【全日本選手権】初日PickUP GAME②:日本製鉄IH部室蘭スティーラーズ、延長に沈むも、激戦で見せた矜恃

阿部キャプテンのこの日2ゴール目で4-2。勝利をグッと引きつけたかに見えた室蘭スティーラーズだったが……

取材・文/アイスプレスジャパン編集部 写真/編集部

初日最も僅差の激戦となった室蘭スティーラーズ vs 明治大学を振り返る

 日光で開幕した第92回全日本選手権(A)。12/5(木)の初日、PickUP Gameの2つ目は第4試合日本製鉄室蘭アイスホッケー部スティーラーズ(以下、室蘭スティーラーズ)と明治大学との試合をご紹介する。この日最後の試合はお互いに相譲らない激戦となり、最後の最後までどちらが勝利するか分からない、まさしくアイスホッケーの面白さが詰まった好ゲームとなった。試合後、両チームの選手から聞いたことばをもとに、この激戦を振り返りたい。

第92回全日本選手権(A)初日
12月5日(木) @栃木・日光霧降アイスアリーナ
明治大学[関東大学3位] 6(3-1、0-0、0-2、OT1-0)3 日本製鉄室蘭IH部スティーラーズ[社会人2位]
ゴール:【明治】天明、佐々木、木戸、大竹、小桑 【室蘭】阿部x2、嶋野、中村
GK:【明治】渡邊 【室蘭】山口
シュート数:【明治】36(8、10、16、2) 【室蘭】35(15、12、7、1)
 

「うちはうちのホッケーでやっていこう、という点では大学生に負けないプレーはできたとは思っています。でも最後明治さんの方がすごく足も動いていたし、ゴールに向かう執念というのは、向こうの方が上だったかな、と。そこを最後まで諦めないでそういうプレーをウチがやっていれば、結果的に勝てた試合だったとも思います」。
 延長にまでもつれ込んだ激戦について聞かれ、室蘭スティーラーズの阿部魁キャプテンはこう言葉を絞り出す。心の底から湧き出てくる悔しさとそれでもやりきったという充実感とがない混ぜになった複雑な気持ちでいることが見て取れた。阿部キャプテン自身、1-1の同点に追いつくゴール、そして一時は4-2とリードするゴールを鮮やかに決めた。それだけに、2点をリードして迎えた第3ピリオド残り5分を切り、気持ちの面で守りに入ってしまったことで「勝ちきることが出来なかった」(阿部キャプテン)ことを悔やんだ。

1点目を決めてファンの声援に応える室蘭スティーラーズ、阿部キャプテン

 試合はまさに一進一退。明治が先行すれば室蘭スティーラーズが追いつく展開。スタンドに駆けつけた両者のファンもまさに手に汗握って固唾をのんで見守る気持ちだったろう。学生らしくチャレンジャーとしてぶつかる明治大。その動きは勢いにあふれ、何度もラッシュを掛けて相手ゴールに迫る姿は迫力満点だった。
 そんな明治大の勢いに対して、室蘭スティーラーズはやはりこの選手が最後の砦となってたちはだかかった。“北の守り神”GK山口連が明治大の攻撃の波をことごとく跳ね返す。何度も身を挺してシュートを止める姿に仲間たちも鼓舞される。山口のプレーに力を得るかのように室蘭スティーラーズのプレーヤーは活力ある動きを取り戻し、そこから反撃に出ていく。

室蘭スティーラーズGK、山口連はこの日も安定した守りでゲームを引き締めた

 1-2で迎えた第2ピリオド終了間際、自陣で明治大の攻勢を守ったところから嶋野瑛心がカウンター気味に1人で抜け出してゴールへ突進。嶋野はハイスピードでパックを持ったままゴール前を横切ると、そこから鮮やかにポスト際を抜くシュートを決めて2-2とする同点弾。その直後、嶋野は仲間に押し倒され、もみくちゃにされた。
「左からパックを持ち上がっていきカットインして、そのまま2人目のディフェンスの奥から打った気がします。そこまでもドライブを何回も見せられて、もう少しでゴールに入りそうな……なんていうんでしょうか……予感というものがチーム全体的にも個人的にもあって。そこで決め切れて良かったです」(嶋野)。

