「もうMVP決まっているって聞きましたよ」古橋真来が指名……
アイスバックス3連覇のキーマンが変身できた理由

取材・文/今井豊蔵 写真/今井豊蔵
カテゴリを超えてアイスホッケーの日本一を決める全日本選手権(A)が、18日から長野市のビッグハットで行われている。19日の準々決勝第2試合では、大会2連覇中のH.C.栃木日光アイスバックスが6-1で東洋大学を下し準決勝進出。2得点したFW古橋真来が「MVPがもう決まってるんですよね?」と指名した選手がいる。
全日本選手権の優勝に不可欠な「下位セットの爆発」
古橋は第3ピリオドに東洋大を突き放す2得点をあげ「今日はフェイスオフからの形で2点取れたのが収穫かなと思います」と言って笑顔を見せた。強力フォワード(FW)が揃うアイスバックスで第1セットのセンターフォワード(CF)を張る責任感をのぞかせた。
準決勝の相手が横浜グリッツとなり「今日は相手が大学生というのもあってフェイスオフを結構取れていたんですけれども、明日はグリッツも強いと思うので、多分うまくはいかないシーンが続く。フェイスオフで負けた時の対応も、ちょっと考えてやっていきたいなと思います」と気を引き締める。
アイスバックスは先週末、韓国でHLアニャンとのアジアリーグ3連戦を戦い、2試合が延長にもつれ込む大熱戦となった。アニャンのリンクは幅が狭いのが特徴。より速く動き備える感覚が、選手たちには残っていた。「今日の東洋大はプレッシャーをかけてくるのが速かったんですけれども、韓国のチームはもっと早い。そういう面では良い感覚で戦えましたね」。ハードスケジュールも武器に変え、3連覇への準備万端だ。かつて弱小だったアイスバックスからは信じられない実績を積み上げる近年、チーム内の文化にも変化が見られるという。
弱小チームが変わった……強いアイスバックスを裏付けるチーム文化
「今までのバックスだと、たとえば残り5分で勝っていたら1つ目、2つ目のラインにおまかせという感じがあったんです。でも近年は3つ目、4つ目の選手も信頼されて出る機会が増えた。選手の負担が減って、良い方向に向かっていると思います」(古橋)
その中で「しっかり守る中心になっている」と古橋も信頼を置くのが、第3セットで出場するFW伊藤俊之だ。
今季の伊藤は、アジアリーグで7ゴール8アシスト。数以上に貴重な場面での得点が目につく。古橋も「きれいなプレーじゃないんですよね。ゴール前で粘り強い。自分の強みを知ってプレーできているのが結果に出ているかな。一時期、パックを触るのがあんまり上手じゃなかったんですけど……」と伊藤の進化を指摘。さらに「なんかもう、MVP決まっているって聞きましたよ」と報道陣を笑わせた。伊藤が開催地の長野県出身と知っての言葉だ。
伊藤自身も、得点を重ねられているのは意図して変わろうとしたためだ、と言う。「今までは結構、チャンスの場面でも引いてしまっていたというか、守りばかりに頭が行ってしまっていたのがあるんですけれども、今年は”ゴール前は自分の仕事”だと思っている。ここぞというチャンスではしっかり詰めるとか。そこを意識するようになってから自然とポイントがつくようになったんです」。短期決戦を制するには、ラッキーボーイの出現が不可欠。3つ目をエナジーセットにする術は心得ている。

地元・長野でプレーを見せられる機会は貴重だ。「(長野で)なかなかアジアリーグの試合をすることはないですし、こういった機会に地元でできるのはものすごくありがたい。しっかり結果を出せるプレーをしたいと思います」
果たして古橋のMVP指名に応えられるか? 今季の勢いなら、決して不可能ではないはずだ。