サンエスオルクス初となる「有料エキシビジョン」は北海道ワイルズとのマッチアップ

取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部

12/16(土)@邦和みなとスポーツ&カルチャー 観衆:512人(主催者発表)
サンエスオルクス 1(0−2、0−6、1−1)9 北海道ワイルズ
ゴール(※):【オルクス】土屋 【ワイルズ】矢野×2、山崎、池田、青山×2、荒木×2、寺尾
GK:【オルクス】 石川→丹治 【ワイルズ】イ・ジャンミン→磯部

※ゴールは手元集計のため参考記録

サンエスオルクスが全日本ベスト4の北海道ワイルズと名古屋で対戦した

全日本選手権(A)で準決勝進出≒全国ベスト4を果たした北海道ワイルズを招待し、サンエスオルクスのホームゲームとしてエキシビジョンゲームが開催された。今春に新チームとして発進(※)してまだ1年にも満たない愛知・名古屋のサンエスオルクスだが、その勢いが続いていることを感じさせる試合だった。
(※正確にはチーム再編成)

この試合を観戦すべく、会場の邦和みなとスポーツ&カルチャーのリンク前には会場1時間前から行列、地元の雄がトップリーグレベルのチームと対決する試合を今かと今かと来場者は待ち望んでいる様子だった。

試合前に記者へ笑顔で声を掛けてくれたのはワイルズの齊藤毅監督。
「観客席をぜひ写真に写してください。名古屋すごいですね。もうぎっしり立ち見も埋まっていますから」との声に、観客席に目を見やるとリンクサイドの観客席はすでに端から端までファンでびっしり。立見も含めてあっという間に席が埋まった様子は壮観だった。
形式的にはエキシビジョンゲームとはいえ、チケットを発売しての有料試合であることを加味するとこの盛り上がりには驚くほどで、愛知県のホッケーシーンにおけるサンエスオルクスへの期待の高さ、またアイスホッケーファンの熱の高まりを会場の雰囲気から感じることができた。

有料でのエキシビションだったが観客席は早々に埋まった

ホームのサンエスオルクスは、この試合に向けてDJブースを用意。また照明と音響の機材を入れて光と音でのショーアップの要素も盛り込まれるなか、試合開始直前には北海道ワイルズの選手には中日クラブ所属の子どもたちが、またオルクスの選手には名古屋サウスクラブの所属の子どもたちがエスコートキッズとして選手とともにリンクに登場。子どもたちが大きな選手たちの姿に目を輝かせながらハイタッチを交わす姿はとても可愛らしく、また微笑ましい光景だった。

地元のホッケープレイヤーの子どもたちがエスコートキッズとしてリンクに

エキシビジョンゲームは20時35分に試合開始。正規20分×3ピリオド、インターバルは15分、とほぼ全国大会の公式戦仕様で試合は行われた。

地元開催で奮闘するオルクス。しかしその守りをワイルズが個人技で崩す

先月に行われた愛知県選抜vs北海道ワイルズの試合では、滋賀遠征組とほぼチームを2分割する10名程度で遠征してきたワイルズだが、この日はGK2人、プレイヤー14名の計16名。大津夕聖、上野鉄平は帯同せず。大津晃介(おおつ こうすけ)キャプテンは会場には姿を見せたものの、リンクサイドからの観戦となった。

いっぽうオルクスは、ベストメンバーで挑みGK2人、プレイヤー18人の計20人で試合に挑んだ。

試合序盤、オルクスの選手たちの動きが良く、両チームともお互いに攻め合ってチャンスをうかがう展開。オルクスの攻勢から一気に反撃に転じたときのワイルズの攻めの鋭さはさすがだったが、オルクスGKの石川駿介(いしかわ しゅんすけ)がスーパーセーブを連続してオルクスも段々とリズムをつかんでいく。お互いの速い動きに観客席のファンも試合に引き込まれていったようで、良いプレーが出るたびに歓声と大きな拍手が会場にこだましていった。

