”アイスホッケーの本場”でアメリカ相手に戦うも、大量失点の完敗。
この経験をこれからの「スマイルジャパン」に生かせるか?

取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部

この敗戦で日本は8位にて大会を終了。ただ、若手にとっては糧となる準々決勝・アメリカ戦だった

現地4月10日
女子アイスホッケー世界選手権トップディビジョン 準々決勝 
会場:ADIRONDACK BANK CENTER(アメリカ・ニューヨーク州ユーティカ)


日本(B組3位) 0(3-0、6-0、1-0)10 アメリカ(A組1位)

ゴール:【日本】なし 【アメリカ】Lacey EDEN 、Hilary KNIGHT、Alex CARPENTERx2、Kirsten SIMMS、Abbey MURPHYx2、Joy DUNNE、Tessa JANECKE、Caroline HARVEY
GK:【日本】川口>増原 【アメリカ】Aerin FRANKEL
シュート数:【日本】14(3、5、6)【アメリカ】48(25、13、10)

完敗だった。前回王者のアメリカに完膚なまでにたたきのめされた。
0-10の敗戦は、ディビジョンIAから昇格した2017年以降アメリカと世界選手権トップディビジョンで対戦したここ5回のなかで2022年デンマーク大会と同じスコアのワーストタイ。

前半は川口莉子が、後半は増原海夕がゴール前に立ち、ディフェンス陣とともに抵抗を見せたものの、相手の速さと技術の前にことごとく陣形を崩され、得点の量産を許した。

この日も先発GKは川口で臨んだ日本。序盤は川口の奮闘もあり粘っていたが……

攻撃でも何度か「惜しい」というシーンこそ作ったものの、単独突破での攻撃にとどまり、日本がゴールを奪うことはできなかった。

準々決勝で勝利し4位以上、という当初の目標は達成ならず

https://www.youtube.com/watch?v=M5Gm0d9SweQ&t=1s
TBSスポーツによる試合ハイライト

完敗だった。グループBのリーグ最終戦でデンマークに勝利し、グループB第3位、全体では8位で準々決勝に進出した日本だったが、前年度チャンピオンのアメリカは、本当に強かった。

日本は試合序盤からアメリカに完全に押し込まれ、3分59秒に最初のゴールをEDENに奪われると、その後も次々に失点。守備が崩壊したとか、選手のモチベーションが下がっていたとか、そういったマイナス要因は全くなく、完全な力負けだった。

アメリカの先制点、EDENのゴールシーン。予想を超えたタイミングと角度でアメリカは強いシュートをゴールに集中させた

2桁得点は避けたかったが、最後の最後、第3ピリオド15分25秒にCARPENTERに10点目を決められた。第3ピリオドはアメリカも次の準決勝のコンディションを考えてか、あまりしゃかりきには攻めてこず、そこから得点を奪われることはなかったが、これが世界との差ということを実感させられた試合だった。

特に攻撃面での通用度は、残念ながら低かった。
海外で戦っている日本勢だが、残念ながら攻撃という部分においては、今回、世界との差がさらに広がったとみていい。

局地的には通用する部分もあったが、アメリカ&カナダの2強との差は開いたといって良いだろう

守備に関しては、飯塚監督も試合後に「勝つためには失点を少なくしないと勝てないと、試合前に選手とも確認して試合に臨んだ。アメリカの破壊力を今まで以上に感じた試合だった。Dゾーンでのプレーが長くなることは覚悟していたので、他の国々のビデオを見てその守りの方法を取り入れながらルーズパックへの反応を早くしていこうと確認したのだが、実行しきるには相手が上だった。」と話しているが、徐々に修正されていく様子もあった。実際アメリカに対してもしっかりした守りができている場面もあった。

ただ一瞬の集中力の切れを突いてくる勝負感の鋭さはさすが、アメリカだった。そしてこちらがどんなに頑張ってもそれを上回ってくるアメリカの技術と、パワーと集中力、これに日本は完全に屈した。

試合を終えて。スマイルジャパンのメンバーの表情は悔しさにあふれていた

この差を埋めるためには、何か抜本的に変えることが必要なのかもしれない。

飯塚監督も「育成から何からすべて、日本のアイスホッケーの環境を変えない限りは……。ナショナルチームだけが頑張ってどうこう、ではないと思います。ジュニア世代からよほど変えて行かない限りは差は縮まらない。相手もあってのことですので、ホッケーの文化、強化の風土を変えて行かないとなかなか追いつけないと思います」と試合後に話してくれた。

力量差を覚悟で若手に経験を積ませた、これを今後どう糧とするか?

ただ希望もあった。

この試合では、日本は4つのライン全員をまんべんなく回した。これにより、22人の選手全員がこのアメリカとの対戦で直に世界トップのプレーに触れることができた。

輪島選手は相手へのフォアチェックを果敢に仕掛けていた。この経験が来季へとつながる

こういった10代、20代前半の若手が、これからどれだけ伸びるか? 
このことによって日本の来季の世界選手権トップディビジョン、そしてもうすぐフォーマット(大会要項)が発表されるとみられる2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪予選についても、彼女たちの成長次第で、明るい結果が見えてくるだろう。試合後に行ったインタビューでの、若手の声を紹介しよう。

「スピードもフィジカル面も、アメリカは2個も3個もレベルが上だった。個人的には自分の長所であるスピードを生かして戦いゴールをあげるつもりで臨んだが、なかなかうまく行かず反省の多い試合だった。フィジカル面を来年に向けてしっかり強化して、世界で戦って行けるように頑張らないといけない、と痛感しました。来シーズンこそはもっとシュートを意識して、レベルアップした状態でこの大会に戻ってきたい」(輪島夢叶選手)

