社会人No.1はDYNAX。GWSで室蘭スティーラーズとの“激闘”を制す

全日本選手権(B)を4年ぶりに制したDYNAXのメンバー

取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部

第58回全日本選手権(B) 決勝
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月3日@岡山県倉敷市・ヘルスピア倉敷アイスアリーナ

DYNAX 30-11-11-0、延長0-0GWS1-02 日本製鉄IH部室蘭スティーラーズ
ゴール:【DYNAX】今野、久米、今野(GWS)【室蘭】大宮、村上
GK
:【DYNAX】高橋【室蘭】山口
シュート数(1P2P3P、延長):【DYNAX571717203)【室蘭】3189113

DYNAXのゴールキーパー(GK)高橋勇海は「最後のシュート」を止めたと気づいた瞬間、激戦の疲れも重い防具もものともせずにスティックを突き上げて30cm以上も高くジャンプ。ベンチからはDYNAXのメンバーが高橋のもとへとなだれ込み、喜びの叫び声が倉敷のリンクに響き渡った。

GWSを止めてDYNAXのGK高橋は渾身のジャンプ。手前は室蘭のキャプテン・阿部。

延長でも決着が付かなかったこの決勝戦は、ゲームウィニングショット(GWS)戦へともつれ込んだ。しかし、最初の3人同士でも勝敗は決せずにサドンデス2巡目、全体では5巡目でようやく決着。まさに“死闘”ともいうべき激戦に、リンクをぐるりと立ち見で取り囲んだ観客から万雷の拍手が送られていた。

【アイスプレスジャパンTV】全日本選手権(B)決勝GWSの模様はこちら

倉敷のリンクにはDYNAXの選手による歓喜の雄叫びがこだました

決勝戦にコマを進めたDYNAXと日本製鉄アイスホッケー部室蘭スティーラーズ(以下、室蘭スティーラーズ)は、ともに北海道の社会人リーグJ-iceノースディビジョンの所属。2月11日に行われたJ-iceノースディビジョンの最終節では”勝った方が優勝”というシチュエーションで、室蘭スティーラーズが延長で劇的なウィニングゴールを決めて勝利し優勝の栄冠を手にしていたが、実はその試合、室蘭スティーラーズが第3ピリオド残り1分30秒で3点をリードしていたもののDYNAXが6人攻撃を3連続で成功させて追いつくという、ドラマの演出家でも考えつかないようなものすごい展開。最後はホームの室蘭スティーラーズが延長で優勝を奪い取ったというとんでもない試合だった。

そのためか、この全日本(B)決勝でも必勝を期して両者は最初から気迫がみなぎっていた。社会人&クラブチームの全国最高峰のタイトルを争う相手として、絶対に負けられないライバル同士の対決に燃えない選手はいなかった。

ショートハンドゴールで室蘭スティーラーズが先制

試合は第1ピリオドから激しい攻防が展開される。最初の3分はDYNAXが優勢で室蘭ゴールにシュートの雨を降らせる。室蘭スティーラーズも巻き返しを図るものの試合の主導権はまずDYNAXに傾き、3:29には室蘭側がペナルティ。DYNAXがパワープレーのチャンスを得る。一気に攻撃の圧をかけるDYNAX。しかし必死で守るなか、一瞬の攻防で室蘭スティーラーズにチャンスが。  

DYNAXがセットアップしようとパスを回すなか、パスが少し乱れたところを、大宮良が相手ディフェンスにプレッシャーをかけてパックを奪取。そのまま大宮は左フェンス際から突進し、相手ゴールへと切り込む。最後はDYNAXのゴーリー高橋勇海をも見事にかわすショートハンドゴールを決めて、1人少ない室蘭が先制点を奪った。

序盤は劣勢も、室蘭が徐々にペースを取り戻し、先制点から優位に試合を進めた

これで流れが室蘭スティーラーズ側に一気に揺り戻されると、先制点を奪われて苦しいDYNAXにとってはさらなる窮地が。

12:54にDYNAXの今村健太朗が激しいチェックで室蘭の選手をフェンスまで吹き飛ばすプレーが発生。このプレーに対してはレフェリー団の協議により、チェッキングトゥザヘッドの反則によるメジャーペナルティ5分の裁定となり、今村にはゲームミスコンダクトが宣告され、以降の試合出場はできずドレッシングルームに戻ることとなった。