GK石川が奮闘し、序盤オルクスがリズムを作った

特にリンクのコーナーに陣取った黄色いユニフォーム、サウスクラブ所属の子どもたちは選手たちのプレーが織りなす迫力にがっしりと気持ちをつかまれていた様子。友達同士大きな声で驚いたり、応援の声を選手に掛けたりするなどして思い思いに試合を楽しむ姿はここ名古屋で試合が行われた意義の1つを感じさせるものだった。

間近で繰り広げられるトップ選手の迫力あるプレーに驚く子どもたち

そんな子どもたちの目の前で、最初にトップ選手としての技術を披露したのがワイルズ矢野竜一朗(やの りょういちろう)。第1ピリオド16:09に、DFにぴったりマークをされながらもゴール左サイドの角度のないところからスティックを一閃すると、パックが見事にゴールを捉えてこれが先制の1点となった。

ワイルズ先制点の瞬間。マークに付かれながらも矢野がシュートを決めた

さらにピリオド終了1分前には、同じようなゴール左の位置から今度は越後智哉(えちご ともや)がゴール前で待ち構える山崎勇輝(やまざき ゆうき)へ絶妙なパス。ここまで集中力良く守ってきたオルクスの選手たちも意表を突かれ、ゴール前フリーになった山崎が着実にパックをゴールへ。これで2-0とワイルズがリードを奪って試合は第2ピリオドへ進んでいった。

2点目につながるラストパスを送るワイルズ越後

第2ピリオド、ワイルズが強さを見せつける一気の6得点

あくまで一般論だが、アジアリーグをはじめとするトップのチームと社会人カテゴリーや学生との大きな差は何なのか?
シュートパワーやスケーティングのスピードなどはさることながら、一番の大きな違いはディフェンスにおける判断の速さと1本のシュートを打たれた後に別のメンバーがそれをカバーする能力、1つ1つのパスやシュートの正確性、そして試合が進んでもスピードも判断力も衰えさせないそのスタミナ面、といった3点。そのあたりにはやはりまだまだ大きな差があると感じている。

オルクス土屋(右)はワイルズから厳しくマークされた

この試合の第2ピリオドはその点の違いが大きく結果として表れた20分間となった。ワイルズは一気に攻勢を強めてこのピリオドだけで6得点を挙げる。

これにはオルクスの梅野宏愛キャプテンも「ひとことで言うと、ワイルズの強さを感じさせられた試合でした。フィジカル面の差もそうですし、ルーズパックに対し必ず先に自分たちが奪う、という執着心の部分など、1つひとつの細かい部分から違いましたし、得点に対する意識というのはやはりワイルズの方が上だったと思います」とまだまだ両チームの間に差があることを認めた。

「点差はついたが、ワイルズといま対戦できたことは次に繋がる」(梅野キャプテン)

いっぽうで第3ピリオド終盤、サンエスオルクスも最後の最後に意地を見せた。

オルクスは17分過ぎにパワープレーのチャンスを得ると、オルクスは自陣からパックをキープしつつ土屋光翼(つちや こうすけ)がリンク左側をハイスピードで駆け上がり、最後はゴール左サイドの隙間からパックをうまくねじ込んでゴール。ワイルズから一矢報いる。

オルクス土屋のゴールシーン

このゴールには最後まで試合を観戦していたファンからも歓声が飛び、地元チームの健闘を喜び合う姿があった。こうやって少しずつでもアイスホッケーの熱をホームタウンに伝え続けることが重要で、この積み重ねがきっといつか結果として表れるはずだ。

土屋のゴールで喜ぶ選手たち

土屋は「クレインズだったころから何回も戦っている相手。どれくらい通用するかも含め苦しい戦いになることは始まる前から分かっていたが、試合開始から自分に対してマークが2人つくなどといった相手の対策に対して第1ピリオドから自分が逆手に取ってコントロールできればもう少し良い戦いにできたのかなとは思う。ただ、ここでこれだけの点差で敗れたことにはみな気が引き締まったし、負けたことで修正点も多く見つかったので、北信越大会にはそのあたりを修正して臨みたい」と語った。

