ウワサの新チーム、名古屋「サンエスオルクス」が目指すものとは?(中)

中日ウィングス戦でゴールを決める梅野キャプテン。ゴール前には土屋選手がスクリーンに

取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部

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愛知県リーグから1年で全日本選手権(A)を目指している、サンエスオルクスが好調だ。

9/25、愛知県アイスホッケーリーグ(Aプール)の初戦ではいきなりディフェンディングチャンピオンの中日ウィングスとの対戦となったが6-2で白星をあげると、10/4には愛知県リーグで上位を争ってきた強豪、TEAM TORSPOと対戦。元アジアリーガーを複数擁するTORSPOの鋭い攻撃力に序盤苦しみながらも最後は突き放して7-2で勝利を奪った。

TEAM TORSPOとの戦いも深夜の激戦となった
TEAM TORSPOに先制される厳しい展開も
土屋(手前・30番)のゴールなどで逆転勝ちをおさめた

次の中日クラブ戦は相手の棄権によって不戦勝を記録すると、つづく10/17の富士クラブ戦は21-1の大量得点で快勝を飾った。
これでサンエスオルクスは6チームで戦われている同リーグを4戦無敗。10/31の浜松クラブ戦に勝てば立ち上げ初年度で愛知県アイスホッケーリーグ(Aプール)優勝を手にする。
優勝後には2024年1月に開催される北信越大会(全日本選手権B予選会)に進み長野県・富山県・福井県をはじめとする強豪チームと対戦、2024年2/29に開幕する岡山での全日本選手権(B)への出場権を争う。全日本選手権(B)は北海道の社会人チームで構成されるJ-iceNorth勢から2チームが出場してくるなどよりハイレベルな戦いとなるが、そこでベスト4になれば、来年初冬に予定されている全日本選手権(A)への出場がかなうこととなる。

サンエスオルクスは愛知県リーグ(Aプール)で現在全勝。ここまで順調に白星を重ねている


弊メディアがオルクスGMの橘川氏に話を聞いた8月下旬の時点でチーム発足(正確には再編成)からはわずか6カ月。そこから2カ月でオルクスを取り巻く周囲の雰囲気はどう変わってきたのかも、非常に興味深いところだ。
また、アイスホッケーファンが気になっているのはやはり、サンエスオルクスの「アジアリーグ参戦」はあるのか? というポイントだろう。そのあたりもふくめて橘川GMからうかがった話をまとめて今回(中)としてお伝えする。

色々と話をうかがうごとに、サンエスオルクスがこれまでのアイスホッケー界の常識とは違うアプローチを試みていることが随所に見えてきた。

「強くなるなら1番を目指そう」 そのひとことから動き出したオルクス

試合中レフェリーとやりとりする橘川GM(中央)

まず最初に、そもそもこれだけのスピード感でサンエスオルクスのチーム構築が進んでいる理由はなにか? チーム発足(再編成)の経緯を改めて橘川弘樹GMに聞いた。橘川GMはオルクスの運営会社、サンエスサービス株式会社でも要職を務めている。

―IPJ チ-ムが変わるポイントは、どんなところからだったのですか?

ー橘川GM 2023年1月時点では愛知県BプールのチームだったオルクスでDFとしてプレーしていました。そのなかで、私が勤務しているという縁もあって、最初はサンエスサービス上層部にユニフォームスポンサーを所属企業に依頼しました。当時チーム代表の牧義明(現在FWとDFの両方のポジションとして在籍)と私が会社の方に「スポンサーを御願い出来ませんか?」と。ちょうどユニフォームを変えたい、というタイミングだったのですが、そこで話し合いの場を作っていただけた。
その際に、上層部から「ユニフォームスポンサーをするのはもちろん構わないんだけど、会社の看板を出すのにBプールのチームでは困る」と言う言葉が返ってきまして。それにまず驚いたのですが、次に出てきた言葉が「強くないといけないよね。どうせやるなら一番を取りましょうよ!」と。驚きましたが嬉しかった。会社の方もちょくちょく気にしていただいてこのスポーツの可能性を感じてくれていたようなのです。それで、サンエスサービスが運営会社となり前面に立ってチームを発展させていこうと話がまとまったのがちょうど6ヶ月前(※)でした。『一番になるためにはどうしたらいいか』そこから考えていこうと一気にチームが動き出しました。
※2023年2月頃。インタビューは8月下旬

