「ホッケーをやめてしまう子が増えている」 日本製紙クレインズ最後の主将、上野拓紀のその後 危機感と新たな道で抱く夢

釧路厚生社でプレーをしつつ、武修館高校のコーチ&寮長を続ける上野拓紀選手の思いに今井記者が迫った

取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵、編集部

 高校日本一を決める第74回全国高等学校アイスホッケー競技選手権大会(インターハイ)が21日、北海道苫小牧市で開幕した。昨年準優勝した釧路の雄・武修館高は22日の2回戦から登場する。同高の指導にあたっているのが、アジアリーグ史上最多の通算243ゴールを残した上野拓紀コーチだ。2019年、当時の日本製紙クレインズが廃部となった際には主将を務めるなど、波乱万丈のホッケー人生を送った。2021−22シーズンまでひがし北海道クレインズでプレーしたのち引退。その後の「現在」と、今後の夢を教えてくれた。

日光霧降に帰ってきた背番号48「本当に楽しみにしていたんです」

 トップリーグから退いたとはいえ、スピードとテクニックで鳴らした上野の姿は今も選手として氷上にある。クラブチームの釧路厚生社でFWとして、J-iceNorth(Jアイスノース)など北海道内の公式戦を中心に活動。そして昨年12月には、栃木県日光市で行われた全日本選手権にも出場した。1回戦の相手は関西大、一つ勝てば古巣の日光アイスバックスと対戦できるという組み合わせだった。

「だからトーナメントが出た時から、関大にはどうしても勝ちたいなと思って、打倒関大でやってきたんです」。社会人チームと学生との対戦は、テクニックと体力のぶつかり合いになることが多い。自らのゴールもあって関西大に6−3で勝利し、翌日の2回戦にコマを進めた。

 ただ古巣は甘くはなかった。上野もスピードを生かして上がる姿とゴール前での華麗なテクニックでファンを沸かせたものの、0−12で完敗。それでも上野は言う。

「楽しかった。本当に楽しみにしていたんです。戻ってきたな、また霧降でやれるんだなと思って」

 現在2人の子供が3歳と1歳半。現役続行のモチベーションはここにある。「もうちょっと、子供がゴールしたのがわかるところまでは現役でやろうと思っているんです。上の子はもうわかるんですけどね」。残された現役の時間を楽しむ一方で、新たなホッケー人生にも踏み出している。

上野拓紀選手のX.com↓


現在はホッケー少年10人を抱える下宿を運営「街を盛り上げたい」

楽しみだった全日本。試合後アイスバックス古橋真来選手(右)と健闘をたたえ合い、この笑顔


 1986年生まれの上野は長野で育った。地元で1998年に行われた五輪の際には、アイスホッケー会場で出場国の国旗を持って滑る少年たちの1人だった。高校は、よりうまくなれる環境を求めて釧路の武修館へ。さらに早大へと進んだが卒業直前、内定していた西武プリンスラビッツが消滅。韓国のハイワンでプロ生活をスタートするという激動のホッケー人生を歩んだ。

 のちに7年連続のシーズン20得点を記録する嗅覚を買われ、2011年には日光アイスバックス、2015年には日本製紙クレインズとチームを移った。2018年の年末、日本製紙がクレインズの廃部を発表した際には主将。チームをまとめ、釧路にチームを残す橋渡しを果たした。ひがし北海道クレインズでは3シーズンプレーし、新型コロナ禍の中で現役引退。そしてその後も釧路に残っている。

 現在は、かつての自分と同じように、本州から釧路へやってくるホッケー少年たちが暮らす下宿を運営。さらに武修館のコーチとして指導に当たっている。下宿で暮らす10人の選手たちを、リンクでも外でも見守る日々だ。

 釧路のホッケー人口は、クレインズというシンボルを失ったこともあり危機的な状況にある。今回のインターハイでも、単独で出場にこぎ着けたのは武修館だけ。かつて多数の部員を誇った釧路江南や釧路工業すら、単独でのチーム編成が難しくなっている。

 上野も「中学校を出たらホッケーをやめてしまう子が増えているんです。そうなると地域の熱がどうしても下がりますよね。そこで内地の子で、強豪校でやりたいという子を受け入れて、高校ホッケーで街を盛り上げたいなと思っているんですが……」。学校と話し合いながら、選手の勧誘にも手を貸している。

上野拓紀しか出来ない独特のムーブはいまも健在だ

「武修館から五輪選手を出したいんですよ」長野で見た輝きを次世代へと繋ぐ

 自身が高校生だった頃から、20年が経とうとしている。選手の気質も変わった。「ホッケーが好きで釧路に来てくれている子たちです。毎日ハードに練習しているし、自立心や探究心もすごい。僕が高校生だった頃より、全然大人ですよ」と頼もしく感じる一方で「素直すぎるところはあるかもしれませんね。僕らはやんちゃでしたから」と苦笑いだ。

 武修館は昨年のインターハイ決勝、第2ピリオドまで5−3とリードしながら、第3ピリオドに2失点して延長突入。PSS戦の末に優勝を逃した。今年の目標はもちろんその駒苫を倒して優勝することだ。そして上野はその先に、さらに大きな夢を見ている。「武修館から五輪選手を出したいんですよ」。

 自身も早大時代から日本代表入りし、3度の五輪予選を戦ったが世界の壁に跳ね返された。長野での少年時代に見つめた、輝く舞台に教え子を送り出したいと願う。「もうひと皮むければ…と思うんです。親心ですかね」。かつてのスター選手は縁の下から、釧路のホッケーを支えている。



第74回全国高校アイスホッケー選手権(インターハイ) 1/21(火)の結果

八戸光星・八戸 12-2 明大中野 / 釧路連合 13-2 岩手
帯広工 4(GWS)3 水戸啓明 / 苫小牧中央 12-0 関西大一
光泉カトリック 11-0 軽井沢 / 八戸工 16-2 岡山理大附
渋川工 2(GWS)1 龍谷富山 / 埼玉栄 7-3 八戸工大一
武相 13-1 高崎工 / 北海道栄 6-0 苫小牧東
慶應義塾 5-0 日光明峰 / 苫小牧工 3(GWS)2 東北
日本アイスホッケー連盟による試合速報ページへのリンク

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