ウワサの新チーム、名古屋「サンエスオルクス」が目指すものとは?(上)
取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部
アイスホッケー界に強烈な新風を吹かせるチームが誕生するのか?
このごろ明るい話題の少なかった日本の男子アイスホッケー。しかし、関係者やファンの間で「愛知県に本気でトップリーグ参入を目指すチームの構想があるらしい」とのウワサが2023年の春先から流れ始めた。
そんななか2023年3月下旬にInstagramにて名古屋を拠点とする「サンエスオルクス」がチーム発足(正確には再編成)を宣言。
まずはSNSを通じてチーム理念としてのMission「感動のあるアイスホッケーを。スポーツ界の先頭へ」、Vision「日本のアイスホッケーをメジャースポーツへ」といった言葉をInstagramで公開した。
さらにその後もInstagramでは積極的に情報が発信され、7/14には入団トライアウトを行うことを発表。その時期はクレインズ-ワイルズのアジアリーグへの加盟問題が取り沙汰されていたこともあり、「救世主的に、サンエスオルクスが近日中にアジアリーグに参加するのでは?」といった憶測もファン・関係者の間で広がった。
サンエスオルクスのInstagram>https://www.instagram.com/sanesu_orques/
日本リーグ時代からの歴史を踏まえても男子のトップチームが存在しなかった愛知・東海地方に新しいチームができるのは大きなことであり、またアイスホッケー全体を考えてもプラスとなることは間違いない。
そういう意味でアイスプレスジャパン(以下IPJ)としても非常に「サンエスオルクス」の動向には注目していたが、このたびそのキーマンに取材をすることがかなった。
現時点での「サンエスオルクス」の現状と今後に向けてのロードマップをじっくりうかがってきたので、ぜひその内容を複数回にわたってご紹介したい。
愛知・名古屋を拠点に新しいアイスホッケー文化を創る
IPJが取材に訪れた8/25は折しも令和5年度愛知県アイスホッケー競技会のA/Bプール入れ替え戦の日だった。
新幹線名古屋駅から地下鉄でおよそ20分。愛知県名古屋市港区にある邦和みなとスポーツ&カルチャーというスポーツ複合施設にあるアイススケートリンクでその入れ替え戦が行われた。邦和スポーツランド、という名称のほうがなじみのある読者も多いだろう。
ご存じのとおり、愛知は浅田真央さんを筆頭に数多くのフィギュアスケート選手を輩出してきたフィギュア王国。この邦和みなとスポーツ&カルチャーのリンクからも数多くのフィギュア選手が生み出されており、直前の枠でもフィギュアスケートのレッスンが行われていた。
むかえた深夜22時、ここからはアイスホッケーの試合の時間だ。Bプールで優勝を果たしていたサンエスオルクスはこの試合で中日クラブと対戦。この試合の勝利チームが次のAプールで戦うこととなる。
わずか半年で一気にチーム強化。元横浜グリッツの梅野、土屋も新天地へ
練習を経て試合開始は22時27分だった。
およそ80名の熱心な両チームのファンが見守るなか、試合は序盤から動く。第1ピリオド3分16秒に佐野靖也選手が決めてサンエスオルクスが先制すると、その後はオルクスのゴールラッシュ。
第1ピリオドに計5点を挙げて試合の主導権を握ると、その後もオルクスは手を緩めることなく第2ピリオドに4点、第3ピリオドには猛攻で11点を加え最終的には20-1で完勝し、愛知県アイスホッケーのAプール昇格を決めた。
この試合にディフェンスマンとして「A」マークを胸に活躍を見せたのが、サンエスオルクスの橘川弘樹選手兼ジェネラルマネージャー(GM)。この橘川GMが、サンエスオルクスが社会人チームとしてより大きなステージを目指すきっかけを作った人物だ。そのあたりの経緯は試合後にも話を聞くことができたのでまた項を改めて(中)以降でご紹介する。
愛知県Aプールに昇格。直近の目標は全日本選手権(A)出場
名古屋と言えばやはり名古屋城のてっぺんに輝く金シャチが有名でありシンボル。
「オルクス」とはその金シャチにあやかって名付けられたチーム名だ。サンエスオルクスは愛知そして名古屋の社会人チームとしてより高いステージを目指すこととなった。
まず、直近の目標としてオルクスが掲げたのが、「愛知県リーグのAプールで優勝して関東北信越大会に進出、そこでさらに勝ち上がって1年で全日本選手権(A)出場を果たす」というもの。そのため、それを見越しすでに選手層の強化に着手している。
この日の試合には、昨シーズン横浜グリッツに所属した梅野宏愛と土屋光翼がオルクスの一員としてプレー。2人ともに豊富なトップリーグ経験を存分に生かし、スピード感にあふれたプレーを見せ持ち味を存分に発揮していた。
試合後に梅野選手に話を聞いた。
-IPJ この試合でAプール昇格ですね
-梅野 Aに上がることはできましたが、ここからもっと強い相手と戦うことになるので、みんなで力を合わせて1勝1勝を積み上げていきます
-IPJ オルクスに移籍した理由は?