―IPJ 非常にダイナミックなお話しなのですが、実際にそこからここまでの進捗具合、スピード感には目を見はりました

ー橘川GM 「誰かがやらないと前に進まない」これは上層部からもはっきり言われました。なので、前例にないことを今アイスホッケー界で僕たちはやろうとしています。
ベースになっているのは、愛知県の会社(本社:愛知県豊田市)であるサンエスサービスとしての考え方です。弊社は東海地区を中心に大手企業様と取引いただいて人材サービスを手がけているのですが、「自分たちの未来は自分たちで作る」というコンセプトの会社です。なので、やっぱり自分たちで未来を作りに行く事業を手がけていきたいと考えています。
例えば、試合会場で音楽がないよね、寂しいよねと考えたら誰かが機材を買って始めてみるとか。そうやってアクションする人がいなければ、このアイスホッケーという業界は変わらない。なので、私達はこの地域のリーダーになっていきたいと思っています。「何かやらなきゃいけないなら俺たちがやろう」。これがオルクスの基本的な考え方です。この愛知、名古屋にアイスホッケー文化を根付かせたい、という思いがベースにあります。

―IPJ まずは全日本(A)が目標とうかがいましたが、中長期的にはプロチームとしての興業といいますか、演出面も担っていこう、と?

ー橘川GM そうですね。そこはバスケットボールBリーグのような雰囲気というか、その方向性を狙って模索していきます。その時にはホームリンクをどこに置くかといった話合いにもなると思うのですが、いま愛知県アイスホッケー連盟の理事の方々ともお話を進めさせていただいています。愛知県アイスホッケー連盟理事長にもご挨拶するなかで自分たちの構想をきっちりと伝え、「将来的に興行も含めたアイスホッケーを盛り上げる取組みということをどんどんやっていきたい」とお話しして賛同いただいている状態です。

―IPJ 発展を目指している姿勢がうかがえます。いっぽうで選手の雇用形態と言いますか、どのような形でチームを維持していくのかその構想をうかがえますか?

ー橘川GM 「スポーツに対して本物の愛情があるやり方、これは持続可能なチーム作りにおいて非常に重要な戦略である」と、上層部も含め私たちは共有しています。基本となるのはデュアルキャリアの考え方です。
たとえば興行収益を得るために、野球やサッカーは3万から5万人のチケットが1試合で売れますよね。だからプロの金額もそれなりのお金が払えると思うのです。でも、アイスホッケーの現実は、そうではないというのが正直なところだと思います。選手はプロ契約してほしい、というのが本音であり理想だというのは分かっています。でもいまのアイスホッケー界の現実とはかけ離れている。
我々が目指す方向性は、まずは東海地区の地場の50社100社のスポンサーさんに選手が就職してその会社が応援してくれて毎回4、5人、試合に足を運んでくれる、と。それだけでもアリーナは埋まっていくんですね。そういう、自分たちにできることを一歩ずつ積み上げていくことで、ともにこの名古屋の地に新しいスポーツチームを作り、新しいアイスホッケーのあり方を作る。そういう風に繋がっていくと考えています。

インタビュー用のスポンサーボードにはすでに多くのスポンサー企業名が並ぶ

―IPJ チームをまずは地域に根付かせる、ことが大事だということですか?

ー橘川GM そうですね。サンエスサービスは愛知県の会社なので、やっぱり着実に行くという文化。トヨタ自動車をはじめとする自動車の街なので、非常に手堅い文化があるんですね、愛知・名古屋は。なので、やっぱりしっかりと足元を固めて、選手の生活をまず固めて、企業に勤めて選手も努力していく。
そしてチームが育つにつれてたくさんの選手が集まってくれるようになる。そこからまたチームとしての実績を積むこと、実績のある選手を集めること。それがいろいろなリーグに参戦する条件だと我々は思っているので、その基礎固めを急ぎ目に進めているのが、今のサンエスオルクスのブランディングだと捉えていただけたら良いと考えています。

