【五輪最終予選】スマイルジャパン3戦全勝通過。中国に4-1で完勝し世界選手権の借りを完済

試合終了と同時にGK川口のもとへ駆け寄る選手たち。見事3戦全勝で最終予選を突破した

取材・文/アイスプレスジャパン編集部 撮影/編集部

2026ミラノコルティナダンペッツォ冬季五輪最終予選グループG
会場:nepiaアイスアリーナ(白鳥アイスアリーナ) 観客数:1681人
日本 4(2-0、1-1、1-0)0 中国
ゴール:【日本】輪島、浮田、志賀(紅)、細山田 【中国】Y・Baiwei
GK:【日本】川口 【中国】Z・Jiahui
シュート数:【日本】54(17、17、20) 【中国】5(1、2、2)

中国に許したシュートわずかに5本。堅守が支えた3試合

「3試合ともに相手を圧倒して勝つ」と小池詩織キャプテンが大会前に掲げた言葉の通り、日本はこの最終予選3試合すべてで素晴らしい試合を展開。最終戦となった2/8(日)の対中国戦でも攻守において相手を圧倒し、アジアのライバル国に対して力の差を見せつけた。
 中国とは昨年4月の世界選手権トップディビジョンの初戦でペナルティーショットシュートアウト(PSS)のすえ敗戦。リズムを狂わされて残留争いに巻き込まれる原因とされたが、この快勝で世界選手権の借りは完全に返せたといって良い。スマイルジャパンはアジア王者として堂々と2026年にイタリア・ミラノで行われるオリンピック本番に乗り込む。

この日も決めた輪島。日本は主導権を手放さず

先制点となった輪島のシュートシーン。エクストラアタックで積極的に打ったことがゴールにつながった

 第1ピリオド序盤、この日も試合の入り5分が大事、という共通認識を持ってゲームに臨んだ日本のメンバーはしっかりとその5分の間に先制点を奪い取った。3分過ぎ、日本の選手がペナルティーを受けレフェリーの手が上がるなか日本はそのまま攻撃を続行。アイスホッケーではペナルティをしたチームがパックを確保するまではレフェリーが試合を止めないため、日本はGKをベンチにあげて代わりに攻撃の選手を投入するエクストラアタックの状態に入った。そのエクストラアタックを続けることおよそ30秒、日本は速い動きからパスを次々と交換して中国の守備陣形を崩す。そして最後はゴール正面に入り込んだ輪島夢叶が思い切って放ったシュートがGKのブロッカーサイドを打ち抜き、見事な先制点。輪島はこの大会3試合すべてでゴールを挙げるという偉業で、この日も試合の流れを日本が一気に引き寄せた。

ゴールを決めてラインメートの祝福を受ける輪島(一番左・61番)

 さらに5分58秒にはアタッキングゾーン左サイドのフェイスオフから浮田留依が強烈なショットをゴール右上スミに決めて追加点。このシーン、ゴール前には志賀紅音がスクリーンプレーに入ってシューターへのGKの目線を隠しており、狙い通りのセットプレーを見事にこの大舞台で披露した。2-0とした日本の選手に贈られる惜しみない拍手。苫小牧・nepiaアイスアリーナはスマイルジャパンの活躍におおいに湧き立った。

 その後日本は第2ピリオド、ペナルティで1人少ないショートハンドの状態から中国のキャプテンYu・Baiweiにブルーラインからの長いシュートを決められたが、5人対5人の状態ではほぼ完ぺきな守りを見せ、中国にまったくと言って良いほどシュートチャンスを与えなかった。2‐1のまま時間が経過し第2ピリオド残り1分を切ったところで日本はファーストラインの3人、伊藤麻琴、志賀(紅)、浮田がカウンターから一気にアタッキングゾーンに攻め込み、速いスピードでパスを交換すると最後はゴール正面から志賀(紅)が狙いすましたシュートでGKの右肩の上を打ち抜き貴重な追加点。時間帯的にも最高の得点で中国の反撃意欲を根こそぎ刈り取ったこの志賀(紅)のゴールはスマイルジャパンの強さを如実に示すものだった。

