ペナルティトラブルに苦しんだ日本。救ったのは平野の「決意」【アイスホッケー男子世界選手権DivIB 対セルビア戦レポート】
取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部
2023IIHF男子世界選手権ディビジョンIB
会場:トンディラバアイスホール(エストニア・タリン)
リーグ戦第3戦(現地4/26 16:00FaceOff. )
日本 8(2-0、1-2、5-1)3 セルビア
ショットオンゴール:日本51 セルビア11
セルビアに取りこぼしなく3連勝。守りに課題もディビジョンIB優勝へ前進
国際大会、ことに世界選手権では何があるか分からない、そういうことを痛感させられたセルビアとの試合だった。
数字的な記録を見ると、シュート数も圧倒し8得点と申し分ない内容に見える。しかし実際には、あと一歩間違えれば勝ち点を取りこぼしてもおかしくない試合だった。
得点力が参加6チーム中一番劣るとみられていたセルビアだったが、各個人のシュートの速さと強さにはやはり世界を感じさせるものがあった。とくに第2ピリオド、日本はペナルティから調子を崩し、自ら難しい試合にしてしまった。
最終的には平野裕志朗(ひらのゆうしろう/AHLアボッツフォード・カナックス)と人里茂樹(ひとさとしげき/GKSカトヴィツェ(ポーランド))の両エースそして今大会絶好調の中島照人(なかじまてると/東洋大学)の頑張りで日本は流れを取り戻しその後の大勝に繋げたが、国際試合では本当にたった1つのプレーで流れが変わる、という怖さを如実に示した試合だったと言える。
日本、快調な滑り出し。セルビアファンも静まる序盤の2得点
今日は福藤豊が先発GKとして起用されスタートしたこの試合。
第1ピリオド、日本は電光石火の攻撃で先取点を奪う。
1分51秒。ブルーライン付近、左のボード際からハリデー慈英(はりでーじえい/レッドイーグルス北海道)がハーフスピードのシュート、それをゴール前に詰めていた鈴木健斗(すずきけんと/栃木日光アイスバックス)がスティックに当てて左へパックの方向を変えると相手GKが反応しきれずリバウンドが大きく出る。最後はゴール左に詰めていた平野裕志朗があっさりパックを押し込んで得点。あまりの早い展開に観客も追いつかず、平野のゴールの瞬間は一瞬静寂が広がったかのような感覚だった。
さらにその40秒後にはついにこの選手にゴールが。
髙木健太(たがぎけんた/レッドイーグルス北海道)がゴール右でパスを受けるとGKの目の前を横切りながらバックハンドでシュート。パックは左ポスト内側にあたってゴールに入り、これで日本は2分34秒にして早くも2点を先行する。
髙木はこの日の朝の練習にも志願して参加。練習では鋭いシュートを何度も飛ばしており好調ぶりがうかがわれたが、取り組みが実った形になった。
その後第1ピリオドは両者無得点のまま静かに20分が終了する。日本としてはたたみかけて得点を挙げておきたかったところでもあるが、この時点までは決して悪くない試合展開だった。
ペナルティから崩れる日本。2回のショートハンドで決められ追いつかれる
しかし第2ピリオド、事態は一変する。
きっかけは日本のペナルティからだった。ゴール裏での争いで相手を抑えてしまい、ホールディングの反則を取られて迎えたショートハンドのピンチ。ここであっさり20秒ほどで日本は失点を許してしまう。ゴール正面に入った相手選手へきれいにパスを通されワンタイマーシュートを許した。
セルビアはここから息を吹き返したように動きが良くなり、日本の守備がやや後手に回るように。5分過ぎにまたもゴール裏でのパックの奪い合いでホールディングのペナルティを取られるとその後のショートハンドで失点を許し、日本は2-2の同点に追いつかれてしまった。
守備構築の達人、山中武司コーチも「今日の守備は良くなかった。改善点を見つけたい」と試合後話してくれたほど。ここで日本は自ら試合を難しくしてしまったようにも思う。
フェイスオフから平野が一閃。相手GKも唖然の強烈ゴール
ここでセルビアにたたみかけられたらかなりの窮地に陥る可能性も頭をよぎったが、日本を救ったのはエース平野裕志朗のひと振りだった。
失点直後のワンプレーで日本は相手ゾーンでのフェイスオフを獲得。ここでコマーシャルブレイク(TV放送のためのタイムアウト)が入った。
「TVブレイクがあって、ペリー監督が選手たちに『しっかりしろ』ということを伝えてきたので、とりあえずは落ち着いて『自分がなんとかしてやる』という気持ちでフェイスオフに臨んだ」と言う平野。
そのブレイク開けのフェイスオフ。中島彰吾(なかじましょうご/レッドイーグルス北海道)がパックを奪って背後の平野へ流すと、平野がDFのスキマを通すシュートにいきなり打って出る。これが見事にクロスバーぎりぎり下を捉え、相手GKも唖然とするほかないスーパーショットとなった。
