「ここで頑張れば7年分が報われる」レッドイーグルス北海道GK、成澤優太が見せた最高の笑顔

取材・文/アイスプレスジャパン編集部 写真/アイスプレスジャパン編集部
第93回全日本選手権(A)最終日
12月21日(日) @長野・ビッグハット
決勝
レッドイーグルス北海道 4(2-2、0-1、1-0、OT0‐0、PSS1-0)3 H.C.栃木日光アイスバックス
>レッドイーグルス北海道は7年ぶりの優勝。前身の王子製紙&王子イーグルスと合わせ38回目。
ゴール:【レッドイーグルス】三浦、橋本、高橋、小林(PSS) 【アイスバックス】古橋、寺尾、相馬GK:【レッドイーグルス】成澤 【アイスバックス】大塚
シュート数:【レッドイーグルス】45(11、17、15、1、1) 【アイスバックス】33(9、14、8、2、0)
カテゴリを超えてアイスホッケーの日本一を決める全日本選手権(A)が21日に最終日を迎えた。決勝戦はレッドイーグルス北海道vsH.C.栃木日光アイスバックスという昨年と同じ組み合わせとなった。
試合は昨年同様に最後までどちらが勝つかわからない手に汗握る展開となり、3‐3の同点のまま延長オーバータイムでも決着つかず勝負はペナルティーシュートアウト(PSS)に突入。レッドイーグルス北海道は小林斗威がPSを決め先行すると、アイスバックスのシューター5人すべてをレッドイーグルスのゴールキーパー(GK)・成澤優太がシャットアウトし、レッドイーグルスは前身の王子イーグルスからクラブチーム化して初めての全日本タイトル獲得となった。前身のチームを含め7年ぶり38回目となる復活の優勝。その瞬間、長野・ビッグハットにレッドイーグルスの選手たちの歓喜が響き渡った。
延長戦での絶体絶命のピンチ、そして5本のペナルティーショットを完璧に止めた

成澤優太は極限まで集中していた。
これを止めれば優勝というPS戦5人目、アイスバックス・大津晃介は右→左→右とS字を描くようにパックを持ちあがり成澤の守るゴールへ近づいてくる。延長1分20分には味方のペナルティでアイスバックスのペナルティショット(PS)の判定となった絶体絶命のピンチを成澤は止めている。そのPSのときも相手は大津。アイスバックス・藤澤ヘッドコーチ(HC)はあえて大津をPSS戦でも5人目として起用してきた。
大津は左サイドからゴール前を横切るような動きで角度をつけると、一瞬シュートフェイントをかけて成澤の目線を動かした後、右ポストギリギリを狙ってパックを滑り込ませるようにシュートを放つ。直後、大きく広げた成澤の両足、特に左足がぐっと伸びた。ポスト際に滑り込もうとしていたパックを成澤が左足に装着したレガースがはじき返した。

その瞬間、ビッグハットは“ワシスタント”(レッドイーグルスサポーター)の歓声が響き渡る。成澤は身体をぐっとかかがませながら氷と対話するかのような渾身のガッツポーズ。そして、両手を突き上げ歓喜の表情を浮かべながら飛び込んでくるチームメイトを受け止めた。
成澤優太がついに全日本選手権でタイトルを獲得した。
「全日本の借りは全日本でしか返せない」思いでパックに必死で食らいついた

「本当に去年のことをひきずっている、と思われても仕方ないんですが、昨年の全日本選手権決勝、オーバータイムで決められて……。それ以前にも全日本では、オーバータイムで決められて敗れた、ということも多々あったので……。本当に……全日本選手権の借りは全日本でしか返すことができないと思ってここまで来ました。オーバータイムとPSS戦では『ここで頑張れば7年分が報われる』と思って、一本一本のシュートに集中して、必死に食らいついて。身体を投げ出しても必死についていく、という気持ちで臨みました」
日本代表でもアイスバックス・福藤豊と双璧をなす絶対の守護神。その高い実力は誰もが知っている。しかし、これまで不思議と全日本のタイトルには縁がなかった。昨年の大会ではその思いを正直に記者に吐露している。
「5年も連続でそこを勝てていないとなると、『僕じゃ勝てないのか……』と思ったこともあります」
その昨年決勝では第3ピリオド残りわずかで同点に追いつかれ、延長で鈴木健斗のゴールに沈められた。「昨年負けたあとからずっと、そのことが心のどこかでよぎる瞬間があって。まあ、それは僕自身、本当に思っていましたし、もし今年負けたら『全日本で僕は絶対に勝てない、と。そういう流れだ』と、自分でも認めざるを得ない状況になるな……、と」
成澤はそこまで自分にプレッシャーをかけて、1戦1戦に臨んでいた。
<昨年の記事>
【全日本選手権】「僕じゃ勝てないのかと……」レッドイーグルスGK成澤優太が解いた呪縛 – Ice Press Japan
【全日本選手権】逆転に次ぐ逆転。歴史に残る試合を制してアイスバックスが2連覇達成 – Ice Press Japan
2戦連続でレッドイーグルスは6人攻撃を決めて蘇り、成澤のスーパーセーブで勝ち切った

