敗退寸前の状況で魅せた”即興”での6人攻撃成功。
レッドイーグルス北海道が中島照人の決勝弾で劇的勝利

取材・文/アイスプレスジャパン編集部 写真/アイスプレスジャパン編集部
カテゴリを超えてアイスホッケーの日本一を決める全日本選手権(A)が、18日から長野市のビッグハットで行われている。4強が出そろった20日の準決勝第2試合では、レッドイーグルス北海道が試合終了直前まで東北フリーブレイズにリードを許し敗退直前にまで追い込まれた。しかし勝負をかけた6人攻撃に成功し1‐1の同点に追いつくと、サドンビクトリー方式の延長3分44秒、中島照人が強烈なシュートを決めて逆転勝ち。H.C.栃木日光アイスバックスの待つ決勝戦へと駒を進めた。
「みんなの気持ちが1つに」中島彰吾キャプテンが決めた起死回生の得点

会場の、そして苫小牧でライブ中継を見ていた多くの“ワシスタント”(レッドイーグルスサポーター)にとっては、まさに背筋の凍る恐怖のどん底から光あふれる天国へ駆け上るような心境だったに違いない。試合残り時間あと1分と24秒。レッドイーグルスはパスを何本も繋ぎフリーブレイズの守備陣を揺さぶり続ける。そして左サイドに開いた中島彰吾が中島照人からのパスに対してスティックを振り抜くとパックがゴールを襲う。それまで58分36秒をシャットアウトしてきた東北フリーブレイズのGK伊藤崇之が身体をスライドさせて防ごうとしたが一瞬及ばず。ついにレッドイーグルスが立ちはだかる伊藤の壁を打ち抜いた瞬間だった。
まさに起死回生の6人攻撃を成功させたレッドイーグルス。中島(彰)キャプテンは「僕たちが諦めずに、あの最後の最後まで全員がその気持ちで戦っていたので、(同点弾も決勝弾も)決められたと思います」。展開からしてレッドイーグルス6人の気持ちが一つになった同点ゴールだった。中島(彰)のゴールが生まれるまでおよそ50秒にわたりパックをキープ。左右のゴールポスト近くに安藤優作と高橋聖二がしっかり入り込み磯谷奏汰と中島(照)が何度も入れ替わる。横パスを繰り返してパックはGKの目の前を何度も通過。GK伊藤を左右にふるショートプレーの連続でフリーブレイズDFをみなGKから非常に近い位置に押し込める。それを何度も繰り返し、フリーブレイズの守りをぎゅっと圧縮したところで中島(彰)がミドルレンジからシュートを突き刺した。

ベンチからその様子を見つめていた小川勝也ヘッドコーチ(HC)は「同点ゴールは第3ピリオドの入りからそこまでプレッシャーを相手にかけ続けることができた結果としての20分だったと思う。そこが良かった」と振り返る。ゴールまでに至るシフトの直前、フリーブレイズのアイシングで残り2分10秒で試合が止まった時にタイムアウトを取らなかった理由について聞かれた小川HCは「まだあの残り時間だと2セットが必要なので、タイムアウトを残して同じメンバーを休ませることができるかな、ということが頭にありました」。相手DFを休ませたくなかったという気持ちはありましたか? と記者からさらに問われた小川HCは「それも一部はありますけれども、メインはやっぱり自分たちのところのコントロールだったので。あのタイミングですべきことは選手にみな伝えてあるので、そこまで慌ててタイムアウトを取る必要はなかった」と冷静に打ち手を判断していた。
その冷静さに選手もプレーで応えた。「中島照人と安藤優作が上手くゴール前に入り込む中で長い横パスが何度も通り、それでフリーブレイズの守備陣形が引かざるをを得ないという状況になった。そこで入り込んだ選手がうまくタメを作ってくれたことで上手く守られている形を崩せた。あの6人攻撃のパワープレーの形は練習していたわけでもなく、事前に話していたわけでもなかったのですが、本当にお互いの意思疎通の中で生まれたプレーだと思います」(中島彰吾)
敗退寸前へと追い込まれた土壇場、その場面で即興的にあれだけのパス回しを見せたこと。レッドイーグルス攻撃陣のホッケーIQの高さが存分に発揮された瞬間だった。
「本当に感覚に近い形で」得意のコースから思い切って打った中島照人の“勝負眼”

同点に追いついたレッドイーグルスは延長戦、フリーブレイズに強烈なシュートを許しながらも、GK成澤優太のエクセレントなセーブでピンチを切り抜ける。そして試合を決めたのは中島照人だった。
「前を向いたタイミングで一瞬相手選手を見たとき、フォワードの選手だったので。チャレンジしても良いかと思い、その結果うまくいきました」と中島(照)は決勝ゴールの瞬間を振り返る。そしてもう1つ言葉を付け加えた。「打ったコースが開いていたから打ったというわけではなく、なんというか……本当に感覚に近い形で。ディフェンスの前から良い形、良いタイミングで入り込めました。結果的にゴールとなって良かったです」

もしシュートを止められたり、リバウンドが妙な形で出たりすればまた攻撃権を手渡すところだったが、思い切って中島(照)はスティックを振るった。放たれたシュートはクロスバーの下をかすめてゴールへ。あの位置からのシュートは日本代表でも何度も貴重な得点を決めてきた得意のコース。苦しみながらもついに決勝への切符をレッドイーグルスがつかんだ瞬間だった。
劇的な大逆転劇を目の前にしても小川HCは冷静に決勝戦を見据えていた。「選手はこの大会、この1戦にかける思いというところがプレーにも出ていたかなと思っています。決勝戦では前線からしっかりとプレッシャーをかけたいと思いますし、今日よりもさらに運動量を上げてバトルのレベルとスケーティングで相手を上回る。そういったベースを大事にして、しっかりと相手を上回りたいと思います」

この結果、決勝のカードはレッドイーグルスvsアイスバックスに。逆転相次ぐ壮絶な試合となった昨年大会の決勝戦の再戦となった。
レッドイーグルスとしては昨年以上の試合をし、そして今度こそアイスバックスを倒して2018年以来7年ぶりの全日本選手権制覇をつかみ取る。選手たちはその1点を見据えて、日曜の決勝に臨む。