全日本優勝にアイスバックスを導く! 寺尾勇利が準決勝レッドイーグルス戦で延長ゴールデンゴール!!

延長で決勝ゴールを放つ寺尾勇利。「ゴールへ向かう」強い思いが成就した瞬間だった(撮影:今井豊蔵)

取材・文/アイスプレスジャパン編集部 写真/今井豊蔵、アイスプレスジャパン編集部

第91回全日本アイスホッケー選手権(A)準決勝
12/9(土)@KOSÉ新横浜スケートセンター 観衆:1143人

栃木日光アイスバックス 2(1−1、0−0、0−0 、延長1−0)1 レッドイーグルス北海道
ゴール:【アイスバックス】大椋、寺尾 【レッドイーグルス】山下
GK:【アイスバックス】福藤 【レッドイーグルス】成澤
シュート数:【アイスバックス】23 【レッドイーグルス】36

「日光で生まれ育ち、日光をこよなく愛する男」が準決勝の延長決勝ゴールだ!
寺尾勇利(てらお ゆうり)の一撃がH.C.栃木日光アイスバックスを4年ぶりの決勝戦進出へと導いた。

12/9(土)に行われた準決勝第2試合。アイスバックスとレッドイーグルス北海道とのマッチアップは1-1の同点で60分のレギュラータイムを終えて5分間のウィニングゴールによる方式の延長戦に突入。
その延長戦に突入して間もない1:04。レッドイーグルスのディフェンシブゾーンでのフェイスオフを大椋舞人(おおむく まいと)が奪い、寺尾勇利へと繋ぐ。
寺尾勇利はそのバックを受けとると一気にゴールへ向けて動き出した。

決勝ゴールが決まった直後。ファンの歓声がリンクに大きく響いた(撮影:編集部)

延長戦はGKを除いて3人対3人と少ない人数で行われる。そのぶん1人当たりのスペースが広くなり、攻撃力のある選手の選択肢が大きく広がる。またディフェンス(DF)も少なくなるため、1つのミスが致命傷になりうるため極力慎重にならざるをえない。このごろはアジアリーグをはじめとするトップレベルの試合でも、得点を奪いに行くよりも相手にパックを与えないディフェンシブな戦術で延長に臨むチームが多い。
この日も延長開始直後は両チームとも慎重な動きに徹している様子が見え、延長が両者無得点で終わったときのゲームウィニングショット戦も見据えての展開かと思われた。GKにアイスバックスは福藤豊(ふくふじ ゆたか)、レッドイーグルスは成澤優太(なりさわ ゆうた)とともに日本代表の双璧となるエースGKを擁しているだけに、その選択も充分に考えられる展開だった。

ゴールを奪う。チームでの役割は分かっている。決勝でも爆発を誓う(撮影:今井豊蔵)


しかしこのシーン。寺尾勇利の頭の中は違った。

「絶対にここで点を取らなくては勝てないと思いました。なので他に選択肢はなくて。もうゴールに向かうしかないとパスをもらった瞬間にそう考えた。バックを取った瞬間に、このパックは絶対にゴールに向かってシュートする形で終わらなければいけないという強い思いでした」

攻撃側から見てゴール右サイドのフェイスオフ。センターの大椋がフェイスオフの駆け引きに勝って右サイドボード際に控える寺尾にパスを送る。寺尾は前に突進する様子を一瞬見せて切り返し、少し下がった位置から中央へゴールとは並行に移動した直後、スケートの方向を一気に変えてゴールへ向けて縦へ突進。爆発的なスピードでゴールに迫ると、成澤の構えを見てゴール左ポストギリギリへパックを放つ。

そのパックがゴールネットに吸い込まれた瞬間、寺尾勇利は喜びを爆発させ、両手を突き上げてオレンジ色で染まったアイスバックスファンの待つ観客席へ突進。即興のエアギターで音楽を奏でるようなジェスチャーをしたあと、ふたたび両手を大きく突き上げてファンと喜びを共に分かち合った。

寺尾はその瞬間を「正直まったく何も覚えていません。スタンドの光景もぼやけて見えて。でもあれだけ多くのファンが全力で喜んでいるシーンを肌で感じられて。素直に『うれしい』のひとことでした」

喜びを爆発させる寺尾とバックスの選手たち(撮影:(上)今井豊蔵、(下)編集部)

お互いにパワープレーで得点できない、守り合いの試合は延長で決着

試合は序盤からアイスバックス・福藤、レッドイーグルス・成澤と双方のゴールキーパーがガッチリ守り合う緊迫感のある内容。
両チームともにペナルティーが多く、ともにパワープレーのチャンスを何度も得ながらも決めきることのできないもどかしい流れが続いた。お互いに負けられない意地と意地のぶつかり合った試合は、最後の最後まで緊迫した展開で進んでいった。

そんな試合の勝敗を分けたのは延長でのフェイスオフだった。
寺尾の決勝点を生み出すフェイスオフに向かいながら大椋は、必ずフェイスオフをとって次の攻撃に繋げるという集中力を高めていた。

一方でこの時、レッドイーグルスの入倉大雅(いりくら たいが)はフェイスオフから中島彰吾(なかじま しょうご)に展開するイメージがあったという。フェイスオフには定評のある入倉。フェイスオフでプレイヤーは相手の出方をちょっとした肩や腕の筋肉の動きで見極めてスティックを操る。それこそ息遣いからも情報を得るまさに将棋やチェスにも似た駆け引き。しかし百戦錬磨の入倉も、この時ばかりは大椋に一手先を読まれた。
お互い絶対に取りたいフェイスオフ。たった一瞬のパックの奪い合いで勝利の女神はアイスバックスに大きく微笑み、そして手を振った。

決勝ゴールを呼び込んだ大椋のフェイスオフ。同点弾も決めてこの試合での大椋の貢献度は高かった(撮影:今井豊蔵)

アイスバックスのGK福藤は「これだけあるチームがたった1つの王者を目指して戦う全日本選手権で決勝に進むのは本当に簡単なことではない」と語っている。その試合で飛び出した寺尾勇利の鮮やかなゴール。この一撃で優勝候補の筆頭とも言われたライバル・レッドイーグルス北海道を沈めたアイスバックス。決勝へ向けてとてつもない勢いがついたことは間違いない。

寺尾勇利は2012年にここ新横浜でアイスバックスが優勝した大会では準決勝で負傷し決勝は欠場。スーツにハンチング帽の姿でベンチから試合を見守った。そして2019年のアイスバックス優勝の時には海外挑戦中でやはりチームには合流していない。

「ここまで全日本には本当に縁が無くて。優勝した思いも、嬉しい瞬間もこれまでまったく記憶されていない状態なのですが、今年、僕のプレーでチームを優勝に導いてその記憶を上書きできれば良いと思っています。明日は気持ちを入れ込みすぎるとチームの約束事などを忘れてしまうのでそこは冷静に。でも今日のように常にゴールへと向かい絶対に決める、という気迫は忘れずに臨みたい」と決勝での活躍を寺尾は誓った。

日光で生まれ育ち、日光のファン、そして市民につねに愛されている寺尾勇利。自らのゴールで彼らに喜びをプレゼントすることはできるだろうか。

試合後お互いの健闘をたたえ合う。アジアリーグで両者の戦いはつづく(撮影:編集部)


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