昨季B級完全制覇の日本製鉄室蘭。4冠期す戦いはさらなる高みへ

ネーミングライツで今季から「新和産業アイスアリーナ室蘭」となったホームリンクで戦う室蘭スティーラーズ=チーム提供

取材・文/千葉修太郎 写真提供/日本製鉄室蘭アイスホッケー部スティーラーズ

くじら軍団の挑戦2021


日本製鉄室蘭が一層の飛躍を目指し2021-22年シーズンのスタートを切り、力強く走り始めた。
昨季は出場全大会(苫小牧市長旗、北海道選手権大会(B)、J-ICE North Division 2020-2021、道新杯争奪全道大会、全日本選手権大会)で全て優勝し、“社会人最強”の称号を得た。
今季は4冠(苫小牧市長旗は中止)を目指すという意味の「UP FOUR」をスローガンに掲げ、選手たちは静かに心を燃やす。

鈴木亜久里ヘッドコーチ(HC)は「うまいチームが勝つんじゃない。泥臭いチームが負けないのだ」と熱く語る。

勝利に飢えた時代からの飛躍

下から数えた方が早かった時代がある。大会での順位のことだ。出場する大会はおおむねそうで、試合でもなかなか得点できなかった。あの時代、チームは勝利に飢えていたにちがいない。アイスホッケーは勝った方が100倍楽しいからだ。

チームは「日本製鉄室蘭製鉄所アイスホッケー部」が正式名称。
同社や関連会社の社員が選手として所属している。部長は同社幹部が務めるのが慣例となっている。
創部は1936年だ。

しばらく勝てなかったチームがなぜここまで強くなったのか。
昨年まで選手だった藤浪幹マネージャーによると、「2015年前後が節目」だったと振り返る。当時の部長がチーム作りへの熱い思いを胸に、レベルの高い選手のスカウティングなどに乗り出したのだという。「そこから5~6年かけて強くなってきた感じですね」(藤浪マネージャー)

一人、また一人と高校、大学で鳴らした若手が入部し、2018年には法政大を経て東北フリーブレイズでプレーした岩槻翔悟が入部。彼と同じチームでプレーしたいと、日本製鉄室蘭の門を叩いた選手も少なくない。アジアリーグでの経験をチームに注入してきた岩槻は現在プレイングコーチとして活躍している。

チーム作りに奮闘する鈴木HC(右)と岩槻コーチ(左)=チーム提供

昨季は「成長のシーズン」

J-ICE Northでは15-16年、16-17年シーズンが3位。17-18年、18-19年シーズンが準優勝、19-20年、20-21年シーズンで2連覇を果たしている。このうち18-20年シーズンは引き分け以上で優勝が決まる場面でダイナックスに残り1秒で決勝ゴールを許し準優勝。社会人の大一番全日本選手権(B)でも決勝でダイナックスに敗れていた。鈴木HCは言う。「1点差に弱いチームだった」

しかし完全制覇を遂げた昨シーズンはそんな姿はなかった。「技術を見ると、ダイナックスや釧路厚生社の方が上だが、泥臭くゴール前のバトルを展開し60分で1点リードして勝ち切るスタイルを得ることができた」と鈴木HCは言う。
出場した全5大会での優勝はそういった気迫でたぐり寄せたと言える。

「プロでも学生でもない」社会でも生きる選手の自主性

「独特なやり方だと思うんです」と鈴木HCは言う。
練習中はほとんど指示を出さないというのだ。冒頭で方向性を伝えるにとどめ、あとはセットごとに任せる。試合では異なってくるセットの役割を踏まえながら、選手が自ら考え、意見を言い合いながら練習は続く。

「一昔前なら、選手に任せるのは普通のことではなかった」と鈴木HC。「社会人は学生でもプロでもない。だから、進路や契約を意識する必要がない」のだという。他者の目線よりも、選手それぞれの個性と経験が重要だということだ。

 

 選手たちがたまに、練習中に厳しくラインメートと意見を言い合うことがある。
「その形じゃ厳しいわ!」「もっと気持ちいれろよ!」
向上心の表れだろう。自分のやりたいプレーとセットのやるべきプレーを議論し、連携を深めている。

今季もタイトル獲得を目指す日本製鉄室蘭=チーム提供

 

鈴木HCは「セット変更は頻繁にやる。ただ同時に『何か言いたいことがあったら必ずスタッフに言って』と呼び掛けている」と続ける。起用の意味を聞かれると目的をしっかり説明するが、選手と意見がぶつかることもある。それでも最後は納得してくれる。

J-ICE Northは苦しみながらも優勝圏内

今季のJ-ICE Northは10月に開幕し、ほぼ9割の試合消化率。大会は日本製鉄室蘭を含む6チームによる2回総当たり戦だ。日本製鉄室蘭は現在7勝2敗(11/30時点)。初戦(10月23日、釧路)は強豪・釧路厚生社に10-3で、2戦目(10月24日、釧路)はタダノに10-1でそれぞれ快勝し、釧路ロードを最高の結果で終えた。しかし3戦目(10月31日、室蘭)はダイナックスに1-3で敗れる。反則が重なりPKで2失点し、1点を返したものの最後にエンプティネットゴールを決められ力尽きた。4戦目(11月7日、帯広)はタダノを8-1で退けるが、5戦目(11月13日、苫小牧)は3-5で再びダイナックスに屈した。それでも、6戦目(11月14日、札幌市)は 7-2で札幌ホッケークラブに勝利。11月20日に行われた日本製鉄室蘭-釧路厚生社は僅差の争いとなったが5-3で日本製鉄室蘭が制した。

J-ICE North 11月末日現在、勝ち点21で日本製鉄室蘭とダイナックスが首位に並び、釧路厚生社が勝ち点3の差で両者を追う。残り試合は 日本製鉄室蘭とダイナックス が1試合。釧路厚生社が2試合。最終節の試合が行われる2022年2月20日までまったく目が離せない激戦だ。

「いつか日本代表を輩出できるようなチームに」

チームは社会人リーグ、大会でのタイトル獲得を目指し続ける。同時に全日本選手権(A)へ出場を果たしアジアリーグ勢からのジャイアントキリングで勝利をもぎ取ることが悲願だ。

「働きながらアイスホッケーに取り組むというのは、アジアリーグの横浜グリッツとも通じるところですよね」と鈴木HC。
今現在、新聞・TVなど一般マスコミ経由で報じられる日本のアイスホッケーは、冬季五輪に出場する女子日本代表「スマイルジャパン」の話題がほとんどだ。
「男子アイスホッケーを盛り上げるためにも、社会人でもアジアリーグチームを倒し、学生に明るい未来を見せられるようなチームにしたい。いずれは日本代表選手を出せるチームにしたい」(鈴木HC)

日本製鉄室蘭の挑戦はいつ実を結ぶのか? ここまでの成長曲線と今いる選手、スタッフの頑張りを見るにつけ、結実はそう遠くない日に訪れるのかも知れない。 

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