ーどんな思いでこの試合に臨んだ?
4年生と一緒にプレーできる最後の試合だったので、自分ができることは全部やり切って勝ちたい、という気持ちでプレーしていました
―延長では
味方が決めてくれると信じて、その瞬間を待っているだけでした
―一度東洋のゴール判定があったが?
自分的にゴールが入っていないのは分かっていたので、焦ってはいなかったですね。決まった時はとにかく嬉しかったです。本当に……言葉にできないくらい嬉しいです。いつも東洋の佐藤永基選手に賞は取られていたので、ベストゴーリーを取れて良かったです。
明治大・DF竹谷莉央人選手
ー見事な決勝ゴールでした
最初は本当に……決まったのは分かったんですけれども何が起こったか分からなくなって。チームのみんなが喜んでいたので「ああ、優勝したんだな」という感じになって。そのあと時間が経ってから、優勝の実感が湧いてきたという感じです。
ーゴールシーンについては
東洋のチェンジミスというか、一気に選手が変わったのでチャンスだなと思い、自分は内側に切り込むように入って味方には開いてもらって、その後は流れに任せたというか。ゴールを狙おうというよりは、身体が勝手に動いていた感じで、意識的なプレーと言うよりは身体が勝手に動いていた、そんな感覚でした。
明治大・中村直樹監督
ー優勝おめでとうございます。素晴らしい試合でした
このチームの強さの理由は、我々スタッフが決めたチームプランを本当に一生懸命選手たちがやってくれ、取り組んでくれることです。この勝利はチーム全体の勝利でした。
―決勝ゴールが決まった時は
本当に最高の気分でした。さきほど優勝カップを選手から手渡されたのですが、この優勝のために取り組んで来て本当に良かったなと思います。最高の気分です。
―戦った相手、東洋大の印象は?
東洋さんは本当に強い。個でのスキルは東洋大の方が明らかに上です。圧倒的に力の差はありましたけれども我々明治にも意地がありますから。
―選手にはどんな声を
本当に4年生には感謝しています。中條、唐津、鍛冶……この3人を中心に頑張ってくれました。最高にまとまったチームだと思います。4年生が下級生にプレーしやすいような環境を作ってくれている。それはずっと継承していきたいと思っています。今の世代が4年生になってから本当に変わったと思います。4年生がベンチのドアマンを2人もやってくれる、そんなチームなんてないですよ。
東洋大・鈴木貴人監督
ー試合の振り返りを
明治さんもすごく良いプレーをしていましたし、ウチに足りない部分があったゲームだったと思います。試合前は良い守りから良い攻めに繋げるという戦い方を進めるなかで、「明治大は攻撃力があるので攻めのエネルギーを失わないで戦い続けよう」と話しました。東洋大としてはとても悔しい結果となりましたけれども、試合の内容としては良いゲームができたと思います。
―選手たちには試合後何か伝えましたか?
今の4年生が1年生で入ってきたときに10年以上ぶりにインカレで優勝してくれました。この4年生がチームを良い方向に変えてくれた学年だったので、4年生への感謝をまずは伝えました。また、4年生の背中を見ながら下級生もものすごい努力をしてくれました。結果には届きませんでしたが「3冠+全日本選手権でも勝てるチームを目指そう」というチャレンジを一緒に進め、全員がそこにコミットして努力してくれたことに対しチーム全体に感謝の言葉を伝えたこと、それから3年生以下の世代は次の目標に向かってこの試合を受け止め次に進もう、と話しました。
ー明治の印象は?
明治はスキルの高い選手も多いし、試合運びもとても上手な選手が多かった。今日の試合でもハードワークをしていた印象がありましたし、素晴らしいチームだと思います。インカレでは明治さんだけでなく強い相手とタイトな良い試合を沢山戦えたので、今回戦ってくれたチームの選手と関係者に感謝申し上げたいです。
今日から新たな目標に向かって挑戦、努力していきたいと思います。