チーム理念に賛同する企業を集め、地域とともに前進する

前回(上)の原稿でも触れたが、現在サンエスオルクスの選手たち(※)はチームスポンサーとして支援してくれている愛知・名古屋圏の有力企業の正社員として雇用され、働きながらアイスホッケーをプレーしている。 ※一部選手をのぞく

オルクスでは、財務状況もよくアイスホッケー競技に対してのチーム理念に共感してもらっている企業を中心に声を掛け、各社3、4名を正社員として採用してもらっているそうだ。すでに8月の時点でスポンサー8社のスポンサードが決まっていたが、その後2社増えて今は10社からのスポンサードが決まっている状況とのこと。10社で各3名を正社員採用なら30名。それだけでもトップチームを作るには充分な選手が抱えられる計算となる。

「将来的には発展してプロになるかもしれませんし、実業団チームとして続けるかもしれません。そのあたりは可能性の部分ではありますが、それらの条件も理解していただけたスポンサー企業をいま、名古屋圏で集めています。とはいえ、この形態は双方にメリットがないと駄目です。きちんと各業種を分けたスポンサーさんを募って希望とする会社に入りデュアルキャリアで選手は頑張る、そして選手生活を全うしたあとにはそのスポンサー企業さんで続けて勤務してさらなる恩返しをしていく。そんな風なお互いにメリットのある形ができれば良いと考え、いろいろとお願いに回っているところです」(橘川GM)

GKにはカザフスタンU-18経験のある25歳、Nikita Ustinovich(ニキータ)選手が加わった

サンエスオルクスは『アジアリーグアイスホッケー』に参戦するのか?

そして、アイスホッケーファンとしては一番気になるのが『サンエスオルクスはアジアリーグに加盟申請するのか』という点だ。
釧路・ひがし北海道クレインズが立ちゆかなくなり、北海道ワイルズもまだアジアリーグ加入を認められていないことで、アジアリーグのチーム数は今季6⇒5に減少してしまった。その穴をサンエスオルクスが埋めてくれる存在になるのか? その点について直撃すると実に堅実な答えが返ってきた。

―IPJ あくまでファン目線での質問ですが、来季アジアリーグに参入し盛り上げてもらいたいという期待があります。多くのファンから「アジアリーグのピンチを救ってもらいたい」という意見があるのを目にしました

ー橘川GM その質問のお答えとして、今時点で、我々がアジアリーグに参戦してリーグを救えるかどうかについてですが、「救えない」と考えています。これは我々が参入したからといって同じことが起きる。急速にアジアリーグの観客数が増えるとは思わないし、試合数こそ維持することできるかもしれませんが、アイスホッケー界にとってプラスになるかと問われれば、それは焼け石に水を注いでいるのと同じ状態になるのではと感じています。現状、名古屋での土台がない中で、オルクスが他県に遠征したときに魅力的なチームかどうか、そして各チームの興行数値が上がるか、と問われればビジネスとしては上がらない確率の方が大きい。
なので、アイスホッケーファンの方に対する誠意として、「まずは僕たちに時間をください」というのが一番のメッセージです。

―IPJ 非常に冷静なご意見ですね

ー橘川GM はい、現状の状況を判断していくとそういうお答えにならざるを得ないです。また、我々はデュアルキャリアをベースとしてチームを構築しようとしています。デュアルキャリアというのは選手が地域に生き、地域の会社で貢献して、地域でのアイスホッケーで感動を与え、地域の皆さんに喜んでいただく、という形です。それらが我々の描く本来あるべき姿なので。今後の取り組みによって、我々が手がけた先の道筋がどうなるかはわかりませんが、我々のチームの方針に賛同してもらえるのであれば、私たちはアイスホッケー界のためにやれることをやりたいと思っています。
しかし、今の現時点で申し上げられる部分はここまでです。