その5分間のパワープレー。室蘭スティーラーズが何度も相手ゴールに迫るが、DYNAXも必死の守りで対抗する。ときにはGK高橋がスティックを落とすくらい激しいポジション争いがDYNAXゴール前で繰り広げられたものの、高橋は5分間のショートハンドでゴールを割らせなかった。これでDYNAXはなんとかこの大ピンチをしのいで、第2ピリオド以降に巻き返しを期すこととなった。

2点目を許すも、我慢の時間帯を耐えたDYNAXが反撃へ

迎えた第2ピリオド。先に点を奪ったのは室蘭スティーラーズだった。

村上のゴールで第2ピリオド中盤に2-0と室蘭がリードを広げる

12:06に相手陣深い位置でパックを奪いゴール前へパックを繋ぐと阿部魁がシュート、さらにそのリバウンドを村上亮が叩いて押し込み2-0とリードを広げる。得点源の1人である今村を欠いているDYNAXにとっては重い2点差。試練の時間帯が続いた。

しかし、DYNAXにとってはここで簡単に追加点を許さなかったことが試合の後半になって徐々に意味を持ってきた。その我慢が実ったのが17:28。今野友尋が右サイドからパックを持ち込むとニアポストギリギリを狙って強烈なシュート。するとパックが室蘭スティーラーズの守護神・山口連の左耳の極近くを通過するスーパーショットとなり、DYNAXが1点差と追いすがる。この今野のゴールで、まだまだ勝敗はどちらに転ぶか分からない状況へと変わっていった。

DYNAX今野のシュートがゴールマウスをとらえた瞬間

パックがゆっくりとゴールへ……DYNAXの執念が同点呼ぶ

そして迎えた第3ピリオド、室蘭スティーラーズはディフェンシブな戦術に切り替えて守りを重視。それが奏功して時間はどんどん過ぎていった。

しかしDYNAXは室蘭スティーラーズの逃げ切りを許さなかった。16:04に2-2の同点に追いつく。

室蘭DFが左右からパックにスティックを伸ばすもわずかに届かず、DYNAX久米のゴールが記録された

久米誠斗の放ったシュートを室蘭スティーラーズGK山口が前に出てセーブ。レガースに当たったパックの進行方向が変わったかに見えたが、パックが氷上をまるでスローモーションのように滑っていくなか室蘭の選手2人が右から左からスティックを伸ばすもわずかに届かず無情にもパックがゴールマウスに吸い込まれてこれで同点に。歓喜するDYNAXと肩を落とす室蘭、両者のコントラストが氷上に描かれた。

久米のゴールで2-2に。明暗分かれた両チームのベンチ

しかしこの後は室蘭スティーラーズも気を取り直し得点を許さず、試合は延長に突入。そして延長では両者にチャンスが交互に訪れたものの、室蘭は山口、DYNAXは高橋が最後の砦となってお互いにゴールは許さず。ついに試合はお互い3人ずつの選手によるゲームウィニングショット(GWS)戦にもつれ込むこととなった。

まさに紙一重の勝負。GWSでも逆転劇

そのような流れで突入したGWS戦でも勝利の女神は気まぐれだった。先行したのは室蘭スティーラーズ。しかし2巡目でDYNAXが追いつくと、GWS戦はサドンデスの4人目に突入。先攻後攻が入れ替わった4人目は両者ノーゴール。そして迎えた5人目でDYNAXは今野がゴールを決めてついに先行する。

今野が決めてDYNAXがGWSでも劣勢をひっくり返した

そして止めれば勝利というシチュエーションのなか、GK高橋が室蘭・阿部のショットを右足でセーブしついに試合は決着。

DYNAXが激戦を制して、ついに全日本(B)の優勝を勝ち取ることとなった。

実力が拮抗した社会人の強豪チームがぶつかった試合は非常にエキサイティングで、素晴らしい攻防だった。これからも両者のライバル関係が続くことは間違いないし、また今回のような興奮度の高い、またレベルの高いゲームを見せてくれることだろう。来季の対戦が今から楽しみでならない。