-梅野 プロ経験が長いぶん、そういったプロとしての意識をチームに浸透させる役を期待されていると思いますし、オルクスも1からの立ち上げになるので過去の経験が活かせると考えました。学生時代から『アイスホッケーのプロの世界で戦うぞ』という思いでここまで来て、横浜グリッツでトップリーグを経験した……、そこに自分の存在意義があるとも感じています。名古屋というまだまだアイスホッケーが盛んでない地域でこういうチームが立ち上がることに関して、僕自身が力になりたいと考えたのがここに来た決め手の1つですね
この日の試合では6ゴール1アシストと大暴れした山本健太郎選手にも話を聞くことができた。山本選手はGM補佐も務める。その彼にここまでのチーム構築の進捗状況を聞くとこんな言葉が返ってきた。
-山本 最初は選手数も少なかったなかで勝っていくというのは非常に難しかったですが、いま、こうやってチームを見るとAプールでも勝てる準備が着々とできていると感じます。まだまだ合流していない選手もいますので、その選手とともに日本一を目指して頑張っていきたいと思います。
-IPJ 全日本(A)を目指してチーム作りはかなり急ピッチですね
-山本 正直自分もここまで速いスピードで選手が集まったことには驚いています。選手もみなアイスホッケーが好きで『アイスホッケー界を変えたい』と思って集まって来ていると思うのでその気持ちをリスペクトしながら一つ一つのステップを踏んでいきたいと思います。
-IPJ 成績以外での目標は?
-山本 まずは1人でも多くアイスホッケーを知ってもらうことが大事だと思っています。コツコツと地道なことですが、SNSやチームブランディングなどすべてをしっかりと進めていきながら、この地域の方々に愛してもらえるようなチームを作っていきたいと考えています。
本当にゼロから1を作る仕事なので色々な人が集まってきてもらえるので、チーム作りはとてもやりがいがありますし、アイスホッケーって本当に楽しいなと感じて充実しています。
掲げるのは『地域に根付いた形のデュアルキャリア』
オルクスの運営会社であるサンエスサービス株式会社は愛知県豊田市に本社を構える人材総合サービス企業で、東海地方の大手自動車メーカーへの派遣業務などを手がけている。
そしてオルクスの選手については派遣ではなく正社員としての受け入れ体制がしっかり整っていると橘川GMはいう。同社が東海地方で長く企業経営を続けてきた信頼とネットワークを生かし、複数の地元有力企業からの理解を得てオルクスの選手は各企業の正社員として勤務できる環境が整えられた。
「基本はデュアルキャリアで働き、その企業にしっかり貢献出来る形でプレーを続けられるように。そしてアイスホッケー選手を引退した後も受け入れ企業でしっかりと働き続けることで100%以上の恩返しができる、そんな形を目指しています。すでに理解のある複数の企業から各社3~4名程度を正社員で迎えるという話でまとまっています」(橘川GM)
グリッツから移籍した土屋もその1人。すでに受け入れ先として酒卸業務を営む(株)秋田屋への入社が決まったとのことだ。練習も含めてチーム活動に参加したのは実は今日が初めてだったが、独特のリズム感とスピードにあふれたプレーぶりは健在だった。
-土屋 1からの新しいチームに参画できるのも楽しみですし、プレーと仕事が両方できるデュアルのスタイルを魅力に感じて名古屋に来ることを決断しました。フィギュアができる環境があるということはアイスホッケーもできるわけで、これからたくさん試合が開催できればどんどんアイスホッケーも盛り上がっていくと思います。まだできて間もないチームなので、みんなでトレーニングのやり方も戦術なども共有してどんどんレベルアップしていきたいですし、自分自身、後悔がないようにやりきりたいと思います。
試合後インタビューでは土屋選手はこちらの目を見て力強く語ってくれた。
Aプール初戦9/25には100%の戦力となるようチーム構築はすすむ
橘川GMによれば、現在はチームの基礎となる戦力を造りあげている段階で、大卒を含む新卒選手も現在6名が確定、今後も10名程度まで補強を続けていくとのことだ。
「入れ替え戦時点での補強度合いは60%程度。9/25のAプール初戦には100%の戦力になるように準備を進めています。補強した選手は今後もオルクスのInstagramで発表していきますのでぜひアイスホッケーファンの方には注目していただきたいです」(橘川GM)
チームとしての次戦は、9/25(月)22:15~ 邦和スポーツ&カルチャーで行われる中日ウィングスとのAプールリーグ戦。全6チームで争われるがやはりAプールともなると強豪揃いだ。
「まずは初戦で対戦する中日ウィングスさんが強敵で、いきなり天王山となります。ですが、1年で全日本選手権(A)に出場するという目標を達成するためにもチーム一丸となって勝利をつかみたいと思っています」(橘川GM)
そう語った橘川GMはこの日の試合後ミーティングでチームメイトに現役を引退することを伝え、入替戦勝利を花道にこれからはGM職に集中しチームを前進させると力強く宣言した。
名古屋にスケートの文化を根付かせたい、という壮大な目標を掲げるサンエスオルクス。
未来を切り開く彼らの戦いがこの日、スタートした。(つづく)
(中)では、サンエスオルクスが目指すデュアルキャリアの形について掘り下げるとともに、アイスホッケーファンとしては一番気になる点であろう「アジアリーグ参戦を考えているのか?」について直撃した。
また、オルクスが今後どんなチームを目指し、名古屋にアイスホッケー文化をどう創り上げていくかのグラウンドデザインについても関係者にじっくりと話を聞くことができたのでご紹介したい。取材を通して、その進捗具合によってはアイスホッケー界を大きく変える可能性もありうるチームと感じたことは確かだ。