―IPJ なるほど。まだ明言できる状態ではないということは理解しました

ー橘川GM 先ほども申し上げた通り、全日本選手権が終わってみないと我々も何とも言えないというのが正直なところです。ただ、我々は将来どんな形になるのであれ、まずは自分たちの基礎となるものを作ろう、と話し合っています。やはりそれは今のトップリーグで戦うプロの選手たちに対する敬意も含めて、「きちんとしたチームでなければ全日本の舞台に立ったらいけない」という運営会社としての理念のもと、まずは実業団で日本のベスト8、ベスト4、そしてチャンピオンを目指していくチーム作りをしようと。
今年実業団で戦うなかで1年で全日本選手権(A)の舞台まで必ず行くという目標からスタートして、そこはブレていません。

―IPJ 堅実にチーム構築を進めていこうという意思を感じます

ー橘川GM 立ち上げからこのスピード感で来ているので、落ち着いたところでいちどアイスホッケー業界を俯瞰して見る必要があるとは思っています。先ほど申し上げた通り、選手のキャリアがかかっていますので、いわゆる焼け石に水の状態ではその意思決定はできない。でもいずれは、我々サンエスオルクスはアイスホッケー界の頂点に立ちたい。そして牽引したいという夢はあります。どんな形になるかはまだわかりませんがチャレンジを続けていきます。

慎重な話しぶりではあったが橘川GMに話を聞くなかで記者が感じたのは、オルクスがこれらの取り組みを進める中で、いずれ選手が集まって層が厚くなり東海地区での地盤ができたところでトップリーグ(アジアリーグ)への参戦を検討することは間違いないのではないか? ということだ。次のアジアリーグ加入申し込みデッドライン2023年12月末では申請をする可能性は低そうではあるが、将来的にはその方向性であろうことは行間から垣間見えた。

ファンから熱い声援が飛びかう会場。深夜の激戦に可能性を感じた

中日ウィングスとの試合での様子。深夜にもかかわらず多くの観客がつめかけた

サンエスオルクスが取り組みをはじめて8カ月が過ぎたが、チームの取材を続ける中でその熱が徐々に名古屋に広がっているのでは? と感じた瞬間があった。
深夜22時台の試合開始にもかかわらず、対中日ウィングス戦、またTEAM TORSPO戦は邦和みなとスポーツ&カルチャーの客席が埋まり、見た目で350~400名ものファンが熱戦に声援を送っていたのだ。ちなみに後者の試合では観客席にアジアリーグの武田チェアマンが観客席にいることも確認された。

梅野キャプテンは「名古屋の熱さ」に良い意味で驚かされたという

この盛り上がりにはオルクスの梅野宏愛(ひろよし)現キャプテンも「名古屋がこんなにアイスホッケーに熱いところだとは、実際に体験して驚きました。選手としてとても嬉しいし、ありがたいことだと思っています」と話し、驚きと喜びを隠さなかった。

地元出身の牧選手(右から2人目)は「目指せるところまで突っ走ろう」と気迫充分だ

また愛知学院大出身で前のチームから引き続きプレーをしている前キャプテンの牧は、記事冒頭の話し合いをきっかけにしてドラスティックにチームが変化していくのを目の当たりにした1人。これには「やっぱりなかなか経験できることではないですので非常にやりがいがありますね」と牧は語る。
「私も最初は不安半分、楽しみ半分という心境だったのですが、サンエスオルクスが名古屋の地で先駆け的な存在になれればと今は強く考えるようになりました。名古屋というとやはりフィギュアスケートが強い土地柄ですが、名古屋も含めて西日本にはプロのチームはまだないので、今の環境と皆さんの応援、選手の頑張り……目指せるところまで突っ走ろう、と思ってチームメイトとともに頑張っています」(牧)

サンエスオルクスが強化されることによってリーグに刺激が加わり、他のチームにも今後また前向きな動きが出てくればより一層の盛り上がりを見せるのではとも感じた、名古屋のアイスホッケーでの可能性が垣間見えた2試合だった。

次回(下)の原稿では、サンエスオルクスが将来目指す東海地区・名古屋圏でのチームと地域との連携、またより大きな構想についても話をうかがったのでご紹介したいと考えている。トップチームの強化だけではとどまらない、より広がりを考えた地域でのスポーツのあり方などにも運営会社としていろいろな考えがあるようだ。ぜひそのあたりをお伝えできればと思っている。

(下)につづく

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