「変わらねば」敗戦で突きつけられた現実を受け止め、横浜グリッツは進む

敗戦に肩を落とす簑島。この試合は最初から「違和感があった」と振り返った

取材・文/アイスプレスジャパン編集部 写真/今井豊蔵、アイスプレスジャパン編集部

第91回全日本アイスホッケー選手権(A)2回戦
12/8(金)@KOSÉ新横浜スケートセンター 観衆:570人

北海道ワイルズ 5(1-1、2-1、2-0)2 横浜グリッツ
ゴール:【ワイルズ】木綿、矢野、上野、大津、齊藤 【グリッツ】三浦、池田
GK:【ワイルズ】イ・ジャンミン 【グリッツ】古川
シュート数:【ワイルズ】34 【グリッツ】27

一発勝負の落とし穴にはまった。

アジアリーグで11/26にHLアニャン、そして12/3にレッドイーグルス北海道と上位2チームからそれぞれチーム創設以来初となる勝利を奪った横浜グリッツ。勢いと自信がチームに満ちあふれ、この全日本選手権でも初のベスト4はおろか決勝進出、優勝さえ身近な目標として据えてここまで準備を行ってきた。

しかし、北海道ワイルズとのマッチアップとなった全日本選手権、2回戦。
グリッツは第1ピリオドから北海道ワイルズの攻撃の前に防戦を余儀なくされ、10:59に先制点を献上。ピリオド終了間際19:33に三浦大輝(みうら だいき)が決めて追いついて、ようやく落ち着きを取り戻すかに見えたが、つづく第2ピリオドは点の奪いあいに。

第2ピリオド6:02に矢野竜一朗(やの りょういちろう)がリバウンドを綺麗にたたき込んで2-1としたワイルズに対して、1分もたたない6:56に池田涼希(いけだ あつき)が抜け出して決めて2-2の同点に追いつく。

ところがそこからまた30秒もたたない7:25に失点というちぐはぐさ。
ワイルズ期待の若手2人、木綿宏太(もめん こうた)から上野鉄平(うえの てっぺい)へのコンビに得点を奪われ、グリッツは再び試合の主導権を手放してしまう。ゴール裏から展開しようとしたその瞬間に木綿にパックを奪われ、ゴール正面にうまく入り込んだ上野へ完璧なパスを送られた。

グリッツDFの簑島圭悟(みのしま けいご)はこのワイルズとの試合で試合序盤からなにか得体の知れない違和感を抱えながらプレーしていたと語る。

「なにか序盤からうまくいかずそれがそのままに試合が終了してしまった、みたいな感覚でした。慢心があったわけでも、会場の雰囲気に飲まれたわけでも決してないです。でも序盤はパスの精度が悪く、ならばと精度の悪いパスを想定して構えていたらビシッと良いパスが来たり……。中央大やクレインズ時代からの経験を振り返るとこんな感覚の試合が過去にまったくなかったわけではありませんが、なにか意思疎通が上手く行かなかったというか……」と首をひねった。

1点差を追う第3ピリオドに猛攻を仕掛けるグリッツ。しかしワイルズのゴールを陥落させることはできなかった

第3ピリオドこそグリッツは攻撃の厚みを増してワイルズのゴールに再三迫るものの、ワイルズGKイ・ジャンミンの好守の前に得点を奪えず。そうこうしているうちにワイルズのキャプテン・大津晃介に鮮やかなシュートを決められてさらに点差を広げられると試合終了1分前にはエンプティネットゴールを決められて万事休す。
「ホーム」新横浜の地の利も生かすことができずに早くも2回戦でトーナメントから姿を消すこととなった。

トーナメントである全日本選手権の常とは言え、両者の試合後における表情は明暗が分かれた(撮影:編集部)

消えた「勢い」。新外国人をいきなり起用、という勝負手が裏目に

アジアリーグ上位2チームを倒したあの勢いがなぜ消えてしまったのか? 試合後、グリッツに向けての記者陣の質問はその点に集中した。

その矢面に立たされたのは岩本和真(いわもと かずま)キャプテン。「先週、アジアリーグでの勝ちから良い流れで続けたかったんですが、その流れに乗ることができず、スタートからいいテンポでプレーできなかったことは悔しい部分ではあります」と言葉を絞り出す。「今日の試合はこれまでの交流戦4試合と比べても、ワイルズがアグレッシブに攻めてきているな、というのはすごく感じられましたし、本当にここに懸ける想いっていうのは……もちろんグリッツとしてもありましたけれども、ワイルズ側の気持ちの入ったプレーというのは、交流戦とはまた違うところだったのかな」とこの1戦に懸けてきたワイルズのことをリスペクトした発言をおこなったうえで、勝敗を分けたのは”グリッツにミスが多く、そこをワイルズがしっかり突いてきたこと”と岩本は振り返った。
「チーム力の向上は本当に感じているのですが、これが今のグリッツの現実であって、結果を受け止めなければいけない。ここからまた前に進んで行かなきゃ駄目だ、という点は本当に今日の試合で感じたところです」と岩本は唇を噛みしめた。