「ここ何年かこの大会でアメリカと戦う機会が続いていてしっかりと対策して臨めたが、グループBで戦って来た相手とはやはりプレースピードも上だと第1ピリオド序盤から感じていた。第3ピリオドはチームとして戦えていた。グループリーグは1試合1試合課題を持って取り組んでいってそれを克服する中で、最後は全員が強い思いを持ってアメリカにぶつかれたと思う。個人的にはルガノ(スイス)でプレーするなかで自然とフィジカルは強化されたと思うし、攻撃を繋ぐ役割においては、しっかりそれができるくらい強くなれたかな、と思っています」(永野元佳乃選手)

カウンターから攻撃を仕掛ける。左から永野元、長岡、人里選手。

「初めてこの世界選手権トップDivに出場して、グループリーグでは出番は少なくて自分の思うようなプレーができなかったのですが、最後はアメリカ戦で相手のスピード感や身体の強さとかを身をもって経験できたので、オフシーズンでの身体作りなど自分の目標が見えて良かったと思います。チーム(高須クリニック御影グレッズ)では最年長ですが、代表では年齢が下の方で、先輩とのコミュニケーションを通じて色々な部分で学ぶ点がいっぱいありました。これはチームに戻っても生かせるようにしていきます。やはりU-18とはスピードもフィジカルも全然違っていて、本当に良い経験ができました。このシニアのレベルについて行ける体力と筋力をこれからしっかりと付けていきたいと感じています」(篠田安選手)

「チャレンジする気持ちで戦いました。でも思うようなプレーは発揮できなかったので、もっともっと練習して差をもっと埋めていきたい。相手のシュートの1発目はしっかり止めることができたが、2発目を止めることがこの相手のレベルでは難しかった。いつどこからシュートが飛んでくるか分からない、という国内では経験できないような状況が経験できたが、いつかはこのレベルで自分のプレーを発揮できるようにならないといけない。GK3人でコミュニケーションは良く取れていて、練習から目標を共有するなど協力してこの大会を乗り切れた経験を今後生かしたいです」(GK川口莉子選手)

この試合、日本のベストプレイヤーには細山田選手(左)が選出された。アメリカは25番CARPENTER選手。
大会を通しての日本のベストスリープレイヤー表彰から。左から人里選手、小池キャプテン、志賀紅音選手

今後いかに“世界と触れる機会、戦う機会”を作れるか? 支援体制の強化を

今回予選グループ戦ではなかなか出場機会がなかった選手も、このアメリカ戦で躍動し、大いに経験を積んだ。彼女たちにとっては悔しい経験かもしれないが、このアメリカという開催地で、アメリカという最強の相手と、相まみえたことは間違いなく今後への糧に繋がるはずだ。

現在、日本は国内合宿では基本的に集中して、苫小牧でメンバーを呼んで集中合宿を行っているが、また、来シーズンに向けて海外挑戦する選手が増えてくることも考えられる。

いかにして、選手を同じ場所に集めて、強化していくのか、それともヨーロッパなどでの合宿を行うことで招集しやすくするのか、そのあたりの判断は現場ではなく、東京の連盟本部が判断することとなる。

金銭的に余裕がないという言い訳は聞きたくない。強化は急務だ。

なぜなら、今までの集中型の合宿では、もう伸ばしきれない部分があらわになっていると感じたからだ。特に得点力不足という課題は数年にわたり改善の方向性が見えていない。

今回、北米女子プロリーグ・PWHLでプレーする志賀紅音の頑張りがあったものの、相手をオーバーパワーするようなレベルまではまだ届いていない。

浮田留衣も序盤は消えてしまっており、エンプティネットゴールの1つを記録するに留まった。

スウェーデンリーグで大会直前に負った脳震盪の影響が正直あったのかもしれないが、床秦留可も特に序盤戦は、精彩を欠く場面があった。

その世代を超えていくような若手の成長が期待される。そういった若手が出てこないと駄目だ。

奇しくもこの大会の裏、4月9日に東京で行われた会見で、女子日本代表が冬季ソチ五輪で初の五輪出場を決めたときにエースだった久保英恵さんの強化委員会副委員長就任が発表された。

久保副委員長は「女子担当ということで、選手にとって良い環境を作り良い強化ができればと思っている。世界選手権トップDivでは厳しい戦いが続いているが、大澤ちほ(現・日ア連理事)とも一緒になって違った女子日本代表の形を表現できれば良いと思っている。」と語った。

「厳しい言い方になってしまうが、初戦の対中国戦に勝ち切れなかったことがあとの試合に繋がってしまった。世代交代で苦しい状況ではあると思うので、こんご五輪経験ある選手、ない選手、ともに経験を積ませれば勝ちきれるというところまで持っていけると思う。今回の世界選手権トップの試合を経験として次に繋がるような大会になると私は思っている」(久保副委員長)

彼女と大澤さんの就任が発表されたことは、ようやく日本も指導者に女子の選手OBが中心となって強化を進めていく時代が、もうすぐそこまで来ているということを示している。時代は変化している。

東京の連盟本部に心よりお願いだ。このままズルズルと検証なく今まで通りの強化策を継続するのだけはやめてほしい。

日本は久保英恵の後継者を早急に育てなければいけない。それが今の集中合宿方式が最適なのか? 
そこは現場も、そして東京も含めて、全員で真摯に考えなければいけない。この危機感を共有したい。

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