スマイルジャパン、ベスト8へ進出。次はアメリカ戦

取材・文/アイスプレスジャパン編集部

デジャブのような久保英恵のゴールが、ドイツの希望を打ち砕いた。
0-1でリードされる展開のなか、第2ピリオド、藤本もえこ選手がフェイスオフでパックを完全にコントロール。
フェイスオフスポット左で待ち構えていた久保英恵選手にパスを送ると、久保がスティックを一閃。
ドイツのGK、J.HARSS選手の守るゴール左サイドにものすごいスピードのショットを叩き込んだ。

このスーパーゴールには、苫小牧で行われたピョンチャン五輪の最終予選・ドイツとの決戦で全く同じシチュエーションから久保がゴールを決めたシーンの記憶を掘り起こされた。

IIHF公式サイトより(※画像はキャプチャ)

これで勢いを取り戻したスマイルジャパンは、ディフェンシブゾーンの深い位置から山下光選手が1人で抜け出し、最後はGKとの1対1の勝負に勝ってレガースの間からパックを押し込み、2-1と勝ち越しに成功。

第3ピリオドは最後まで同点を狙うドイツの反撃にあったがDF陣がしっかり守り切る。試合終了間際のディフェンスでも、パックをしっかり日本がキープしてドイツに6人攻撃に移るスキすら与えず、1点差を守り切った。

この勝利で日本はグループBの2位が確定。
グループA2位と対戦する準々決勝では、王者アメリカとぶつかることとなった。前回フィンランド大会に続いての準々決勝での対戦となる。

現地8/26(金)IIHF女子世界選手権 グループB 第4戦 対ドイツ戦 試合後コメント

では大会本部によるリモートでのプレスカンファレンスの模様をお伝えする。

ドイツ選手・監督の会見後、スマイルジャパン・飯塚祐司監督、続いて床秦留可選手、山下光選手が会見場に登場した。

これまでと同様、まず最初に英語でのインタビューが行われ、その後に日本語での質疑応答に移るという流れ。
※以下、質問と回答は弊編集部による抄訳/編集をもとにダイジェストでお届けする。

↓日本対ドイツ戦ダイジェストはコチラ(大会公式サイト)

https://www.iihf.com/en/events/2021/ww/news/27770/jpn-ger

会見ではまず最初に、IIHFウェブサイトの記者、A.Podniek氏が監督に質問した。

「久保選手が決めることで、チームが活気づいた」飯塚監督コメント

ーー(IIHF)今日の試合についての感想を

飯塚:

先制されて苦しい第1ピリオドでしたが、第2ピリオド以降、選手たちは立ち上がりからテンポを取り戻して、いいオフェンスが続いて、その中で得点が重なり、その流れで最後まで押し切れたかなという感じです。

ーー(IIHF)同点ゴールを決めた久保選手についてお聞きしたい

彼女はこのチームの得点源ですね。彼女が決めることによってチームが元気になって、活気づいたというか、流れを変えてくれたゴールだったと思います。

久保選手のゴール映像(IIHFのTwitterより:「The legendary Hanae Kubo with the snipe!」〈伝説の選手久保がスナイパーのようなゴール〉と絶賛↓

続いて日本の報道陣からの質問に

ーー1点差の接戦でしたが試合を振り返っていかがですか

飯塚:

疲れではないと思うのですが、第1ピリオドは動きが硬く、なかなか良いリズムでオフェンスの時間を作れませんでした。ドイツもボード際のバトルであったり、一対一だったり、狭いエリアでのホッケーで非常にタフなプレーをしてきまして、それに順応できず流れが良くない状況だったのかなと。
第2ピリオド以降は、点数を取ることによって自分たちのテンポでホッケーができるようになり、最終的に第2ピリオド以降、追加点は2点で終わってしまったんですけど、流れを向こうに与えることなく、スコアリングチャンスも与えることなく、しっかり最後まで押し切れたかなと考えています。

ーー5対5の局面での2点で、前の試合のPPでの4点とはまた違った面もあったと思うが?

ペナルティーがもらえずパワープレーの時間が少なかったですが、そういった意味で5対5の局面でも取れるということはチームの中でも自信になったと思います。これまでやはり、5対5でなかなかチャンスを作っても決め切れてなかったところが多かったので、しっかりきょうは決められたところは自信になったと思います。

ーー次は準々決勝となりますけど、意気込みを

(相手アメリカは)世界チャンピオンなので失うものは何もありません。全てを、あるものをぶつけていきたいと思います。

ーーきょう第1ピリオド終えた時点で、ロッカールームでどんな話をされましたか?

