15年ぶりのジャイアントキリング……東洋大がPSS戦のすえグリッツ破る
20歳GK田村壱桜の進化「比較してしまっていた」
取材・文・写真/今井豊蔵
第92回全日本選手権(A)大会2日目
12月6日(金) @栃木・日光霧降アイスアリーナ
東洋大学[関東大学1位] 4(1-0、1-3、1-0、OT0-0、PSS1-0)3 横浜グリッツ
ゴール:【東洋】根本、高田、山崎、大久保魁斗(GWS) 【グリッツ】池田、ラウター、杉本
GK:【東洋】田村 【グリッツ】古川
シュート数:【東洋】24(6、8、7、2、1) 【グリッツ】39(9、9、17、4、0)
大学がトップリーグのチームを破るのは2009年の中央大以来
第92回全日本選手権は6日、栃木県日光市の霧降アイスアリーナで2日目を行い、東洋大がPSS戦の末に横浜グリッツに4−3で勝利。初の準決勝進出を果たした。この大会で、大学生がトップリーグのチームを破るのは、2009年の第77回大会で中央大が日光アイスバックスを倒して以来15年ぶり。勝利の立役者となったのは、GK田村壱桜(たむら いっさ・2年)だ。「PSは好きじゃない」と苦笑いする一方で、言葉とは裏腹の好セーブ。日本アイスホッケー史に残る快挙を演出した。
「PS、好きじゃないんです……」
延長残り11秒、フェイスオフの前に東洋大ベンチはタイムアウトを取った。鈴木貴人監督から与えられたのは、パックを奪えば残り時間はキープしてPSS戦へ持ち込むという指示。すなわち、この試合はGKの田村に託すという意思表示だった。
当の田村は「PS、好きじゃないんです……」と苦笑いする。ただ言葉とは裏腹に、1対1の勝負で見せたセービングは見事なものだった。1番手のFWアレックス・ラウターにこそ決められたものの2番手から3人をピシャリ。その間に東洋大は3人全てが成功させ、勝利が決まった。
ガッツポーズする田村に向かって選手たちが殺到した。長い歴史を誇る大会でも、学生がトップリーグのチームを倒したのは今回を含めてわずか3例目だ。スタンドのどよめきは、なかなか収まらなかった。田村は「単純にうれしいというのと、あとは東洋の(4強進出は)史上初だったので。チームが掲げていた目標を達成できたのは良かったです」。
ただベンチから引き上げる時だけは「サイコーだ!!」。静かに喜びを爆発させた。
GKのポジションはチームに1つだけ。「自分のプレーをすることにフォーカスして」
1年間の成長を詰め込んだ試合だった。昨冬のインカレで東洋大は優勝したものの、田村はベンチにも入れないという悔しさを味わった。
「本当に悔しくて。東洋は優勝したけれど、全く自分に納得できなかった」。他のポジションとは異なり、GKにポジションは1つしかない。昨季までの主戦GKだった佐藤永基は卒業しレッドイーグルス北海道入り。ポジションを奪うには今しかないと心に決めて、春のシーズンを迎えた。
「去年は試合に出させてもらうことがあっても、(佐藤)永基さんの後とか。どうしても比較してしまっていたんです。周りを気にせず、自分のプレーをすることにフォーカスして……」。
敵は自分と見定めてシーズンを送ると、才能は徐々に花開いた。鈴木監督も「もともとポテンシャルは高いのに、昨季は苦しんだシーズン。今季にかける思いは強かっただろうし、試合を重ねることに成長してくれた」と、すっかり主戦の座をつかんだ田村に目を細める。
日光出身の田村にとっては地元での大舞台だ。
「自分もそうですけど、周りの人が喜んでくれるのが良かった。大会が日光であると決まった時からワクワクしていました」。準決勝では、ここを本拠地にする日光アイスバックスと対戦する。「憧れたチームですし、バックスの応援の中で試合をできるのは楽しみ。僕の応援ではないんですけどね」。
監督は準決勝での「先発・田村壱桜」を予告。アイスバックス大塚との”ISSA対決”なるか?
鈴木監督は、準決勝でも田村を先発起用すると予告。同い年で、こちらも日光出身のGK大塚一佐(おおつか いっさ)との対決が叶うか注目だ。
鈴木監督は、中央大に敗れた15年前の日光アイスバックスでキャプテンを務めていた。その経験も踏まえて「アイスホッケーはメンタルスポーツだなと改めて思いました。プレッシャーがかかるのはもちろんプロチームです。ただ強い弱いで勝負が決まるのではなく、会場の雰囲気もある。この勝利も、学生には大きなヒントになる。アイスホッケー界にもいいメッセージになる」。
大仕事を成し遂げた田村が、次戦で見せるパフォーマンスからも目が離せない。