スマイルジャパン、初戦で中国にまさかの黒星。
GWSまでもつれた接戦で見えた課題はやはり得点力
取材・文/アイスプレスジャパン編集部
現地4月5日
女子アイスホッケー世界選手権トップディビジョン グループリーグ戦B組
会場:ADIRONDACK BANK CENTER(アメリカ・ニューヨーク州ユーティカ)
日本 2(1-0、0-1、1-1、OT0-0、GWS1-0)3 中国
ゴール:【日本】志賀(紅)、伊藤 【中国】YANG Jinglei、GUAN Yingying(3P&GWS)
GK:【日本】増原 【中国】ZHAN Jiahui
シュート数:【日本】52(22、16、12、2、0)【中国】17(4、5、5、2、1)
B組1位を目指す日本。シュートを多く放ち、攻めこむが得点になかなか至らず
いよいよ開幕した女子アイスホッケー世界選手権トップディビジョン(以下、トップDiv.)。
今年はアメリカ・ニューヨーク州ユーティカをを舞台に世界のトップ10ヵ国が覇を競う。
世界選手権トップDiv.は、冬季オリンピックと並ぶ女子アイスホッケーにおける最高峰の大会だ。
世界ランク7位の日本は大会2日目の現地4/4から登場。昨季の世界選手権では2部相当のDiv.I-Aから昇格してきた中国と対戦した。
PWHLでの成長を感じた志賀紅音の先制ゴールで幕開け
大会前からの予想通り、日本は試合開始直後から中国を圧倒。日本がアタッキングゾーンで攻め続ける時間帯がほぼ8割以上を占める展開になった。
そんな状況のなか、幸先良く日本が先制点を挙げる。
第1ピリオド4分過ぎ、ニュートラルゾーンでパックを奪った山下光が左ボード際を駆け上がる形でドライブしてゴール前に迫る。
そして山下(光)はセンターで待ち構えていた志賀紅音にタイミング良くパス。これを受けた志賀(紅)はスティックのバックサイドを使ってパックをすくい上げる技ありのシュート。これが見事にゴールを捉えて日本は早い時間帯での先制に成功する。
志賀(紅)のGKを左右に振るキレある動きは、今季新たに発足した北米の女子プロリーグ・PWHLの高いレベルでプレーしている彼女が、しっかりと得点力という特長を伸ばしてきたことを証明する一撃でもあった。
第1ピリオドはそのまま日本が圧倒的な攻勢のまま終了。シュート数も日本の22に対して中国は4と大きな差があり、日本は第2ピリオド早めに追加点を挙げてより試合を楽に進めることができるかが焦点となった。
追加点が遠く次第に中国が巻き返し。1本のカウンターから追いつかれる
しかし、第2ピリオド日本は攻めあぐねる。
この初戦にコンディションを合わせてきた中国選手たちの粘りに苦しみ、なかなかシュートを決めきることができない。特に中国は、日本選手のスティックワークを封じる作戦を忠実に実行しているように見てとれた。振り上げた状態のスティックに対して、中国選手もそれにスティックをぶつけてくるようなプレーで、強いシュートを打たせないようテクニックで対抗する。
そのせいか日本はラストパスの精度やシュートの強さに精彩を欠くようになってくる。これで徐々に中国の術中にはまるような展開となり、なかなか追加点を奪うところまでいたらない。
そんな状況の中、第2ピリオド17:45に中国がワンチャンスをものにする。
ニュートラルゾーン、ほぼセンターアイスの位置で中国JANG Jingleiが日本DFからパックを奪うと、そこからカウンター気味にゴールへ突進。少し遠目の位置から放たれたシュートは右のゴールポストに当たって入り、これで中国が1-1の同点に追いつく。
試合を優位に進めていた日本とっては実に痛い失点。その後両者得点なく1-1で勝負の第3ピリオドを迎えることとなった。
伊藤の勝ち越しゴールで、ほっとしたのもつかの間……
