手負いの日本。強いられた苦戦で見つけたものは

一方的に攻め込まれる展開のなか小西(上写真:アメリカ戦で撮影)と川口の丁寧なセービングが光った 写真:AP/アフロ

取材・文/アイスプレスジャパン編集部 写真:AP/アフロ

IIHF女子世界選手権トップDiv.日本時間8/28(日)22:00~
予選リーグ グループA

日本 0(0-0、0-2、1-1)9 カナダ

アイスホッケー女子日本代表「スマイルジャパン」は、予選リーグ グループAの第3戦目となる対カナダ戦に臨んだ。

先発GKにはスイス戦を休んだ小西あかねが復帰。川口莉子がサブGKとしてベンチに。

スイス戦での終了直前の1プレーで負傷したキャプテン小池詩織に代わり、細山田茜が「C」マークを付けてカナダ戦の日本チームをまとめる。「A」マーク=オルタネイトキャプテンの人里(旧姓:床)亜矢可もラインナップから外れ、攻撃力のある山下光も欠場。「A」マークは志賀葵&紅音姉妹が付けることとなった。
主力3人が欠場という緊急事態に試合前から日本は陥っており、苦戦が予想される状況は否めなかった。

防戦一方も、GKを中心に耐える

そんな日本に対して、優勝を狙うカナダは当たり前だが手を抜くことはなかった。
試合開始直後から容赦なく日本のアタッキングゾーンに攻め入り、日本の5人をゴール前に釘付けにする。

第1ピリオド1分2秒には、ベンチ前を駆け上がろうとしたカナダの選手を追いかけるも、スピードで振り切られそうになった日本がたまらずスティックで引っかけて止めざるを得ずフッキングのペナルティーを取られる。

その直後のパワープレーでは、カナダの華麗なパス回しに日本の守りが翻弄され、わずか18秒で小西が守る砦を崩され先制点を許す。

その後も、カナダ主力選手のスピードと個人技に日本はまったくついて行けず、6分過ぎには3度目のパワープレーを与えるなか、またも守りのフォーメーションを完璧に崩されて0-2。

パックが常に日本のディフェンシブゾーンにあるという一方的な劣勢を余儀なくされ、さながらカナダの攻撃練習、特にパワープレーの練習という様相の試合展開となった。

北京五輪メンバー、小西あかねが奮闘。経験を積む絶好の試合に

そんな試合の流れのなか、10分近く3点目を耐え抜いたのはGK小西と守りに入った各選手の忍耐のたまものと言えるだろう。
小西は、相手選手のシュートコースに対して基本通りの動作を地道に繰り返し対応を続け、難しいシュートを止めること数知れず。「このチームは私が支えるんだ」という意思をプレーで示した。

また、FWやDFのプレイヤーも懸命にカナダ選手の動きについていく努力を続け、少しずつ対応力を試合の中で磨いていったように見えたのは、ワンサイドゲームになったこの試合での収穫の1つかも知れない。

前キャプテンの大澤ちほ、得点源の久保英恵をはじめ、多くの主力が北京五輪後を機に引退/休養に入った今、若手選手の成長と奮起は絶対に必要な要素。
このカナダ戦で各日本選手が肌感で世界トップの強さを感じて経験を持ち帰れることをポジティブに評価すべきだと思う。

第1ピリオド日本はペナルティー5つ、放ったシュートは0。

カナダにシュート24本を浴びせられながら、0-3で踏ん張りインターバルに入った。

17歳の高校生、川口莉子が世界戦デビュー

第2ピリオドも完全にカナダペース。

決してその攻撃姿勢を緩めないところには、「日本をリスペクトしてくれているのではないか」という感覚さえ起こさせる。
一方的に攻められるシーンは見る方も辛いことは間違いない。
しかし、容赦なくせめ立てるカナダに対して、日本の守りを研ぎ澄ます良い経験になると考え「いかに将来にこの試合を活かせるか」という視点で観戦することに頭を切り替えると様々な要素が見えてきた。

4点目を奪われた後、第1ピリオド7分47秒のところで日本のGKが小西から、世界選手権初出場の川口莉子へと交代する。

後に飯塚監督に聞くと、これは予定通りの交代。

準々決勝、そしてその後に続く大切な試合に向けて日本ベンチは現実的なカードを切った。

世界標準の強烈シュートを受け続けたGK陣の奮闘を称える

川口はDaishin所属、釧路・武修館高校在学中の17歳。ファーストシュートを堅実にはじき返すと、その後は世界選手権初出場とは思えない落ち着いたプレーをしっかりと続けていく。