(第1ピリオドは)シュートもなかなかできなくて、ほとんどドイツのペースでホッケーをしていました。その中でボード際のパックの取り合いとか、プレッシャーに行くスピード、パックを奪いにいくスピードはあったんですけど、どうしてもパックの奪い合いで競り負けるシーンが多くてなかなかオフェンスゾーンで時間を作れず、また、速い相手のプレッシャーに引っ掛かって良いブレイクアウトができなかったところが1ピリの反省点だったので、そこを修正しましょう、と。1対1、2対2の局面で、小さいエリアでのバトルを勝っていけるように、そうすればおのずと自分たちのペースになれるという話をしました。

ーー4試合終えましたが、チームの状況としては試合勘を取り戻した感じでしょうか

きょうもリードを奪ってから、試合時間が残り少なくなっていくのにつれてシンプルなプレーであったり、オフェンスゾーンでの時間を多く作るようなプレーを工夫しているところが見られました。時間帯によってしなければならないプレーをしっかりできてたと思いますので、ゲーム勘は取り戻していると思います。

ーー小池選手が欠場でしたが、どんな感じでしょうか

前回の試合でちょっと痛めていまして。前回は無理して最後まで出たんですけど、昨日スケートに乗って「無理しない」ということで。スケートして痛みはあるというので、きょうの試合が最後ではないので大事を取りました。

ーー次戦は状況をみてということになりますか

次戦は回復具合を見てということになります。

激戦を制した日本、飯津監督。次のアメリカ戦ではどんな戦術で臨むのか?

==(IPJ)リードした後に走力で圧倒し、日本らしい走るホッケーができていたと思います。スタミナ面・体力面で前回大会と比べてどうでしょうか。4試合終わってみて。

飯塚:

うちは昨日試合をしていなくて、ドイツは連戦でしたので、試合が後半になるにつれて日本の方がアドバンテージがあったかなとは感じています。同じ条件でしたらまだまだ五分五分くらいなのかなと思っております。

==(IPJ)試合が終わったあとのチームの雰囲気はいかがでしょう? また、次相手のアメリカはきょう5失点で崩れているので、チャンスもあるかなと思います。フィンランド大会同様準々決勝のアメリカ戦で食らいついて勝つための秘策はありますか

全ての面で、我々が劣っていることの方が多いので、選手たちもいい勉強になる試合だと思うので、あるもの全て出していろいろなものを吸収できればいいかな、というゲームになると思います。

==(IPJ)どういうところで対抗していきたいですか?

リンクも狭いぶん、バトルする部分ですか、引いて守ったりは考えていないので、パックの取り合いですとか、1対1の競り合い、そういうバトルの面でもどうやったら勝てるのか、トップレベルの選手はどういうプレーをしているのかを習得していけたらと思っています。

ーー合宿を毎月のように行ってきて、その成果が出ていると思えるところはありますか。一見すると攻撃のオプションが増えているなと見受けられますが、FWご出身の飯塚監督から見て、その辺りはいかがでしょう。

オフェンスのバリエーションは増えているな、と。選手たちも試行錯誤し、どういうのが通用するのか、どういった動きができるのか、このリンクサイズでどういったオフェンスが有効なのか、というのをチャレンジしてくれているんですが。崩し、いいところまで崩してはいるのですが、最後のフィニッシュの部分、決めの部分でまだまだ成長しきれていないですし、まだ成長の余地があるなと感じています。

ーーきょうは2点目からのさらなる上積みが残念ながらありませんでしたし、攻勢ではありますけど、最後の決めまでつながらないというのはどういったところが課題なのですか。

やっぱり最後に打つシュート、フィニッシュですね。最後の人に出すラストパスの精度であったり、フリップパスをしても最後にパックが着地できていなかったり、細かいスキルなんですけど、そのシチュエーションを作るまではよくできていて、本当に最後の部分がまだまだ精度が低くて、これよりレベルの高いチームになるとそんなにチャンスも与えてくれないと思いますので、そこをもう少し精度上げていけると、上のチームと良いゲームができると思います。

監督に続いて床秦留可選手と山下光選手が会見場に姿を見せた。A.Podniek記者が質問する

床「持ち味のチャンスメイクはできています」山下「いいパス&シュートが得点につながり、自信になっています」

ちょっと緊張した表情にもみえた会見当初の模様。左が床秦留可選手、右は山下光選手

ーー(IIHF)第1ピリオドと第2ピリオドの違いで何か感じたことを教えてください。第1ピリオドはドイツの方が動きが良かったですが、第2ピリオドは日本の方が良くて得点できた。違いを感じたところがあれば教えてください

山下:

第一ピリオドは各場面のバトルで負けて、相手にパックを支配される時間が長かったのですが、インターバルで監督からの指示があり、そこをみんなで改善して、チームのスピードを生かしてゴールに向かえたところが一番の違いだったと思います。

ーー(IIHF)素晴らしいシュートでした。どのような感じで打てたのですか?

山下:

自分はかわしたりする技術がないので、とりあえずゴールに向かって打ちました。

ーー(IIHF)今回の試合も含めてドイツに過去4度、世界選手権ほか大きな試合で勝っていますが、他の国と比較してドイツからの勝利が多いのは理由があるのでしょうか?

