「ディフェンスの足の間を狙って打った」伊藤麻琴の積極性が切り開いたミラノへの道

伊藤麻琴がファーストラインのセンターとして最高の仕事を果たし日本を初戦勝利に導いた

取材・文/アイスプレスジャパン編集部 写真/編集部

2026ミラノコルティナダンペッツォ冬季五輪最終予選グループG 会場:nepiaアイスアリーナ(白鳥アイスアリーナ) 観客数:1069人
日本 7(3-0、2-1、2-0)1 フランス
ゴール:【日本】伊藤x2、輪島x2、小山、野呂莉里、関 【フランス】J・Mesprede
GK:【日本】増原 【フランス】C・Theode⇒Mameri
シュート数:【日本41(15、12、14) 【フランス】24(8、9、7)

 日本の次代を担う大型プレイヤー、と期待されてきた伊藤麻琴が日本開催での五輪最終予選という大舞台で見事に決めた。「(ゴールから見て)右45度の角度で志賀紅音さんからのパスをもらって。普段だったらそのあとは浮田(留依)さんにパスを繋いでいるところだったのですが、ゴールに向かった、シュートを打った結果が得点につながったと思います」
 試合開始まもない2分03秒、右サークル付近でパスを受けた伊藤は躊躇なくスティックを振りぬくと、放たれた強烈なシュートはDFの足の間を抜けて浮き上がりフランスGKの右肩の上を通過してゴールに突き刺さった。「ゴールの瞬間はDFの陰になって見えていなかったので、入ったと分かったときは正直驚きましたが、DFの足の間が開くタイミングを狙って打てた良いシュートだったと思います」。

先制ゴールとなったシュートを放つ伊藤麻琴

両手を突き上げ喜ぶ伊藤のもとにラインメイトが集まり祝福する。伊藤がファーストシュートで先制点を決めたことで日本は緊張感から一気に解き放たれ、その後のゴールラッシュを呼び込んだとも言ってよい。それほど価値あるスーパーショットだった。

中学生でU18代表に抜擢。センタープレイヤーとして大きく羽ばたく

 2019年に帯広で開催されたU18女子世界選手権。伊藤はチーム最年少の15歳でU18代表に抜擢された。釧路の中学校に通いながら所属チームDaishin(当時)で中島谷友二朗監督(現・代表コーチ)のもとでとにかく基礎技術を磨いていた時期。そのころから飯塚祐司代表監督は伊藤の持つポテンシャルを高く評価しており、U18帯広大会を皮切りに常に国際試合に召集し経験を積ませた。いつかは日本代表の中核を担える選手だという思いには揺るぎがなかった。

ベンチに凱旋する伊藤。彼女のゴールが一気に日本チーム全体を勢い付けた

 時がたち、そんな彼女も今は20歳。北海道文教大進学とともに所属チームも苫小牧のTOYOTAシグナスへと移った。釧路での中・高校生時代は隙あらばシュートを打つ、攻撃大好きなウイングだった伊藤は飯塚監督の判断もあり、代表では3シーズン前からセンターのポジションも担えるようにコンバート。そこから幾度もの代表合宿と海外遠征を経験し「パスが好きというのもあって、今はセンターとしてしっくりきている」とアシストを供給する側のプレーも覚えるなど着実に成長。今大会ではファーストライン(第1セット)のセンターとして得点に絡むことをおおいに期待されていた伊藤は見事に結果で応えた。

 日本は今大会、スウェーデン女子リーグSDHLでプレーする床秦留可が昨年のシーズン中にけがを負い欠場。主力中の主力であるセンタープレーヤーを欠くという大ハンデを負っていた。しかし、伊藤の成長は床の抜けた大きな穴をしっかりとカバーしてくれた感がある。飯塚監督も大会前、「(床の欠場という)こんな状況になるとは思っていなかったが、伊藤にセンターを経験させておいて本当に良かった」と話していた。フランス戦での伊藤のフェイスオフ獲得率は27本中14本獲得の51.85%。「相手の選手もフェイスオフは上手だったので……。中島谷コーチと対策はしてきたのですが同じラインのメンバーには迷惑をかけましたね」と謙虚に語るが、常に80~90%近くをマークする床にはさすがに及ばないものの、センターとしての役割も十分に果たした。
「正直に言うと、ファーストラインのセンターで起用されたというプレッシャーはありました。(床)秦留可さんはチームの中でも本当に大きい存在なので、穴を埋めるのは自分には無理だな、と弱気になるときもあったのですけれども、やっぱり秦留可さんの分も自分自身が頑張らなきゃいけないなっていうふうに思っていたので……こうやって頑張れたのは良かったです」とこの日の勝利に笑顔を見せた。 

 伊藤は第2ピリオド8分26秒、ゴール前に詰めたところ右サイドからのパスにをきっちり押し込んでこの日2得点目。「(志賀)紅音さんが粘って、あそこまでパックをもってきてくれたので。あとは自分が打つだけというところで、しっかりと決められました」。得点への嗅覚と執着心も国際経験を重ねることで磨かれている。アシストも得点も重ねられるオールラウンダーとしての成長を伊藤はこれからも見せてくれるだろう。

試合を終え円陣を組むスマイルジャパンのメンバー。その表情には笑顔があふれていた

「試合開始直後の5分が大事」という意識をチームが共有するなか、勢いを与えることも意識して伊藤が積極的に放った強烈なシュートは、スマイルジャパンがミラノ五輪出場権を獲得するための道を大きく切り開いた。最終予選で覚醒した「大器」。ミラノ五輪の出場権をつかみ取り、イタリアで世界のトッププレイヤーの1人として名乗りを上げる伊藤の未来が見えてきた。

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