すでに第2ピリオド終了時点で38本とシュートの雨を降らせている日本。
この時間帯もなかなか得点まで決めきることができず、日本のファンもやきもきしていたことだろう。しかし、ようやくの勝ち越し点は第3ピリオド3:37にディフェンスの積極的なプレーからもたらされた。
志賀葵が右ファンスに近い位置のブルーラインから思い切ってシュート。これを中国GKのZHAN Jiahuiが一度はブロックしたものの、リバウンドしたパックに対して伊藤麻琴がしっかりと詰めて左ポストギリギリにパックを押し込む。これで2-1と日本が勝ち越しに成功する。
これで、あとはきっちり守って逃げ切るのみ、というシチュエーションだったが、日本は6分過ぎに反則からショートハンドのピンチを招くと、7:37にバックドアで待ち構えていたGUAN YingYingに痛恨の失点を許してしまう。これで中国がまた息を吹き返してしまった。
その後は日本の選手も慎重になってしまったのか、比較的ディフェンシブなプレーに終始。第3ピリオドで日本は12本のシュートを放つものの決定打が無く、試合は延長に突入することとなった。
延長も、GWSも得点を奪えず敗戦。この緊迫感を経験に成長してほしい
5分間の延長戦もほぼ日本がパックをキープしながらも得点は奪えず、試合は決着のゲームウィニングショット戦へ突入するが、ここでも両チームのGKが素晴らしい守りを見せ、3人目を終えても両チームともノーゴール。
しかし4人目、後攻・中国のGUAN YingYingが強いシュートでGKの右サイドを撃ち抜き、ついに中国がリードを奪う。いっぽう日本は5人目でペナルティーショットを試みた浮田留衣が思い切って狙うもノーゴール。これにより、中国がGWSまでもつれた試合を制し、今大会の初勝利をものにすることとなった。
日本はシュートを52本も放つなど攻撃の形を多く模索したが、最終的に決定力がなく、試合が進むにつれて自ら立場を難しくしてしまった。
中国は今大会、北京冬季五輪で日本を破る原動力となった帰化選手の参加が政治的判断からか見送られていたため、実力の程が図りづらい状況で確かに北京五輪のメンバーからはチーム力が落ちていた印象もあった。
しかしGKのZHAN Jiahuiなど拠点を北米に置いている選手が活躍。彼女は高校からアメリカ・ミネソタ州でプレーしており、ミネソタの高校生ベストGKに選ばれ来季はNCAAの強豪ダートマス大学への進学も決まっている有望選手だということだ。日本からの勝利をつかんだ後、ミックスゾーンで仲間とハグする笑顔が印象的だった。
残念ながらこの大会を黒星でスタートすることとなってしまた女子日本代表「スマイルジャパン」。
次の試合は現地4/6に日本vsドイツ戦がスケジュールされている。
手堅い守りを得意とするドイツに対して、この痛い敗戦のショックをひきずることなく、「スマイルジャパン」はチームを、特に攻撃面を立て直すことができるか?
ここ数年でも最もピンチとなる大会の入りを日本は見せてしまったが、若い選手が多いチームだけに誰かが音頭を取るなどしてメンタルの切り替えを上手く行うことで巻き返しを図る。勝点の計算的にもB組1位を奪う可能性は充分に残っており、決して遅くはないはず。
どのみち次のドイツ戦、スウェーデン戦は勝利が求められている点は変わらない。
その2チームに連勝できれば、全勝でB1位となり準々決勝に進出する、という当初の目標とはさほど変わらない展開に持ち込むことができる。開き直りというか、気持ちの切り替えをしっかり行って、巻き返してもらいたい。
中国から厳しい課題を突きつけられたが、これであらわになった弱点を分析し直して臨めば良いだけだ。
まだ戦いは始まったばかり。ここであきらめるような選手は「スマイルジャパン」には誰ひとりとしていないはずだ。