【全日本選手権】「なんとしてでも日光で優勝したかった」アイスバックスの守護神、GK福藤豊の思いに迫る
取材・文/アイスプレスジャパン編集部 写真/編集部
第92回全日本選手権(A)最終日
12月8日(日) @栃木・日光霧降アイスアリーナ 観客数:1222人
決勝
H.C.栃木日光アイスバックス (2-0、2-0、2-0)0 レッドイーグルス北海道
>H.C.栃木日光アイスバックスは2年連続4回目、前身の古河電工と合わせ8回目の優勝
ゴール:【アイスバックス】寺尾x2、古橋x2、鈴木 【レッドイーグルス】高橋x2、三田村、安藤
GK:【アイスバックス】福藤 【レッドイーグルス】成澤
シュート数:【アイスバックス】29(8、11、9、1) 【レッドイーグルス】29(7、12、10、0)
「時間はかかりました。でも、やってきたことは間違いじゃなかった」
熱い、熱い思いのこもったガッツポーズだった。逆転に逆転相次ぐ試合展開。6人攻撃で追いついての延長突入。そして延長20秒で飛び出した鈴木健斗の決勝ゴール。最後方の位置から戦況を見つめていたのはアイスバックス守護神・福藤豊。ベテランの彼をもってしてもこの決着には爆発する感情を抑えるのが難しかった。
残り5分を切り痛恨の失点。しかしそこからまた集中力を上げた
レギュラータイムはレッドイーグルス北海道の攻撃力に苦しめられた60分間だった。リンクの幅いっぱいを使って攻め、GKを右へ左へと横に動かしてオープンネットの状態を作ろうと試みるレッドイーグルスのワイドな攻撃には的確なスケーティング技術で対応し、常にシュートコースに対して身体の正面を向けた。それでも第3ピリオド、ゴール前を横切るようなパスからバックドアを狙うシュートで続けて失点。試合残り5分を切る土壇場で3-4とレッドイーグルスに再逆転を許した。その失点の瞬間、福藤は氷の上で片ヒザをつきしばし動かず。
「(残り5分を切った)あの時間帯で勝ち越しを許してしまったときは、本当にチームに申し訳なかった、との思いが1番でした。パックを自分の体に当てたけれども入れてしまったシュートだったので。止めなければいけないシュートだったと思っていたので、特に落ち込んだ、というわけではないですがやっぱりがっくりきた失点だったとは思います」
そんな守護神の姿を見ることはこれまでほとんどなかった。落胆の気持ちは察するにあまりある。しかし、福藤はそこから立ち上がりまた前を向いてシュートに対峙した。
「失点したこと自体はすごく申し訳なかったですが、勝てると信じていましたし、そこを信じ抜くしかなかった。まだ1点差だったので、そこを2や3にしてしまうと本当にゲームが決まってしまう。なので、もう1回集中し直して残りの時間に臨みました」
試合を決める1点を奪おうと襲いかかるレッドイーグルスの分厚い攻撃。それを福藤は的確に跳ね返していった。「取って取られての試合展開だったので……。本当に自分のビッグセーブがチームを救うと思っていましたし、それを僕自身ができると信じていました」
仲間に託した「優勝への思い」
第3ピリオド残り2分、アイスバックスは6人攻撃を仕掛けようとするが、レッドイーグルスの堅い守りに阻まれる。福藤はイェスパー・ヤロネンコーチのハンドサインを横目で見ながらベンチに戻るタイミングをうかがう。残り40秒、コーチの右手が動いた。ダッシュでベンチに戻りながら福藤は「ここから逆に、うちのエースがしっかりと点を決めてくれる、と信じていた」とチームメイトにすべてを託した。
そして生まれた古橋真来の同点ゴール。ベンチで福藤はチームメイトとともに歓喜した。
「非常にチームメイトに助けられた試合だったと思います。どういうふうに貴重な得点機会を産んでいくか、という試合でしたが攻撃陣がそれを成し遂げてくれ本当に感謝しています」
「歴史に残る試合内容」で日光での2連覇果たす
そして延長0分20秒。鈴木健斗のゴールが決まった瞬間、福藤は自陣のゴール前で何を感じていたのだろうか?
「最後はやはりほっとした、というのが正直な気持ちです。アイスバックスの2連覇がかかっている大会でしたし、チームも25周年の節目でホームの霧降で戦う。なかなかこういう条件がそろった試合って現役中でもここまで長くプレーしていますがなかなかない。だから、何としても優勝したかったし、結果それが最高の形で終われたことはすごく幸せです。ほっとしているし、心から良かったな、と思っています」
記者会見の最後、福藤はともに日本代表を支え続けている相手チームのGK、レッドイーグルス北海道の成澤優太への思いも口にした。日本代表という存在を背負う重責をお互いに知り尽くしているからこそ、この試合に並々ならぬ気持ちで臨んでいた成澤の思いも福藤は分かっている。
「同じゴーリーとして、この舞台に賭ける思いというのは強かったと思うし……。長く代表で本当に2人で苦楽をともにした仲間なので……彼のことを思うと胸が苦しいし……。ただ、こういった勝負の世界なので、彼を倒して僕が勝利できたというのは誇らしく思うし嬉しく思う部分はあります。最後まで戦い抜いた彼をリスペクトしています」
デンマークでの海外挑戦から戻り、2015-16シーズンに向けて日光アイスバックスへの2度目となる入団を決めたとき、福藤は「このチーム、アイスバックスを勝たせ、盛り上げることが日本のアイスホッケー界全体を考えてもとても大きいことだ」と話していた。長きに渡る挑戦の時を経て、その言葉を実現した立役者となった今、改めてチーム創設25周年という記念の年に優勝できた事についての思いを聞いた。
「時間はかかりました。でも去年も優勝して、なかなか取れなかった全日本がこういうふうに……決勝に2年連続で進めるようなチームになった。ここまで来られた事がすごく嬉しいし、やってきたことは間違いじゃなかった、と思います。自分の長いキャリアの中でも、こんな劇的な勝ち方はほかにない。歴史に残る試合内容だったのではないでしょうか」と語る福藤の表情は晴れやかだった。