「(中島彰吾選手が)しっかりフェイスオフを取ってくれて、ああいった形で気持ちよく打たせてもらったので。あそこで相手の流れを切れたのは大事なポイントだった」(平野)
2連続失点の直後に出たこのゴールは日本チームを大きく勇気づけたに違いない。第2ピリオドはその後セルビアの反撃もあったがそのまま3-2、日本リードで終了する。
一時3-3の同点にされるも、日本を救った人里&平野の得点力
このままの流れを維持したい日本だったが、第3ピリオドまたも同点に追いつかれる。
ピリオド開始わずか46秒でシュートがゴール裏のボードで跳ね返ったところをセルビアの選手2人に詰められ、最後は押し込まれて失点。
待望だった5人対5人のシチュエーションでの得点に、セルビア側のベンチでは全員が立ち上がりまたも意気上がる。3-3と追いつかれ、日本側はまたも重苦しい雰囲気に包まれる。
そこから次の得点までの約4分間は、本当に試合がどちらに転がるかまったく分からない緊張感たっぷりの試合展開となった。
そして幸いなことに、次のゴールを奪ったのは日本だった。
左サイドを1人で持ち上がった人里が、正面に相手DFがマークについているにもかかわらずその身体の横ギリギリを狙って速く強烈なシュート。これをGKがスティックで抑えに行ったが止めきれずバックはゴールマウスへ。
やや強引に打って出た人里の判断が光るゴールで日本はみたびリードを奪う。そして、このゴールの後セルビアに追いつかれることはもう無かった。
流れを再びつかんでからはゴールラッシュ。最終的には大差に
人里のゴールからわずか1分半後には榛澤力(はんざわちから/NCAA Sacred Heart 大学)のシュートリバウンドを中島照人が押し込んで5-3。
そして6分54秒には平野がハットトリックとなる得点を決めて6-3。平野自身この日3点目となったこのゴールは、ゴール裏でパックをキープするとフェイクをかけて相手GKを左右に動かし、最後は完全に逆をとられたGKの動きを確認してからゴールにパックをデリバリーするというスーパーゴール。
THIS GOAL IS RIDICULOUS! 🤯 Hirano of Team Japan putting on a show! @IIHFHockey pic.twitter.com/VSpcVNiO4m
— Pavel Barber (@HeyBarber) April 27, 2023
この平野のゴールで3点差とした日本がセルビアの反撃意欲を刈り取り、その後はゴールラッシュ。中島照人のこの日2点目、中島彰吾のパワープレーゴールと得点を重ねて最終的には8-3と点差を大きく広げて日本はセルビアに勝利、勝点合計を9に伸ばし、グル―プリーグ首位の座をガッチリとキープした。
「日本のほうが個々の能力も高いし、細かいプレーも手を抜かずしっかり遂行すれば必ず勝てると思っていた。3-3に追いつかれても自分たちのプレーを続けられたことが良かった」(中島彰吾キャプテン)
「大会中、こういったタイトな試合は絶対にある。そこでどうチームとして自分たちのプレーに変えられるか。そこへのチャレンジだった試合だと思う。第3ピリオド残り15分は自分たちのホッケーは出来たので、修正点は直して残り2試合につなげていきたい」(平野)
完全アウエーのなか3連勝。堅守を取り戻して残り2試合に挑む
終わってみれば快勝だったものの、特に第2ピリオド序盤にペナルティで自ら崩れたところは今後に向けて課題が残ったこの試合。
全体的に日本に対するペナルティを取ってもらえずやや日本に厳しいか、と試合中感じるところもあるが、ビデオをみて検証すると日本側のプレーでペナルティを取られている部分についてはレフェリーもしっかり見て判定しているように思われる。こういうところは国際試合にはつきものであり、完全アウエーの戦いとなってしまっている以上、織り込み済みで対応しなくてはならないだろう。
次は開催国エストニアとの対戦となる。エストニアはこれまでの相手とは少しタイプが違い、しっかりした守りからリズムを作って絶対的エースの背番号8、Robert ROOBAを中心にカウンター気味の攻撃から得点を奪ってくるチーム。その速い攻撃には日本も警戒したい。
「相手のビデオを今夜しっかりチェックしますし、自分たちのシステム(戦術)をしっかりやり抜けば必ず良い結果が生まれる。まずは明日のエストニア戦に集中したい」(中島彰吾キャプテン)
セルビア戦で守りにややほころびが見られたが、そこを修正できればエストニア、そして最終戦であたるウクライナに対しても優位な試合運びは出来るはずだ。あと2試合勝ちきれば2016年以来7年ぶりのディビジョンIA復帰を果たすこととなる。緊張感を緩めることなく、まずは日本時間4/28(金)午前1:30からのエストニア戦に臨んでもらいたい。