関西大から室蘭スティーラーズに入った嶋野。このゴールは大きな自信になったという

 これで勢い付いた室蘭スティーラーズは第3ピリオドさらに攻勢に出る。4分37秒、山口航太のアシストから中村海大が決めて勝ち越し。「もうイメージ通りのゴールでした。練習通りです」と中村が胸を張るゴールで3-2、スタンドを一気に湧かせる。
 さらに8分41秒にはキャプテン阿部のこの日2点目のゴールで2点差と明治大を突き放す。この阿部によるファインゴールで4-2。ここで室蘭スティーラーズは勝利をぐっと引き寄せたはずだった。

中村のゴールで室蘭が勝ち越し。第3ピリオド、試合の流れが一気にスティーラーズに傾いた

 しかし、明治大の選手たちはあきらめていなかった。残り10分を切ってパワープレーを得るもそのチャンスは味方のペナルティもあって無得点。それでも攻撃のチャンスはどんどん少なくなる中、より運動量を上げて社会人の上手さに対抗した。
 残り6分で得たパワープレーのチャンス。しっかりとセットアップして何度も鋭いシュートを放つも、室蘭スティーラーズGK山口の好守に阻まれゴールをこじ開けられなかったが、ついに15分55秒、パワープレー残り11秒にして右サイドから木戸仁哉が鋭いシュートを決めてついに3-4と1点差に追いあげる。その時点で試合の残り時間は約4分。室蘭スティーラーズが逃げ切るか、明治大が追いつくか? まさにその試合の山場が訪れた。

パワープレーゴールを決めた木戸(22番)を大竹キャプテン(13番)が祝福する。反撃体制に明治が入る

 そんななか、明治大の大竹広記キャプテンは冷静な判断力を保っていた。右サイドをスピードに乗って相手ゴールに迫る大チャンス。大竹は右サイドから山口の守るゴールに迫る。DFのマークは2人付いていた。
「瞬間的な判断でした。最初はシュートを打とうと思ったのですが、敵のディフェンスがシュートレーンに入っていたので1回待とう、と交わして。そのときに相手のキーパーが遅れ気味だったので、『1回チャレンジしてみよう』とゴール裏をまわる選択をしました。自分のシュートではゴールに向かって打ててはいませんでしたが、最後は相手のスケートにパックが当たってうまく入ったのでそこはやっぱりラッキーだったかなと思います」(大竹)。

明治大・大竹キャプテン(左)が個人技で見事に4-4の同点に追いつくゴールを奪った


 急きょ、ゴール裏を回り込んで逆のポスト際にパックを流し込むラップアラウンドというプレーに切り替えた大竹の選択はまさに“正解”を導き出した。ゴール裏を高速で通過した彼の動きに対してその前のプレーで通常よりも前に出ていたGKは戻りきれない。DFも飛び込んでスティックを伸ばしパックを止めようと試みたもののわずかに及ばず。このラップアラウンドが見事に決まって土壇場で明治大は4-4の同点に追いつき、延長戦に試合を持ち込んだ。

延長戦、わずかの差で勝利の女神が微笑んだのは?

 迎えた5分の延長戦でもドラマが待っていた。追いつかれた室蘭スティーラーズだったが、それでも勝利への執念をここ日光のリンクで見せつける。  

 延長3分過ぎ、室蘭スティーラーズは2対1の状況を作り最後は右サイドから村上亮が渾身の思いを込めてシュート。パックがクロスバーに当たった金属音がリンクに響く。そのパックが弾かれプレー続行と思われた2秒後、ゴール裏の赤ランプが点灯。スティーラーズ応援席からは「ゴールではないか」の声が飛ぶ。パックを拾い逆襲に出ようとした明治の選手に対して室蘭スティーラーズの選手が絡んだところで、レフェリーが笛。ビデオゴールジャッジによるレビューが行われることとなった。