1-9という結果だったが、サンエスオルクスにとって実りの多い試合となった

梅野キャプテンも「0-9でなく1-9で終われたのは大きかった。1点が入ってファンのみなさんが喜び盛り上がれるところを作れたのは次へと繋がっていくと思います」と納得の表情。「愛知県選抜で戦ったとき、ワイルズは8人や9人で戦って、それでも最後まで走りきっていました。今回はメンバーが揃ったことで、セットしてパスを回すといったプレーで余裕も持っているなと感じましたし、安定感があり、対戦相手としては非常にやりづらかったですね。ただこの後の全日本選手権(B)を見据えた戦いを前に強い相手と試合できたことは非常にチームにはプラスだったと思います」(梅野)

この1ゴールは来年の全日本(B)出場を目指すオルクスにとっては次のステージに向けての大きな収穫ともなった。

ファンにあいさつする両チームのメンバー

大きく変わり始めた、愛知・名古屋周辺のアイスホッケーに高まる注目

かつて愛知県では、アジアリーグの前身となる日本リーグ時代から日本ガイシアリーナ(名古屋市南区)やアクアリーナ豊橋(豊橋市)で試合が開催されていた。しかし、アジアリーグ発足以降での記録を見ると2016年12月27日の王子イーグルス(当時)vs日本製紙クレインズ(当時)戦が日本ガイシアリーナでの最後の試合。また2012年11/17&18日に豊橋で王子イーグルス(当時)vs東北フリーブレイズの2連戦が行われたあとは、愛知県では長年にわたりトップリーグの試合は開催されていない。

ただ、この地域に密着する形でトップチームへのステップアップを目指す「サンエスオルクス」という意欲あるチームが現れたことで、名古屋を中心とする愛知県地域のアイスホッケーシーンが大きく変わり、発展の方向に舵を切っていくことは間違いないだろう。我々はその船出をいま目撃しているのかもしれない。

今回、TEAM TORSPOから助っ人として参加した元日本製紙クレインズの全国優勝メンバー、蝦名正博(えびな まさひろ)は久しぶりの後輩たちとの“直接対決”に開口一番「DFとして守るのが仕事なので、攻撃力あるワイルズの選手たちとマッチアップできたのは楽しかった」と笑顔を見せながら「(ワイルズは)先月の愛知県選抜との試合よりも2段階3段階レベルが上がっていた。基礎体力、システム、ホッケーIQすべてにおいて格上だった。お客さんもいっぱい来てくれて、このハイレベルな試合を楽しんでいただけたようで良かった。我々も名古屋のホッケーを盛り上げていきたいですし、まだまだホッケーを見たことのない方にも見に来てほしいですね」と愛知のホッケーの盛り上がりを作っていきたいと語ってくれた。

ワイルズ齊藤(大)と試合後に話をする蝦名(左)

梅野キャプテンはオルクスの存在が名古屋のスポーツ界に新しい話題を提供でき始めているのではないか、という思いも口にしながら「スタンドも満席になって、懸命に応援してもらって本当に有り難かった。今後もこの雰囲気を続けていかないといけないし、少しでも良い試合を見せていくことが僕たちの使命だと改めて感じました」と決意を新たにしていた。
FW山本健太郎はこの試合の意義について、「今回これだけ多くの応援を受けながら試合ができたことは、この地域でのアイスホッケーへの普及と発展に少しは力となれたのかなと思っています。来てくれたファンのみなさんには感謝のひと言しかない。人生の中でも記憶に残るいい試合だったと思います」とこの“節目”の試合を振り返る。

試合後には氷上交流会も行われ、訪れたファンにとっては嬉しい時間となった


有料でありながら観客席が満員になったという事実も含めて、サンエスオルクスがこの愛知・名古屋の地に播いた「アイスホッケー文化を創りあげる」という種がどう芽を出し、大きな木となって花を咲かせるか? サンエスオルクスと彼らが繰り広げる様々な施策は、来年2024年もアイスホッケーシーンを盛り上げる注目の存在であることは間違いない。

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