五輪が目標だったチームから「五輪で勝てる」チームへ

細山田が4点目を決め日本が中国を圧倒。大会を通じ浮田(一番左)もゴールにアシストに、と素晴らしい働きだった

 最終第3ピリオドには志賀(紅)のアシストからチーム最年長のDF細山田茜が長めのシュートをゴールネットに突き刺しこれで4-1。この細山田のゴールは若手選手を引っ張ってチームをまとめ上げたDFのベテラン2人、小池キャプテンと細山田に対するご褒美のゴールのようにも思えた。
 日本はそのまま逃げ切ってこの最終予選で3戦全勝を達成。多くの観客の祝福を受けながら試合終了の瞬間を迎えた選手たちにははじける笑顔が広がった。8年前に同じ会場で行われた平昌五輪の最終予選ではオリンピック出場決定の瞬間に爆発的な喜びを見せていたが、その時とは一転、非常に落ち着いた様子で試合終了を迎えた選手たちの表情からは、「もうオリンピックに出るだけでは満足しない。本大会でいかにメダル争いに絡んでいくか」を模索している、というチームの成長ぶりをはっきりと示すものだった。

待望のニューヒロインが今大会で誕生

表彰式後笑顔を見せる輪島(右)と志賀紅音。2人とも素晴らしい活躍だった

 3戦全勝という結果のなかで、今大会MVPに値する活躍を見せたのは輪島夢叶で間違いない。3試合で5得点をあげて見事に大会得点王に輝いた。守備に攻撃にとリンクを走り回る献身的なプレーにはますます磨きがかかり、その高い運動量を維持しながらさらに正確で思い切りのよいシュート力も披露してくれた。フランス戦でのフル代表初ゴールをきっかけにその才能を一気に開花させた印象がある。全国放送でのかわいらしい受け答えとその美貌とが日本中に知らしめられたニューヒロインの登場は、スマイルジャパンへの注目度をさらに高めてくれることだろう。

小池キャプテンを中心に優勝チームへ贈られる銀のプレートを掲げるスマイルジャパンの選手たち

 飯塚祐司監督は今大会を「トータル3試合を見ても想定以上に得点が奪えた。良い方向に行っていると評価している。3試合とも先制でき自分たちのペースで試合ができたのが良かった。若手選手も順調に育ってきたし、五輪経験者を中心にいい方向へとチームを持ってきてくれた」と総括。『3試合とも相手を圧倒して勝つ』という目標について聞かれると「達成度は80%ぐらい。守りでは完封するという目標も掲げていたがフランス戦、中国戦でそれぞれ1点を失ったし、5人対5人の状態で点は取れたものの、大会前にポイントとして掲げたパワープレーでの得点が無かったことは反省したい。オリンピック本番では今大会の相手よりも強い国と当たるわけで、得点へ向けての精度は上げていきたい」と今後への課題を挙げた。
 この1、2年は海外強豪国とのテストマッチがなかなか組めず、国内合宿中心に臨まざるを得ない状況の中で男子高校生との試合を多く組むといった工夫でこれだけの強化を果たした飯塚監督はじめスタッフの取り組みには敬意を表したい。この最終予選でのフランスや中国戦での試合内容はスマイルジャパンが明らかに強くなっていることを示している。しかしフィンランドやスウェーデン、スイス、チェコといった欧州の上位国を倒すためには、本番までのあと1年という限られた時間の中でどれだけ攻撃力を伸ばせるかがポイントだと監督自身も指摘している。五輪に向けて今大会のメンバーを中心にしながらも、けがで出られなかった床秦留可や長岡真鈴、U18の若手メンバーなどとも競争させてさらなるチーム力アップを図っていくとのプランを語ってくれた飯塚監督。
 苫小牧での圧勝劇と監督の言葉は、スマイルジャパンがさらに上を目指す新たなステージへと歩みを進めたことを示していた。 

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