前日の準決勝では東北フリーブレイズの伊藤崇之と、決勝ではアイスバックスの大塚一佐と対峙し、お互いに1歩も譲らない素晴らしいゴールセービングを披露しあった。加えて準決勝・決勝ともに試合時間残りわずかでの6人攻撃で同点に追いつき、延長やPSSで成澤のスーパーセーブがさく裂してチームは逆転という”奇跡”とも呼べる勝ち方。極限の緊張感が続く試合を2試合連続でプレーするなか、成澤は決勝戦では5分間の延長でペナルティショットを止めて大ピンチを脱出。さらにPSS戦ではアイスバックスの5人のペナルティショットをすべて止めた。まさに90回を超える全日本選手権の決勝戦のなかでも、記憶にも記録にも残る成澤優太による至高のパフォーマンスだった。
「悔しい記憶が多かったぶん、今日”優勝した瞬間”は鮮明に覚えています。涙もあふれてしまったんですけれども……」
昨年の全日本決勝での敗戦から1年間、改めてタイトルを追い求めるなか、1日たりとも研鑽は怠らなかった。8月にデンマークで行われたミラノ・コルティナ冬季五輪最終予選では、日本代表のゴールを守り、のちに五輪出場を決めた強豪のデンマークと対峙して延長へ。そして日本の勝利寸前までデンマークを追い詰めた。その試合後には、成澤の実力を認めたデンマーク代表のNHLプレイヤーから次々と握手を求められている。さらにはアジアリーグが開幕してからも、いつも通り最高のプレーを披露し続けた。日々、目の前の試合、そして自分自身と向き合い続けた成澤。その積み重ねがついに今日、大輪の花として咲き誇った。
「まずは1冠を獲ったので、次はアジアリーグ1位の座を、そしてプレーオフを制してアジアリーグで優勝するというのは見据えていきたいと思います。これで満足していたらいけないと思いますので、もっと自分のプレーを磨いていきます」

日本のGKはいまや高いレベルで勝負しあっている。日本代表の正GKの座も決して安泰ではない。伊藤や大塚をはじめ若手GKの突き上げは急だ。そんななか、成澤はこの全日本で彼ら若手の挑戦をがっちりと受け止め、跳ね返した。
試合後会見で、アイスバックスGK・大塚にかける言葉はあるか? と聞かれた成澤は「全日本選手権にはたくさん出場させてもらって……。あと1歩届かず、チームを勝たせることができなかったのが本当に何年分もあるので……。彼はまだ若いですけれども、こういった経験は後々絶対にどこかで出てくるので。絶対に返ってくるので……。ライバルですから『応援します』とは言いませんが、彼以上に僕も負けないように。まだまだ僕自身も良いプレーを続けて、偉大な先輩GKの方々以上にレッドイーグルスに貢献したい、という思いです」
「若手に背中を見せていく存在にならなければ」遂に掴んだタイトルが成澤をまた前進させる
準決勝、決勝と至高のゴールテンディングを見せた成澤は、まだまだ若手の前に立ちはだかる壁であり、彼らの目標であり続けたいと思っている。
「昨年優勝ゴーリーとなった福藤さんの背中を僕も見てきたので、僕自身が若手に”大きな背中”を見せる存在にならなければ、と改めて思います。そこはまだまだ彼らに譲ることなく、前に進んでいきたいと思っています」

この試合はNHK‐BSで生放送されていた。試合終了直後、画面にはインタビューに答える成澤の表情がとらえられる。両目からは涙……。多くのファンが彼のインタビューを聞きながらともに感激の涙を流していたことだろう。成澤優太はここまで全日本では悔し涙に暮れるほかなかった。しかしこの日、ついにチームを優勝へと導き、喜びの涙が一筋、照明に反射して美しく光る。ベストGKに選出された表彰式、小川勝也ヘッドコーチの胴上げ、そしてチームメイトとの記念撮影……それらが終わって、氷上の成澤は喜びと優勝を成し遂げた実感を改めてかみしめていた。
第93回全日本選手権(A)の締めくくりは、誰もが彼を大好きになってしまう、成澤優太のとびっきりな笑顔だった。
