ついに乗り越えた4強の壁、グリッツ引っ張る「ワイルズ出身」 
上野鉄平と磯部裕次郎が証明した「価値」

ついに初の4強進出を果たした横浜グリッツ。大活躍の磯部(左)と上野が勝利をともに喜び合った

取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵  

 カテゴリを超えて日本一を決めるアイスホッケーの全日本選手権が、18日から長野市のビッグハットで行われている。19日の準々決勝第1試合では、横浜グリッツが11−1で明治大学を下し、チーム史上初の4強進出を決めた。

チーム史上初の4強入りを果たした横浜グリッツ  

 第1ピリオドを1−1の同点で終える展開。流れを変えたのは、加入1年目の23歳、上野鉄平が第2ピリオド10分59秒に決めた決勝弾だった。

「鉄平のゴールから雰囲気が変わった」「鉄平がいいところで決めてくれた」
 快勝後の記者会見では、歴戦の先輩が次々に上野を称えた。端に座った上野は、身長166センチの体をさらに小さくして思わず苦笑いだ。それだけの価値があるゴールだった。武修館高校の同期、FW種市悠人からのパスをゴール前で受け、相手のDFに絡まれながらもバックハンドでシュート。得点後は笑顔を弾けさせた。チームはその後着々と加点。上野は第3ピリオドにもゴールしこの日2得点だ。

 14日に行われたレッドイーグルス北海道との試合で、ようやくアジアリーグ初ゴール。「それまでなかなか点を取れなくて……。そういう中でも結果を求めすぎるのは良くないと思って」。ゴール量産よりも、自分のプレーをできたのが何よりうれしかった。「パックを持つ時間を増やして、ゲームメークしていけたらと思っているんです」。プレッシャーを受けてもパックを守り、ゴールに叩き込む。狙った通りの動きだった。

 今季、東京ワイルズ(XHL)から横浜グリッツに新加入した。アジアリーグにプレーの場を移しても評価は高く、シーズン当初は上位のラインで起用された。「スキルは十分通用する。ただ相手に押し付けられた時のパワーが少し足りなかったかな」と岩本裕司監督。サイズをハンデにしない試みが必要だった。トレーニングを積むのはもちろん、体重が減るのを防ごうと、職場にもお手製のおにぎりを持ち込み口にする。寝る前にも何か口にするのが習慣となった。

 グリッツは昨季の全日本で、東洋大学にPS戦のすえ3−4で敗れた。トップリーグのチームが大学生に敗れるのは15年ぶりという大事件だった。その前年はまだ釧路で活動していた北海道ワイルズに2−5で敗れた。上野と、この日先発マスクを被ったGK磯部裕次郎は、この時北海道ワイルズに在籍していた。旧ひがし北海道クレインズからの選手が集まって結成したものの、アジアリーグへの参戦が叶わず、全日本がシーズン唯一の大舞台。「実力を証明したい」と皆が思っていた。

上野と磯部がワイルズで感じた本気の「ヒリヒリ」

久しぶりの全日本選手権の舞台で上野らしさを発揮した

 上野は当時を「とにかくアジアリーグのチームと対等にやりたいという目標があって。グリッツに勝ってベスト4に行くという気持ちがすごくあった」と振り返る。高校2年夏から続いた北米挑戦に区切りをつけて日本に戻ってきたシーズンで、その真剣さに心が震えた。準決勝でも、東北フリーブレイズにPS戦までもつれ込む好勝負。3−4で敗れたものの「ホッケーをやってきた中で、こういう試合をもっとやりたいなと本当に思ったんです」。再び上を目指そうとする、大きな動機となった。

 自身がワイルズ代表という思いは、今もどこかにある。「ワイルズには日本のトップでやっていた選手も多くて、僕は学んだことが本当に多かったんです。今もワイルズはどこか下に見られるじゃないですか。その中で僕らがアジアリーグに行ってしっかり活躍することで、ワイルズの価値を伝えたい。みんな応援して送り出してくれたので」。

 そしてこの日、グリッツのメンバーに名を連ねたもう1人のワイルズ出身、磯部はシーズン前に提出した今季の目標に「全日本選手権の優勝」を掲げた。この大会で氷に乗るのは、ひがし北海道クレインズに在籍した2022年以来。場所は今回と同じビッグハット、相手はグリッツだった。

勝利後、ファンに向けてこの笑顔を見せる磯部

 1失点でチームを勝利に導き「ワイルズの時は試合に出られなかったので久々の全日本でしたけれども、ワクワク、ヒリヒリする感じは味わえました。チーム史上初のベスト4は果たしたので、あとは勝つだけです」とキッパリ。岩本監督も「自分で決めた目標を実行してくれましたね。磯部は練習から本当に一生懸命やってくれる選手。どこかでチャンスをあげたいと思っていた」と、先発起用に応えてくれたのを喜ぶ。

 ついに乗り越えた4強入りの壁。グリッツにとっては、ここからがチームの新たな歴史だ。「トーナメントを勝ち上がる時には今日の上野のように、3つ目、4つ目のラインの選手が入れてくれるんです。どちらのチームもエース同士というのはなかなか難しいので」と岩本監督。ワイルズで過ごした時間は無駄でなかったと証明し、頂点に近づいていく。

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