日本はリスペクトに値するチームだった
デンマーク人記者、Morten Munk Jensen氏による日本代表評

デンマークとのゲームでは60分で2-2。あと少しで前回五輪出場国に勝てるところだった

文・写真/アイスプレスジャパン編集部

 デンマークが優勝し2026冬季五輪出場権を獲得して幕を閉じた最終予選。開催国・デンマークがオリンピックを決めて歓喜に沸くかたわら、冷静に試合を見ていた記者がいる。デンマークリーグ「Metal Liga」で長年取材を続けているMorten Munk Jensen氏に、日本チームについての寄稿をお願いしたところ快諾をいただいた。彼は福藤豊、梁取慎也両選手が2014-15シーズンにデンマークリーグのエスビャー・エナジー(Esbjerg Energy)に在籍していた時も番記者としてチームの取材を行っていた。
 今回、デンマーク人の彼が日本代表に見たものはなんだったのか? ぜひお読みいただきたい

ーー以下、Morten Munk Jensen氏による寄稿

デンマーク人とスポーツ紙記者を驚かせた日本チーム

 日本代表が2026年にイタリアで開催されるオリンピックの出場権を獲得できなかったことは事実だ。
しかし、日本代表がデンマーク人と大会に駆けつけた全スポーツ記者に大きな印象を残したことは間違いない。3つの可能性のうち3回とも、我々の紙面上ではアンダードッグ(劣勢)と見なされた日本代表が、ヨーロッパの3つの対戦相手を驚かせることに成功したのだ。ノルウェー、デンマーク、イギリスだ。これらの結果は、デンマークの観客とデンマーク国内外のスポーツ紙の双方に共鳴と強い印象を与えた。ノルウェーのスポーツ紙によると、ノルウェーにとって日本戦は、「彼らが試合前に想像していたほど簡単にはいかなかった」と述べている。ノルウェーは日本相手に2点のビハインドを負わなかったのは少しラッキーだったのかもしれない。

 そして、最終戦の相手であるイギリスが第1ピリオドですでに3-0と日本からリードを奪ったとき、おそらく彼らも多かれ少なかれ試合は決まったと思っていただろう。しかし、日本は第2ピリオド、第3ピリオドともに鋭い攻撃を見せてイギリスを追いたて、最終的には2-3とイギリスを限界まで追い詰めた。  
 イギリス戦の前、日本対デンマーク戦では、60分間の同点劇のすえに延長で勝ち点1を獲得した。日本はヒロイックで模範的なディフェンスの努力のすえに見事に勝ち点1を獲得したのだ。
 延長戦の後半にデンマークが試合を決めるまで、佐藤優と日本が勝点2を取るのを阻んだのはポストだけだった。日本はデンマークリーグのクラブチーム、ヘアニング・ブルーフォックスとのテストマッチに3-8という大差で敗れていながらも、その週末にデンマーク代表との延長戦に持ち込むことに成功したのだ。
 この試合は、デンマークのスポーツ紙とアリーナにいたデンマークの観客の双方から大きな尊敬を集めた。

日本は結果以外に失望すべき点は見当たらない

NHLで活躍するLars ELLERのシュートに最後は仕留められたものの、
日本はデンマーク戦で高いパフォーマンスを見せた

 大会後、日本代表の福藤豊は、日本チームのメンバーは大会でのパフォーマンスに失望していると述べた。しかし、日本人は結果以外に失望すべき点は見当たらない、と私は胸に手を当てて言うことができる。指をあと1本、岩場に引っかけることが出来たら、その岩場の上に自らを引き上げることができたのだ。イギリス戦の第1ピリオドだけは納得できる内容ではなかったものの、それを除けば、日本代表は非常に認められるべき内容で大会を過ごした。

 日本代表が優勝できたかどうかはわからない。
 ただ、接戦を3試合経験した今大会で、日本代表は勝点1よりももっと勝点を伸ばすことができたと考える。それくらいの内容の戦いを繰り広げていたことは私のみならず、デンマークの多くのファンが感じていることだと思う。
(寄稿ここまで)

Morten munk-Jemsen氏:
デンマークリーグ1部「エスビャー・エナジー」の番記者を長年つとめる。
生まれ故郷でもあるエスビャーの新聞はじめ各メディアに寄稿している

「感動、善戦」の壁を打ち破り、その先へ進む時が来た

 もう少し厳しい論評も覚悟はしていたが、Morten氏のレポートはおおむね日本に好意的な評価だった。それはやはり前評判以上の試合内容を日本代表が繰り広げてくれたことに尽きる。
 デンマークのサポーターは試合後に「ジャパン」コールでゴール裏全体から日本の健闘をねぎらってくれた。それだけ日本の戦いぶりが相手側から見ても感動を呼ぶものだったことは間違いない。

今大会3試合すべてで日本のゴールを守った成澤優太選手。
デンマーク戦終了時にはそのプレーを称える声が戦った相手からも送られた

 しかしながら3試合ともに白星にはあと一歩届かなかったという事実は厳然として存在する。
あくまで今回の結果は勝点1こそ奪ったものの、0勝3敗。ここで納得してはいけないし、良かれと思っている選手は1人もいない。平野裕志朗選手は試合後「アイスホッケーの面でも気持ちの面でも良いところ悪いところが出てきたと思うので、そこの部分を見直して大会を積み重ね、今シーズン終わりの世界選手権Div-IAに向けてしっかり準備しないといけない」と振り返ったあと、さらに言葉を繋いだ。

「日本は間違いなくトップディビジョンを目指せるチームになっていると思う。ただこの結果を見て、そう思うだけでは良くないと思いますし、日本のアイスホッケーはここから何をしていくべきかという点が分かっていない。そこをしっかりみんなで見つけて、選手だけではなく、支えていただいているみなさんもそうですけれども、『どこを目指すか』という部分をしっかり共有してしっかり行動に移していかなければいけないと思っています」(平野)

 日本代表としてはまず来年5月に予定されている世界選手権Div-IA(2部相当)で2位以内に入り、未だかつて自力では上がったことのないトップディビジョン(1部)昇格を果たすことが大目標となる。また日程はまだ未確定だが今年中にはIIHFによる新大会・アジアカップが開催されるという情報もある。
 そこで好成績を挙げるためには、強化委員会が今大会の内容を分析したうえでより時代に即した強化策を打っていく必要がある。そしてその内容はある程度オープンにして議論してもらいたいと願う。日本代表がどんなチームを目指しているのか、現時点の目標は何なのか、それらを多くの指導者が共有することは日本の目指すスタイルにあった選手育成を可能にし、ジュニア世代からのタレント発掘や底上げに繋がるからだ。

 そのあたりにぜひ早急に着手し、日本代表の新しい道を切り拓いてほしいと強化本部には強くお願いし、この項の結びとしたい。

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