床:

どのチームに対してもやるべきことは変わらないと思っています。ドイツはすごくいいキーパーなので、昔から点数を入れるのが難しいんですけれども、日本らしいプレーで、プレッシャーをかけてゴールに向かっているのが勝ちにつながっているのだと思います。

続いてアメリカWebメディアのK.Whelan記者が質問する

ーー(K.W.)次のアメリカ戦ではどのようなプレーをしたいですか?

床:

アメリカは格上の相手なんですけれども、チャレンジャーの気持ちでどんどんゴールに向かって、いい試合にしていけたらと思います。


続いて日本からのメディアの質問に移る。先頭で当サイトが指名された

=(IPJ)床選手に伺います。フィンランドの大会と比べて、背面のパスなど床さんらしいプレーが出ているとも思います。実際に床選手自身は前回と比べて自分のプレーができている感じはありますか?

床:

自分の持ち味であるチャンスメークに関してはフィンランドの時よりできていると思います。

==(IPJ)具体的にはどういうところが変わりましたか?

床:

スウェーデンのリーグに行って、海外の強い選手とたくさん試合をしたというのもあって、バトルでのパックのプロテクション、パックキープは成長できたと思います。

==(IPJ)山下さんに伺います。見事なゴールでした。きょうのゴールですが、ディフェンスゾーンから一人で上がっていった個人技で取ったようなゴールでしたが、そのプレーについて教えてください

山下:

あのときシフトが長くて、疲れてたんですけど、とりあえずDゾーンから出ようと思ってパックを出したら、ベンチから「走れ!」という声が聞こえて、横を見たらディフェンスもいなかったので、自分の長所であるスケートを生かして、ゴールに向かいました。

山下光選手の決勝ゴール↓(IIHFのTwitterより)

==(IPJ)2点伺います。ディフェンスから抜け出すときに壁を使ったのは自分で意識して使ったのか、についてが1つ。2つ目は、GKの目の前で相手のレガースの間からパックをゴールに押し込んだと思うんですが、あれは見えていたのでしょうか?

山下:

パスをもらったときに前を向けたら敵のディフェンスが詰めてきたので、ボードを使ってパックをとりあえずディフェンスゾーンから出そうと思いました。二つ目の質問についてですが、とりあえずゴールに向かって打って、自分でもどこから入ったのか分からなかったので……とりあえず打ちました。

会見が進むにつれて2人の表情にも笑顔が見られるように

続いて日本報道各社の質問へ

ーー先ほどの床さんへの質問を山下さんにしたいのですが……世界選手権2回目ですよね。前回から成長している部分を教えてください

山下:

前回は初めての世界選手権で、ベンチには入っていましたが、ほとんど試合に出ることができなくて。まずは試合に出られるようになったことが一番の成長かなと感じます。

ーー前回との間には世の中も変化していますが、ホッケーに対する取り組み、気持ちに変化はありますか?

山下:

コロナ渦になってリンクに乗れなかったり、十分に練習ができない中で、今までの自分の試合の動画、いろんな選手の動画を見て、ホッケーに対する勉強はしてきました。

ーーこの大会のファーストゴールは山下さんでしたが、いい感じでしたね。

山下:

ありがとうございます。ラッシュの形で(床)秦留可さんがパックを持っていて、結構ラインが空いていたので、パスが来ると思って走りました。

ーー床さん、春までケガの影響で別メニューでしたが、ここでこうしてプレーしていることへの感想を

床:

最初は間に合うか厳しい状況ではあったんですけど、トレーナー、お医者さんのお陰で回復し、こうして世界選手権でプレーできてうれしいです。

ーーお二人にお聞きしたいです。合宿を重ねて、お二人ともFWとしてスマイルジャパンの攻撃はどんな状態でしょう。いろんなパターンで得点できるようになっていると思いますが、今のスマイルジャパンの攻撃はどんなところが良くなっていると思いますか?

床:

昨シーズンからサイクルを使って、ディフェンスを使って攻撃していく練習をしていて。あとはラッシュだったり、いろんなシチュエーションで攻めていく練習をしていました。まだラッシュで得点はできていませんが、日本の武器であるスピードを使って攻めることができていると思います。

山下:

練習でもラッシュでいいシュート、いいパスが得点につながっていて、それがみんなの自信になっているんですけど、試合ではまだ生かせていない部分があるので、今後試合でもそういう得点が増えれば日本の得点率が上がるのではと思います。

世界最強の相手アメリカにすべてをぶつける! 歴史的1勝へ

↑最終予選のゴールとを比較している映像をあげてくれた方が。ぜひその違いを味わってみてください

決して簡単ではないことはわかっているが、アメリカやカナダから学ぶ存在から1つ歩みをすすめるためにも、スマイルジャパンには次のアメリカ戦。勝利を目指して結束してぶつかってもらいたい。
東京五輪でバスケットボールの女子日本代表が銀メダルの座へと駆け上がったように、正しい努力をすれば日本人がそこにたどり着ける、というのは他競技でも示したくれたこと。

いつか日本アイスホッケーにもその日が来ることを待ち望んでいるものとしては、ぜひアメリカ戦で山ほどの「何か」を吸収して今後への大きな収穫としてほしい。

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