途中出場から約5分。第2ピリオド33分9秒にカナダのキャプテン、大ベテランのMarie-Philip POULINに個人技で交わされ初失点を喫するが、世界デビューした試合がカナダ戦でかつ初失点がレジェンド相手というのは記憶に残るのではないだろうか。この経験をぜひ糧として欲しいと願ってやまない。

日本は初戦のアメリカ戦ではGK増原海夕を途中出場させ、2戦目のスイス戦も増原を先発GKに抜擢している。満遍なく3人のGKに経験を積んでほしいというベンチの意図は明白で、女子代表スマイルジャパンには今回招集されなかった藤本那菜選手のケアも含め、大幅なGK陣の底上げを果たしてしてもらいたいと思う。

攻撃陣では、自陣から組み立てられるDFの2人、小池と人里がいない影響は大きく、残念ながら試合を通じてシュート数は5。そのうち4つは第3ピリオドだった。
日本のめぼしい攻撃シーンは相手のパスをカットした伊藤麻琴が持ち込み、ゴール前の床秦留可へのラストパスを寸前でカットされたシーンのみ。残念ながら攻撃に関しては、この日欠場していた3人の復帰を待つほかないだろう。

最終的に小西が33本、川口が36本のシュートを受け合計被シュートは記録的な69。

ただ、この1本1本を生み出した相手のプレーに対して手を抜くことなく対応し、全力で60分間を戦い抜いた「スマイルジャパン」の戦いぶりは勇敢だった。
試合後さすがに笑顔は無かったけれども。

0-9と点数的には惨敗だが、この経験を準々決勝、また大会以降に活かせれば決して無駄な敗戦とはなるまい。

カナダ戦後、川口莉子選手と飯塚監督がインタビューに応じてくれた

<川口選手インタビュー>

Q:第2ピリオド途中からの出場でしたが、これはいつ知らされましたか?

川口選手:試合前から計画通りの出場でした。前日に監督からは、明日は半分半分で行くからと言われていました。

Q:17歳での世界選手権初出場、試合の感想を

川口:日本の試合とはスピードが全く違って、相手がどこから打ってくるのか全くわからなかったです。初出場ですごい緊張はしていたんですが、自分の思うようなプレーができてよかったと思います。

Q:手元の計算だと、シュート数としては36本を受けて31本を止めた。カナダ相手にこの数字は川口さん自身でどう評価しますか?

川口:もっと自分の思う100%のプレーをできるようにこれからも練習して、失点をゼロに近づけるように頑張りたいです。「明日出るぞ」と言われたときに、すごい緊張して「自分が出ていいのかな?」って不安はあったのですが、チームのみんなが頑張れと言ってくれたので、すごく自信を持ってプレーできました。

Q:1点目を入れられたのがカナダのキャプテン、POULIN選手でしたが彼女はじめ世界トップ選手のシュートを受けてどうでしたか?

川口:すごい速くて、シュートに来るのか?パスを出してくるのか?っていう選択が全くわからなくて。難しいシュートばかりでしたが、これからはそんなシュートも止められるように、対応できるように必ずなりたいです。

すごい経験にもなりましたし、出場できたのはとても嬉しいことだと思っています。

<飯塚監督インタビュー>

Q:今日の試合は主力3人がいないという厳しい状況でした

飯塚監督:主力が負傷で出場できないというのは、長いトーナメントなのでこういうこともあるかなとは思います。今日のカナダ戦は大事を取って見送った側面もあります。

Q:シュート数が3-66。完全にディフェンシブゾーンから出られない試合でしたが、この経験は監督から見てどう今後に繋がっていくと考えますか?

飯塚:アメリカ戦と同じような試合内容だったわけですけれども、想定していた範囲ではありました。スティックを使った反則など、身体を使い切れていないところのプレーでのペナルティーが多かったことは反省していかなければいけないと思っています。

Q:相手のスピードに追いつかずにスティックで行ってしまったプレーが多かったのは残念でした

飯塚:そうですね。そういった部分は今後日本がレベルアップしていくための課題だと思います。

Q:今日の試合でポジティブな点はありましたか?

飯塚:一方的に攻められっぱなしではありましたけれども、しっかり運動量を落とさず最後までペースダウンはなくプレーできたのは、まあまあいいことなのかなと捉えています。ボディーコンタクトも試合序盤は負けていたのが徐々に後半では負けないようになってきましたし、その点は良かったと思います。

Q:フィンランド戦はどう戦いますか?

飯塚:合宿でのテストマッチで2試合戦っていてある程度状態はつかんでいますし、勝ちを意識したゲームをしたいと思っています。

※現地ZOOM回線の音声状況がよくなかったため、一部の聞き取れなかった飯塚監督の発言は編集部で意図をくみ取り、表現を工夫してお伝えしています。

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