浅沼芳征(あさぬま よしゆき)監督も前週の明るい表情から一転、沈痛な面持ちで報道陣の前に姿をあらわした。
「しっかり競ってはいたのですが、最後の最後で及ばなかったです。レッドイーグルス戦の勝利後に練習も2回行い、さらに新加入のジェイク(・ホートン)が入って新しい空気も運んでくれたのですが、今日はスコアリングチャンスが単発になっていたような感じがします。シュート&リバウンドが我々の狙いだったのですが、そこにたどり着く前にワイルズの守備に阻止されてしまった」と試合を振りかえった。

記者陣からはジェイク・ホートンの起用でラインが組み替えられたことについて質問が飛んだが、「権平優斗を4thラインに起用したのは守りからリズムを作ってほしかったから。ジェイクはまさに『助っ人』というか非常に期待している選手で、来日前にしっかり練習していてコンディションも良かったので、チャレンジという意味でも彼をトップラインに入れて、勝負を懸けた側面はあります」とその意図を説明した。
この日が来日3日目だったというJ・ホートンだが、直前の練習では非常に鋭いシュートを何度も放っていたとの情報は大会前に漏れ聞いており、その彼の攻撃力を生かすラインを組んだ「勝負手」が残念ながら裏目に出てしまったということか。

朝1番の試合だったせいもあってか、観客は570人。「ホーム」の雰囲気は作り出せなかった(撮影:編集部)

想定していた戦術通りのホッケーを展開できたワイルズ

いっぽう、北海道ワイルズにとってはある意味、今季最も勝利しなければならない試合を奪い取ったとも言える。

決勝点となる3点目を決めた大津晃介(おおつ こうすけ)キャプテンは「この試合に向けて、監督やコーチがとても良いシステムを用意してくれてグリッツのラッシュにもしっかり対応できたと思います。5人で攻めて5人で守るホッケーを貫き通すことが60分間通じてできた。相手に大きなチャンスを与えなかったことで、そこが我々ワイルズのラッシュにも繋がったり得点に繋がったのではと思います」と戦術面での対応ができていたと強調。
「若手が本当にハードワークをしてくれていて、チームに良い流れを持ってきてくれた。準決勝でもチーム一丸となって戦えるように準備します」(大津キャプテン)

ファンにあいさつする大津晃介キャプテン。北海道ワイルズは準決勝に駒を進めた

ワイルズの齊藤毅(さいとう たけし)監督は「今日は全員がヒーロー。公式戦が少ない中で若手が成長しているし、そのなかでも荒木も矢野も持ち味を存分に発揮してくれました。FWが9名しかいないなかでも、それぞれの役割を徹底してくれたことが勝利に繋がったと思います。1戦1戦を全力で楽しみながら、そして一生懸命にひたむきなプレーを見せながら、頑張っていきたいと思います」と次の試合を見据えた。

「この敗退で選手が感じて行動する。そのかけ算がチームを強くする」(浅沼監督)

横浜グリッツにとって「これもチームが成長するための経験」と割り切るにはあまりにも痛い全日本選手権での敗戦。だが、こういった「痛み」を噛みしめながら、また一歩一歩進んでいくしかない。

浅沼監督は「この負けはもう切り替えて、まだまだリーグの後半戦もあるので1戦1戦グリッツとしての勝ち方にこだわって進んで行きたいと思います。選手1人ひとりがこの試合で何を感じたか、そしてこれからどうしたいのか? を考えて行動する、そのかけ算だと思っています」と巻き返しを誓った。

岩本キャプテンも「今週からジェイクが入ってまたオフェンス力は上がると思います。良い守りも彼の持ち味なので、グリッツのチーム全体の質を上げてくれるポテンシャルを持った選手」と今後を展望した。
その上で「チームのことは監督はじめコーチ陣が分析をし直して良い方向に導いてくれるはず。でも、チームが勝てなかったとき、それはやはりリーダーシップ、キャプテンである私の責任です。その点は試合後みんなにはっきりと伝えました。ここからまたリーグの後半戦が始まっていくなかで、本当に自分自身が変わらなければダメだと感じましたし、そうすることがチームのみんなに感じてもらって波及するといい。チーム力を上げていくことを意識しながら練習から取り組んでいきます」

岩本キャプテンが感じた、「変わらねば」という思い。その思いを選手・スタッフ全員が共有してまた1つの方向にベクトルが合わさったとき、”この敗戦が成長への大きな転機だった”と言えるような日がきっと訪れる。

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