室蘭スティーラーズ、村上のシュートは無情にもクロスバーに弾かれた

 笛の直前のプレーでは室蘭スティーラーズの選手がペナルティーを取られた模様で、もしゴールが認められなければ室蘭スティーラーズはその後延長戦を3人対4人のショートハンドで戦わなければならない。ゴールか否か。そこで両チームの運命は分かれることとなる。

2005年生まれの1年生、小桑(86番)が決めて明治大が延長勝利。喜びがはじける

 そしてリンクが静まりかえるなかおよそ4分におよんだビデオ判定の結果は「ノーゴール」。そして、その直後明治大のパワープレーで再開した試合は7秒後、右サイドから小桑潤矢が放ったシュートがゴールの枠を捉えるサヨナラゴールとなった。劇的な幕切れにベンチから飛び出し歓喜する明治大の選手たち。そしてうなだれる室蘭スティーラーズの面々。氷上に両者の明暗が映し出された。

 試合後、室蘭スティーラーズの松島光宏監督は4-2と追いつかれた第3ピリオドのラスト6分間を振り返り、「1点差であれば、ある程度ペナルティに対するリスクも鑑みた上での守備布陣を敷けたところを2点差がついてしまったことで、やはり余力が出てしまった。そこで我々の中で選択肢が複数出てしまったことがやっぱりいけなかったと思っています。1つの勝ち方として第1ピリオドからじりじりと相手を詰めて、粘り勝つといったところまであと一歩まで追い詰めることはできました。でもやはりそこでちょっと油断のようなものが生じ、『負けた』というよりも『勝ちきれなかった』という風に我々は認識しています。最後も延長でのゴール判定を引き寄せることができなかった部分も含めて私たちの何かが足りなかったということです」と語った。その一方で監督は選手たちの健闘を称えることを忘れなかった。いっぽう、明治大のキャプテン大竹は「自分たちの運動量がそこまで序盤は上がらず、点差が開いたときはやはり責任をすごい感じていて、そこからは『もう切り替えてやるしかない』と思って全員が頑張りました」と最後まで戦い抜き勝利を奪い取ったことに胸を張った。お互いに力を尽くした試合は延長の末、5-4で明治大が競り勝ち、準々決勝へとコマを進めた。

 関西大学から室蘭スティーラーズに入り1年目。嶋野は活躍を見せながらもこの日の悔しい敗戦を受け止めて周囲への感謝を口にした。「いい意味でチームの皆さんにかわいがってもらって、僕もそうですけれども僕らは所属している会社の方々だったり後援会の方だったり、本当に色々な方の支えでこうやって平日でも業務のあるなか試合に送り出していただいてるので、勝って良い報告がしたかった、という悔しさと申し訳なさがあります。でもスティーラーズらしい戦いは見せられたと思っています。これから先の戦いで今度こそ勝利を、応援していただいている皆さんに見せていければと思っています」と悔しさをグッと胸にしまい上を向いた。
 中村も「チームワークと走り負けないことが僕らのチームの強みだと思っていてそこは出すことができたと思います。試合の最後でちょっと集中力が切れた部分があったのではないかというのはあるので、そこはすぐ次の試合から修正して負けないように頑張っていこうと思います。 応援はすごく聞こえていましたし、今日負けても僕らがやることは変わらない。今日は勝ちたかったところですけれども本当に紙一重だったので、応援してくださる方に恩返しというか、感謝の気持ちを持ってプレーして、今度こそ優勝の喜びをみんなと分かち合いたいです」

 この日スタンドの声援が間違いなく一番熱かったのは、室蘭から駆けつけたスティーラーズのサポーターだった。「室蘭市のみなさんをアイスホッケーでもっともっと熱狂させていきたいと思っています。今日来てくださったファンの方々を裏切らないようにチームをまた立て直して磨いていきます」(松島監督)。こういう試合を選手とサポーターが共有するたびにチームはまた強さと歴史を積み上げていく。

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