DYNAXのホームリンク、苫小牧・DYNAX沼ノ端アイスアリーナには誇らしげに「B優勝」の文字が飾られていた(3/19撮影)

<両チーム選手・スタッフのコメント>

DYNAX 大澤 洋介監督
「チャンピオンチームに胸を借りるつもりで、アタックし続けるしかないと思っていた。この対戦のここ3試合も敗れてはいるが、良い試合をできていたので、ここで今季最後の最後に勝つことができて良かったと思っている。2点をリードされても選手たちは下を向くことなく、やるべきことを遂行してくれていてそれが同点弾へと繋がった。GKの高橋もケガを抱えながら無理して出てくれた。勝てたのは高橋本人も嬉しいと思う」

大会最優秀選手 DYNAX 府中 祐也選手
「トータルで見てとても良い試合だったと思います。室蘭との対戦は、直近の3試合がすべてGWSにもつれ込む激戦ですべて負けていてGWSにいいイメージはなかったですが、選手みんなの気持ちが入っていて、勝てたと思う。我々も追いつける力は持っているチームなので。学生時代からMVPは取ったことがなかったので、最後に自分の名前が呼ばれて素直に嬉しかったです」

大会MVPの表彰状とトロフィーを掲げるDYNAX府中選手

ベストGK DYNAX 高橋 勇海選手
「追いかける展開で精神的に辛い部分もありましたが、GWSまでゲームを持ってくることができて良かったです。あそこまで行ったらもうどっちが勝つかは分からないので、気持ちと運とでなんとか勝てたのかなと思います。室蘭と対戦した直近の試合では今日のようなキツい展開ばかりだったので、気持ち的な崩れがなかったのも勝てた1つの要因かも知れません」

ベストFW DYNAX 澤出 仁選手
「(室蘭とは)ずっと延長で負けているという戦いが続いていたのですが、ベテランの先輩方が引っ張ってくれて『絶対優勝しよう』とみんなで気持ちを高めてこの大会には入りました。会社の看板を背負って戦わせていただいているので、こういう良い結果が出せて本当に良かったです」

DYNAXキャプテン ベストDF 大場 大選手
「もうハラハラドキドキの試合でしたね……ここ最近でも室蘭との対戦は、いつも追いつくところまでは行けるのに勝ちきれない、という試合が続いていたので今日こそはと思って臨みました。試合前には『ここまで来たら最後の大会だし、最後の60分を楽しんでいこう』と声を掛けて……チームの選手のみんなを信じて戦いましたし、みんなもやってくれました。延長に入ってからも『楽しんでいこう』とみんなには声を掛けて。(優勝の瞬間には)嬉しいというか……やっと、というか……ほっと、というか……。やっと勝てたな、長かった……という気持ちだったのが正直な実感です」

室蘭スティーラーズ 伴野 貢市監督
「先制点を取ってから落ち着いてプレーできていて、2点差とした後も反則のピンチをしっかりしのげたんですが、追いつかれて。1失点目のときはボードの45度の角度から出せなくて失点したので、まずはセーフティーにプレーするように選手には伝えました。今日の試合はDYNAXさんの気持ちが強く入っていて、プレッシャーも今まで以上に早かった。とはいえ、身体を張ったプレーなど室蘭らしさのあるプレーは最後まで続けられたので悪くは無かったです。この敗戦は悔しいですが、また来季この決勝に戻ってお返しをしたいと思います」

室蘭スティーラーズキャプテン 阿部 魁選手
「2点目を取って流れ的には良かったのですが、最後、同点にされて勝ちきれなかったというのは素直に悔しいです。(3連覇を逃して)前のキャプテンが作ってきた連覇を途絶えてしまったのですけれども……来年は絶対に優勝を取り戻しにまた決勝まで来てやるぞ、という強い思いはあるのでまた来年に向けて1から取り組んで行きたいです。どの大会も絶対に優勝して、こんな気持ちにならないような結果で来シーズンやっていきたいです」


   

大会ベスト6に選ばれたメンバー。前列右からベストDF大場、ベストGK高橋、ベストDF川口竣耶。後列右からベストFW久米、ベストFW澤出(ここまでDYNAX)、ベストFW阿部(室蘭)

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